第1250話 霧の森へ戻る前に
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『未開の霧の森・灰の群集の安全圏』に移動しました>
エンの元まで移動してから、『灰の刻印』を刻んでもらって安全圏まで戻ってきた。エンの近くも、安全圏も、未だ混雑は続いている状況だな。ただし、パッと見た限りでは今は出身エリアごとにタイミングをズラしている様子。
ふむふむ、今はゾウ、キリン、シマウマ、ヒョウ、ライオン……中にはバオバブの木の人とかもいるのか。まぁとりあえず草原エリアっぽい人達が主に動いている最中っぽい。
灰のサファリ同盟が仕切ってる様子も見えるから、群集としての作戦がなくても完全に無秩序に動いているという訳でもないか。先陣を切りたい人達は既に霧の森に進んでいて、今は混雑していても落ち着いている感じだな。
チラホラと『灰の刻印』を刻んでいない人達が安全圏と霧の森を区切る部分になるバリアを超えて戻ってきているから、俺らと同じような事をしているPTや共同体もそれなりにいるっぽい。
「さてと、どのタイミングで動き出すか……」
森林深部へと戻っている間だけはどうしても情報のチェックが出来てないから、そこを確認してからの方が良さそうだよな。そこまで長時間離れていた訳じゃないけど、動きがあるのは一瞬という事もある。
「ケイ、とりあえず今はみんなで競争クエスト情報板の確認をするのでどうかな?」
「それが無難なとこかー。いつまでも呑気に待ってればいいってものでもないし、情報を確認しつつ、俺の移動操作制御が使えるようになったら動き出しますか!」
「了解なのさー!」
「まぁ使えないままよりは、使えるようになってる方が良いもんね」
「具体的には後どのくらいだ?」
「えーと、あと2分くらい……って、普通に情報を確認してたらすぐに終わる時間じゃん!?」
「……もう情報を確認したら、普通に出発でいいんじゃないかな?」
「……意味が……あまりない?」
「ですよねー。まぁそれでいくかー」
こうして話している間にも使用不可になっている時間はどんどん短くなっているし、残り時間を見ずに基準にしたのが間違いだったか。まぁでも、この最終戦が始まってからもう10分以上は経過してるし、動き出す頃合いとしてはありだろ。
「ケイ、先に聞いとくが……移動は結局どうする? 小型して隠れながらか、それとも飛んで動くか、その辺の方針は決めとこうぜ」
「あー、まぁ基本的には飛んで移動だなー。陸地に降りて進む方がデメリットが大きそうだしさ。ただ、沼地に関しては一度実物を見ておきたいとこだから……特に指標となる情報がなければそっちを探りに行ってみよう」
「ま、それが妥当なとこか。『灰の刻印』がどの程度の効果があるかも分からんしな」
「はっ!? 確かに視界は良くなるとは聞いたけど、完全に霧が見えなくなるとは聞いていないのです!」
「……少しは……霧が……残る?」
「流石に、完全にクリアな視界になるとも思えないかな?」
「その辺も確認しとかないとなー」
俺らみたいにその辺の確認に行ってるPTは結構いるみたいだけど、それは逆に言えば各自で確認が必要なほどに事前調査が不十分だという事でもある。まぁ霧の見え方がどう変わるかは言葉じゃ伝えにくい部分もあるだろうから、こうして実際に自分で確認するのが確実……って、ちょっと待て。
深夜帯の人がマップの注意点を教えてくれていたのに、その辺の情報は曖昧ってどういう事だ? 何か見落としている事が……あ、そうか。霧ってなんだかんだで天候の1つなんだし、時と場合によって濃さが変わってるのかも?
「ヨッシさん、ちょっと確認。ここの霧の濃さが変わるって感じの情報はあった?」
「え? そういう情報は特になかったけど……そっか、よく考えたら変化しててもおかしくない部分だよね」
「その辺の情報がないのなら……『灰の刻印』を使ってる人が多いのと、比較対象として他の機会で見た人が少ないのが原因か?」
「その可能性はありそうなのさー!?」
霧の森という名前から霧に覆われているのが当然なのは間違いないけども、その濃度が変化するかどうかは何度かここを訪れて比較して初めて分かる事。もしくは、それを確認するつもりで他の人の情報と照らし合わせる必要がある。意外とこの部分は盲点なのかも。
それに一応飛んで動くという事にはしておくけど……あー、嫌な可能性を思いついた。これだと今回は特に下からの警戒はしておいた方がいいはずだし、動き方としてはこうするか。
「サヤとハーレさんは位置を分散させておくぞ。地面側からの奇襲に警戒しておきたいから、俺とハーレさんでアルのクジラの腹側に固定しとく。上部はサヤと小型化してないそのままのサイズの風音さんが担当。ヨッシさんは俺と情報収集役を交代しながらで!」
「警戒体制、了解なのさー! ケイさんかヨッシが足場を作ってくれるんでいいんだよね!?」
「一応、そのつもりだけど……アル、水のカーペットをクジラの腹部の下に展開は?」
「それは出来るがそれはケイがした方が確実……あぁ、ヨッシさんが担当になる時か。おし、それは任せとけ」
「あ、そっか。私は『移動操作制御Ⅰ』は持ってないもんね」
「そういう事! 話が早くて助かる!」
攻撃にスキルを使えるようにしておくには、どうしても足場は移動操作制御の方で作っておく必要があるからね。ヨッシさんの氷での足場の用意は簡単だろうし、視界を塞ぐような事はないだろうけど……下からの防御にすぐに対応出来ない状況は避けたい。
「それ自体はいいんだけど……普段はそこまで下を警戒してないのに、ケイが今回は妙に警戒してるのはなんでかな?」
「あー、実際に見てからにはなるんだけど……霧の濃さが変動してた場合への警戒と、ちょっと嫌な想定があるもんでさ。この視界の悪さ、覚えがあったりしない?」
霧はぶっちゃけ、雲と一緒だ。そして、昨日その雲に偽装している手段を見たし、そういう似たような視界になる場合も知っている。だからこそ、この場でそれが活用される可能性は無視出来ない。
「え、この視界の悪さに覚えかな? あ、それは確かにあるかも?」
「真っ白に視界が覆われて……はっ!?」
「……氷雪の操作や、昇華魔法のブリザード?」
「……青の群集が……偽装に……使ってた!」
「なるほど、動きを極端に鈍らせた氷雪の操作で霧の再現か。エリアの特徴として霧の濃さが変わるのだとすれば、そこを逆手にとって警戒されずに近付かれる可能性もある訳だな」
「そういう事! 魔法で生成されてたら、生成直後じゃないと魔力視でも気付けないからな。でもまぁ、エリア的に変化があるかどうかの確認が先だけど……」
「それは確かにな」
「それじゃすぐに確認していくのさー!」
「その方が良さそうかな!」
「場合によっては、私達が使うのもありかもね」
「……それは……やってみたい」
あくまでも、これはエリアとして霧の濃さに変動があった場合の話。もしそれがないのなら、特に警戒すべき事ではないからね。
ヨッシさんと風音さんが自分達で使う方向を考えてるみたいだし、手早くその辺の情報を確認をしていきますか! それが終わったら霧の森まで移動して、実験開始で! ……その時間的な余裕があればいいけど。
◯北斗 : まだ『インクアイリー』との遭遇の情報は上がってこないか。ここまで動きが出てこないとなると、なんだか不気味だぞ。
レナ : んー、流石にエリアが広いし、事前調査も不十分だからねー。
ザック : ランダムリスポーンが出来りゃ楽なんだがなー! 安全圏に戻されるのが厳しいぜ!
神奈月 : まぁそこは仕方ないって。その手段で進まないようにって制限されてるっぽいしな。
刹那 : 相変わらずであるな、ザック殿。それにしても、少し『灰の刻印』なしで見てみたであるが、この霧は非常に厄介なのである。
紅焔 : ん? 『灰の刻印』は使ってないのか?
刹那 : グリーズ・リベルテの方々があえて使わずに進んで、戻ってきているのが目撃されているのであるよ! それに意味がありそうなので、真似をしてみたら……味方すら2メートルも離れればまともに見えないほどの濃霧なのである!
ん? 地味に俺らの真似をして、同じように刹那さんも突っ込んでたの? というか、そういう人達が結構いた気がするのは俺らが原因か!?
ベスタ : ……何? その距離の味方すら見えないだと?
◯北斗 : ちょっと待て。視界が悪くて全然見通せないとは聞いていたが、2メートルすら見えないほどだとは聞いてないぞ。
柊 : もう少し見えるって話じゃなかったっけ?
神奈月 : 上から地面は見えないくらいには邪魔だけど、地上で味方がさっぱり見えないほどではなかったはず?
刹那 : そうなのであるか? とてもそうは思えないのであるが……。
レナ : およ? なんかこれはちょっと情報に齟齬がある予感? というか、何かありそうだね。
あー、これは読みが当たった気がするね。まさか俺らの真似をして動いている人が多いとは思わなかったけど、それはいい方向に結果が出ているっぽい。
というか、レナさんとベスタが一緒に動いてるはずなのに同時に書き込んでいるって事は……まだ本格的に戦闘になりそうにない位置で情報収集に徹してるのかも。そうじゃないとわざわざダイクさんも含めた3人で動くようにした意味が薄いもんな。
とりあえずここで俺らの名前が出てるのは好都合! 一から事情を説明しなくても、確認しようと思ってた内容にスムーズに移行出来る。という事で、サクッと書き込んでいこう!
ケイ : なんか俺らの名前も出てたし、とりあえず気になってる件について確認!
ベスタ : 噂をすればなんとやらか。ケイ、何が気になって『灰の刻印』無しで進んでいた?
ケイ : 刻印無しで進んだ理由は、まぁ単純に一度も霧の森に入ってなかったから、実際の霧の濃さを確認しときたくてだなー。その上での疑念として……この霧、時間経過で変化してる可能性があるんじゃね? 濃くなったり、薄くなったりさ?
柊 : あ、そっか。うん、普通にあり得る可能性!
◯北斗 : なるほど、言われてみればあってもおかしくない要素だな。
刹那 : そういう理由であったのであるか! 拙者達もそれは同様の状況なので、やる意義はあると思うのである!
ベスタ : ……他の事に気を取られ過ぎていて、単純な要素を見落としていたようだな。『灰の刻印』の存在が大き過ぎたか。
杞憂 : でも『灰の刻印』があれば、別に問題ないんじゃ?
レナ : うーん、それはまだなんとも? ケイさん、その辺は確認を任せていい? もう刻印ありで現地入りしちゃってる人じゃ試せないしさ?
ケイ : ほいよっと。まぁそのつもりで動いてる訳だし、問題なし!
ハガネ : 深夜帯のプレイヤーでそれなりには調べたが、そこまでは精査し切れてなかったか……。すまん、力不足だった!
ベスタ : いや、そこは気にするな。盲点になっていた部分だし、俺を含めて多くの奴がスルーしてしまっていた内容だ。注意が必要な点を洗い出してくれていただけでも相当助かっている。
ふむふむ、ハガネさんが深夜帯のプレイヤーで、霧の森の沼地部分について説明してくれてたって人か。この辺は明確に事前の情報収集が不足しているのを実感する部分だけど、『灰の刻印』の便利さが逆に仇となってる可能性もあったのなら仕方ない。状況的にも結構厳しかっただろうしさ。
えーと、氷雪の操作で霧の偽装をする可能性については……後で実際に試してみてからでいいか。上手く出来なければ不必要に警戒度を増すだけだし、その辺は確認してからで!
さてと霧の濃さに変動がある可能性自体は分かったし、もうちょっとだけ情報を確認したら動き始めますか!
森守り : 少し出遅れたと思ったが、まだ本格的に衝突が始まってる段階ではないのか。
招き猫 : まだ散発的に傭兵との戦闘の報告があるくらい! ただ、急に報告が途絶えた人もいるから、その辺は分からないかも?
森守り : なるほど、そういう状況か。報告待ちになる訳だな。
富岳 : ……少し気になったんだが、妙に未成体や成長体での参加の人が多いな? 何かあったのか?
シン : あー、それならなんか新規の人が筆頭になって、動員をかけたみたいだぜ。それで今回は参戦を見送ってた人が、こぞって流れ込んできてるっぽいぞ。
ベスタ : 群集内交流板で呼びかけていて、基本的には妨害に徹して動くという話だ。群集としての共闘の意向に沿って動くようではあるし、その辺は俺の方で抑えはせんぞ。
レナ : むしろ、他の群集がどう反応してくるかが気になるねー! 決して無視は出来ないし、結構厄介なことになるんじゃない?
富岳 : 確かに成熟体に進化してない人の多数参加は想定外か。
杞憂 : 昨日の1戦で競争クエスト自体には参加出来てた人がいたのも大きそうだよね。
招き猫 : それは確実にあると思う!
今の戦況を聞こうと思ったら、先に森守りさんが聞いてたよ。まぁおかげで現状は把握出来たし、アイルさんがやった事もいい感じに影響が出てるっぽいね。
あのアイルさんの作戦は、俺としても盲点だと思ったからなー。うん、赤の群集や青の群集が本当にどういう反応をしてくるかが気になるね。とはいえ、まだ成熟体同士でも散発的な戦闘の状態みたいだし、本格的にその辺の効果が出てくるのはもっと後か。
アルマース : 俺からも少し聞きたいんだが、『灰の刻印』での視界の改善というのはどの程度なんだ? 完全に霧が無くなって見えるのか?
◯羅刹 : いや、今の時点では薄っすらとだが霧が見えている状態だ。完全に消えている訳ではないぞ。
ケイ : あー、そういう感じか。そりゃいいや。
レナ : およ? 何かケイさん、考えてる?
ケイ : ちょっと考えてる事はあるけど、そこは少し試してから報告するよ。って事で、その為にも少し離脱で!
さーて、それじゃ実際に霧の偽装を試してみますか! 使われる事を警戒したけど、別に使えるのなら自分達でも使ってしまえばいいだけの話。
まぁもし上手く偽装に使えたとしても、この手法って自分達の視界も塞ぎかねないもんなー。運用方法も含めて考えないと駄目な気がするけど……まぁまずは試すのが先だ!
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