第1257話 安全圏を取り戻せ 後編


 インクアイリーに制圧されかけた安全圏の前も、なんとか相手の状況を崩すのには成功。シアンさんを筆頭にした海エリアの人達や、風雷コンビが上空から霧に偽装して現れて状況はかなり優勢に傾いた。

 アルと風音さんは回復をしていて、ヨッシさんが青の群集を含む他の人達と一緒に黒の統率種が従える瘴気強化種の相手をしている真っ最中。……でも、黒の統率種の姿が見えない状況だな?


 現状ではまだインクアイリーの誰も倒せていないから、どうにか何人かは倒してしまいたいところ。無所属なら戻る安全圏が存在しないんだし、倒してしまえば連携は相当取りにくくなるはず。

 問題は……海流5つと昇華魔法のサンダーボルトを凌ぎ切っているあの『俺が最強!』って人のプレイヤースキルだな。無駄な力をかけず、風で受け流しているっぽいけど――


「……おい、灰の暴走種」

「だから、普通に呼んでもらえない? ……で、何?」

「なぜ、奴らは氷の操作で攻撃をしてこない? 生成コストは上がるにしても、使わん理由が分からん」

「そりゃ……自分達の視界まで塞ぐから? 今なら黒の刻印でも消せるし、無所属同士だとダメージもあるだろ?」

「あいつらには視界は関係あるのか? それに、PTなら無所属でもダメージは関係ないだろ」

「……あー、そういやそうか」


 てっきり味方の邪魔にならないようにしていると考えてたけど……黒の刻印で消されても再発動していた事を考えたら違和感はあるね。


 というか、何気にLv10になったら生成コストが上がるんかーい! 確かに見た範囲で分かるだけでも、生成可能な量自体が相当増えてるんだから、それくらいのデメリット要素は出てくるんだな。……ダミー情報だという可能性もあるけど、今はそこはスルーでいこう。


 とりあえず、スミの疑問はもっともな内容だから本格的に分析しておいた方がいいか。あの氷花という桜の木の人、今は氷塊の操作を土台にしてるみたいだけど……だから使えないなんて単純な話だったり?

 いや、それだと一緒に乗っているグレンというキツネの人の片割れが気になる。……なぜ分体を作ったのに、片方だけでサヤを相手取っている? 離れないのには、何か理由があるのかも……?


「……危機察知回避での狙撃は、まだいけるか?」

「ふん、応用スキルに拘らなければどうとでも使える」

「あー、なるほど」


 確かにそりゃそうですよねー。応用スキルの高威力さえ求めないなら、その辺はどうとでもなるか。うーん、それにしても……インクアイリーって地味に統率力は無いのか?


「おいこら! 俺はいつまで1人で凌いでりゃいいんだよ!?」

「もう少しお願いします、サイ! コトネ、すぐに下がりなさい!」

「……ちっ、手強いクマだな! 『爪刃乱舞』!」

「甘く見られても困るかな! 『並列制御』『爪刃乱舞』『爪刃乱舞』!」

「そうなのさー! 『狙撃』!」

「……間からの狙撃も厄介な!」


 キツネのグレン、やっぱり動きに違和感がある。どうもタカのコトネとの連携がちゃんと取れてないけど、だからこそ後ろに分体を下げているのが妙な感じ……。

 あの氷塊での土台にも違和感があるし、あれ自体が移動操作制御の可能性はある。氷塊の操作を発声で発動したのを聞いた覚えがあるけど、それがハッタリで……いや、それなら尚更に氷の操作を使ってこない理由が分からなくなってくるな。


「スミ、氷花って桜が土台にしてる氷塊を狙えるか? 何かありそうだ」

「いかにも、あのキツネの片割れが守っているしな。いいだろう、その手に乗ってやる。必要になったら合図をよこせ。『グリース』!」

「ほいよっと」


 さっきはあんまり観察する余裕がなかったけど、スミの危機察知回避の手段は基本的には予想通りのものか。でも、弾道を曲げる為のレールの土台は岩じゃなくて土になっていたのは少し想定外だな。

 これは岩だと硬過ぎるから、土にして衝撃を和らげてるのかも? 闇の操作で隠してるには、あくまで手元だけで銀光を隠す為だけなんだね。……こういう機会で近くから見る事になるとはなー。


 おっと、そういう分析してる場合でもないか。とりあえず攻撃が可能そうなタイミングを見計らっていこう。


「そこかな! 『強爪撃』!」

「……ちっ!」

「ちょっと、グレン! さっきから邪魔なんですけど!」

「……コトネは下がれと言っているだろうが!」

「そんなのはお断り! 逃げるなら、勝手にどうぞ! 誰にも命令権はないんだし、従う義務もないよね?」

「……勝手にしろ! 氷花、コトネは置いて下がるぞ!」

「……この状況では仕方ありませんか。サイ、撤退しますよ! 『樹洞展開』!」

「おうよ! 『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』!」


 コトネを置いて、撤退を狙ってる? って、ちょっと待てや! 氷塊の操作を使ってないの、今の樹洞展開で確定じゃん! だとすると、やっぱりあれは――


「サンダーボルトは凌がれたが、逃しはせん! いくぞ、疾風の! 『飛翔疾走』『連閃』!」

「逃げられると思うな! いくぜ、迅雷の! 『飛翔疾走』『連閃』!」

「……厄介な連携だな。『連爪刃・閃舞』!」

「「なっ!?」」


 げっ!? グレンがキツネの分体と本体の2体を同時に使って、ライオンとヒョウで来ている風雷コンビの連携と真っ向から打ち合ってる!? 同調種で遠隔同調を使わなくても、こんな芸当が出来るのかよ! ……あ、似たような事は刹那さんがしてたか。


「みんな、風雷コンビの邪魔にならないようにしつつ、退路を塞いでいくよ! 『シーウォータークリエイト』『海流の操作』!」

「「「「「『シーウォータークリエイト』『海流の操作』!」」」」」

「多いんだよ、海流が! 『並列制御』『ウィンドクリエイト』『ウィンドクリエイト』『並列制御』『強風の操作』『強風の操作』! おい、流石に氷花も手伝えよ!」

「この量は流石に厄介ですし、仕方ないですね。『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』『並列制御』『氷の操作』『氷の操作』!」

 

 シアンさん達が海流で妨害を狙っているけど、どんどん凍らされて、風で砕かれていってるし!? いや、今はそれが絶好のチャンスか!


「逃すとでも、思ってるのかな! 『並列制御』『共生指示:登録2』『連閃』!」

「グレンは放っておいて、こっちの相手を続けてよねぇ! あはっ! あははっ!」

「っ!? 一気に動きが鋭くなったかな!?」

「サヤ、フォローするのです! 『連速投擲』!」

「あははっ! いいね、いいね、いいね! ずっと色々な動き方をアイデアの実践を頼まれてきたけど、プレイヤー相手に試すとこれほど楽しいんだねー!」

「それは……どうもかな!」


 このコトネって、一種の戦闘狂か!? スキルの発動も発声なしでやってる感じだし……色々な動き方の実践を頼まれたか。少し暴走してる時の弥生さんを連想したけど、方向性はまるで違うっぽい。

 ともかくコトネの相手はサヤとハーレさんに任せてしまおう! アルとヨッシさんと風音さんは……あー、統率されてる瘴気強化種の相手で精一杯っぽい。てか、完全に手が空いてるの俺とスミだけじゃん!


「スミ、今のうちに当てちまえ!」

「はっ! どれもこれも、とんでもねぇ事をしてくれてるがな! 『狙撃』!」

「っ!? これは……! 急いで離れますよ、サイ、グレン! このまま残り続けると、どんどん手の内が暴かれます!」

「氷花、何やってんだよ!」

「……油断ならない相手が残っていたか」


 今、土台にしている氷塊に直撃したはずだよな? でも、解除になった気配がない? となると、あれは移動操作制御じゃない!?

 でも、4人ともが何かしらのスキルを使っている……って、4人とは限らないか! 樹洞は初めは展開していなかったから、いるとしたら……そういう事か!


「時雨、ここは任せますよ! ここで瘴気強化種は全て使い切っても構いませんので!」

「……はい?」


 え、ちょっと待って! この氷花って人、『時雨』って言ったか!? いや、もしかしたら『シグレ』で人違いかもしれないし、そもそもハッタリだという可能性もある! もし事実だったとしても、今はそれはスルーでいい!


「スミ、攻撃が来たら迎撃を頼む! 突っ込むぞ!」

「はっ! 誰も倒さないまま、逃す訳にもいかねぇよな!」

「そういう事! アル、下の方は引き続き、任せた!」

「今更言われなくても分かってる! 仕留めるならさっさと仕留めてこい!」

「ほいよっと!」


 流石に相手の数が4人……多分、他にも隠れているけどさ。まぁ表立って動いていたインクアイリーが4人だったから、霧で姿が見えなくなっていただろう俺とスミは、ある程度は観察に回れた。それに多少の行動値と魔力値の回復も出来ている。

 でも、それはもう時間切れ。ここで、誰か1人は確実に仕留めるし、隠している手は少しでも披露していってもらおうか! という事で、一気に加速開始!


「おい、灰の暴走種! 明確に俺らから逃げるように動き出してねぇか?」

「あー、どうもそうっぽいな! まだ索敵手段を持ってたか」


 この動き見る感じ、さっきのスミの1撃があった方向から近付いていく反応から離れるように動いているっぽい? 直接目視している動き方じゃなくて、獲物察知か何かの表示を頼りに離れている感じだな。


「コトネってタカの人以外にも、獲物察知かその類型のスキル持ちがいるっぽいな」

「はっ! 大方、あの氷塊に模した土台の中ってとこだろうよ!」

「あー、スミも気付いてた?」

「あの状況で破壊出来ない手段なんて、他に人がいる以外にあり得ねぇだろうが。そいつを潰しに行くのが、この目的で合ってるはずだよな?」

「ご明察! って事で、速度を上げるぞ!」

「露払いくらいはしてやるから、全力で突っ込みやがれ!」


 言われるまでもないし、ここから先に近付くのに声はもう必要ない。全身全霊で、誰か1人でも倒すまで!


「おいおい! どうすんだ、氷花!? 明確に近付いて来てるっぽいぜ!」

「……少々、分析を侮り過ぎましたか。正確に姿を確認出来ていなかったのが痛いですね……」


 へぇ、俺の姿もスミの姿も、直接は見てなかったのか。まぁ別に俺だとバレていたところでこれといった意味はないし、俺らがやる事は変わらない!

 覆っている部分の表面が氷なら、火属性をぶつけるのがいいんだろうけど……あいにくと俺は高火力な火属性の攻撃手段は持ってないからな。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『光の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 45/117(上限値使用:6)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『閃光Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 39/117(上限値使用:6)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 だから、ここはこれで代用させてもらうまで! 光の収束によるレーザー攻撃、くらいやがれ!


「この追撃、一体誰が――」


 よし、氷塊の破壊に成功! ははっ、やっぱり中に誰かいたか! 完全に破壊し切った訳じゃないけど、中身が見える程度には生成した氷は破壊したぞ!


「ぐっ!? みなさん、大丈夫ですか!?」

「へぇ、隠れてたのは赤いリスと……何か爬虫類との融合種? 獲物察知に引っかからないのなら、カメレオンか? まぁいい、始末するだけだ! 『白の刻印:剛力』『拡散投擲』!」

「ヤベェ!? 『ウィンドウォール』!」

「……ちっ! 追いかけてきてたのは、例のコケか! 足止めするから、先に行け! 分体、解除! 『飛翔疾走』!」


 ちっ、俺が最強……呼びにくいからサイでいいや。サイが風の防壁を展開している間にグレンが割り込んできて、中にいる味方を守った? この赤い体毛で爬虫類っぽい尾を持ってるリスの名前は『彼岸花』か。

 分体を消して本体にHPを戻してまで身を張って守るって、この彼岸花ってどういう存在だ? いや、この際それはいいや。確実に1人、ここで仕留める!


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 39/117 → 39/116(上限値使用:7)


 守ろうとする理由は分からないけど、身を張ってまで守りたいならちゃんと守り抜けよ! あえて、発声で発動してここは明確に狙いを分かりやすくしてやる!


「これでまず1人!」

「ひっ!?」

「……ちっ! 的確に嫌な部分を――」


 露骨に狙いをつけたら、縮こまるって……あー、もう! インクアイリーって、実力者揃いかと思ったらこういう手合いもいるのかよ!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 38/116(上限値使用:7): 魔力値 258/306

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 36/116(上限値使用:7): 魔力値 255/306

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『昇華魔法:ウォーターフォール』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/306


 だー! なんかこれじゃ俺が悪者っぽいけど、戦うのが苦手なら戦場に出てくるんじゃねぇよ! 出てきたからには、どんな状態でも容赦はしない!

 よし、リスの彼岸花を庇ってきたグレンに直撃! でも、流石に少し威力が控えめで倒し切れるか怪しいぞ!?


「駄目押しだ、これでくたばれ! 『連速投擲』!」

「……氷花、サイ、撤退は任せる。『連強衝打』!」


 スミが追撃を加えてくれてるから、俺のウォーターフォールでの放水と合わせて削り切れるはず! 庇いながらだと、流石にこの攻撃は凌ぎ切れないだろ!


「おい!? グレン!?」

「グレンが時間を稼いでいるうちに、全力で撤退します! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』! サイ!」

「くそったれ! 『魔法砲撃』『並列制御』『ウィンドクリエイト』『ウィンドクリエイト』!」

「ちっ! さっさとくたばりやがれ!」

「……ふん、時間は稼いだぞ」


 げっ!? 縮こまってた尾がヘビになってるリスを庇っていたキツネのグレンは仕留めるのには成功したけど、これって魔法砲撃のストームか! やばっ、土台も作り直して推進力として使う気なんだろうけど、これは直撃する!?


「ケイさん、乱暴でごめん!」


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 36/116 → 36/122(上限値使用:1)


 おわっ!? 真上から海流が……って、シアンさんか!? ふぅ、今ので直撃は受けなかったから、なんとか助か――


「おい、ふざけんな!? 『増殖』『増殖』『増殖』『増殖』!」


 あ、スミの方が海水でコケに思いっきりダメージを受けて、大慌てで増殖してた。うん、今のは仕方ない気もするけど、なんかすみません。


「逃してたまるか! 追うぞ、疾風の! 『自己強化』『高速疾走』!」

「仕留めたい奴は仕留め損なったけど、他をぶっ倒すぜ、迅雷の! 『自己強化』『高速疾走』!」


 おー、一気に駆け抜けていく風雷コンビが見え……って、このままだと地面に落下するんだけど!? 大急ぎで水のカーペットを……って、まだ再使用時間が経ってなかった!?

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