第1260話 無所属固有の要素
3度目の遭遇となるイブキの乱入だけど、今回は即座に仕留める状況にはならなかった。……正直、ちょっとやり過ぎな気もするけど、大人数でイブキを囲んでの情報収集である。
「イブキ、俺を騙そうもんなら……競争クエストが終わった後、覚悟しておけよ?」
「そういう真似はやらねぇよ、羅刹!?」
「……ならいい。だが、そもそもの疑問なんだが、今回はどういうつもりだ?」
色々と聞いてみたい事はあるけど、ある意味ではそこが1番聞いてみたい部分だよな。無所属の固有に情報になりそうな部分を、灰の群集の俺らに教えてまで命乞いをする理由はなんだ?
競争クエストへ乱入者として参加してきてて、いくらなんでも単純に殺されたくはないって理由ではないはず。それにイブキは、負けて死ぬのを嫌がるタイプではないだろ。
多分、盛大に悔しがるだろうけど、そこは勝負は勝負として受け入れると思うんだよな。命乞いを口にはしても、本気でそれを望んでるタイプじゃない。
「命乞いは正直意外なんだけど……今は死ぬ事にどういうデメリットがある?」
「あ、ケイさんも気になってんのか! いやー、条件が転移すればいいだけなら、いか焼きみたいに黒の統率種になってみてぇじゃん? それに時雨もなってるって聞いたし、やっぱ無所属としては興味を惹かれる部分でな!」
「ちょ!? そういう理由!?」
もっと複雑な理由があると睨んでたのに、思った以上に軽い理由だったんだけど!? これは……正直、ガッカリ過ぎる解答だよ。情報源として生かしておくの、失敗だったかも……。
「……全く気持ちは分からんでもないが、それなら傭兵でも良かったんじゃねぇか?」
「仕方ねぇじゃん、進化出来るのを知ったの、それなりに進んでからだしよー!」
あ、羅刹的にも惹かれる部分ではあるのか。まぁ敵でしかない瘴気強化種を使役出来るというのがどういうものかは気になるし、もし自分が出来るのならやってみたくはあるかも? でも、今聞きたいのはそういう事じゃない。そんな答えしか出てこないなら――
「あー、ちょい待った! それだけが理由じゃないから、聞いてガッカリって感じで狙いをつけるのを止めてもらって良いか!? ケイさん!」
「……え? 撃ち殺しちゃ駄目か? 負ける事を悔しがっても、後に引き摺るタイプでもないだろ? 正直、命乞いが成功するとも思ってなかったんじゃね?」
「うぐっ!? 普段の状況だとそうなるのが、完全に読まれてやがる!? いや、でも今回は他にも理由はあるから!」
「……へぇ? なら、それを聞かせてもらおうか。……あんまり必要以上の時間を割きたくないし――」
「ケイ、ちょっと落ち着け。明確に敵認定をしてて、容赦がなくなってんぞ?」
「実際に敵じゃね?」
「いやまぁ、それはそうなんだが……とりあえずも聞いてからで良いだろう? 貴重な傭兵になってない無所属からの情報源だぞ?」
なんだかアルが妙に止めてくるな? まぁ貴重な情報源なのは間違いないけど……だからこそ、有益な情報が出てこないとなれば、今の状況で動きを止めているデメリットが大きい。ただでさえ、敵味方の状況が非常にややこしい事になってるのに――
「ケイ、焦りが出てるみたいだし、少し冷静になってかな? イブキさんを仕留めるのはいつでも出来る状態だし、まだ聞いてない事は色々あるよ?」
「……サヤ」
……焦りに、冷静にか。そう言われてみると、タイミングをズラしていたのがインクアイリーからの強襲を凌げた側面はあるけど、厄介な状況になってるを感じ過ぎてるのかも……。
そこからどうにか動ける段階まで回復したところにイブキが転移してきたもんだから、イラついて焦ってるのか、俺。ふぅ……アルとサヤの2人に諌めされて、何やってんだか!
今の状況こそ、時間の無駄じゃん。急がば回れだ、落ち着いて必要な情報を集めていかないと。……とりあえず、今は攻撃は無し!
「おっ! ケイさんの殺気が薄れたな!」
「……悪い、無駄な時間を使わせた。それで、他の理由はどういう内容?」
「単純に言えば、情報提供そのものが目的だな! 地味に羅刹か北斗を探してたんだけど、ケイさん達ならどうにか話が通じるんじゃねぇかと思ってな!」
「……ん? え、元々そういう狙いだったのか? なんで、そんな事をしようと思ったんだ?」
「イブキ、それなら俺へフレンドコールでも良かったんじゃねぇか? どうしてこんな回りくどい事をしてやがる?」
「いや、まさしく今の状況が理由だから! 既に敵対してんのに、下手に呼びつけるとか出来るかよ! 探してはいたけど、遭遇しなきゃ伝えないのでも良かったからな!」
回りくどいやり方だとは俺も思ったけど、まぁ確かにこの囲んだ状況や、これまで実際に問答無用で仕留めた状況を考えれば……その辺の判断は仕方ないか。
でも、こうして情報提供をしようと思った理由って何だ? あ、そういやインクアイリーから逃げてきたみたいな事を言ってた気がするし、その辺が関係してる?
「……ふん、教えるつもりはあっても、積極的に教えに動く気はなかった訳か」
「そういうこったな! それに……教えるだけの見返りは貰うぜ?」
「あー、見返りってどういう感じで?」
「ケイさん……というか、灰の群集には俺が黒の暴走種へ進化する手伝いをしてもらおうか! まぁあと転移1回でいけるはずだから、誰かに瘴気収束を1回使ってもらうのを要求する!」
「……なるほど、それが条件か」
灰の群集の誰かに、今回の競争クエストの戦闘から降りろと……いや、瘴気魔法を使う訳じゃないんだから瘴気汚染での戦線離脱までにはならないか。でも、まともに自己回復が出来なくなるし、厳しい状態にはなるよな。
場合によっては異形の個体相手に纏浄を使う必要があるかもしれないから残しておきたいけど、纏瘴をして瘴気収束で瘴気の渦を作って元に戻しても……纏浄の方にも使用制限がかかる。
話を進めているのが俺らだから、俺ら以外の人にやってくれと頼むのはいくらなんでも無責任過ぎるから、それは無し。ちっ、地味に嫌な要求だな、これ!
「ケイ、迷ってるならこれは私がやるかな!」
「いや、待て! グリーズ・リベルテのメンバーに、イブキからの要求で切り札になり得るものを使わせる訳にはいかん。イブキ、俺がやるのでも問題はないな?」
「羅刹さん!? それは待ってかな!」
くっ、何も言えずにいたら、サヤと羅刹が名乗りを上げてきた……。でも、2人とも強力な戦力だから……あぁ、もう! 下手に他の人に切り札を使わせるより、俺が使っちまうか! 俺は指揮もするんだから、必要な時に他の人に使ってもらうように言えば――
「え、俺が言ったのってそんなに深刻な内容だっけ? まぁ転移の入り口になる瘴気の渦さえ出来ればいいから、羅刹でも問題はねぇけど……」
「なら、決まりだ」
「羅刹、待った! 流石にそれはやらせられないから、指揮で他のメンバーにいつでも指示が出せる俺が――」
「『纏属進化・纏瘴』! 僕がやりましたから、皆さんは温存しててください!」
「おっ、フーリエさんがしてくれるのか! 何を揉めてるのか分からんかったが、もう纏瘴をしたなら問題ねぇな!」
……え? まさかのフーリエさんが強引に割り込んでの纏瘴!? いやいや、こういう流れでそういう事をさせるつもりはなかったんだけど!?
「……ケイさん、勝手な事をしてすみません! でも、こういう時は頼って下さいよ! 弟子なんだから、やれって言ってくださいよ! そりゃそこまで強くはないですけど、そんなに頼りないですか……?」
「フーリエさん……」
しまったな、そういうつもりじゃなかったんだけど……いや、結果的には頼ってない風に見えてたんだし、そこは言い訳のしようがない。俺らだけで解決するべきだと考えてたのは、猛烈に反省だな。……せめて、一言、他の人達に聞いてみるべきだったか。
冷静にいようと思っていても、それは中々難しいもんだな。そう言ってたサヤまで混ざってたんだから、ここにいるみんながどこかしらで焦りがあるのかも……。あー、その辺って客観視しにくいから……大真面目に今の流れは自覚する上で助かった。
「……色々と助かった。ありがとな、フーリエさん。その役目は任せるぞ!」
「はい! 任せて下さい!」
「これでこっちは要求を飲む状態は出来たぞ、イブキ。知ってる事を、可能な限り話してもらおうか」
「おう、そのつもりだぜ!」
「はい! それならイブキさんに質問です! そもそも、どうやってこっちへ転移してきてるんですか!? 纏瘴での瘴気収束以外にも自然発生してるみたいだけど、それだけじゃ最初が来れないはずなのです!」
って、あれ!? 静かにしてたハーレさんがここで急に入ってきた!? いや、まぁその情報は重要だし、話の流れ的にも聞いておくのはあるよな。
そもそも乱入組が、こっちの新エリアへとどうやって来ているのか。乱入してきている事実こそ分かっていたけど、地味に分かっていなかったその手段。傭兵の人は群集拠点種経由で転移してきているからこれを聞く機会はないと思ってたけど、今がその数少ない機会か!
……ハーレさんが聞くまで失念してたんだから、どんだけ焦ってるんだよ、俺! 今の状況のイブキ、倒しちゃ駄目じゃん!
「あー、まずはそこからっぽいな。えーと、『魔力視』ってあるだろ? あれで新エリアじゃない今までのエリア? あっちで点在してる瘴気の渦が見えるんだよ。その中に飛び込めば、こっちに転移してるって寸法よ!」
「おぉ!? そんなのがあるんですか!?」
なるほど、新エリアではない従来のエリアにも瘴気の渦が発生してる場所があるのか。まぁそりゃ俺らは群集拠点種からの転移でこっちの新エリアにやってきてるんだから、それ以外の手段があって当然だけど……まさか、魔力視で見えるものだとはね。
「……そういえば……見た覚え……あるかも? ……でも……灰の群集に……入ってから……見てない?」
「ん? 風音さんって、移籍の印が出てるけど無所属にいた人か?」
「……うん。……言われるまで……存在を……忘れてた」
うん? あぁ、そうか。風音さんは競争クエストが始まってから灰の群集に加入してるから、見た事があってもおかしくないのか。元々は競争クエストへの参戦意志はなかったんだから、その部分を完全に忘れてても仕方ないよな。
「イブキ、どういう事だ? 俺もそんなものは、向こうのエリアでは見た覚えがないぞ? ……まさか、傭兵になったら――」
「多分、そのまさかで合ってると思うぞ! どうもあっちは群集拠点種……正確には惑星浄化機構のクォーツの影響で、群集の影響下だと見えないらしいぜ?」
「まさかのクォーツが登場なのさー!?」
そこでクォーツの名前が出てくるとは思わなかったわ! でも、瘴気を消して浄化していく役目を持っている存在かつ、全ての群集に対して協力をしている相手だから、出てきても不自然じゃない話か。
「無所属ならクォーツの影響を受けずに、その瘴気の渦が見えるって事かな? でも、その説明はどこからされてるのかな?」
「そこが重要な情報の核心部分だな! こっちへその手段で初めて転移してきた時に、あるクエストが始まるんだよ。『乱入クエスト:意志の提示』ってのがな!」
「……乱入クエスト? どんな内容なのかな?」
乱入の部分は、そのままではあるけど……『意志の提示』の方が気になるね。これ、もしかして時雨さんが受けているクエストなのか? いや、でも時雨さんのは乱入にはならないような気がする。んー、まだ謎が多いな?
「いやー、ぶっちゃけ内容としてはさっぱりなんだわ!」
「おい、イブキ。ふざけた事を言うなよ?」
「ふざけてねぇよ、羅刹。これ、次の段階へ進める条件が『黒の統率種』への進化なんだよ。でも、死んだら白く戻っていくから、まだ完全に黒く染めきれてねぇの!」
「……なるほど、そういう事か。今のはすまん」
「短気なんだよ、羅刹はな!」
あー、流石に今のは羅刹の早合点ではあったんだろうけど……このイブキの言い方にはイラッとくるな。うん、羅刹のカメレオンがプルプル震えてるけど、今は抑えてくれ!
「だから、その先に何があるかは知らん! 多分、それを知ってるのがあの『インクアイリー』って集団なんじゃねぇの?」
「なるほど、そう繋がってくるのか。えーと、それで……それって誰からクエストを受けてるんだ?」
「悪いが、ケイさん、それは知らん! 初めて転移し終わった後に、勝手にクエスト欄に登録されてるもんでなー。開始演出も何も、誰の声も姿も見てねぇんだよ」
「あー、そういう感じなのか」
正体不明な何かからの、瘴気の渦を通った際に強制的に渡されるクエストか。時雨さんが前に伝えてくれた『我らが意志を示せ』という言葉に関わってきそう……というか、黒の統率種に進化したら、その段階で経緯は関係なく次のクエストへ移行する?
あー、この辺は実際に受けてる人に聞くしか手段がなさそうだな。でも、今まではっきりとしていなかった手順が分かったのは大きな進歩か!
うーん、レナさんが時雨さんからもっと詳しく聞いてたりはしないもんかな? 聞いてたら教えてくれてる気もするし、そこは知らないのかも……?
「まぁその辺はこれ以上は分からなさそうだから、これくらいでいいや。それで……イブキが受けたインクアイリーからの申し出ってのは?」
「ん? 進化を手伝うから、黒の統率種になって暴れまくってくれって内容だぜ」
「……イブキ、何故それを断っている? さっきの灰の群集への要求を考えると、インクアイリーの提示するその条件は悪くはないはずだが?」
「いやいや、色々と情報が広まってなけりゃ普通に乗ったかもしれないけどよ? 羅刹と北斗が、インクアイリーが傭兵を手駒にしようって情報を広めてて乗る訳ねぇじゃん? 元々勧誘されてたならまだしも、この土壇場で捨て駒にされるなんてのはごめんだっての!」
「……ほう?」
「なんだよ、羅刹、その反応!?」
「いや、流されるままに動かなかったのが意外でな?」
「その扱い、酷くねぇ!?」
なんだか、思った以上に色々な情報が出てきてるな。アルとハーレさんが、地味に俺らの中では冷静に判断してたって事か。逆に俺は焦り過ぎだし、サヤは諌めてくれてたけど……俺の迷いに引っ張られてたんだろうね。
さーて、まだ聞くべき事は残ってるし、そっちも聞いていきますか!
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