第1254話 襲われる安全圏
スミを追いかけて、フーリエさんが動きを封じたまでは良かったけど……そもそもが遅かったか!? 何か仕掛けていたみたいだけど、一体何を――
「……ケイ、何も起きないんだが?」
「はい!? え、でも今スミが、何か合図を……?」
「下まで降りてきたけど、何も異変はありません!」
「……どうなってるのかな?」
あれー? 今のタイミングでのスミの発言って、ただのハッタリだった? はっ!? 逃げ出す隙を作る為の――
「なっ!? 同時に一気に仕留められた……だと!? おい、待て!? 一体何が起きた!?」
スミのこの驚き方は……演技とは思えないな。いや、演技という可能性も否定は出来ないけど、それでも他の嫌な可能性が思い浮かぶ。……もし、そうだとしたらここでスミから事情を聞かない訳にもいかないか。
「あー、スミ? これって青の群集的にも想定外な状況だったりするのか?」
「……誰が教えるか!」
「いや、そこは言ってもらわないと困るんだけど……下手すると、共闘の条件に該当するだろ」
「……ちっ、その可能性があるのか。……それなら聞くが、灰の群集が返り討ちにした訳じゃないんだな?」
「ちょい待ってろ。そこはすぐに確認を取る」
もし、青の群集が仕掛けようとしていた事を阻止したのが『インクアイリー』なら……共闘の条件は整う。とはいえ、この近くにどれだけの青の群集が潜んでいるのかは分からないし……赤の群集が仕掛けてきた可能性もあるんだよな。
それに俺らが把握出来てないだけで、普通に迎撃した可能性だってある。だから、その状況を確認するまではスミは解放出来ないし、共闘には移行出来ない。……何か判断材料はないか? もし何もないなら、このままスミを仕留めるだけだけど……なんだかそれはマズい気がする。
「アル、そっちの状況は? なんか変化はある?」
「……青の群集を見たという情報はないが、何かおかしい状況になってきてるな。近くにいた人達が集まってきてるが、周囲で急に霧が濃くなったという話が出てきているし……俺らの周りも明確に霧が濃くなっているぞ」
「そもそも灰の刻印の効果が出てないし、これは氷雪の操作を広げられてる状態かも? でも、規模がなんかおかしいよ? 範囲が広過ぎるし、これは1人じゃ――」
「……氷雪の操作……じゃないかも? ……氷の操作……Lv10の……効果?」
「あ、そっか。それなら出来るかも!」
「ちょ、それってヤバいんじゃ!?」
待て、待て、待て! 氷雪の操作の規模を超えてとなると、確かに昨日の岩のドームを形成していた土の操作Lv10での効果らしきものを想像するけどさ!?
「わわっ!? 瘴気強化種のコウモリが一気にが出てきたのさー!?」
「他にもフクロウやタカ!? 色んな飛行種族の瘴気強化種が出てきてるかな!? どこにいたのかな、こんな数!?」
「ちっ! どう考えても普通の襲われ方じゃねぇ! ケイ、これは黒の統率種がいると考えた方がいいぞ!」
「……そうっぽいな」
ここで瘴気強化種が大量に登場ときたか。ここまでされたら、疑問の余地はかなり薄い。赤の群集が仕掛けてきた可能性は拭い切れてないけど、まぁそうだったとしても敵の敵は味方って考え方もありか。
でも、最後の確認。ある意味、俺やスミが少し離れていた位置にいてよかったのかも……。
「スミ、今は絶対に嘘は無しだぞ。青の群集で、氷の操作Lv10を使って攻撃する事は計画にあったか? それに黒の統率種が瘴気強化種を率いて襲う計画は?」
「……そんなもんは流石に用意してねぇよ。あー、やっぱりそういう事かよ! ここでお出ましか、『インクアイリー』!」
「あー、一応まだ赤の群集の可能性は消えてはいないけど、念の為に聞いておくけど……共闘する意志は?」
「この状況は気に入らねぇが、赤の群集の仕業だとしてもやられた以上はやり返すだけだから受けてやるよ。増援部隊、こっちに送ってこい! 灰の群集……それも灰の暴走種と共闘開始だ!」
そのスミの声と同時に、複数の爆音が響いてきた!? あ、少し間を置いて、また聞こえた……って、この音の仕方は俺らが峡谷エリアで赤の群集の安全圏を塞ぎに行った時の手法じゃね!?
あー、そういう用意をしてきてたのか……。はぁ、青の群集の計画が潰されてよかったのか、悪かったのか、なんとも言えないな、これ!
「……あくまで移動の為だから、これで巻き込んで死んでも知らねぇからな」
「そういう主張をするなら、先にやると言ってからやれよ! アル、今の爆音は青の群集からの増援部隊! 今回の攻撃は『インクアイリー』からの攻撃として、青の群集との共闘に入るぞ!」
「……青の群集が吹っ飛んできても、戦うなって事だな」
「そうなる! 俺もすぐそっちに戻る……よりも、元凶を叩く方を優先した方がいいか。それまではアルの方でそこの周辺の指揮は頼んだ!」
「おうよ! さっさと済ませて、さっさと戻ってこい!」
「ほいよっと!」
結構な距離をアルに吹っ飛ばされているけど、まぁ戻ろうと思えば割とすぐな距離か。さて、色々と言いたい事はあるけど……そこは今は飲み込んで、すぐに動きが出さないと!
「フーリエさん、スミを離してくれ」
「あ、はい!」
「……フーリエにシリウスか。その名前、覚えておく。次に会った時は覚悟――」
「言ってる場合か! あー、フーリエさんとシリウスさんは悪いんだけど、この状況を群集の方へ報告を頼めるか? 流石にあの中だと報告どころじゃないだろうからさ」
「あ、確かにそうですね! それは任せてください!」
「しっかり伝えときます!」
「よし、それじゃ任せた! 最重要の内容は『インクアイリー』と思われる相手からの安全圏前の襲撃、氷の操作Lv10所持の可能性で! それ以外は分かる範囲で構わないから!」
「「はい!」」
一緒に戦闘に参加してくれと言いたいところだけど、現状報告は重要な内容だしね。より正確な内容を伝えようにも、今の状況ではそういう訳にもいかない。……安全圏を塞がれるのは致命的過ぎるから、すぐにでも排除に動かないと!
「スミには来てもらうからな!」
「ふん、当たり前だ! 邪魔した落とし前はつけてもらおうか!」
なんか殺気立ってるけど、まぁ一応は共闘で一時的には味方になるんだから適当に流しとこ。思いっきり果物を齧って回復をしてるのも……本来なら邪魔するべきだけど、共闘をするならやってもらっておくべきか。
ともかく、今は急いでみんなの所へ戻ろう! 可能なら、氷雪の操作を使っている相手を見つけてぶっ倒してしまわないと。
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 107/119 → 107/117(上限値使用:6)
飛行鎧の方が動きやすいだろうけど、今は水のカーペットを展開して乗る。……氷雪の操作に触れた瞬間にダメージ判定が出て消える可能性もあるから、どこからが霧じゃなくなっているのかを判断するのに使おう。
とはいえ、アル達のいる方向は既に濃い霧に覆われているし……全然様子が見通せない。戦闘音や声は聞こえているけど、視界の悪さへの悪態がかなり聞こえてくる。
「スミ、乗れ! さっさと視界を回復させに行くぞ!」
「……その眩しいコケはなんとかならないのか? 敵には俺らの位置がバレバレだろうから問題ないんだろうが……」
「あぁ、もう! 切ればいいんだろ、切れば!」
なんか調子が狂うな、スミと一緒にいると!? あー、そうか。ジェイさんとは違って、競争クエストで戦う以外での交流が全然なかった人だからか……。はぁ、それでも今はやるしかないけどさー!
<『発光Lv4』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 107/117 → 107/121(上限値使用:2)
まぁ一緒に水のカーペットへ乗っていくなら、背中のコケが光っているのが邪魔だと言われるのは仕方ない部分はあるだろうけど……って、切ったらすぐに乗ってきたな!?
「まず、どこからが氷雪の操作か見極めるので構わないな? そのつもりの、これだろ?」
「……正解。可能なら、使ってるプレイヤーを見つけ出して真っ先に叩く! 何か異論は?」
「いや、特にない。ふん、妙な気分だぜ」
「そりゃこっちも同じだよ!」
ついさっきまで、攻撃を仕掛けてこようとしてた相手との共闘だもんな。でも、今回の最後の1戦はこういう風に動くと協議で決めたしね。
その初の動きが、まさかこんな位置だとは思わなかったけど……これは何か意図がある? いつから、どういうタイミングで仕掛けてくる予定だった?
「少し質問」
「……答えるかどうかは内容による」
「そりゃそうだけど……あー、青の群集は『インクアイリー』の接近には気付いてなかったのか?」
「……それはむしろ俺が灰の群集に聞きたい事だな。二重にここまで近付かれていて、なぜ気付かん? いや、そういうのに気付きそうな主力が出払った後のタイミングを狙っただけではあるが……むしろ、なぜ灰の暴走種がまだこんな所にいた? ……まさか、誰かに仕留められ――」
「単純に出るタイミングを遅らせただけで、まだ誰にも仕留められてねぇよ!」
「……なるほどな。『インクアイリー』に気付かなかった理由は……正直、分からん。それこそ、動きが筒抜けになっていたとしか……」
「あー、群集の中にも協力者がいた可能性か……」
その可能性は灰の群集にもあるから、どこかの方向でそういう集団が固まって『インクアイリー』の接近を手引きしていた可能性はあるのか。安全圏を狙ってきたのは……まぁ理屈としては、俺らが峡谷エリアで赤の群集に対してやったのと同じような理由かもね。
「……おしゃべりをする為に共闘してる訳じゃねぇ。それを忘れんな」
「そんなもん、元々承知してるっての! 必要な情報を集めてるだけだ!」
「ならいいが……前から攻撃が来るぞ」
「あー、どうも!」
そこで迎撃してくれて構わないんだけど、そこは俺にやれってか! 赤色が集まっているのが魔力視で見えるから、何かの火魔法だな。だったら、相性的にこっちだ!
<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 102/121(上限値使用:2): 魔力値 272/306
生成される位置の目の前に水の防壁魔法を展開……って、相手の魔法は火の防壁!? しかも範囲が広いから、複合魔法のファイアプロテクションか!
今のタイミングで攻撃じゃないって……くっ!? これの狙いは、俺の水のカーペットでの移動妨害か! 火の防壁魔法は攻勢防壁だから触れたらこっちがダメージを受けるし、水のカーペットは強制解除になる!?
「ちっ、舐めた真似を! 水の防壁をすぐに解除しろ! 俺が破壊するから、止まるんじゃねぇぞ! 『拡散投擲』!」
「だー! そっちが命令してくんな!」
この状況、凄くやりにくいんだけど……えぇい、水の防壁が邪魔になるのは確かだし、大急ぎで解除! 攻撃って言ったの、スミだけどなー!
色と言いたい事はあるけど、とりあえず妨害に使ってきていた火の防壁は突破!
「あー、明確に霧が濃くなってる部分があるな」
「見たままの感想はいらんから、さっさと突っ込め!」
「もうちょい共闘しようって雰囲気に出来ないもん!?」
「んなもん、知るか!」
だー! このままスミを水で吹っ飛ばして、濃い霧に投げ込んでやりたい気分だけど……そこは我慢で! ほぼ確実に強制解除になるけど、ともかく今は突っ込むのみ!
<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 102/121 → 102/123
やっぱり濃い霧に見えている部分に触れた瞬間に強制解除になったか。とりあえず地面に普通に着地はしたけど、確実にプレイヤー……それも灰の群集へ攻撃が可能な相手が仕掛けているもので確定。
これが氷の操作Lv10によるものなら、霧じゃなくて細かな氷の粒だから……長時間いると『凍結』の状態異常になりかねないか。それに、視界の悪さは対策をしないとどうにもならないね。
「俺が視界の確保と移動をやるから、攻撃は任せるぞ!」
「ふん、当然だ!」
「……あー、必要な事だから文句は言うなよ。ついでに吹っ飛ばされるなよ?」
「何を――」
共闘とはいえ、あくまでプレイヤー間で決めた事だからどうしてもダメージ判定までは消せはしない。……ダメージを与えないように調整する事も出来るけど、これはちょっとした意趣返し。
まぁこれで死にはしないだろうし、多少は氷の操作の時間も削げるはず。……操作の剥奪を誰も試して無いとは思えないし、どの程度効果があるかは分からないけどね。
<行動値8と魔力値24消費して『水魔法Lv8:アクアディヒュース』を発動します> 行動値 94/123 : 魔力値 248/306
という事で、拡散魔法を発動! 味方なら素通りする水の膜だけど、今回の仕様上はダメージ判定を防げないから仕方ないんだよな! でも、周囲を散らさないと水で周囲が覆えないから仕方ない!
「おい! 何をしやが――」
「俺は必要だって言ったぞ!」
「ちっ!」
吹っ飛ばされないようにしっかりと俺のロブスターにしがみついていたけど、そこで変な問答をしている時間もない! 多少は操作を乱せたみたいだけど、すぐに元の状態に戻そうとしてきてるから急がないと!
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 93/123 : 魔力値 245/306
よし、これで大急ぎで周囲を覆う水の膜を作るのみ! あ、でもこれもやっといた方がいいか。……どの程度効果があるかは分からないけど、全く無意味って事はないはずだしな。
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』は並列発動の待機になります> 行動値 88/123
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を6消費して『水の操作Lv7』は並列発動の待機になります> 行動値 82/123
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
霧みたいにした氷の操作に覆われる前に大急ぎで水の膜と足場を兼用で生成して、それと同時に敵の位置も確認! 灰色の矢印と青色の矢印が結構あるけど……妙に太い黒い矢印があるな。これは黒の統率種か? でも、白い矢印は……ないのか?
いや、霧で見えにくくなってるだけで上空へ続いてるのが何本かあった! 矢印がかなりの上空を指し示してるけど……ちょっとずつ降りてきている? これは……もしかすると初めはアルよりも更に上空にいたのか!? ちっ、これはなんとか対策を考えないと!
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