第1251話 霧の偽装
情報収集の結果としては、まだ本格的な衝突までは至っていない。ただ、チラホラと連絡が途絶えている人達がいるらしいから、情報が入ってくるのはもう少し後くらいか。
「さてと、状況的にもそろそろ動き出した方がいい感じだし、霧の偽装を試したらそのまま進んでいくぞ!」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
という事で、今度は『灰の刻印』で視界をちゃんと確保した上で霧の森へと突入! 俺とヨッシさんのどっちが情報収集を担当するかは、その時になってから考えよう。氷雪の操作で霧の偽装が出来るなら、色々と動き方を変える必要があるしね。
<『未開の霧の森・灰の群集の安全圏』から『未開の霧の森』に移動しました>
再び、霧の中へと突入! ふむふむ、この辺も聞いた通りに薄っすらとだけど霧がある状態に見えていて、完全に無くなっている訳ではないな。長距離だと普通の昼の日よりも見える距離はかなり短いか。
「ケイ、少し位置をズラすぞ。このままの位置だと、移動してきた人の邪魔になるかもしれんしな」
「アル、頼んだ!」
本格的に動き出すのは、これから少し実験をしてその報告を上げてからだもんな。それまでの間は、みんなの邪魔にならない位置にいた方がいい。
という事で、ほんの少しだけ東へ移動。……アルが西にしなかったのは、罠を仕掛けてくる可能性が高い青の群集の安全圏が西側にある可能性が高いからだろうなー。
「これは……完全に霧の影響を受けなくなる訳じゃないみたいだね」
「だなー。サヤ、ハーレさん、どの程度まで見渡せられる?」
俺の見渡せる範囲でも結構厄介な感じだし、目視での索敵をするサヤとハーレさんの見解は聞いておきたい。近距離での戦闘は問題なさそうだけど、遠距離戦は相当厳しい気がする。
「いつもの昼の日の半分くらいだと思います! 思ったよりも結構制限がある感じ!」
「想像よりもかなり霧があるから、下にも要注意かな!」
「……高過ぎると……下も見にくい……?」
「ケイ、あんまり高度を上げ過ぎるのもまずそうだぞ」
「あー、どうもそうっぽいなー」
今いるのが森の木々の上だけど、地面までの距離がある分だけ霧での視界の悪化の影響は受ける訳か。完全に地面が見えなくなってる程ではないけど、それでも多少の見辛さはあるっぽい。
一応空を見上げてみたけど、明かりこそ届いているけど太陽は見えない状況だしな。いや、これは……ふむ、ちょっと試してみるか。
「……サヤ、ハーレさん、ちょっとだけ付き合ってくれ! 地面に降りる!」
「了解なのさー!」
「それはいいけど、何をするのかな?」
「どの程度、上が見れるかの確認!」
そのままアルの背から飛び降りて、地面に着地! あー、この辺の地面は泥濘んでる訳じゃないけど、それでも若干湿った感じで固くはない地面か。
というか、ロブスターの脚だと普通に地面に刺さったよ。うーん、これは踏ん張りはしにくそうだな。
「えいや! わっ!? 思ったより地面が柔らかいのです!?」
「あ、ホントかな。……これは、油断すると危なそうかな?」
「サヤは足を取られないように要注意なー! その辺は上手く竜を使っといてくれ!」
「うん、分かったかな!」
この地面の柔らかさの影響を1番受けるのは、間違いなくサヤだ。というか、周囲を見ればあちこちに色んな種族の足跡があるな。足跡が重なり過ぎて、どれがどれだかさっぱりなレベル。少し外れた位置でこれなら、真正面はもっと凄いんだろうな。
うーん、これはやっぱり俺らの場合は飛んでいくのが正解か? まぁその辺の判断材料を得る為に地面に降りたんだし、確認をやっていきますか。
「今の状態なら、上空にクジラがいるのはぼんやりと分かる程度だなー。上方向への視界はあんまりよくないな?」
「確かにそうなのさー! でも、何か上にいるのは丸分かりなのです!」
「アルのクジラで影が出来てるし、昼間なら流石に大丈夫かな? あ、でも小さ過ぎる相手だと見落としかねないかも」
「なるほど、下から俺を見た様子の確認をしてるのか」
「まぁなー」
霧の森の特殊さを考えると、敵からどういう風に見えているかはしっかりと確認しておいた方がいい。……『灰の刻印』無しの濃霧状態だと、この辺は見落としそうな部分ではあるけど、下の地面だけじゃなくて上空も要注意な状況か。
「アル、どんどん高度を上げてくれ。それで変化を見たい」
「おうよ!」
どんどんアルが高度を上げていけば、そのクジラの姿が見えにくくなっていく。ただ、影は落ちているままだし……むしろ、影は大きくなってる?
「サヤ、ハーレさん、この状況はどう思う?」
「これだけ影が出来ていたら、上に何かいるのは見分けられるかな?」
「影自体も動くはずだから、見落とす事はないはずなのさー!」
「なるほどなー」
俺だと気付かないって事はありそうだけど、サヤとハーレさんが気付く内容ならサファリ系プレイヤーの実力者には通じないと考えた方がいいな。
さて、ちょっと脱線したけど、霧の偽装を試していきますか! 発想としては、昨日の青の群集がしていた雲に見せかけた氷雪の操作の応用。霧と雲は本質的には同じものだから、雲の偽装が出来るなら霧の偽装も出来るはず!
それに別方向での偽装手段を思いついたから、こっちが本命になるかも? それが上手くいくなら、移動方法は決まってくるぞ! 情報収集の割り当ても変更した方がいいかも? まぁ、とりあえずやってみよう。
「ヨッシさん、その状態でアルの真下に氷雪の操作を展開出来るか?」
「え、ここでアルさんの真下にやるの? ……ケイさん、何か狙いがあるんだね?」
「まぁなー!」
「それじゃやるね。『アイスクリエイト』『氷雪の操作』!」
さて、この状態では……あー、アルの影が地面に落ちている状態は特に変わらずか。アル自体はもう姿が見えてないけど、このままじゃやっぱり意味なさそうだ。
「サヤ、ハーレさん、この状況の見解をよろしく!」
「アルさん自体は氷雪の操作と霧が混ざって、見分けがつきにくいのさー!ー!」
「でも、影は変わらずだから意味はないかな? 距離があれば、霧の偽装は出来そうだけど……」
「なるほど、なるほど」
今のサヤの意見は参考になるね。近距離ではあまり偽装の意味はなさそうだけど、長距離であれば偽装には十分か。俺らの視界も阻害する事にはなるけど、俺らの死角になる部分を偽装しておくにはいいのかも。
氷雪の操作を展開している状態なら、何か仕掛けてきてもそこに必ず触れるから、少し距離を取っておけば察知代わりにもなるか。うん、これは使えそう。
「サヤ、ハーレさん、もうしばらくここにいてくれ。俺はちょっと上に行って、もう一手の仕込みをしてくる」
「おぉ!? やっぱり何か考えてたのさー!?」
「その結果を私達が見て、伝えればいいのかな?」
「そういう事! って事で、こっちはよろしく」
「任せてかな!」
「どんな手段か気になります!」
手段自体は説明してしまってもいいんだけど、まぁそれは実際に使ってみながらだなー。ぶっちゃけ、昨日、青の群集に使われた岩のドームの偽装方法に似ている内容ではあるけど……。
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 123/123 → 117/117(上限値使用:6)
とりあえずサクッとアル達がいる上空まで飛行鎧を使ってひとっ飛び! ……何気に結構高い位置まで上がってたのか。あー、そういややろうとしてる手段は、この飛行鎧の登録内容で完結してるよ。
てか、登録し直したのでコケの増殖範囲が広がってますなー! うん、意識して生成した岩の方に広がるようにしないと、ロブスターの背中とハサミは完全に覆っちゃうね。……下手に被弾も出来ないし、増殖はLvを下げて登録しといた方がいいのかも? まぁそれは後の話だな。
「ただいまっと。ヨッシさん、良い感じにあんまり動かない氷雪の操作になってるな!」
「……あはは、静止に近付けるのは結構操作が難しいけどね」
「それで、ケイは何をする気だ? 偽装自体は使えそうな感じでも、俺のクジラの影が問題みたいだが……」
「……影を……光で消す?」
「ん? あぁ、発光か!」
「風音さん、アル、正解!」
やってからのお楽しみにしようと思ってたのに、実行する前に風音さんに見抜かれてしまったか。まぁ理屈的には、昨日の岩のドームを隠す闇の操作を発光に置き換えるだけのものだしなー。
「おぉ!? 昨日の青の群集のパクってるのさー!」
「おいこら、ハーレさん! 他に言い方ってもんがあるだろ!?」
パクリだと言われても否定は出来ない部分ではあるけども! って、灰の群集の安全圏の近くだからって大声で言うような内容でもなかったな。近くまで青の群集が偵察に来てたとしてもおかしくはないんだしさ。
いや、そう考えると今のハーレさんの言葉はわざとか? この手段、青の群集であれば思いついている可能性は非常に高い。あえてパクリだと宣言する事で、牽制をかけた? って、共同体のチャット項目が光ってる? ……これは内緒話? ちょっと確認しとこ。
ハーレ : 正確には確認出来なかったけど、なんか青いのが視界の隅に映ったから、牽制で言っておいたのさー!
アルマース : ……近くに青の群集が来ているのか?
サヤ : いる可能性は、否定出来ないかな? 決して見通しが良い訳じゃないし、2人で全方位は把握し切れないし……。
あー、やっぱり既に偵察がこの近くまで来ている可能性はあるのか。俺の獲物察知で……やっても無意味だろうな。それですぐに分かるような人が、安全圏のすぐ近くまで偵察しにくる訳がない。
ケイ : 逆に堂々と、そっちの手段はお見通しだとしてやっておく方が牽制にはいいかもな。
ヨッシ : でも、今確認してる最中なのがバレバレなんじゃ?
アルマース : それは大丈夫だろ。ケイに手段を見抜かれたって時点で、十分なほど警戒に値する状況だぞ。
ヨッシ : あ、確かにそれはそうかも?
ケイ : それ、どういう意味だよ!?
ヨッシ : そのままの意味だと思います! というか、こっちで長話したら牽制した意味がないから、ケイさん続きを早くお願いなのさー!
ケイ : ほいよっと。
まぁそこはハーレさんの言う通りだし、風音さんに伝わらない状況で話しているのも良くないな。さて、青の群集に筒抜けになるのを承知の上で続きをやっていきますか!
「光量がどの程度が丁度いいのかを確認したいから、その辺の確認を頼むぞ!」
「はーい!」
「分かったかな!」
わざとらしくならない程度で、近くにいれば聞き取れるくらいの声量にしておく。さぁ、偵察が本当にいるなら、しっかりと青の群集の手段を見破ってる可能性があるって事を報告して警戒してくれよー! ……俺らも、この手段に警戒しなきゃいけないけどな!
とりあえず一旦、アルのクジラの背に乗って準備をしていこうっと。飛行鎧に登録しているスキルを大活用していくけど、形状が大きく変わるから再発動しなきゃいけないしね。流石にそのままじゃやりにくい!
<行動値上限を5使用して『発光Lv5』を発動します> 行動値 117/117→ 112/112(上限値使用:11)
後で光の操作で調整はするから、とりあえず今の最大Lvで発光を発動! ……うん、光量が強過ぎて、ロブスターのハサミの表面にあるコケが凄い眩しい。
「あー、ケイ、流石に光量が強過ぎねぇか? 普通に眩しいんだが!?」
「……本当に……眩しい」
「いや、結構な高さもあるから、これくらいは必要なはず! ……分からんけど!」
「分からねぇのかよ! あー、まぁこれから試すんだからそりゃそうだよな」
「そういう事! それじゃやってくるわ!」
「おうよ!」
どっちにしても、アルのクジラの影を掻き消すんだから、アルの真下でやらなければ意味がないしなー。という事で、アルのクジラとヨッシさんの氷雪の操作の間へと移動!
ここから適切に光らせる事で、落ちている影を打ち消していくのみ! ふっふっふ、これこそ霧の森の昼間に合わせた上空での偽装方法!
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 112/112 → 112/118(上限値使用:5)
飛行鎧の形のままだと最適化出来ないから、一旦解除! これで増えてたコケも一旦消えたから、ロブスターのハサミが眩しい状態ではなくなった! でも、そのままじゃ落下するから大急ぎで再展開!
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 112/118 → 112/112(上限値使用:11)
俺のロブスターを生成した岩に埋め込みながら、増殖していくコケは岩の表面に広がっていくようにしておく! あ、向き的にアルのクジラの腹を照らすようになっちゃった。
これじゃダメだから、向きをグルンと変えて……よし、ロブスターが仰向け状態になったけど、これで光源は問題なし。そして、普段は死蔵になり気味の光の操作でコケの発光を操作して、ヨッシさんの氷雪の操作の範囲を均等に照らすようにやっていく! 下への視界はコケで確保すればいいや。
「おぉ!? アルさんがどこにいるか、一気に分からなくなったのさー!?」
「ケイ、これは成功かな!」
「え、微調整無しで大丈夫な感じ?」
一発で成功とは思わなかったんだけど、まぁ上手くいったなら結果オーライか?
「……でも……これは……位置が……高過ぎる?」
「確かに今はかなり上空だしな。ぶっちゃけ、俺らも何も下の様子が分からんぞ?」
「距離があるから、光量が強くても大丈夫なのかも?」
「そういや、結構な高さになってたよなー!?」
今の光量でいけたのは、ちょっと高過ぎるくらいの位置にいるからかよ! あー、とりあえずもう少し低い位置で色々と調整し直すのが必要っぽいな。まぁ使えるか使えないかで言えば、使えそうだから問題ないか。
おし、とりあえず適度な高さに合わせた微調整をしながら、手が空いてるアルにこの辺の手段の報告してもらおうっと。
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