第1255話 共闘作戦


 『インクアイリー』の一団らしき反応がかなり上空にあったけど、この霧に偽装した……推測ではあるけど氷の操作Lv10の中だと、これ自体が俺らの動きの察知を可能にしてるよな。

 本来なら雪や氷を操作するものなのに、近くで見ても霧と見分けが付かないレベルでの停滞させた状態の維持と生成の細かさ……相当厄介だぞ、これ!


「どうする、灰の暴走種?」

「……共闘中にその呼び方は流石にやめてくれない?」

「ふん、それは知るか。……根本的な事を聞くが、お前の水の操作は保つのか?」

「……向こうが潰す気になれば、どうやっても力負けするだろうな。スキルLvの差が違い過ぎる……」


 操作系スキルの扱いそのもので劣るとは思わないけど、プレイヤースキルでも覆しようがないスキルLvの差だろうな。……Lv10に至ったスキルの性能は、一気に変貌するしさ。


「俺ら……いや、お前の存在には気付かれているだろうが、俺は気付かれていない可能性はある。出し惜しみはしねぇから、何か手段を考えろ」

「簡単に言ってくれるな!? あー、とにかくこれは伝えとくか。上にインクアイリーらしき無所属が……4人ほどいる。その中の1人が、この霧を仕掛けてきてるっぽい」

「……ほう? 獲物察知で見抜けるとは、随分と舐められたものだな」

「ここまで大規模に展開したら、隠す意味もないって事なんだろ」

「……ふん、気に入らねぇな」


 スミが言っていたように、俺の存在は確実に気付かれている。でも、氷の操作で強引に水の膜を破るような真似はしてきていない。……本当に舐められて対応をされてる気がするよ!

 ただ単純に動いただけでは確実に動きは察知されるし、他のメンバーはおそらく迎撃要員として待機してると考えた方がいいだろう。ここから、どう攻め込む?


 今の手札を考えろ。俺だけPTから離れた状態で、背中には出し惜しみはしないと言っているスミがいる。あの危機察知回避の狙撃で……いや、単純にそれだけじゃ駄目だな。

 獲物察知頼りでの狙いだと精度が下がりまくるだろうし、脅威だとは思われない可能性が高い。なんらかの方法で、確実に当てなければ意味がないな。……となると、陽動とこの偽装の霧の解除が必要か。


「……アル、話す余裕はあるか?」

「正直、あんまり余裕はないな! 何かあるなら手短かに頼む!」

「それじゃ簡潔に。この氷の操作、黒の刻印で剥奪は出来るか?」

「それくらいは既に試してる! だが、少し薄れた程度ですぐに戻ったから、おそらく並列制御で多重に展開していて、隙を見て再展開している!」

「……マジか」


 黒の刻印での剥奪も想定済みで、その対策まで用意してきてるのか。考えたくはないけど、もし氷の操作Lv10持ちが2人以上いるなんて事になったら厄介さが更に跳ね上がるぞ。……いくらなんでも複数人はないか?


「一応、水の操作、海水の操作、風の操作辺りでPTごとに視界は確保した上で戦闘中だ! だが、黒の統率種に統率されたらしき瘴気強化種が厄介だ!」

「ケイ! この相手、不必要に攻め込み過ぎないようにしてる印象がするかな! 私達が確保している視界の中にまでは踏み込んでこないかな!」

「……足止めを……狙ってる?」

「あー、そういう狙いか」


 強襲して仕留めるのが目的じゃなくて、安全圏の前から進ませないのが目的なんだな。まぁ安全圏を押さえる目的としてはそれが妥当なとこだけど……上にいるのは、外に出さない為の遠距離からの攻撃要員?


「スミ、少し確認だ! この視界の悪さの中から、上空からピンポイントで霧の中から抜け出そうとする相手の狙撃は可能か!?」

「……遠隔同調を使って目視で標的を確認出来れば、直接攻撃するキャラから見えなくても相対的な位置関係から狙う事は可能だ。だが、時間は長くは保たんぞ? それに、この霧での視界の確保手段が別に必要になる」

「……そりゃそうだよな」


 遠隔同調の効果時間は5分だから、そこまで長時間の運用は不可能なはず。氷の操作の乱れ方で動きを把握して、そこにピンポイントで視覚確保をする為に遠隔同調で個体を送り込む?

 いや、それは流石にリスクがあり過ぎる。視界を確保しながら進むだろうし、そんな狙いが来たら俺なら即座に仕留めに動くし……って、そうか!


「アル、無茶振りになるけどやってもらいたい事がある!」

「余裕がないって言ってんのに、無茶振りかよ! あー、言うだけ言ってみろ! なんとか出来るか考えてみるからよ!」

「『同族同調』を既に使われていないか、周囲の木を確認してみてくれ!」

「っ!? なるほど、そういう事か!」

「アルさん、ここは私達で引き受けるのさー! 『狙撃』!」

「邪魔はさせないよ! 『アイスニードル』!」

「頼んだぜ! 『同族同調』!」


 アルは支配種だけど、移動種の木と狙撃が出来る何かの種族とも同調という可能性は考えられる。もし、既に『同族同調』で探っているのだとしたら……かなり危険だ!

 『同族同調』は獲物察知に反応が出るって聞いた覚えがあるし、実際にそれに反応はなかったけど……反応を出さなくする方法が、もし仮にあったら……。


「……おい、『同族同調』だと視界が悪いままじゃねぇのか?」

「いや、視界の確保の為にみんなが俺と同じような事をしてる状況だから、それを逆に利用されてる可能性がある。向こうからしてみれば、近くから監視出来る上に、視界まで良くしてくれてるんだからな。青の群集も、俺がやってるような視界の確保は想定してるだろ?」

「……それはそうだが……ちっ、相手の用意した視界確保の手段を利用した上で、狙撃狙いか!? いや、だが『同族同調』を展開したまま他のスキルの使用は……移動操作制御か!」


 具体的な攻撃手段は分からないけど、足止めに徹するのが目的なら脱出しようと試みる相手を瞬殺出来るだけの準備はしているはず。というか、青の群集の奇襲要員を仕留めた手段がこれなんじゃないか?

 だー! 相手の状況を崩したいのに、手段を探ってから付けいる隙を見つけないと打つ手がないのがキッツイな! 攻撃手段を見極めないと、下手に動いた瞬間に一方的に仕留められかねない……


「スミ、確認。初めに仕込んでた灰の群集への奇襲要員の人数は?」

「……言いたくはないが、状況的にそうも言ってられないな。そんなに数はいなくて、俺を除いて3人だ。あくまで俺らは陽動役で、本命は後に吹っ飛んできた連中だからな」

「なら、3人は瞬殺出来るだけの手段は持ってると考えた方が良さそうだな……。その時にどう殺されたか、確認は?」

「……気付いたら死んでいたという報告だ。どうも色々と混乱していて不明瞭で、詳細までは聞けていない」

「……マジかー」


 それ、かなりヤバくない? 俺らの位置は既に把握されてるだろうし、そういう一撃がいきなり飛んでくる可能性も否定出来ないんだけど!

 でも、そもそも即死があり得る攻撃ってなんだ? よっぽどLvや進化階位に差がない限り、即死なんてのはないはず。……即死に見えるような複数の攻撃が、一気に直撃した?

 その3人の誰にも一切気付かれずに、今反応が見えてる無所属4人と、黒の統率種とその統率された個体だけで? 気付かれているのなら別に不思議じゃないだけの戦力だけど、気付かずにという点がどうも腑に落ちない……。


「……危機察知は全員持っていた?」

「いや、持っているのは俺ともう1人だけ……ん? 待て、なんで同じPTの俺の危機察知に他の奴への攻撃の反応が出てこなかった?」

「それはむしろ俺が聞きたいんだけど!?」


 余計謎になったんだけど、即死になった攻撃は危機察知回避の攻撃……いや、考え方の方向性を間違っているような? 一旦即死という前提を捨てて他の可能性を考えてみるか。


 1人くらいなら一気に集中攻撃で仕留め切れるほどの戦力はあるし、スミが俺に捕まった状況でもあったから反応し切れなかった可能性もある。それに……今回は味方の敵が混ざっている可能性もあるし、灰の群集を疑うのは無しだけど、他の群集は流石に対象外だ。

 さーて、他の方向性で考えてみたら、そもそも3人全員が本当の事を言ってるかが怪しいな。本当に、そいつらは奇襲で仕留められたのか?


「怒らずに答えてくれよ。スミと一緒に作戦を仕掛ける予定だった奴ら……本当に味方か?」

「……ふん、俺も考えていたところだから、その可能性は否定はしねぇよ。『インクアイリー』の協力者かもしれないって話だろ? 妙にさっきから説明が不明瞭だと思ったら……ちっ、PTから抜けやがったか! その2人、ジェイに話を通してとっ捕まえろ!」


 おー、今まさにそれが発覚して、逃げに回ったのが2人ほどいたみたいだね。3人が即死だったというのは狂言で、本当に即死相応の倒され方をしたのは1人だけか。……本当に厄介な敵だな、『インクアイリー』!


「……裏切り者ではない可能性が高い、殺された1人の証言だけに絞るぞ。『いきなり窒息になって声が出せずに混乱している間に、気付いたら死んでいた』だそうだ」

「何かの手段で危機察知に反応しないようにして窒息させて、一気にHPを削って、あと1撃で仕留められるだけまで弱めてから撃破ってとこか。まぁ1人相手なら、それくらいは不可能じゃないな」

「……他の2人は、おそらくわざと殺されたな。自分から攻撃に飛び込めば、危機察知には反応せん」

「そんなとこだろうなー」


 青の群集が俺ら灰の群集に攻撃を仕掛ける算段だったはずが、初めから内側に『インクアイリー』への協力者が紛れていて、盛大に利用されてた訳か。想定の遥か上を行くレベルで『インクアイリー』がヤバいんだけど……。


「あー、増援で送ってきてた方の連中は大丈夫?」

「……大丈夫だという保証は出来んな。ちっ、ジェイの作戦に嬉々として乗ってきた連中の即席の連結PTだから、初対面も結構混ざってやがる!」


 色々とカラクリは見えてきたけど、それでこの状況を覆すまでの材料は足りないか。……アルに確認してもらっている情報さえ分かれば――


「ケイ、見つけたぜ! 『同族同調』を使って、周囲の木を渡り動いている奴がいる。しかもカーソルが一切出ていないから、こっちが『同族同調』を使って指定出来ない木があるのを見て初めて認識が可能だ。……そういう効果が出るようになるLvがどこかにあるのかもしれん」

「あー、やっぱりいたか。アル、サンキュー!」


 おし、周囲の木々を使って見張りをしてるのであれば、相手の状況を崩す起点には出来そうだ。そこから連鎖的に状況を崩していけば、攻撃を届かせる事が出来るかも!


「ただし、俺が探ったのに気付かれた可能性はあるぞ。もし仕掛けるなら、大急ぎで頼む」

「ほいよっと!」


 探っていた事に気付かれる可能性は承知の上。……状況が状況だから正確に連携が取れるかは分からないけど、それでもやるしかないか。とにかく、今の状況の打破をやっていくのみだ!


「スミ、大急ぎで危機察知回避の狙撃を準備! それと青の群集で吹っ飛んできた人達へ、黒の統率種が率いている敵の相手をするよりも、周囲の木を破壊するように通達!」

「はっ! いいねぇ、ここから反撃開始といこうじゃねぇか! 強襲班へ、共闘中の灰の暴走種から反撃作戦の通達だ! 敵は無視していいから、周囲の木々を盛大に破壊しろ!」


 あの……だから、共闘中にその『灰の暴走種』って呼び方はやめてくれませんかねー!? なんか青の群集ではその呼び名が思いっきり定着してるような気がする。


「どうせ、これも大体の仕組みは分析済みなんだろうな。『移動操作制御』『増殖』『グリース』『白の刻印:剛力』『貫通狙撃』! それで、ここからどうすればいい? 単純に狙っただけなら、すぐに気付かれるぞ?」

「その辺はこれから対策するから、とりあえずスミは溜めが終わるまで待機で!」

「……お手並拝見といこうじゃねぇか」


 少し前まで思いっきり戦ってた相手……それも散々悩まされた危機察知回避の狙撃を使う人とこうして一緒に動くのは本当に妙な気分だよな。でもまぁ、それが今の共闘という状況だ!


「アル、青の群集の人の動きに合わせて周囲の木々を倒すように指示出しを頼む! その後、合図をしたら真上に向けて風音さんとスチームエクスプロージョンを放てるか? どこかに当てる必要はないけど、この霧を作ってる操作を盛大に乱したい!」

「出来る出来ないじゃなくて、やるしかねぇだろ! 風音さん、今のでいいな!? 俺は発動までの間は、指示出しに回る!」

「……うん! ……任せて!」


 おし、いくら氷の操作Lv10だとしても、昇華魔法が相手なら少なからず乱れるのは確実なはず。完全に破れなくても、意識を逸らせられたらそれでいい。


「ヨッシさん、ハーレさん、もし霧が一瞬でも晴れたらその後に警戒しててくれ。多分、大規模に乱せば再発動してくるだろうから――」

「それを剥奪しに行けばいいですか!?」

「出始めなら、剥奪を狙いやすいよね? 他に剥奪持ちの人に声をかけて、一気に崩してみるよ」

「話が早くて助かる! それで頼んだ!」

「はーい!」

「了解!」


 大きく乱された操作を強引に立て直すよりは、仕切り直す方が早い。消耗の少ない通常スキルの操作なら尚更に。

 だからこそ、そこを狙えば済む話! これで敵の二重の索敵手段は潰せるはずだし、そのタイミングで危機察知回避の攻撃を仕掛けて、相手の体勢を崩す!


「あー、ここで水の操作への負荷が増えてきたって事は……向こうも警戒に移ったか?」

「はっ! 随分と悠長に構えてるもんだな、おい!」

「反撃開始だ、スミ!」

「あぁ、チャージ、完了だ!」


 青の群集にとっては微妙な心境かもしれないけど、俺ら灰の群集の安全圏の前から退いてもらおうか、『インクアイリー』!





――――


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