第1252話 霧の中で
アルに高過ぎない程度の位置まで下がってもらって、情報のチェックは任せた状態で、みんなで試行錯誤を繰り返していった。
「ふぅ、こんなもんか」
「これでいいと思います!」
「違和感が全くない訳じゃないけど、いきなりだと気付かれない範疇だと思うかな!」
発光Lv5だと少し光量が強過ぎたから、Lv4に落としてみたらなんとか実用範囲になった。サヤとハーレさんが下から見上げて、少し違和感を覚える程度なら許容範囲!
そもそも俺らの中には獲物察知の妨害手段を持ってる人がいないから、完全な偽装は不可能だしね。この辺は、ある程度の妥協しないと仕方ない。
「えっと、ケイさん? この手段自体はいいんだけど、流石に通常発動は厳しいし……私も『移動操作制御Ⅰ』を取っておいた方がいい?」
「あー、流石にこの手段だとその方がいいかも?」
「あはは、やっぱそうだよね。うん、それじゃすぐに取っておくよ」
「ほいよっと」
俺は普段の飛行鎧で使っている組み合わせがそのまま見事に噛み合って使えている状況だしなー。この手段で移動するならヨッシさんの行動値の負担を考えて、進化ポイントを使って『移動操作制御Ⅰ』を取ってもらう方が確実だ。
あ、ヨッシさんが一旦、氷雪の操作は解除したね。このまま真下に発光してるのは変な状態になるから、光の操作で可能な限り光を散らしとこ。これなら邪魔にはならないはず。
さて、ヨッシさんが『移動操作制御Ⅰ』の取得と登録を待つ必要があるから、その間にサヤとハーレさんを回収して……って、もう普通に自分達で上がってきてたよ。
「ねぇ、ケイ? ちょっと疑問をいいかな?」
「ん? どういう内容?」
「えっと、時間経過で霧の濃さが変わる可能性があるんだよね? それだと、今の状況をずっとじゃなくて、状況に合わせての調整は必要になるんじゃないかな?」
「あー、それはそうなるけど……流石にどこでどう霧の濃さが変わるか分からないから、ある程度は妥協していくつもりでいてくれ。最悪、バレたとしても俺とヨッシさんの移動操作制御が破られる程度で済むはずだしさ」
「……まぁ多少の妥協は必要なのかな?」
完全に偽装し切れるならそれがいいけど、どうしても移動しながらになるからなー。霧の濃さの変化のタイミングが分かってて、それに合わせた調整が全て出来ての切り替えなら、こだわる方がいいんだろうけど……それを探りながらやるのは現実的じゃない。
ぶっちゃけ、この偽装手段が下方面に対するものに過ぎないし、真横から見れば丸わかりだしなー。どれだけ調整しても、俺らだけでは完全な偽装には程遠い!
「ケイさん、それを破って攻撃をしてこられたらどうしますか!?」
「それはもう完全にバレてる場合だろうから、普通に迎撃のつもりで!」
「はーい!」
まぁヨッシさんの氷雪の操作だと物質的に固まってる訳じゃないから攻撃が抜けてくる可能性はあるけど、俺の岩の操作なら1発だけなら止められるはず。……効果時間が長い昇華魔法は無理だし、連撃系だと止められるのは1撃目だけだろうけど、それでも無いよりはかなりいいはず。
「あ、ハーレさん、これと同じような偽装を見つけたら狙撃を頼むぞー! 多分、敵も使うとしたら『移動操作制御Ⅰ』で使ってるだろうしさ」
「そこは連撃じゃなくていいのー!?」
「むしろ、連撃にはしないでくれ。もし敵のを破ったら、即座に土魔法で土壁を作るからなー」
「それはどういう理由からですか!?」
「……閃光を……防ぐ為?」
「風音さん、正解! まぁ俺なら、破られたと分かった瞬間に閃光で目潰しをするからな」
「おぉ!? 確かにそれは効果的な気がするのさー!」
「……注意が向いているからこそ、有効な手段かな?」
「そういう事だなー!」
上空でこの手段を使って影を消す為には、発光の使用はほぼ間違いなく必須。発光持ちとなれば閃光も持っている可能性が高いから、破られた時のカウンターとして成立するんだよな。
まぁ問題は……相手も同じように考えるのが容易に想像出来るところか。とはいえ、この辺は実際に対峙してみないと分からない部分だ。……青の群集の偵察部隊、聞いているなら閃光が待ち構えているのと、その対応策も用意されてるって事を伝えてくれよ。その上で、更にもう一手くらい食らわすからな! まだ内容は考えてないけど。
「アルの方は、なんか新情報は出てるか?」
「そうだな……。気になる情報としてはアイルさん発案の成長体や未成体の部隊が、結構な数が仕留められて送り返されてきてるそうだぞ」
「あー、まぁそりゃ仕留められはするだろうけど……接敵しているって事だよな?」
「あぁ、今はその報告が上がり始めてきてるとこだな。本格的に戦闘が始まった部分のフォローをして仕留められてきたのが多いそうだ。1番多い報告は、高笑いが聞こえたらあっという間に黒い何かに仕留められているってものだが……」
「……それ、どう考えても弥生さんじゃん!」
その特徴に合致するプレイヤーが他に思い当たらないわ! でも、明確に弥生さんに倒されたという風には報告は上がってないんだな? 黒い何か……そういう表現にする理由が何かある?
「十中八九、弥生さんだとは思うが……明確に黒いネコの姿の赤の群集のプレイヤーだと確認出来ていないのが気になる部分だ。成長体や未成体の人達の大量参加を確認した赤の群集が、即席で偽の弥生さんらしき誰かを用意した疑惑も上がっている」
「あー、そういう可能性もあるのか……」
ウィルさんなら、それくらいの対応をしてきても不思議じゃないか。高笑いがあるなら喋れない黒の統率種の可能性は……多分、低いはず。
「はい! それはどの辺りの位置での話ですか!」
「大体、中央付近って話だな。ただ、今成長体や未成体で動いている人は、競争クエストは不慣れみたいでな? 報告件数が少なめだそうだ」
「報告の事を意識してない感じかな?」
「どうもそうらしい。まぁそれは話せば伝わる事だから、安全圏に死んで戻った大規模な共同体の人達で、報告と情報の確認の徹底については伝達はしているそうだ」
「……少しすれば……足並みが……揃う?」
「ま、おそらくな」
「なるほどなー」
まぁ今の段階でまだ成熟体に進化させられていない人は、昨日の再戦エリアで役割があるのとは違って、ガッツリと衝突していく今みたいな競争クエストには初参戦だろうし、そういう事もあるか。そういうのを全部予め把握しておけと言うのは無茶な話だし、その辺はやりながら慣れていってもらえればいい話!
って、あれ? 下から誰か飛んで……あぁ、警戒する必要はなさそうだな。ヘビの形をしたコケに、それを掴み上げているトンビだし、灰色のカーソルで……そもそも見知った相手というか、片方は弟子だしさ。
「あっ! やっぱりケイさんだ!」
「こんばんはっす!」
「フーリエさんとシリウスさんか。どうした、こんなとこで?」
「……あはは、それが僕もシリウスもさっき仕留められちゃいまして。そういうケイさん達は、なんで安全圏のすぐ近くにいるんです? てっきり、最前線で戦ってるものかと……」
「ちょっと霧の森の分析と偽装手段の確立をやっててなー。もうそろそろ動き出すけど、フーリエさん達が倒された時の状況って聞いていい?」
「あ、はい! それは大丈夫です!」
ここでフーリエさん達と会ったのも何かの役に立つかもしれないし、情報収集、情報収集! そういう実際の戦闘の情報が欲しくて少し遅らせて出発してるのもあるから、敵ではないと確信が持てる相手からはしっかりと聞いておきたいところ。
「えっと、ケイさん? 登録は終わったんだけど、先に展開してもいい?」
「あ、すみません! 僕、お邪魔でしたか!?」
「ううん、そういう訳じゃないから大丈夫だよ。ただ、何も言わずにやったら驚かせるから、その確認ね」
「そういう事だぞ、フーリエさん! あ、悪いんだけど、フーリエさんとシリウスさんはアルの上に移動してもらっていいか? 多分、俺の真下は……色々と良くない」
「あ、はい! なんだか色々といつも違いますし、その方が良さそうですね。シリウス、お願い」
「おうよ! アルマースさん、失礼します!」
「おう、しばらく乗ってけ!」
流石にフーリエさんとシリウスさんが俺の発光とヨッシさんの氷雪の操作の間に入ると、偽装が偽装として成立しにくくなっちゃうからね。状況を聞くにしても、この状況の方がいいはず。
「それじゃいくよ、ケイさん。『移動操作制御』!」
「ほいよっと」
そうして俺の展開している光源用のコケを広げている岩の前に、薄っすらと霧に偽装する氷雪の操作が展開されていく。それに合わせて、俺も光の操作の調整を元に戻しておこうっと。
完全に静止させるのは難しいみたいだけど、まぁこれで移動をしていくのであれば支障はない範囲だろうね。
「……これって、霧の偽装ですか?」
「まぁなー。ヨッシさんの氷雪の操作で霧みたいな状況を作り出して、俺の発光と光の操作でアルのクジラから落ちる影を誤魔化してる。青の群集も似たような手段を使ってくる可能性があるから、その辺は――」
「それ、見たかもしれない! フーリエ、あの時の上からの攻撃って、もしかしたら……」
「これだったのかも!」
「……へぇ? こりゃ、本格的にフーリエさん達には話を聞かせてもらった方がよさそうだぞ、ケイ?」
「そうみたいだなー。フーリエさん、シリウスさん、詳細を頼む」
これから注意してもらおうと思っていたら、既に同様の偽装に遭遇済みとはね。これは是が非でも聞いておいた方がいい内容だろうな。
「はい、しっかりと話しておいた方がいい気がします。えっと、僕達はさっきみたいにシリウスに掴んでもらって飛んで移動してたんですけど……確か、中央付近に行ったくらい?」
「上からいきなり襲われたんだよな! えーと、なんだっけ? あの魔法の……思い出した! 風属性だったから『ウィンドクラスター』ってのを! 多分、魔法砲撃にしたやつ!」
「でも、どこから撃ってきてるのかが分からなくて……逃げ回ってる間に、強い風を叩きつけられて下に落とされて……」
「……その後、地面にいた黒の瘴気強化種の群れに襲われて死にました」
あー、ちょっと待った。これって、予想以上に重要な情報じゃないか? 襲われたのまでは……まぁ俺らでも実行可能な範囲だからいいとして、そのタイミングで地面にいた黒の瘴気強化種の群れに殺されたのは、スルー出来ない話だぞ。
「フーリエさん、シリウスさん、確認だ。その黒の瘴気強化種の群れ、何体いた? それと襲ってきた連中は、その状況で追撃とかはしてきたか?」
「えっと、追撃はなかったと思います。数は……ごめんなさい、ケイさん! 数える余裕はなかったので、分からないです。シリウス、数は分かる?」
「……確か襲ってきたのは大蛇、ネズミ、イノシシ、フクロウ、トカゲ……まだ他にもいた気はするけど、覚えてるのはこれくらいだな」
「……結構な数の上に、落としてきた敵からの追撃は無しか。アル、どう思う?」
「絶対とは言えんが、『インクアイリー』と黒の統率種が絡んでいる可能性がありそうだな。ケイ、俺の方でこの件は報告を上げておくぞ。あぁ、それと霧の偽装の件も大体片付いたみたいだし、まとめて報告しとくからな」
「頼んだ!」
やっぱりアルの見解も同じか。絶対にそうであるとは言い切れないけど、少なくともその疑惑を持つには十分過ぎるだけの要素はある。
偽装手段を使うのは別に群集の専売特許って訳じゃないし、視界を確保する為の手段に重ねて偽装を施す可能性は否定出来ない。それこそ、ジェイさんの表現的には『インクアイリー』は、群集に情報を出さない俺みたいな相手な訳だしさ。
「え、僕達を襲ってきたのって、例の集団なんですか!?」
「……うっわ、マジか」
「絶対にとは言えないけどなー。てか、フーリエさん達は2人だけで動いてるのか?」
流石に今回の競争クエストは2人での参加は厳しいと思うんだけど……もしそうなら、2人を連れていくのもありか? 連結PTにすれば、それ自体は可能だし――
「あ、いえ、PTには入ってたんですけど……」
「初めの攻撃で分断になっちゃって、俺とフーリエが最後まで生き残ってて、この先で合流って事になってます」
「あー、なるほど。そういう感じか」
その移動の途中で俺ら……というか、アルのクジラの影を見かけて飛んできたってとこか。まぁ俺らが出てくる前の安全圏でも相当混雑してたし、霧の森で安全圏から少し外れた位置くらいが合流場所としては丁度いいのかも。
「それって待たせてる事になる気がするけど、大丈夫かな?」
「あ、はい! それは大丈夫って言ってくれてます! みんな、皆さんと面識はありますし!」
「え、そうなのかな?」
「俺らのPTの他のメンバーはフェルスさんとミドリさんとレインさんなんで!」
「おー! あの3人と一緒なんだー!」
「あはは、確かにそれなら全員面識はあるね」
なるほど、カエルのフェルスさん、スイカのミドリさん、ハリネズミのレインさんの3人組と一緒か。そういやジャングルでも、一緒にLv上げをしてたのに遭遇してたっけ。
もしかするとあの時がきっかけになって、今日も一緒に動いているのかも? まぁその辺の事情まで深く聞く必要まではないか。雑談してる余裕がある時ならまだしも、そろそろ本格的に動き出す方が良さそうだしね。『インクアイリー』の動きだと思える襲撃も……。
「ん? ちょい待った、5人PTでなす術もなく一方的にやられたって事になるのか?」
「……情けない話ですけど、そうなります」
「敵の姿すらまともに確認出来なかったのが、なんか悔しい! あ、そうだ! 分断された先でも黒の瘴気強化種の群れに襲われたそうです」
「……そっちも黒の瘴気強化種の群れかー」
その戦闘を直接見た訳じゃないから断定は出来ないけども、それでも5人組に正体を見られる事なく一方的に仕留め切るか。しかも黒の瘴気強化種の群れを使って、自分達は姿を現さない。
数の不利をものともしない戦い方を想定してきてる気がする。これ、根本的に共闘が成立するのか? 共闘を成立させるには、まず共通の敵を認識しないといけないんだけど……。
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