第1245話 どう動くのか


 ベスタとレナさんによる、模擬戦の中継機能を使った通達は終了。他の場所ではどうかは分からないけども、俺らのいる桜花さんの樹洞の中では紅焔さん達『飛翔連隊』を筆頭に、次々とPTや連結PTを組んでいっている。

 それに、大きな共同体の指揮下に入ろうという人達は樹洞から出て向かい始めている様子。北斗さんは、どうやら問題なく『飛翔連隊』の連結PT入れたっぽいね。


「あー、俺はちょっとお邪魔っぽい? ケイさん、状況はなんとなく分かったし、俺はもう行っても――」

「ダイク、行くよー! 大事な時はわたしもベスタさんも確認はするけど、基本的には情報確認をダイクに任せるからねー!」

「レナさん!? ちょ、待っ!? 葉っぱを引っ張っていかないでー!?」


 あー、なんかあっという間にダイクさんが戻ってきたレナさんに回収されていったけど、まぁあれはいつもの光景な気もするし大丈夫か。ダイクさんへの説明って、結局不要だったっぽいしなー。


 それはそうとして……なんだか俺らに注目が集まってるのは気のせい? ……これは、今のレナさんとダイクさんの件で目立ってるだけで……流石に今回のはそうじゃないな。完全に俺らがどうする気なのかを気にしてる? まぁ俺達が総指揮をしたり、盛大に囮になったりしてるんだから気にもなるか。

 ん? 共同体のチャットの項目が光ってる……って、この状況じゃ普通に喋れないからそうなるよなー。さて、これからどうするかの相談していきますか!


 アルマース : 明らかに俺らがどうするかを気にしてる人達がいるが……根本的に俺らの方針はどうする?

 サヤ    : 連結PTを組むか、PTだけでいくかって話かな?

 ハーレ   : PTだけで動くなら、風音さんが希望してるから既に埋まってるのさー!

 ヨッシ   : 北斗さんは、その辺を考慮して『飛翔連隊』に行ったみたいだよね。

 ケイ    : だよなー。


 俺らのPTに北斗さんを加える事は、連結PTを使えば可能ではあった。だけど、風音さんが参戦したがってるのを知ってたのと、俺らが方針をまだ決めてないのを知って……無理に連結PTにしないようにしてくれたっぽい。

 もしあのタイミングで風音さんと北斗さんが一緒に動けるように連結PTを用意すれば、今頃は連結PTの希望が殺到してた可能性はある。……見知った人は多いけど、実際に一緒に動いた事がある人ってそこまでいないんだよな、今の状態。


 ケイ    : ぶっちゃけ今回は不確定要素が強いから、俺としては1PTで済ませたいけど……みんなは?

 アルマース : 俺もケイと同意見だな。この場でなら『飛翔連隊』となら連結PTで組みたいくらいだったが、他の人達とは顔見知りではあっても一緒に動いた事は少ないからな。

 サヤ    : ケイが指示を出す事になるし、ケイの負担になる状況は避けたいかな?

 ハーレ   : 確かにそれはそうなのです! 状況がとんでもなくややこしいから、味方の把握は最小限の方が良さそうなのさー!

 ヨッシ   : その方がいいかもね。ケイさん、風音さんは最近一緒な事が多いから大丈夫?

 ケイ    : 風音さんなら問題ないというか、戦略の幅がかなり広がるから大歓迎だぞ!


 ここ数日、何戦も一緒に動いているからっていうのも理由として大きいしね。既に風音さんは俺らと一緒に動きたいって意思表示もしてくれてるんだし、1PTで収まる範囲だから断る理由も無し!


「……みんな……なんだか……静か?」

「あー、風音さん。ケイさん達は共同体のチャットで相談中だろうから、少し待ってな?」

「……桜花が……そう言うなら……分かった」


 桜花さん、ナイスフォローをありがとう! 共同体のチャットだと、風音さんには見えないしな。というか、風音さんの場合は共同体専用のチャット機能がある事そのものを知らない可能性がありそうな……?


 アルマース : あまり時間もかけていられないし、今回はケイの意向に合わせて1PTで動く事にするか。臨時メンバーは、風音さんでいいな?

 ハーレ   : はーい!

 サヤ    : 問題無しかな!

 ヨッシ   : 了解!

 ケイ    : おし、それじゃそれで決定で! アル、風音さんにPT申請を頼む。

 アルマース : あぁ、そういえば俺がPTリーダー……って、地味にケイとハーレさんをPTに入れ忘れてんじゃねぇか!?

 ハーレ   : はっ!? 確かにそうなのです!?

 ケイ    : あ、そういやそうか!?


 ログインして合流に動こうとした時に、レナさんの話になって慌ててそのままだったよ! てっきりいつもの調子でアルをリーダーにして組んだ状態のつもりになってたけど……あー、なんというか色々と慌て過ぎだな、おい! てか、それならもう堂々とPTを組んじゃえばいいや。

 風音さんが妙な注目を浴びないようにとは考えてたけど、そもそも共同体の中でもPTが未結成だったなら、その流れで約束通りにPTを組むって感じで問題ないだろ。それにここは桜花さんの樹洞だし、風音さんへの変な言いがかりは多分起きないはず。


「あー、ケイ? PTを中途半端に組み忘れてんのはどうする?」

「ん? どうするって、どういう意味?」


 少なくとも俺らの中では組むのは絶対に揺るがない部分なんだけど……あぁ、そう言う事で周囲にアピールをして――


「単純に俺がPTリーダーのままでケイ達を入れるのか、それともケイがPTリーダーになって新しく結成するかの話なんだが……」

「あー、アルがPTリーダーでよろしく!」

「そっちでいくか。了解だ」


 全然考えていたのとは違う方向だったけど、これはこれで普通に大事な話だったー! でも、連結PTにしないんだから、俺がPTリーダーである必要は無し!


「ほれ、ケイ! ハーレさんと風音さんも、ほらよ!」

「サンキュー!」

「はーい!」

「……ありがと」


<ケイ様がPTに加入しました>

<ハーレ様がPTに加入しました>

<風音様がPTに加入しました>


 別に風音さんが俺らのPTに入るのは、堂々としていればいいだけか。作戦で役割を頼まれてる時ならまだしも、今回は各自の判断で動くという方針だしね。

 『グリーズ・リベルテ』の動きの決定権は、『グリーズ・リベルテ』のメンバーだけが持つ! その辺はハッキリと宣言しておきますか!


「あー、なんか妙に注目を集めてるけど、『グリーズ・リベルテ』としては今回は1PTで動く事にしたから、特に連結PTを募集しないぞ! 風音さん、共同体のチャットで相談した結果、そういう事になったけど……いいよな?」

「……うん!」

「おし、それじゃそれで決定! 今日も引き続き、よろしく!」

「……よろしく!」


 さぁ、この決定に文句でもあるという人がいるのであれば、言ってくればいいさ! 悪いけど、今回は少ない人数で動く事を利点として動くつもりだしね。


「なるほど、今回の『グリーズ・リベルテ』はPTで動く戦略か」

「直接の指揮下で動いてみたい気持ちもあったけど、まぁ流石に今回は無理かー!」

「この取り囲んだ連中の中から、13人を選べってのは無茶だわな!」

「そりゃ違いねぇ! 風音さんだけは入るみたいだが、まぁそれだけの事はしてきたか」

「大暴れを期待してるぞ、『グリーズ・リベルテ』! 風音さんもなー!」

「風音さんは灰の群集の新参ではあるけど、もう色々と活躍してるもんね。まぁ納得な人選かも?」

「風音さんは、桜花さんの顔馴染みだぞ!? 下手な事を言えば――」

「下手な事を……なんだって? 俺を見て風音さんの立場を判断するのはやめてもらおうか?」

「お、桜花さん!? あー、いや、今のは、その……」

「冗談だ、冗談。ほれ、当てが外れた連中も参戦するなら準備をしてけよ!」


 おー、桜花さんがすっかりと周囲を取りまとめていったね。なんというか、風音さんもなんだかんだで受け入れられてきてるんだな。……というか、大暴れを期待されてる!?


「さて、風音さんを含めた状態で作戦会議といくか。ケイの大暴れを期待されてるみたいだしな?」

「ちょ、俺1人だけの事にするなよ!? どう考えても、共同体全体へのものだろ!?」

「私としては、アルさんとケイさんの2人の割合が多いと思います!」

「最近は風音さんもかな? 私達は、派手な動きの時は乗ってるだけかな」

「あはは、確かにそれはそうかも?」

「……そうなの?」

「おい、ケイ。なんで俺まで入っている?」

「俺が言うのもなんだけど、アルも十分目立ってるからだけど!?」


 というか、アルのクジラが巨体でどうしても目立つから、それをより目立たせる方向で手段を考えてるからだしね! 目立たないように動けるなら、それはそれで手段を考えるけど!?


「……って、こんなしょうもない言い合いをしてても仕方ないな。あー、冗談抜きで具体的にどう動く? 霧に紛れて……って、それぞれの群集の刻印があるからいまいち効果はないよな?」

「赤の群集や青の群集には効果は薄いかもしれんが、無所属には効果はあるんじゃねぇか? 無所属用には、その手の効果は用意されてないだろ?」

「それは確かにそうなのさー!」


 ふむ、言われてみれば確かにそうなるか。あれは群集拠点種が群集所属のプレイヤーに対して刻んでくれるものだから、群集拠点種に相当する存在がいない無所属には恩恵がない要素になるはず。


「それなら、私達はエンで刻んでもらえる『灰の刻印』を使って視界はちゃんと確保した上でかな?」

「それをしない理由は特にないもんね」

「……うん」

「おし、とりあえずエンから『灰の刻印』を刻んでもらうのは確定って事で!」


 他の群集拠点種で多めのステータス強化の効果をもらっても、それほど強化効果の恩恵はない。あれは成熟体のLv10を上限とした強化効果っぽいし、視界の確保を捨ててまで受ける恩恵じゃないな。


「……後は、具体的にどう動くかだな。空を飛ぶか、飛ばずに移動するか……アル、その辺はどうだ?」

「行動値の上限は減るが、まぁ小型化での移動もやろうと思えば出来るぞ。今回は盛大に囮で動く訳でもないし、隠密で動いてみるか?」

「ケイさん、アルさん! 基本的にはあまり動かず、『同族同調』で探っていくのはどうですか!?」

「あー、ありな手段だ、ハーレさん! アル、最新のマップを貰ってくれば、それを元にして周囲の木に視点を飛ばして偵察は出来るよな?」

「確かに霧があるとはいえ、森の中ならそういう手段は可能だな。……だが、広いぞ?」

「……最初に……吹っ飛んでいく?」

「え、また吹っ飛ぶの?」


 ヨッシさんが驚いてるけども、確かに風音さんの案もありか。何度も使っている手にはなってくるけど、初手で吹っ飛んである程度の距離を稼いでから、その先はアルの『同族同調』での周囲の捜索はありな手段。

 『灰の刻印』を使ったとしても、通常より確実に視界は悪いはずだけど……事前に一度も霧の森を見に行けてないのが痛いな。具体的にどの程度の霧の濃さなのか、それを実体験として確認出来てないのは動きを考える上で欠落してる情報か。


「吹っ飛んでいくかどうかは、今は保留にしておいていい? というか、1つ提案がある」

「保留は別の構わんが、どういう提案だ?」

「開幕早々に一気に動くんじゃなくて、少しタイミングをズラして出発ってのはどう? 距離を一気に詰める手段があるんだし、敵の動向を確認してから動くって感じでさ。ついでに、『灰の刻印』がない状態での霧の濃さを知りたい」

「そうなると一旦『霧の森』に踏み込んでから、『灰の刻印』を刻みに戻って少し待機って事になるのかな?」

「確かに霧の森の状態は気になるのさー!」

「そっか、その辺は実体験で知ってた方が色々とやりやすいかも?」

「……いいと……思う」

「なるほど、別に開幕早々に動かなきゃいけないという決まりもないか」


 うん、中々に上々な反応だね。既に色々な部分で後手に回ってしまっているんだから、あえてここは後の先を取る方向で動くのもありのはず! 色々動き出してから、爆音を轟かせて大暴れってのもありだよな!


「ケイ、その動きをする場合の確認だ。……何か情報が入り次第、その場に向かうというのも想定しているか?」

「そりゃまぁ当然! 今回は囮で動く必要はないんだから、増援として駆けつけるのもありだと思うぞ。まぁその場に応じて、臨機応変にだなー!」


 これまでは増援に来てもらう方が多かったんだし、霧という特殊な環境を活かして増援に向かうのもいいだろう。それに多少は動き方を変えていかないと、ウィルさんやジェイさんに利用されてしまう可能性もあるしね。

 敵は『インクアイリー』だけじゃなく、赤の群集、青の群集、それに『インクアイリー』とは無関係な無所属の乱入と色々いる。俺ら自身も下手に作戦で行動を縛り付け過ぎない方がいいはず。


「臨機応変に動けるようにする為に、まずは素の『霧の森』の状況の確認からか。俺はありだと思うが、みんなはどう思う?」

「私は賛成なのさー! 霧の森事前調査は全然出来てないから、そこはやっておきたいのです!」

「ある程度はマップ情報もあるだろうし、現地の確認は賛成だよ。まぁ本当ならもっと前にやっておくべきだったんだろうけど……」

「前の昼の日は土曜日だから、流石に厳しくないかな?」

「あ、そっか。土曜日って、まだ1戦目のジャングルをやってたくらいだもんね」

「そう考えると、土曜から今日までの動きの密度が凄いのさー!?」

「あはは、確かにそれはそうかな!」


 競争クエスト自体が始まったのは、確か先週の金曜日だっけ? 木曜日にテスト明けでゲームを再開したんだから、怒涛の展開ではあるよなー。うん、土日に人が集まりやすいからって、一気に消化し過ぎな気がする。

 とはいえ、ぶっちゃけ参戦してないエリアの方が多いしなー。同時に動いてたりもするから、そういう風にもなるか。それこそ、運営の方で開始時間を設定してもらわなければどうにもならない部分だよな。


 まぁその辺は気にしてもどうにもならないし、今はやれる事をやっていくまで! 最後の1戦、絶対に勝つ!

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