第1246話 霧の森の安全圏へ
霧の森の様子を確認するのは決定した。その後は思い付く範囲で案を出していったけども……うん、これは仕方ない。基本的な役割分担は決まったけど、それ以上は決めきれなかった。……ある意味では、ベスタと同じ結論に辿り着く事になったね。
「結局、臨機応変に動くしかないっぽいか……」
「ま、そういう事になるが……状況が読めない以上はどうしようもないな」
「……事前の対策……無理みたい」
誰がどういう作戦を出しても、結局は共闘になれば成立しなくなるって結論になったからなー。逆に共闘の時にどう動くかは、その場にいる共闘する人次第だから作戦そのものが用意出来そうにない。
「とりあえず基本的な動きと、タイミングをズラして現地の確認をしてから動くのくらいは決定かな?」
「後は、何かあった時には風音さんが吹っ飛ばすくらいだね」
「それだけでも決まっていれば十分な気もするのです!」
「まぁ臨機応変って言っても、全く何もないよりはいいしな」
特に吹っ飛んでいくのに関しては、事前に心構えを持っておいた方がスムーズに進むしね。基本的には強襲に使うけど、状況次第では逃亡にも使う事に決定したし。
敵に利用されている可能性を感じたり、足止めを受けていると判断すれば即座に強引にでも撤退する。この辺は赤の群集に負けた時の反省点。……逃げ切れるかは、相手次第だけど。
「おーい! この場に残ってる人は聞いてくれ!」
「ん?」
なんだか桜花さんが呼びかけてきたけど……あー、結構人は減ってはいるけど、まだここに残ってる人達もそれなりにいるんだな。もう開始目前の時間にはなってるけど、俺達と同じように開始早々には動かないって方針にした人達か?
「……桜花……どうしたの?」
「伝手の方から『インクアイリー』の動きの知らせがあったから、その伝達だ! ケイさんの読み通り、直前に仕掛けてきたぞ!」
「やっぱり動いてきたか!?」
事前に羅刹と北斗さんに情報をばら撒いてもらった事で動きに変化が出るかとも思ってたけど、そこは予定を変えず実行に移してきたか。まぁ赤の群集の傭兵が上手く寝返らなくても、既に色々と影響は出てるのは間違いないし――
「ただ、動いたには動いたが……内容が全然違う。遠回しに誘導するのではなく、直球で仕掛けてきているな」
「はい!? え、どういう風に!?」
「赤の群集と青の群集で、中継を使った呼びかけがあったらしい。かなり動きを変えてきてるぞ」
「赤の群集だけじゃなくて、青の群集にまで増えてるのさー!?」
「抑えた事で、動きが変わったのかな……?」
「その可能性は高そうだよね」
うげっ!? タイミングが同じだけで、内容自体はやっぱり変えてきてるのか!? ……くっ、対象範囲を青の群集まで広げたみたいだけど、どういう動きに変えてきた?
「確認が取れた赤の群集への呼びかけの内容をそのまま言うぞ。『赤の群集の傭兵達に伝えたい事がある。我らは君達を利用する気はない。だが、これだけを伝えよう。群集の一部の者達による、我らに対しての共闘は不当な物だとは思わないか? 我らは、君達がその思惑に乗せられない事を望む。だた、それだけだ』……これが呼びかけの内容だ」
「これはまた、堂々過ぎるほどに群集の共闘には従うなと言ってきたな」
「この内容、思いっきり直球過ぎない!?」
利用しようとしている話が広まったのを、逆に利用された気がするんだけど!? うっわ、そういう内容で来るのかよ……。共闘自体を不当と言い切って、利用しようとしてるのを群集の方にすり替えてきてるじゃん!?
「……青の群集にも、同じような内容が伝わったのかな?」
「いや、それもまた別物だったが……こっちもそのまま言うぞ。『青の群集の傭兵達に伝えたい事がある。競争クエストに参加していない者達の意向に従わされて満足か!? 譲られた勝ちに、それを受け入れるしかない者達に従って動くので満足か!? 群集は誰の物でもないし、縛られる必要はない! 戦いを望むのならば、自身の意志に従え! 我らは傭兵の、群集の、堂々たる勝負を望む!』……だそうだ」
「こっちの方がもっと直球じゃん!?」
赤の群集に引っ張られるような流れを想定してたけど、もうそんなものは欠片もないな!? もう直接、青の群集のまとめ役の意向を無視しろって言ってきてるよ!
でも、これは直球だからこそ効果的だよな……。青の群集がサバンナを取った時の経緯をそのまま利用されたらどうしようもないし、あの流れがこういう形で利用されるとは思ってなかったわ!
「……あはは、不満がありそうな部分を思いっきり攻めてるかな」
「赤の群集はともかく、青の群集の傭兵を抑えるのは無理じゃねぇか?」
「あー、そんな気がしてきた……」
青の群集がサバンナを取りに動いた流れ自体が、赤の群集が誘導して作り上げたものだしな。そこはあえて言ってないみたいだけど、青の群集の意向を無視させる為の手段だから、意図的に赤の群集については伏せている?
「ケイ、もうその辺はなるようにしかならねぇから気にし過ぎるなよ」
「……だな」
傭兵がどういう動きをするのしても、そもそも近くに無所属の敵がいてこその共闘だ。無所属……まぁ正確には『インクアイリー』ではあるけど、その区別は出来ないから一括りにするしかないか。まぁその辺がいない戦場では普通に戦う相手なんだから、そこは忘れないように!
「……そういえば開始の合図はどうなった?」
「あっ!? その辺はすっかり忘れていたのさー!?」
別に総力戦の開始時間自体は決まっているんだから、いなくても済む内容ではあるけど……どうなってるんだろ? 昨日は偽物が出てきたくらいだし、今回は無しになってる可能性もありそうな気がする。
「あー、それは流石に無しになったって話は聞いてるぜ。赤のサファリ同盟の非参戦組に頼むって話も出てたが、厄介な状況だからって理由で断られたってよ」
「……断られたのか。確かに今の状況で引き受けるのややこしいもんな……」
「その気持ち、分かる気がするかな」
どう考えたって、赤のサファリ同盟の人達にとって引き受けるメリットが無さ過ぎる。元々面倒なだけだし、下手すれば今の状況だとデメリットの方が大きいかもしれないし……断られるのも当然か。
「桜花さん、それだと開始の合図は無しって事になるの?」
「代わりに引き受けてもらえそうな集団もいないから、そういう事になってるぞ。その辺は、今ちょうど安全圏辺りで話してる最中じゃねぇか?」
「確かにそんなタイミングかも?」
ふむふむ、この辺は参戦するタイミングをズラした事で聞けていない事になるのかも? まぁ今の段階で安全圏にいない人に、開始の合図の話をしてもどうしようもないもんな。……いない所の事を考えても仕方ないか。
さーて、もうそろそろで開始にはなるけど、動き出す前に話しておいた動きの確認をしていこう。
まぁ普段の動きから極端に変わる訳じゃないけど、どちらかというと意識が『インクアイリー』への警戒へと移り過ぎるのを防ぐ為に、自分に言い聞かせるつもりで!
「俺らは21時になってから動き出すとして、情報の確認は俺とヨッシさんが交代しながらでいくぞー」
「うん、そこは予定通りだね。サヤとハーレは索敵をお願い」
「任せてなのさー! サヤ、頑張ろー!」
「絶対に見落とさないかな!」
大雑把な役割分担ではあるけども、今回は今まで以上に臨機応変さが要求されるからこそ、役割は出来るだけシンプルに!
「アルは状況次第で動きを変えて、風音さんは奇襲からの防御担当で!」
「いつもの移動と、動きを止めた時の『同族同調』での周囲の偵察だったな。任せとけ」
「……分かった! ……サヤさん……ハーレさん……危なかったら……すぐに言って」
「うん、頼りにしてるかな!」
「了解なのさー!」
どういう形での奇襲があるか、全く想定が出来ない。だからこそ、俺の指示を介さずに風音さんへの直接、防御を頼む形にする。対応が出来る時には俺やヨッシさんやアルも防御に回るけど、主軸としては風音さんだ。
攻撃に動く時は、その時の状況次第で俺が判断してから動き出す。もし俺にその余裕がない場合は、アルが代わりにという事で! ……まぁ風音さんがいる以外はいつもと大差ないけど、今回はそれでいい。馴染んだ手段こそ、今回は最善手!
そうしている間に21時が過ぎたか。まぁすぐに参戦はしないけど、霧の森の安全圏までは行っておこう。情報を確認する為にも、競争クエストへの参戦自体はしておかないと駄目だしね。
「ひとまずエンから霧の森の安全圏まで移動開始! 安全圏まで移動したら霧の森のマップを貰って、『競争クエスト情報板』で情報を確認しつつ、適度に人が減ったところで霧の森に突入! 少しその状態で様子を確認してから、改めて『灰の刻印』を刻んでもらいに戻る感じで!」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
その後は、もうなるようになれだ! 『インクアイリー』がどれだけの事を仕掛けてこようが、赤の群集や青の群集が油断出来ない相手になってようが、無所属からの乱入があろうが、全部切り抜ければいい! その為にも、冷静にだ!
「勝ってきてくれよ! 風音さん、グリーズ・リベルテ!」
「おうよ!」
「……うん!」
さーて、桜花さんの激励も受けたし、頑張ってきますか! 最後の1戦、勝ちで終わらせてやる!
◇ ◇ ◇
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『未開の霧の森・灰の群集の安全圏』に移動しました>
<規定条件を満たしましたので、競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開の霧の森』を開始します>
風音さん以外はアルに乗って、エンから霧の森にある安全圏までやってきた。まだ『灰の刻印』は刻んでもらってはいないけど、それは後から刻みに戻る予定だから問題なし。
競争クエストの開始演出は……ジャングルと峡谷では内容が同じだったような気がするから、今回もそうな予感はするなー。あ、グレイが出てきた。まぁとりあえず最初の方だけでも見てみよう。……周囲の様子が気にはなるけど、今は演出を優先で!
『この地へ足を運んでくれた同胞達には、まず感謝の意を伝えよう。ここより先は、強大な進化を遂げた黒の暴走種の存在と、それに従う多くの黒の暴走種、瘴気強化種の存在を確認している』
うん、思いっきり既視感がありますとも! やっぱり新エリアでの競争クエストの演出は全部同じかよ! いやまぁ、全部に参戦出来るとは限らないからそれでもいいんだろうけどさ。
もうしっかり聞いても仕方ない気がするから、この先はスキップで飛ばしてしまえ。同じ演出を見るよりも、周囲の確認の方が大事だよ!
<競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開の霧の森』を受注しますか?>
今更ながら、ここの受注だけはもっと先にやっておきべきだったな。今日は時間的にその余裕がなかったのはあるけど、昨日のうちに……いや、それは本当に考えるだけ無駄な事か。
受注自体にそれほど時間はかからないんだし、変に考えるのは無しで! サクッと受注を終わらせよう!
<受注を確認しました。競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開の霧の森』を開始します>
<競争クエストの受注中には該当エリアにいる間、識別カーソルの上部に受注マークが表示されます>
<受注マークのあるプレイヤー同士の戦闘では経験値の増減はありません>
<受注マークがないプレイヤーの立ち入りは禁止となります>
<現在地のエリア内限定で『競争クエスト情報板』が開放されました。ぜひご活用ください>
これで霧の森で競争クエストには参戦完了。『競争クエスト情報板』も使えるようになったから、名前ありでの情報交換も可能になった。忘れないうちに、霧の森のマップ情報も貰っておいて……よし、マップは手に入った!
「ちょっと安全圏の様子とマップを確認していくぞー! 『競争クエスト情報板』の確認は……まぁ開始したばっかだから、少しくらいなら大丈夫――」
「あ、ケイさん、それは待って。一応、そこは私が確認してくるよ」
「それだとヨッシさんがマップの確認が出来なくなるぞ?」
「その辺は最悪、私は把握出来てなくても問題ないから大丈夫だよ。一番把握しておくべきなのは動きを決めるケイさんと、実際に移動するアルさんだよね? それに、話自体はちゃんと聞いておくから大丈夫!」
「……ケイ、即座に大きな動きがあるかは分からんが、ここはヨッシさんの提案には賛成だ。何か情報を見落とす方が厄介な事になる」
「ですよねー!? ……悪いけど、ヨッシさん、任せた!」
「うん、任せて!」
可能ならヨッシさんだけ別行動にはしたくないけど、状況的にはこれが最善か。……ここは役割分担として割り切って、手早く情報の確認をしていこう! まずは周囲の確認から。
現在地は上空。陸地は混雑しているから、転移してきた時点で空を飛べるPTは上空へと飛ばされているっぽい。他にもそういう風に転移してきているPTもいる様子だしね。……地味に安全圏でも薄っすらと霧がかかってはいるのか。
下を見てみれば、柳の木のヤナギさんの姿が見える。……今ってミズキが霧の森の中を動いている真っ最中なんだよな。状況次第ではミズキが異形への進化をする可能性が……木の場合ってどういう風になるんだ? ゾンビなのか、スケルトンなのか……分からん!
「当たり前だけど、まだ移動妨害のボスは誕生してないな」
「そりゃそうだろうよ。あれが誕生するのは、エリアボスが動き出してからだしな」
「……出現するまで……待機?」
「それもありかもしれないのさー!」
「あー、ありといえばありだけど、なんとも微妙なとこだな……」
具体的にどのくらい待つかは状況次第だと考えてるけど……その辺の判断が地味に難しいな。ここに移動妨害のボスが誕生するのは明確に競争クエストが大きく動いた事の証明にはなるけど、流石にそれは待ち過ぎな気はする。
風音さんのスチームエクスプロージョンで一気に距離は詰められるとはいえ、新エリアの方は相当広いしね。詰められる距離にも限度はあるし、この安全圏がそもそも霧の森のどの方向にあるのかも確認が必要だな。
「動き出すタイミングは後で考えるとして、マップの確認をしていくか」
「分かったかな」
「……うん」
「どの方向に何があるかが大事なのさー!」
という事で、周囲の確認の次はマップの確認をしていこう。……どの方向に何があるのか、それが載っていればいいんだけどね。特に赤の群集と青の群集のそれぞれの安全圏の位置。それが分かれば、エリアボスが潜んでいる方向もある程度は絞れるはず!
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