第1247話 霧の森のマップ


 2回目の競争クエストでの最終戦、その舞台となる霧の森の安全圏までやってきた。既に総力戦は開始になったけど、俺らが突入するのは少しタイミングをズラして、今は出来ていなかった霧の森の情報を確認中。

 ヨッシさんが競争クエスト情報板をチェックしてくれているから、その間にこれからマップ情報の確認だ! という事で、マップを最大表示!


「灰の群集の安全圏は……北側か! あー、マップ自体は埋まってるのは半分にも満たないんだな……」

「あー、赤の群集と青の群集の安全圏の位置情報は無しか」

「流石にこの広さじゃ仕方ないんじゃないかな?」

「転移してこれるようになったのが一番最後だし、これでも結構埋まってる方だと思うのです!」

「……それには……同意だよ」

「まぁそこは確かにな……」


 十分な時間があったとは決して言えない状況だし、総力戦をすると決めた以上は大々的に大人数が調査に入れていた訳でもないもんな。そういう意味で考えれば、半分にも満たなくても4割くらいは埋まっている現状は良いと考えるべきかもね。

 今更ではあるけども、この辺の事前調査がしにくくなるのが対戦時間を明確に決めた時の大きなデメリットか。まぁそれは相手も同じだろうけどさ。


「ヨッシさん、他の群集の位置の推測情報はそっちに出てたりしないか?」

「今はどこでどういう敵が出てきてるって話が散発的に出てきてるだけだけど、その辺は聞いてみようか?」

「聞けそうなタイミングなら、頼む!」

「今は質問しても大丈夫そうだし、すぐに聞いてみるね」


 おし、他の群集の安全圏の位置については重要な情報にはなるし、もし知ってる人がいれば役立つはず! まだ不明な情報だとしても他の群集との遭遇情報を集めればどこの方向に多いかが分かってくるし、そこから安全圏の方向は割り出せる。


「さてと、ヨッシさんが確認してくれてる間に気になる部分の確認といきますか! なんかあったら言ってくれ」

「はい! マップで見る限り、広い森って感じ以外の印象がありません!」

「確かにそれは同意だな。所々に小規模な湖っぽいのがあるが、そういうのも含めてマップ上ではただの森か」

「……それが逆に違和感があるかな? これ、本当にただの湖?」

「……サヤさん……どういう意味?」

「霧で視界が悪い場所だけど、それだけなのかな? 霧が常にあるなら……大気に水蒸気が多い訳だし、地面がしっかりしてる所ばかりじゃない気がするよ? 特に湖との境目付近なら……」

「あー、マップ上で湖に見えてる部分の周囲は沼地になってる可能性か!」

「それは普通にあり得そうなのです! 地形に罠があっても不思議じゃないのさー!」

「……視界の悪さだけでなく、足場の悪さにも要注意か。俺らは飛んで動くとしても、警戒すべきとこではあるな」


 霧の森という特異な条件を考えれば、視界の悪さを活かしたエリア設計になってる可能性は十分ある。峡谷エリアでの音が響きまくる特異性を考えたら……って、そう考えるとジャングルは控えめだったんだな? まぁジャングルはジャングルで、木々や草花の種類がまるで違ってたけどさ。


「……敵が……隠れている……可能性もある?」

「それもあるだろうなー。こりゃ潜んで動くにしても、下手に歩かない方がいい?」

「俺やサヤ、それに風音さんにとっては、潜んで動くには相当動きにくい状態ではあるな」

「確かに地面に降りてない状態で潜むのは……中々厳しいかな」

「……足跡に……要注意?」

「なんで足跡……って、他よりも足跡が残りやすい可能性もあったかー」


 沼地がある可能性を考慮するとしても、全体的に地面が緩い事も考えられる。実際に現地を見ておく必要はやっぱりありそうだ。

 そうなると今のうちにやっておくべき事は、何をチェックするべきかの項目を挙げておく事だなー。


「とりあえず霧で視界が悪い以外にも、地面の状態が良くない可能性は高いからこの辺は実際に行ってみて確認するとして……他に気になる点がある人?」

「はい! 視界の悪さや地面の状況の悪さを逆に利用してくる可能性は考えておいた方がいいと思います!」

「……具体的に……何が……出来る?」

「えっと、えっと!? 視界が悪くても問題ないヘビで強襲!」

「……うっわ、あり得そうな手段だな、それ」

「露骨に嫌そうだな、ケイ。まぁ苦手ならそうも思うか」

「そりゃなー!」


 フラムのせいで一度は苦手生物フィルタを強化しないと見れなくなってたくらいだし、そもそもヘビ自体が苦手な事も変わっちゃいない。まぁハーレさんとしてはそういう意図で言った訳じゃないだろうし、今回のは本当に地形との相性を考えた場合の手段か。


「視界に頼らない『熱感知』と沼地や水上でも沈みにくい、ヘビの特徴を利用した戦法になるのかな?」

「そこに『ソナー』辺りを使える種族を放り込めば、更に厄介さは増すんじゃねぇか?」

「あー、音波で周囲を把握するスキルもあったっけ。あれって具体的にどういう性能だっけ?」

「確か『獲物察知』と同じような性能だったはずだぞ。ただし、スキルLvが高ければ擬態や隠密でも見破れるやつだな」

「あ、そういう性能!?」


 てっきり『ソナー』は熱感知と同じで視界を別の手段で確保するものかと思ってたけど、獲物察知の上位互換な性能かい! いや、これはこれで厄介なスキルか。擬態や隠密すら無視する事が出来るのは相当便利なのは間違いないし……って、ちょっと待った。『ソナー』って超音波だよな? それを持ってそうな種族として思い当たるのはコウモリなんだけど、それだと……。


「……もしかして、風音さんの龍って『ソナー』を持ってたりしない? 龍に進化してるんだし、コウモリから合成進化で引き継いでたり?」

「……持ってるよ? ……少し癖があるけど……必要なら……使う?」


 まさかの風音さんが持ってたよ!? 少し癖があるって部分が気にはなるけど……その辺は聞いておくべきか。


「その癖ってどんなもん?」

「……擬態や隠密の……効果を破るから……気付いた時には……相手にも……その事は気付かれる。……それに……効果時間は……かなり短め」

「あー、そういう仕様か」


 見破った状況と同じになるから、『ソナー』で存在に気付いてもこっちからの奇襲は仕掛けられないんだな。効果時間が短いのは、獲物察知との性能の差別化か? 完全な上位互換って訳でもないっぽいな。


「よし、それじゃ『ソナー』に関しては不審そうな場所があった場合に探る為に使ってもらおう。そこで反応があった敵には、状況に応じてサヤとハーレさんで対応って事で!」

「了解なのさー! 遠くなら私、近くならサヤだねー!」

「流石に物理的に見えてない敵までは見つけられないけど、位置を探り当てた後なら任せてかな!」

「……頑張る!」


 出来ればそういう隠れやすそうな水場や沼地は避けたいとこだけど、常の避けられる状態とは限らないもんな。実際の場所を見てみる必要はあるにしても、今の段階で手段を考えられるのは決して悪くはない。


「ケイさん、報告! まだ確定にするには情報が足りてないけど、一応それなりに傾向自体は見えてきたから伝えとくね」

「おっ、やっぱり傾向自体はあったか!」

「おぉ! それは重要そうなのです!」

「今の段階での推測は、東側が赤の群集の安全圏で、西側が青の群集の安全圏って感じ。だから、エリアボスがいるのは南側の可能性が高いみたい」


 そうなると今回は北側に安全圏のある灰の群集からすると、エリアボスへの距離は1番遠いという事になるのか。正直あんまり嬉しい配置ではないけど、まぁここは仕方ない。


「今のはあくまで既に発生してる他の群集との衝突の回数から推測してるものだから、その辺は要注意ね。安全圏が実際にあるかどうかはいくつかのPTが確認に向かってるから、その結果待ち」

「その辺は了解っと。他に何か新しい情報は出たりしてる?」

「いくつかあるにはあったよ。さっきみんなが話してた内容とも関係してくるんだけど、マップ上に出ている湖の周囲は沼地になってるから警戒しろってさ。南寄りの中央付近で、既にその手の罠を仕掛けてきてるみたい」

「……マジかー」


 中央の南寄りにその手の湖は……あぁ、いくつかあるな。南寄りとなると、仕掛けたのは青の群集か? いや、開始からそこまで時間も経ってないし、そうと決めつけるのは早計だな。今回は『インクアイリー』や、それとは関係ない無所属の乱入勢もいるんだし、その辺が仕掛けてきた可能性もある。


「それって具体的にはどういう風に罠が仕掛けられてたのかな?」

「報告例としては、沼地になってる事の情報を知らなかった人が、沼に足を取られた所を湖の中から魔法の連発を受けて仕留められてるみたいだね。あと、沼地に引き摺りこもうと根か触手か蔓か……何かは分からないけど、とにかく細い何かが掴んできたって報告は上がってるよ」

「……身動きを取れない状況にしようとしてるみたいかな」

「どうもそうっぽいけど、それだけじゃどこの仕業かは分かりそうにないな。まずはその正体を探る……いや、あえて放置でもいいのか?」

「ケイ、そこは下手に放置も出来んぞ。もし、プレイヤーでなかった場合はどうする?」

「あー、そういう敵が元々いる可能性もあるのか……。それはそれで厄介だな」


 プレイヤーの仕業なのか、それとも用意されている敵の仕業なのか、その辺はハッキリさせておかないとマズい部分だよな。今回は明確に黒の統率種が戦闘に加わってくるんだし、敵の仕業だとすれば……その敵が黒の統率種に統率される可能性もある。

 プレイヤーが仕掛けた罠ならスルーしてしまえばいいけど、敵の場合は手早く仕留めておいた方がいいか。てか、その辺の情報が入ってきてるなら、倒しに動いている人はもういそうな気がする。


「どうも今のマップ情報を提供してくれたのは、今はログインしてない深夜帯をメインで動いてる人達みたい。マップ情報こそあるけど、その注意点が欠落してるんだってさ」

「え、マジで!? あー、そういう事もあるのか……」


 なるほど、4割くらいはマップが埋まっているのに、今注意するべき場所として情報が上がってきてるのはその辺が理由か! 流石に深夜帯に動く人達が提供してくれていたマップ情報なら、事前に通達しておける状態ではなかったんだな。

 なんというか、深夜帯にログインしてる人達がこの場で参戦出来ないのが申し訳ない気がする。あー、だから昨日の青の群集との総力戦は可能な限り遅めにスタートにしたのか。バランスの取れる時間としての限界が昨日の時間帯なんだろうね。


「流石に深夜帯の人達に、エリアの注意点までまとめに上げといてくれというのは……我儘が過ぎるな」

「ううん、アルさん、そうでもないみたいだよ? 今、情報を出してくれてる人は、普段は深夜帯にやってるんだって。内部に敵がいる可能性があるから、始まるまで下手に伝えないようにって開始になるまで待機しててくれたみたい」

「……そこまでしてくれてたのか。今度、PTを組む事があれば礼を言っとかねぇとな」


 あ、そうか。俺らはほぼ会う事はないけど、俺らよりも後でもプレイを続ける事が結構あるアルなら、その手の人達と面識があってもおかしくはないよな。

 あー、俺らも全く無縁って訳でもないか。ツキノワさん達の共同体『三日月』は、平日なら基本的には深夜帯がメインの活動時間だったりするしさ。アリスさんとは他の時間帯でも会う事はあるし、休日なら他の人とも昼でも会う事はあるけども。


「ヨッシさん、さっき俺らが挙げてた内容は聞いてたんだよな? それとは別に警戒しておくべき事って何か出てるか?」

「えっと、敵の種類で要注意なのが1件あったね。ゾンビなのかスケルトンなのか分からないんだけど、腐ってる植物の敵が出てくるんだって。……腐ってるなら、ゾンビなのかも?」

「あー、植物系でもアンデッドっぽい敵が出てくるのか……」


 なんというか、霧の森で腐った植物という組み合わせは妙にしっくりくるな!? ヨッシさんも言ってるけど、分類的にはスケルトンじゃなくてゾンビになりそうな敵みたいだし、有効なのは火属性か?


「風音さん、そういう敵が出てきたら焼き尽くすのです!」

「……任せて!」


 火属性魔法をLv10で持っている風音さんは、本当に頼りになるね! ゾンビやスケルトンの敵はどんな手段でも倒せる訳じゃないし――


「ケイ、必要だと判断したら、私の持ってる『進化の軌跡・火の結晶』を渡すから言ってかな!」

「あー、夕方に桜花さんから報酬で貰ってたやつ……って、元々そういうつもりで用意してた?」

「時間があれば火属性の応用複合スキルを取りたかったんだけど、それはまた今度の機会かな! 出し惜しみはしないから、遠慮はしないでね?」

「そういう事なら、必要だと判断すれば使わせてもらいますか!」

「うん、それでいいかな!」


 状況次第では、風音さんが火魔法を使えない事もあるかもしれない。そうなった場合でも、火属性を扱える状況が作れるのは助かる! もし使うとしたら……あれ? 一時付与の火魔法だとLvが低過ぎるし、そのくらいのLvでなら自分で持ってるし、意外と使わないかも?

 どちらかというと、サヤかハーレさんに使ってもらった方がいいんじゃね? うーん、状況次第だから今はなんとも言えん!


「とりあえず私が確認した情報はこんなところだよ。まだ『インクアイリー』や共闘に関する情報は出てないね」

「その辺はまだか。情報確認をありがとな、ヨッシさん!」

「いえいえ、どういたしまして。しばらくは私が情報収集を引き続きやっていくね」

「ヨッシさん、よろしく!」


 流石にまだ共闘が必要な状況は出てきていないみたいだし、赤の群集の傭兵や青の群集の傭兵がどう動くかは未知数なままか。霧の森を実際に確認し終えるまでは俺が仕切った方がいいだろうし、情報収集は引き続きヨッシさんに任せよう。


「さーて、他に気になる部分がある人はいるか?」


 みんなに聞いてみるけども、特にこれといって誰も反応は無しか。それなら今の時点で出来る事はここで終わりだな。


「おし、それじゃ霧の濃さを確認しに行きますか!」

「「「「おー!」」」」

「……うん!」


 とりあえずここですべき事は終えたし、次の段階へ進むまで! まだ対戦は始まったばかりだけど、全力でやれる事をやっていこう!

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