第1253話 奇襲への対策


 フーリエさん達が奇襲されて仕留められた状況を聞いてみれば、『インクアイリー』と黒の統率種が関与している可能性が出てきた。その内容から考えると……思った以上に厄介そうな状況だな。


「みんな、ちょっと意見をくれ! 今の話を聞いた感じだと奇襲に特化してる気がするんだけど、どう思う?」

「それは私も思ったのさー! なんというか、姿を見せずに仕留めようとしてる気がするのです!」

「偽装用に使う氷雪の操作の発動は、『移動操作制御Ⅰ』ではなさそうだよね? そうじゃないと、クラスター系の魔法で強制解除になりそうだし……」

「……確かに……それは……ありそう?」

「昨日ので痛感したけど、クラスター系の魔法は上を取ると圧倒的に優位なのさー!」


 確かに、実際に上から使われると相当厄介だもんな、クラスター系の魔法。というか、生成魔法だとか射出魔法だとかの名前がそれぞれのLvで呼ばれてたけど、Lv10のクラスター系の魔法にはそういう名前はないのか? うーん、まぁ今はそれを気にしてる場合じゃないな。


「魔法砲撃にしてるのは黒の統率種が従えている瘴気強化種を倒さない為かな? 狙いが下手だからじゃないと思うし……」

「まぁ指示を出せるようにしておく必要もあるし、意図としてはそんなもんか。その上で姿を見せずに済む作戦が、フーリエさん達を襲った手段……黒の統率種は、何体まで黒の瘴気強化種を統率が出来る?」

「分かりません!」

「だよなー。そこはどう考えても情報不足……」


 それこそ灰の群集の傭兵かつ黒の統率種になった時雨さんから聞いてしまいたい情報だけど、レナさんはその辺の事を聞いていたりしないか?


「……シリウス、どうしよう? 全然話に入っていけないんだけど……」

「安心しろ、フーリエ。俺も同じだ」


 あ、なんかフーリエさん達が困惑してる声が聞こえてきたよ。フーリエさん達も気になる点があれば言ってくれていいんだけど……。

 うーん、フーリエさんが俺の弟子とはいえ、他のメンバーと普段から積極的に関わってる訳でもないからなー。流石に意見を出しにくいか?


「ちっ、全員聞いてくれ! 少し悪い知らせだ!」

「何があった、アル!?」


 アルは静かだったからまだ報告をしてたのかと思ったら……どうもそれだけじゃないっぽい雰囲気。悪い知らせって、具体的にどういう内容だ?


「フーリエさん達の遭遇した内容を報告していたが、同様の報告が複数出てきた。上空から姿を確認出来ない状況で奇襲されて、黒の統率種の群れに囲まれて仕留められたってのがな」

「……本格的に……動き出した?」

「次々と襲ってる感じですか!?」

「それもあるだろうが……ここからが悪い情報だ。かなり離れた位置で、ほぼ同時に5ヶ所ほど発生している」

「5ヶ所!? ちょ、それって、同じ手段の偽装が出来るグループが5つはいるって事か!?」

「……それは確かに悪い情報だね」


 待て、待て、待て! それほど無茶苦茶なほど難易度が高い事をしてる訳じゃないけど、同時に5ヶ所で発生は想定外にも程があるんだけど!?


「あぁ、1つだけ確定とは言わないがマシな情報もあるぞ。全ての場所でクラスター系の魔法を使われた様子ではないから、必ずしもLv10の魔法持ちが組み込まれてる訳ではなさそうだ」

「……全然、安心出来る情報じゃないけどなー。マシなだけで、他の攻撃手段になってるだけじゃね?」

「まぁそれで正解だ。『連速投擲』や『貫通狙撃』で狙ってくるらしいし、銀光も隠されて分からんそうだ」

「それはそれで厄介なのさー!?」

「それと、初手はわざと近くの木を攻撃して狙われてる事を把握させるみたいだぞ。……そうやってあえて混乱させる事で、危機察知での緊急回避を鈍らせているようだ」

「……マジで?」

「ここで嘘を言う意味もないだろ」

「まぁそりゃそうだけどさ……」


 危機察知に引っかからない形で奇襲を受けているという認識をさせて、警戒態勢に移るまでの間に本命の攻撃を仕掛けてきてるって事か? くっ、とことん奇襲に特化した動き方だな!?


「フーリエさん、シリウスさん、そういう初手の攻撃はあったか? さっきの説明には出てなかった気がするが……」

「……そういえば、急に近くの木の枝が折れた音がしたとこから始まったような気がします」

「確かにそうだった! 敵が近くにいるって警戒して、みんなで止まったところを上から襲われたんだった!」

「やはりか。それが奇襲の始まりだという認識がないPTが多かったからな」

「あー、枝が折れる程度なら、後のインパクトが強過ぎて説明の中から抜け落ちるのか……」

「あぅ!? ものすごく計画的な奇襲なのです!?」

「……用意……周到?」


 『インクアイリー』らしきものが動き始めたのが察知されたと思ったら、内容が思った以上にヤバいんだけど!? 森の中に隠れているんじゃなくて、上空からの奇襲を仕掛けてくるとは……。


「これって……赤の群集にいた際に、事前に調べてるんじゃないかな?」

「確かにそんな感じはするね? 濃霧の厄介さを把握した上で、その対策を練ってきてる気がするよ。それこそ、さっきまでやってたケイさんみたいにさ?」

「……なんかジェイさんに、俺と『インクアイリー』が同列に扱われてた理由が分かった気がする」


 こりゃ警戒するわ! 俺の偽装の手段の発想は昨日の青の群集が仕掛けてきた岩のドームを隠す手段の推測が元になってるけど、『インクアイリー』はあれと同等のものをこうやって準備してきてる訳だしな。

 いや、待てよ。ここで『インクアイリー』だと決めつけるのも早計か? 傭兵だって黒の統率種になれるんだから、青の群集が『インクアイリー』に見せかけて仕掛けてきている可能性だってあるはず。


「だー! 考えてても埒が開かん!」

「ケイ? いきなりどうした?」

「いや、ちょっと青の群集に『インクアイリー』のフリをした攻撃って可能性を考えただけ……」

「おぉ!? 確かにその可能性もあるのです!?」

「……確かに積極的に肯定は出来んが、否定も出来ん可能性だな。念の為、可能性としては報告しとくか?」

「あー、一応頼む。それと、傭兵の動きはどうなってる?」

「そっちはまだ不明だな。共闘の条件を満たす戦闘の情報自体がまだ上がってねぇ」

「……まぁそりゃそうか」


 実際に共闘になる場面が訪れなければ、傭兵がどういう動きをする事に決めたのかを観測する事は不可能だもんな。まだその情報は時期尚早か。

 これ以上は待っても意味はないし、そろそろ本格的に動き出すタイミングが来たのかもね。少なくとも、上空からの奇襲に動いている勢力がいるのが分かったのは大きいな。


「おし、そろそろ俺らも本格的に動き出すぞ! 狙いは正体はまだ分からないけど、上空から奇襲を仕掛けている集団! その偽装は横からは丸見えだから、それを叩く!」

「ふっふっふ、奇襲狙いの相手を奇襲するのです!」

「でも、接近には気付かれるんじゃないかな?」

「そこはお互い様だし、もし『インクアイリー』なら……いや、何も対策をしてないはずがないか」


 側面からの攻撃には無防備なんて甘い事は考えない方がいいだろう。どちらかといえば、俺らがそういう奇襲への牽制の為に動くと考えた方がいいな。それだけでもかなり相手としては奇襲はしにくくなるはず。


「……とにかく……相手の……邪魔を……する?」

「まぁシンプルに言えばそんなとこだな。あわよくば、どさくさに紛れて他の群集へ上から奇襲するのもありか」

「ケイさんが邪悪な事を考えてるのさー!?」

「その場合の攻撃の実行役はハーレさんだからなー! 頼むぞ、拡散投擲!」

「攻撃役、私だったのさー!?」


 いや、だって俺らの中には黒の統率種がいないから、統率した瘴気強化種に襲わせるとか無理だし? ハーレさんの拡散投擲で混乱させてからの、俺と風音さんでの魔法攻撃がいいかもね。

 もしくは、偽装を解除してからのアルのクジラでの突撃からのサヤの近接での大暴れに、ヨッシさんの毒でのフォロー付き。まぁ相手次第でどうとでも襲う手段自体は変えられる!


「あ、フーリエさん達はどうする? 一緒に奇襲に回るか?」

「……えっと、足手まといにしかなりそうにないので、今回は遠慮しておきます!」

「俺も同じく!」

「……何もそこまで力強く言わなくても……まぁ、そういう事なら了解っと」


 折角ならとも思ったけど、フーリエさん達がそう思うなら仕方ないな。今は成熟体まで進化してるんだし、足手まといにはならないとは思うけど……まぁ俺らってかなり狙われてるから、そこを避けたいと思われるのは仕方ないか。


「それじゃシリウス、みんなと合流を急ごう!」

「おうよ!」

「頑張れよ、2人とも!」

「「はい!」」


 うん、元気の良い返事でよろしい! フェリスさん達と合流して、競争クエストの価値を目指してお互いに頑張っていこうじゃん!

 フーリエさんが今どのくらいの強さか見てみたかったりもしたけど、その辺は競争クエスト以外の時にしますかね。実力や自信が足りないのなら、その辺をみっちりと鍛えてやろうじゃないか!


「あー、ケイ、フーリエさんを鍛えるのはいいが……スパルタはやめといてやれよ?」

「流石にゲームでスパルタ特訓はしない……って、今の声に出てた?」

「思いっきり出てたのさー!」

「やっぱりか!?」

「ケイは、その癖を抑え込む特訓が必要じゃないかな?」

「あはは、確かにそうかもね」

「……ですよねー」


 くっそ、相変わらずの悪癖だな、これ! 作戦や手段を考えている特には出ないのが幸いだけど――


「はっ、そこなのです! 『狙撃』!」

「ハーレ、当たってないかな!」

「……こっち! 『ブラックホール』」


 ちょっ!? なんかハーレさんが下の森に向けて狙撃をしたけど、何があった!? 俺の前に風音さんがブラックホールを展開して……投げられた小石が吸い込まれていく?


「サヤ、ハーレさん、状況を端的に説明頼む!」

「黒い影が少し先に見えたけど、当たったはずなのに当たってないのさー!」

「……多分……闇の操作での……囮!」

「本命は、今動きながら投げてきている小石かな! 『略:大型化』『爪刃乱舞』!」

「状況通りの奇襲だな! よし、了解!」


 すぐに動いた状況から、どうして動いたかの理由が分かった程度だな。まぁそれだけでも判断材料としては十分! 遠距離からの視認性の悪さを利用して、闇の操作で囮を作るとは……そりゃダメージは出ないか。

 投擲と闇の操作の連携となると……青の群集の黒いリスのスミが思い浮かぶけど……今の状況は危機察知回避の投擲ではないみたいだし、サヤが竜を大型化して、クマの爪で叩き落としていける範囲だからダメージ狙いではなさそう。となると……。


「ヨッシさん、移動操作制御は解除で! これ、強制解除が狙いだ!」

「多分そうだろうね! 解除は了解!」


 ここで被弾すれば10分間は使えなくなるからこそ、俺らが動き出す直前に潰しておこうって算段か。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 113/113 → 113/119(上限値使用:4)


 よし、これで偽装用の光源は解除したから、強制解除の心配はいらないね。俺はこのまま地面まで落下してもどうとでもなる位置だけど……強制解除が狙いならもう失敗に終わったから撤退するはず。

 でも、流石にやられっぱなしで済ます気はないんだよなー。だったら、こうするか!


「アル、俺を投げてきてる相手の方向へ吹っ飛ばせ! 動きを封じて正体を探りつつ、可能ならそのまま倒してくる!」

「いきなり無茶を言いやがるな!? だが、任せとけ! サヤ、ハーレさん、正確な方向は!?」

「えっと、今はアルさんの真っ正面のはずさー!」

「動きが逃げに変わってるから、正体を探るなら急いでかな!」

「吹っ飛んでこい、ケイ! 『旋回』!」

「おうよ!」


 という事で、アルに吹っ飛ばされながら霧の森の奥へと弾き飛ばされていく。ははっ、なんというか尾びれで吹っ飛ばす狙いが上手くなってねぇ!?

 あ、前方にさっき別れたばっかのフーリエさんとシリウスさんを発見。こりゃ丁度良い!


「「ケイさん!?」」

「2人とも、ちょっと手伝え!」

「「は、はい!」」


 その奥に駆け抜けていく黒いリスの姿を発見! プレイヤー名は……やっぱりスミか! って、勢いがありすぎて、このままじゃ通り越すか。だったら、これで!


<行動値6と魔力値18消費して『水魔法Lv6:アクアインパクト』を発動します> 行動値 107/119(上限値使用:4): 魔力値 288/306


 吹っ飛んでいる俺自身を地面に叩きつけるように、魔法を放つ! タイミングはスミに重なるように落ちつつ、そのままハサミで抑え込んで……あっ、躱された。まぁ今のは仕方ないけど、躱し方に余裕がないかったっぽいから十分だな。


「くっ!? 相変わらず、無茶苦茶な挙動をしやがるな!」

「今のを躱すのは流石だけど、さて……スミ、偵察はご苦労さん。しっかりと青の群集が使っていた偽装手段は活用するから、精々警戒するように伝えに死んで戻ってくれ」

「はっ! そんなのお断りに決まって――」

「『ウィンドインパクト』!」

「ちっ!」

「フーリエ、捕まえろ!」

「うん! 『複合毒生成:溶解毒・神経毒』『並列制御』『猛毒牙』『巻きつき』!」

「くっ!? コケとリスへ同時に!?」


 おー、俺への警戒だけでフーリエさんとシリウスさんの事は眼中なかったっぽいな。……いくらなんでも、安全圏の周囲に突入してきてそれは油断が過ぎるんじゃねぇの? いや、これはそういう内容じゃないな。


「アル、大急ぎで周囲のみんなに通達! 俺が追いかけたスミは陽動の可能性が高い! 青の群集が安全圏に何か仕掛けてくるかもしれないから、その対処を――」

「はっ、今更気付いても遅ぇよ! やれ!」


 ちょ!? もう既に準備が終わってたからこその、俺らへの攻撃だったのか!? ちっ、完全に後手に回ってしまった!?

 

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