第1258話 撃退した後に


 ちょ!? 魔力値は尽きてるし、移動操作制御は両方とも使用不可の状態で、このままだと地面に叩きつけられる!?


「一緒に地面に激突はお断りだ! 『移動操作制御』!」

「おいこら!? 蹴り飛ばしていくな!」

「『根の操作』! ……何やってんだ、ケイ?」

「おわっ! あ、アル……助かったー!」


 もう地面に衝突する寸前じゃん! あー、危なかった! スミめ、逃げるのは分かるけど、わざわざ勢いが増すように蹴りやがって!

 あ、でも最後の落下はシアンさんの海水だったし、ダメージ判定的には大丈夫だったのか? いや、落下自体が気分は良くないからこれで……。


「って、サヤの方は!? あのコトネってタカ――」

「なんとか倒しはしたかな!」

「あ、そうか。そりゃよかった……」


 サヤも竜に乗って降りてきた。あー、とりあえず切り抜けた! いや、そうとも限らないのか!? まだ黒の統率種に統率されたらしき瘴気強化種が……あ、そっちも片付いてるっぽい?

 時雨さんに関しては気になるけど、それは後か。どうも、別の理由でまだ落ち着いてるじゃなさそうだしね。……小石を掴んで構えてるスミは、どうやったって無視は出来ない。


「ふん、全員撃破とはならなかったが……まぁ即興の状況であの水準の敵を2人撃破なら上々か。……さて、灰の暴走種、ここからどうする?」

「……ここからでも戦うのなら、全力で相手をするまでだけど?」

「はっ! ほぼ空っぽの状態でよく言う!」

「そりゃお互い様だろ」

「……違いねぇな。あー、流石にここで戦う気はしねぇし、仕切り直しだ。……次に会ったら仕留めてやるから覚悟しとけ、灰の暴走種!」

「だから、その呼び方は……あー、もういいや! 負けてやる気は欠片もないから、返り討ちにしてやる!」


 共闘が終わって、このまま青の群集との戦闘に突入かと思ったけど……どうやらそうはならなさそうだ。まぁお互いに消耗した状態で戦い始めても、安全圏がすぐに後ろにある俺ら灰の群集の方が圧倒的に有利だろうけどね。

 その辺は分かってるだろうし、単純に戦う気はしないってのもありそうだけど、ひとまずは仕切り直しだな。あー、これで本格的に少し休憩出来る! 情報の報告も必要だけど、回復をしないとなー。


「テメェら、今は撤退だ! 余計な戦闘はすんじゃねぇぞ!」

「灰の群集のみんなも、追撃は仕掛けたら駄目だからねー!」


 おっと、どうやら増援に来てくれていたシアンさん達が仕切ってくれてるっぽい。今はただ、離れていくスミを筆頭とした共闘した青の群集には手を出さずに見送るだけだな。

 それにしても……インクアイリーとの初戦、いきなり疲れたわ! 何、あのプレイヤースキルの化け物集団!? てか、あの彼岸花ってリスの存在がかなり気になるんだけど、なんであんな反応を示す人が戦闘に混ざってんの?


「ケイさん、それにみんなもお疲れ様。魔力値の回復アイテムはあった方がいい?」

「あ、俺は欲しい! ヨッシさん、頼む!」

「……同じく……欲しい」

「あはは、ケイさんと風音さんは必須みたいだね」


 あんまり下の森での戦闘は見れてないけど、風音さんは盛大に魔法を使って消耗してる感じか。この辺一帯の木々は……倒すだけでなく、燃やし尽くされてるな?


「ケイさん! 大丈夫でしたか!?」

「増援、頼んどきました!」

「おっ、フーリエさん、シリウスさん! 増援要請は助かった!」


 群集への状況報告を2人に頼んでおいたけど、しっかりとやり遂げてくれたっぽいね。あの中で報告する余裕がある人がどれだけいたか分からなかったし、結構分析に回れた俺でさえ、報告へと意識を割く余裕はなかったもんな。


「どういたしまして! それでケイさん、敵はどうなりました?」

「とりあえず全員撃破とはいかなかったけど、それでも2人は確実に……って、そうだ!? みんな、敵の氷花ってのが時雨さんの名前を出してたけど、その件はどうなった!?」

「ごめん、ケイさん。そこは詳細不明なままなんだ……」

「……瘴気強化種は……全部倒した。……でも……黒の統率種は……見ていない」

「探したけど、見つからなかったのさー!」

「……マジかー」


 姿すら確認出来てないって、時雨さんかどうかを確認する手段すらないじゃん。……みんなが手抜きをしていたはずもないし、敵の方が上手だったって事か。


「ところでケイ……最後の追撃、何がいたのかな? わざと魔法砲撃を発声で使ってなかった?」

「あー、なんか『彼岸花』っていう名前の爬虫類っぽい尻尾を持った赤いリスがいた。異常に怯えまくってて、グレンってキツネが妙に守るように動いてたもんで……」

「……庇わせる為に……狙いを……分かりやすく……した?」

「まぁぶっちゃけそうなるなー」

「鬼畜の所業なのさー!?」

「おいこら、その言い方は待て!? 対人戦に参戦しておいて、そういう反応を盾に取る方が卑怯だろ!?」

「はっ!? 確かにそれはそうなのです!」

「まぁそれはケイの言う通りかな?」


 そこで俺の行動を糾弾されたら堪らんわ! 通常の場合のPK判定になる行為ならそりゃ鬼畜と言われても仕方ないけど、今は倒すのも倒されるのも当然の競争クエストの真っ最中だからな。


「それにしても、それは妙な話だな。インクアイリーは、なんでそんな人を連れてきている?」

「……何か重要な役割があるのかな? それこそ、その人にしか出来ないような何か……」


 とりあえず一息つける状態になったし、ヨッシさんから魔力値の回復用の干した魚を貰ったからそれを齧りながら分析していくか。


「名前が『彼岸花』だったけど、これってあれだよな? お彼岸の時期に咲く真っ赤な花」

「……まぁそうなるが、どうもケイから聞いた印象とは噛み合わない名前だな」

「名前には特に意味はないのかも? 好きに付けただけって可能性は十分あるし、判断材料にはしない方がいい気がするよ」

「アルの違和感も分かるけど、ヨッシさんの意見に賛成だなー。……名前から分析しようとしといて言うのもあれだけど」

「あはは、確かにそれはそうかな?」


 名前とはいえないような名前の人もいる訳だし、そこは変に考えない方がいいか。俺の『ケイ』だって、育成方針には全く関係ない、本名から取った名前だしな。

 俺以外にも、サヤもハーレさんもヨッシさんも似たようなもんだしさ。アルの名前は……そういや由来は知らない気もする? まぁ今はそれはいいか。


「赤いなら、火属性って事になるの?」

「そうとは限らないのさー! 風音さんみたいに、属性は1つだけに絞ってるけど、実は他にも使えるという可能性はあるのです!」

「あ、それは確かにそうだね」

「少なくとも、氷の昇華があるのは間違いないな。氷花って人の土台を作ってたのは、彼岸花って人だったみたいだし……」


 あれ? 今言ってみて、何か妙な違和感があったけど……赤い見た目で氷属性? 相性的には最悪なはずなのに、なんでそんな組み合わせに……。


「ケイ、それって纏属進化の可能性はないかな? 本来は、火属性じゃないとか?」

「あー、そこまではしっかり見てなかったけど、その可能性はある! もしそうなら……ちっ、氷花って人はフェイクか!」

「……なるほど、あの桜の木の見た目で氷属性なのは一目瞭然だったが、霧に偽装していた氷の操作Lv10を使えるプレイヤーは別だったって事か。それなら守る理由も、戦力外でも参加させる理由も納得は出来るな」

「……他に……出来る人が……いないから?」

「それもあるが、この霧の森での攻略の要なんじゃねぇか? 視界の悪さでの差を埋めるには、あれは相当有効な手段だぞ」

「だよなー。見えないなら、全員見えなくしてしまえって発想は大胆な手段だしさ」

「……あれは……厄介」

「下手に直接触れたら、凍結になりかけて焦ったのさー!」

「あー、まぁ実態は霧じゃなくて氷なんだから、そうもなるよな」


 てか、ハーレさんはその辺も試してたんだな。霧の森を戦場に選んだ理由は気になっていたけど、それは視界の悪さを乗り越えられる手段を見つけたからじゃなくて……視界の悪さを勢力関係なく、問答無用で作り出せる手段があったからか。


「ヨッシさん、規模は小規模でもいいから、あれと同じような事は出来そうか?」

「ごめん、全く出来る気がしない……。Lv10でどれだけ精度が変わるのか分からないけど、あんなに霧みたいに細かく氷雪を生成して、その上で静止させ続けるのは無理だよ……」

「……やっぱりそうだよな」


 どう考えても、あの氷での霧の生成の水準は高過ぎる。多分だけど、ただ静止させてるだけでなく、視界確保の為に使った手段にも触れないように細心の注意を払ってたはずだ。


「……あの操作……精密……過ぎる」

「え、そうなのかな?」

「あぁ、かなりヤバい水準だ。Lv10での精度補正も程度にもよるんだろうが……場合によってはケイを越えるんじゃねぇか?」

「そんなにかな!?」

「あー、確かにその可能性はあるかも……。アル、視界の確保の為の操作……負荷はかなり少なかったんじゃね?」

「あぁ、異常なほどに少なかったぞ。まるで、何にも触れてないかと思うくらいにな?」

「……多分……本当に……触れてない」

「だろうなー。だからこそ、それが出来る精密さがヤバい……」

「そこまで厄介なのかな!?」


 アルがあの氷の操作の操作精度が俺よりも上という評価を下したのは、俺としても納得だ。まぁ俺がLv10になった操作系スキルを使った事がないから、下手に断言も出来ないんだけどさ。


「はい! 詳細の説明を希望します! あ、一応だけど、競争クエスト情報板に報告中なのさー!」

「あっ、気が抜けて報告を忘れてた!? ハーレさん、助かる!」

「えっへん! そんな気はしてたのさー!」


 あくまでさっき終わった戦闘は、競争クエストの中での1戦でしかない。……下手すれば、クエストの終盤くらいのボス戦に相当するくらいだった気もするけど、それでもまだまだ競争クエストでは序盤も序盤だっての!

 回復は間違いなく必要だけど、だからっていくらなんでも気を抜き過ぎだ。その辺をしっかりとフォローしててくれたのは、本当にハーレさん、ナイスだな!


 ハーレさんが報告をしてくれているなら、俺がやるべきは敵のしっかりとした分析か。インクアイリーの5人……少なくとも、無所属で黒く染まっていない相手の核心にかなり近付いた1人が俺だろうしさ。


「えーと、氷の操作の精度の話に戻すぞ。視界の確保の為の操作に対して、アルに異常に負荷が少ないかどうかを確認しただろ?」

「それがどういう意味かを知りたいのさー!」

「言うのは単純だけど、やるのは相当難しい話になるからな。視界の確保と言ってるけど、実際は俺らは何もしてないんだよ……」

「あの霧は、俺らが展開している操作のギリギリ触れない位置で静止されていたみたいでな。おそらく、操作時間を可能な限り削らない為だろうが……」

「それって無茶苦茶な気がするのさー!?」

「だから、実際に無茶苦茶な精度なんだって……。俺でもあれをやれと言われて、出来るとは自信を持っては言えないぞ」

「ケイさんでも!? なるほど、そこまで聞いて納得です!」


 視界が十分に確保出来ているのならまだしも、あれだけの広範囲に広げて、視界確保の為に展開された操作を全て避けるようにするとか……どんな操作精度をしてるんだよ! 青の群集が昨日仕掛けてきた岩のドームといい、複雑な構造でも生成しやすくなってんの!?

 あー、もうその辺に関しては冗談抜きで自分で操作系スキルをLv10にしてみないと何とも言えないか。……少なくとも、群集の中で明確な操作系スキルLv10での正確な追加効果の内容が知りたい!


「……ねぇ、それは氷花って人の仕業じゃなくて、彼岸花って人の仕業の可能性が高いんだよね?」

「動きから考えて、その可能性は高いだろうなー」

「ただ、どっちかの人だと決めつけるのはそれはそれで危険だぞ、ヨッシさん。2人とも使える……もしくは氷花って人が使うのが本当で、彼岸花という人はそれを偽装する為の囮だという事も考えられる」

「あ、そっか。そういう危険性もあるんだね」

「その辺の可能性も報告しておくのです!」

「……一番厄介なパターンは、2人とも使える可能性かな?」

「……その可能性も……十分……ある。……剥奪からの……復帰が……早かった」


 あー、そういや戦闘中にアル達の方で黒の刻印の『剥奪』で無効化を狙ってはいたんだっけ? それで少し霧は薄れたけど、すぐに立て直されていたって話だけど……って、ちょっと待てよ? 


「黒の刻印での『剥奪』はしたんだよな? その辺、詳細を見てないから詳しく聞かせてもらっていいか? ちょっと嫌な予感がしてるんだけど……」

「詳しくも何も剥奪自体は成功したが、並列制御で分散させていたみたいですぐに立て直しされて……いや待て、一時的にはそうなっても……操作の再発動をしないとあの状態を保てないのか? 隙を見てなんとかなる範囲で……って、ちょっと待て! ケイから見た場合、偽装の霧はどうなってた!? 少しでも薄れていたら、剥奪を試した事くらいは分かるだろ!」


 戦闘中という状況もあって、その場では違和感に気付くまでの余裕がなかったんだろうな、これ。なんというか……スミを追いかけて俺だけ離れてたのがよかったのかも。

 流石に戦闘中に気付けなかったのは仕方ない部分ではあるとはいえ、こうして情報の整理をしていって正解か。もの凄く嫌な情報が確定しかかってるけどな!


「俺から見た霧は全然薄れてなかったんだよ。だから、剥奪の事を聞いたんだけど……」

「……全く消えてない……偽装の霧も……あった? ……そうなると……複数人で……実行?」

「多分なー。俺が見てたのはアル達が剥奪を試していたやつとは別物の可能性が一気に高くなったわ!」

「あの水準が最低でも2人以上……あはは、インクアイリーって無茶苦茶な集団じゃない?」

「……同感かな。あのコトネってタカの人も、相当強かったし……」

「風雷コンビと渡り合ってたグレンってキツネの人もヤバいのさー!?」

「海エリア勢の海流を凌いでいたワニ……『最強は俺!』って人もヤバかったけど、どっかで聞いた名前な気がするのは気のせい?」


 どうにもそこが引っかかってるんだけど……いや、情報としては1番どうでもいいとこか、これ。


「それって確か、スクショのコンテストで見たんじゃないかな?」

「赤の群集の個人部門で入賞してた人なのさー! グラナータ灼熱洞でフェニックスのフレイムランスのスクショを撮ってた人!」

「あれか! あー、そりゃ覚えはあるはずだ!」


 そうか、だから見覚えがある訳だ! なるほど、インクアイリーが表に出ていない集団だとしても、全くイベント事に参加してない人ばかりじゃないんだな。

 あー、もう! 赤のサファリ同盟に匹敵する可能性があるって話だったけど、それを思いっきり痛感するわ! この霧の森での最終戦、かなり厳しいものになってきそうだな!?

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