第1249話 濃霧への対策


 霧の森の中へと入ってみて分かった事。ここの霧は思った以上に濃いし、視界の制限がかなり酷い! でも、それをなんとかする手段自体は思いついた。


「この霧は、思った以上に酷いな。無所属勢はこの中で活動出来るのか……?」

「……多分……大丈夫? ……ケイさんか……アルマースさんなら……出来るかも?」

「ん? 俺かケイなら……?」

「あー、風音さんもそれを考えてたか。こういう事だよな?」


 風音さんも出来るには出来るんだろうけど、それは今ログインはしてない緑色のトカゲでの話だろうね。簡略指示が使えればそれで呼び出せるんだろうけど、風音さんは共生指示でしか呼び出せないもんな。

 という事で、俺が試してみようじゃないか! アルのクジラと風音さんを包み込める範囲まで広げればなんとかいけるはず!


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 123/123 → 121/121(上限値使用:2)


 霧まで一緒に内部に取り込んでしまったら意味がないから、最初に小さな水球を生成してから、風船を膨らませるような要領で水の膜を展開!

 ……あれ? なんか急激に操作が鈍ったけど、なんでだ? 何か不具合でも発生してる? うーん、まぁこっちなら操作時間に制限はないから、ちょっと強引に!


「おぉ!? 水の膜が――っ!?」


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 121/121 → 121/123


 ちょ!? 俺とハーレさんを覆ったくらいの段階で窒息になって強制解除になったんだけど!? 妙な制限のかかり方をしてたのは、この現象に関係してる?


「ケイさん、今のはビックリしたのさー! なんでいきなり窒息になったの!?」

「……さぁ? 妙に制御が厳しくなってたけど、こんな事になるとは……」

「ケイ、具体的に何をどうやった? 水の膜で覆って霧を防ごうとしたんだろうが……それでそんな事になるか?」

「えーと、水球を風船を膨らませるような感じで中から広げるように追加生成して……って、あれ? 風船……?」


 言ってて気付いたけど、風船は空気を入れて膨らませる物だよな。でも、さっき俺がやったのは……空気が入る入口なんてどこにもないような? むしろ、何もない場所に強引に空間を作り出そうとした訳で……それで窒息したって事は真空状態!?


「……それって……広げるのは……無理?」

「中に何もない場所を作ろうとしたら、そりゃ制御も劇的に難しくなって当然だ……。完全に真空状態を作ってんじゃねぇか」

「あー、やっぱりそうなる?」


 なるほど、さっきのは不具合ではなく、無茶な操作をしたから一気に操作が鈍ったんだな。そして、そのまま強引にでも展開出来たのは……『移動操作制御Ⅰ』だったからこそか。


「窒息した理由ってそれなんだ!?」

「そんな事が出来たのかな!?」

「まさかの手段だね」

「……ですなー」


 うーむ、地味に凶悪な攻撃手段を見つけてしまった気もするけど、もし使うとしたら……現状では無理な気がする。少なくとも『移動操作制御Ⅰ』だからこそ出来たけど、水の操作がLv7で足りるとは……って、あれ?

 そういえば『移動操作制御Ⅰ』に登録してる水の操作ってLv6のままのような? あー、今は強制解除になったからすぐには使用不可だけど、水の操作Lv7に登録し直しておこうっと。


「悪い、ちょっとだけ時間をくれー。忘れないうちにやっておきたい事がある!」

「まぁここは安全圏のすぐ前だし、そりゃ構わんが……この視界の悪さだし急げよ?」

「ほいよっと!」


 状況が状況だから、変に今の状況で長居しない方がいいのは間違いない。とはいえ、操作性に影響してくる部分だからこの辺の更新は大事! ……大事だと思うなら、もっと早くに気付けって話だけど!


『移動操作制御Ⅰ』

登録内容:『水魔法Lv1』・『水の操作Lv7』

使用上限値:2


 忘れない内にサクッと完了! こっちで水球4つを同時に使う事って全然なかったから、登録内容を更新するのをすっかり忘れてたよ。あ、今気付いたけど、飛行鎧も岩の操作のLvに合ってない!? こっちも更新しとこ!


<移動に使用するスキルの登録を終了します>

登録内容:『土魔法Lv1』・『増殖Lv5』・『並列制御:光の操作Lv3・岩の操作Lv4』

使用上限値:6


 ふぅ、増殖のLvも上がってたのにそのままだったから、その辺も含めて更新完了! ……気付いてなかったくらいだから問題はなかったのかもしれないけど、なんでこの辺に気付かなかったんだろ?

 普段から……いや、この辺は操作時間の制限がないし、当てたら駄目だから根本的な運用方法が違うから気付かなかったのかも! この登録の更新で、今までより初速と精度が上げられる可能性もあるね。


「よし、お待たせ!」

「おう。……ところで、今のは何をやってたんだ?」

「あー、更新し忘れてた水のカーペットと飛行鎧のスキルLvの更新。多分、これで今までより精度は上がるはず?」

「あぁ、なるほどな。……確かにそこは忘れがちな部分か」


 あれ? 素直に答えはしたけど、アルに少しからかわれるくらいは覚悟してたんだけどな。まぁ別にそれならそれで、あえて口に出す必要もないか。


「さて、ケイの用事も終わったみたいだし……風音さん、ケイのさっきのは想定外として、元々想定していた手段自体は極端に違いはないよな?」

「……うん。……霧を……爆発魔法で……吹き飛ばして……その後に……水で……覆う」

「まぁそんなとこだよな。……さっきのは途中の手順を省略した結果か」

「あー、そうなる?」


 ハーレさんがウィンドボムで霧を吹き飛ばした後の戻り方が早かったから、つい省略しちゃった結果だなー。うん、真空になるとは思ってなかったしね!

 あれが敵相手に使えたら凶悪な攻撃手段にはなるんだろうけど……水の操作Lv7で試してみるか? ……ちょっと冗談抜きでやってみるのもありだな。長時間は無理でも、一瞬でも窒息に出来れば相手の隙は作りやすくなるはず。


「ケイ、今のうちに通常発動で可能かどうか試しておくのはどうだ? 結構厳しそうな気がするが、隙を作れるかもしれんぞ」

「……地味に……脅威!」

「それは俺も思ってたとこだな。おし、そういう事ならちょっと実験で!」


 まだ大々的な衝突になってないからこそ、今の内に新たな手札を増やしておくのは大事になってくる! 相手だって色々と知らない手段を使ってくるんだから、ここは尚更だ!


「てか、スキル的にはアルも出来るんじゃね?」

「……制御の難易度が高そうだし、俺の水の操作はLv6だから使えるかどうかは分からんが……まぁやるだけやってみるか。『アクアクリエイト』『水の操作』!」


 ……いかん、霧が濃過ぎてアルがどこに水を生成したのかが全然見えん! というか、これってアルも俺がやってた事は見えて……ん? いや、木の方に視点を変えれば見えなくもないのか。

 という事は、今は意外と近くに生成してるのかも? あ、やっぱりそうだ。クジラの頭の方かと思ってたけど、木の少し前の辺りに水球が生成されてた。いやー、見る位置を間違えてたね! あ、水球が消えた。


「ケイ、移動操作制御を使ったとはいえ……よくこれを広げられたな?」

「え、そんなに難しい感じ?」

「あぁ、まぁな。とりあえずやってみろ」

「ほいよっと!」


 操作時間が関係しない分だけ強引にやったのは間違いないし、アルが言うなら相当な難易度っぽいなー。Lv7の水の操作で可能ならいいんだけど、そうでないなら……無理にこだわらない方が良さそうな気がしてきた。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 122/123 : 魔力値 303/306

<行動値を3消費して『水の操作Lv7』を発動します>  行動値 119/123


 通常スキルに分類される操作系スキルの行動値消費はすごい少ないから、これで大きな隙が作れるのならありがたいんだけど……とりあえず生成した小さな水球を操作して、風船を膨らませる要領で……。


「ちょ!? 全然動かないのに、凄まじい勢いで操作時間が減ってる!?」


 駄目だ、これは圧倒的に操作精度が足りてない! てか、よく上手く広げられたな、さっきの俺!? でも、一度出来たなら不可能じゃないじゃないはずだ!


「おぉ! 少しだけ広がって……あ、消えました!」

「……なんか無駄に疲れた。これ、今の段階じゃ無理!」


 ほんの少しだけ水の中に真空の空間が出来てたっぽいけど、そこで操作時間切れ。もっとスキルLvや器用のステータスが必須だよ、これ!


「ケイ、確認しとくぞ。感覚的にずっと無理っぽいか?」

「ん? いや、少しは出来たんだから、全く無理って事はないはず。水の操作のLvがもっと上がって、ステータスも上がって精度自体が上がれば多分可能……?」

「……つまり、ケイ水準の操作が可能な人なら実現し得る可能性はある訳だな?」

「あー、まぁスキル強化の種を使えば現状でも出来る可能性は……なるほど、使われる可能性を考慮か……。確かにそれはしといた方がいいかも」


 今回のは偶然の産物ではあるけど、検証をメインとして動いている『インクアイリー』がいるんだからな。……これ、多分だけど十六夜さんクラスの人なら、条件さえ揃えば出来そうな気がする。敵の中で知ってる相手として考えるなら、シュウさん辺りが要注意か。


「……魔力視で……要警戒?」

「顔の近くに、小さな反応があったら危険そうかな?」

「後ろから狙われたら危険なのさー!? でも、普通に水に包まれるのと大差ない気がするのです!」

「「あっ、それもそうか」」

「……それは……確かに?」


 思いっきりアルと声が被ったけど、よく考えたら水で覆う範囲が似たようなもんだし、結果としての窒息は同じじゃん!? うわー、なんか凄い手段を見つけた気がしたけど、盛大に無駄な事をしてた感じが凄まじい……。


「……よし、アル。今のはもう無かった事として考えよう。正直、ハーレさんの意見が大正解だ……」

「……何かに使えそうな気がしたんだが、その方が良さそうだな」


 完全に失敗とまでは言えないけど、今回のは成功とも言い難いから変にこだわるのは無しで! もっと余裕があって、今のが普通に実行が出来る様になって、試行錯誤を繰り返せる時まで封印! 少なくとも今、これ以上やるべき事ではないね。


 という事で、本来の話に戻していこう。元々の内容としては、これ!


「とりあえず無所属が視界を確保する手段としては、霧を吹き飛ばしてから何かの手段で遮断ってとこだな!」

「……多分……そのはず?」

「視界を確保する必要があるから、手段はそれなりに限られるかな? 水か、海水か、風か、氷くらい?」

「ま、属性的にはそんなものだろうな。移動操作制御だと強制解除になると困るから、通常発動で視界確保の人員が1人はいるかもな」

「狙うとしたら、まずその人からなのさー!」

「だなー」


 群集側には群集拠点種からの刻印があるから視界の悪さの影響は少なくなるけど、これだけ濃い霧の中で動くなら相応の対策は間違いなく必要になる。

 どれだけの濃さの霧なのかを自分で見てないと微妙に見落としかねない差異になりそうだから、『灰の刻印』無しで確認しに来て正解か。本当ならそれを全員にやってもらってた方がよかったんだろうけど、まぁ今回は各自の判断で動く事になってるからなー。


「ケイさん、そろそろ戻って『灰の刻印』を貰ってきた方がいいかも? あちこちで散発的に戦闘が始まってるみたい」

「あー、思ったより早いな? それって、開始と同時に一気に進んだ人達?」

「うん、そうみたい。でも戦ってる相手は赤の群集や青の群集の傭兵が多いみたいだから、位置的にはそこまで遠くではない感じだね」

「あー、傭兵が相手なのか」


 ふむふむ、そうなると初めから霧の森の中で待機していた傭兵との戦闘が始まってるような流れになるんだろうな。まぁ群集の初期エリアに行っているのが主力ではない2ndや 3rd……場合によっては1stもあり得るか。

 その辺のキャラで情報収集をしつつ、メインキャラは待機させていたとかだろうな。問題は共闘がどうなっていくかだけど……それはこれから状況を確認していくしかない部分だね。


 周囲の様子は……音でしか分からないけど、色んな人の声が重なり過ぎててまともに聞き取れない状態。霧の濃さと、それに対してどういう動きをしてくるかの想定はそれなりに出来たし、今の目的はとりあえずは達成だな。

 これ以上の動きをするにはちゃんと『灰の刻印』を刻んでもらって視界を確保してからじゃないと動きにくいし、あえて群集の利点を使わない理由もないからなー。


「それじゃ予定通り『灰の刻印』無しでの偵察はここまでで、一時撤退!」

「「「「おー!」」」」

「……うん!」


 それにしても、改めてこの霧を見ると本当に濃いよな。無所属にとっては一番不利になりそうな条件な気もするけど、その辺が地味に気になる。何か読み違えてる事があるような、そんな予感……。

 うーん、でも単純に考えれば群集拠点種から対抗策として刻印をもらえる事が判明してなかったからの可能性は十分あるんだよな。これは過剰に警戒し過ぎなだけなのかも? 気にし過ぎるなとも忠告されてたし、色々と気をつけておこうっと。

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