第1243話 総力戦まであと少し


 風音さんと北斗さんに、ドライアの傭兵の権利を剥奪した事が『インクアイリー』の動き出すきっかけになった可能性についての説明をしていった。

 あくまで推測だけど、こうやって推測を重ねて事実関係を確認して色々と分かってきたもんだよな。……昨日は全然考えてなかった方向へと、事実が判明してきてるしさ。


「……要するに……逆恨み?」

「あの時のあれが、今回の発端だってのか!? ドライアの野郎……!」

「あー、北斗さん、気持ちは分かるけど落ち着いてくれ。あくまで推測であって、確定した内容じゃないから!」


 この反応はある程度は予想してたけど、やっぱり北斗さんがキレてるよ!? 風音さんは、端的に状況を一言で正確に表してるな!? まぁ推測通りなら動機はそうなるけど、ぶっちゃけ今の状況から考えたら意味のない話!


「ここまで事態が進んでたら、もう元の動機とはかけ離れたものになってるんじゃないかな?」

「それは私も思うのさー! その推測が事実だとしても、『インクアイリー』が完全に主導権を握っている気がするのです!」

「……むしろ、ドライアって人はもう切り捨てられた後なのかも?」

「問題集団と『インクアイリー』を繋ぐだけ繋いで、私怨で邪魔になるから蚊帳の外にか。それはあり得る可能性だな」

「あー、確かに可能性としては高そうな気がする」


 悪名を利用して偽装なんて状態を、あの変な上から目線で好き勝手な事を言ってたドライアが許容しているとも思えないよなー。ヨッシさんが言ったように、既に切り捨てられていると考えた方が自然な気がする。

 まぁあくまで推測通りならだけど。全くの無関係な可能性も十分あるからなー。


「はっ! 俺としてはそうなってる事を望むぜ! ざまぁみろ、ドライア!」

「……気持ちは……分かる」


 俺としても風音さんと同様に、北斗さんの気持ちはよく分かる。峡谷エリアでは、本当に好き勝手な事を言いやがったもんな、ドライア! もし『インクアイリー』から早々に切り捨てられていたとしても、自業自得としか思わん!


「……でも……それなら……騒いでそう?」

「あっ!? 確かにそれはそうなのさー!?」

「……言われてみれば、あのドライアが大人しくしてるとも思えねぇな? 大人しく出来ていなかったからこそ、逆恨みでこんな事をしでかしたって推測だろ」

「あー、確かにそうなるか。……無所属には暴れてるっていう情報はないんだよな?」

「今の状況では、いつも通りの連絡が出来る訳じゃないが……それでも、その手の騒動があれば耳に入ってきててもおかしくはねぇぞ」

「だよなー。うーん、ドライアが関わってるのは邪推のし過ぎだったか?」


 その辺を探っていくのも手だろうけど、20時半が目前だから時間的にはもう無理だな。……まぁドライアが関わっていようが、いまいが、大きく情勢に変化が出るとも思えない相手だし、別にいいか。

 何がきっかけで『インクアイリー』が動き出したか、それが気にならない訳じゃないけど、あと30分で全群集……いや、全勢力での総力戦が開幕するんだし、そっちに集中! てか、ベスタさんからレナさんへのフレンドコールが地味に長いな!? まだ話してる最中かい!


「うん、うん、了解。それじゃこれから向かうねー! はーい、それじゃすぐ後に!」


 おっと、そうしてる間にレナさんのフレンドコールが終わったっぽい? ベスタからの用件はなんだったんだろう?


「レナさん、ベスタはなんて――」

「あ、ケイさん、そこはごめん! ベスタさんに呼ばれたから、すぐに行かなくちゃ!」

「あー、もしかしてベスタが模擬戦を使って通達をする時の相手って……」

「わたしみたいだねー。『インクアイリー』のあれこれの補足をしつつ説明がしたいからってさ。霧の森でも、ダイクとわたしとベスタさんで動く事になったから! ごめんね、急ぐからここまでで!」

「ほいよっと!」

「それじゃ、勝ちに向かって頑張っていこー!」


 そう言いながら、盛大の桜花さんの樹洞の中から駆け出していくレナさんであった。なるほど、やっぱりベスタが今日組もうとしていた相手はレナさんか。ようやく今のフレンドコールで、その用件を伝えられたって事になるんだな。


「ベスタさん、今日はレナさんと動くんだー!?」

「ダイクさんが一緒なのは、レナさんに引っ張り込まれたからかな?」

「あはは、それはありそうだね」


 ダイクさんに確認を取ってる様子はなかったような気がするし、レナさんの方が勝手に決めて、ダイクさん本人は知らないという事態もありそうな気も――


「レナさん!? って、もういねぇ!? いきなりベスタさんと一緒に動くからって言い放ってすっ飛んでいくってどういう事だよ……」


 あ、噂をすればなんとやら。桜花さんの樹洞の中に、しょんぼりとしたマンドレイクのダイクさんが入ってきたとこか。うん、思っていた通り、本人の承諾はないままに決まっていた様子だね。


「おーっす、桜花さん。出来るだけ知り合いの不動種のとこに集まれって聞いたんだけど、ここでも問題ねぇ?」

「あぁ、ダイクさんか。その辺は問題ねぇが……今さっきの件なら、奥にいるケイさん達が多少は事情を把握してるはずだぞ」

「あ、マジか! レナさんは急過ぎるし、状況が飲み込めてないから聞いてくるわ!」


 なんか桜花さんがダイクさんを俺らの方へとぶん投げてきた気がする!? てか、そういう案内が出来るって事は桜花さんも内容を聞いてたよなー!? まぁ次々と樹洞に入ってくる人達の対応をしてるから、長々と話してる訳にもいかないか。


「おっす、ケイさん達! おっ、風音さんもこっちにいたのか」

「……こんばんは……ダイク」

「なんというか……お疲れ様だな、ダイクさん」

「そうなんだよ、アルマースさん! レナさんのマイペースっぷりに振り回されて、訳が分からん! ケイさん、事情を知ってるなら教えてくれー!」

「俺としちゃその辺はどうでもいい話だが……ケイさん、少し席を外すぜ。ドライアの件、どうにも腑に落ちんから調べてくる。よく考えたら誰も相手にしてないからこそ、情報が出てきてない気もしてきてな」

「その辺は了解っと。ダイクさんの方は相変わらずっぽいし、やっぱり説明は必要だよなー」


 北斗さんは少し俺らから離れて……とはいっても、どんどん混み合ってきてる樹洞の中だからそこまでは距離は取れないけど……まぁフレンドコールをかけ始めたから、その辺は任せておきますか。俺らじゃ今以上は探れそうにないしね。

 ともかく、今はベスタとレナさんと一緒に動く事になったダイクさんへの説明が重要! てか、地味に戦力としても重要な立ち位置だよな、ダイクさん! 物理型の2人と一緒に動く魔法型の戦力になる訳だしさ。


「あ、そうだ。事情は説明するけど、レナさんについて少し聞きたい事があるんだけど……それは聞いてもいい?」

「ん? まぁ内容次第だけど……いきなりの無茶振りだから、多少なら普段は口にしないようなリアルの内容でも答えるぜ! この前、なんか急に聞かされたスリーサイズでも――」

「……ダイクさん、それはどうなのかな? というか、ケイも何を聞く気かな?」

「別にレナさんの個人情報を聞こうって訳じゃないんだけど!? 何を言おうとしてんの、ダイクさん!?」

「サヤさん、地味に怖えよ!?」


 急激に温度が下がったようなサヤの冷たい声が、地味に怖い! ダイクさんが変な言い方をするから、サヤが怒ってるじゃん!?

 どうしてくれる、ダイクさん! てか、何がどうしたらスリーサイズを聞かされるんだよ!? それ、思いっきりレナさんにからかわれてません!?


「あー、サヤ、ちょっと抑えろ。怒るとしても、ケイがどういう事を聞こうとしてるか把握してからだ。ダイクさんも、無茶振りされたからといって不用意にリアル情報を話すなんて言うんじゃねぇよ」

「ちょ、アル!? それってどういう止め方!?」

「今のは俺が悪かった!」

「……ごめんかな」


 ふぅ、もの凄く無意味に緊迫感が出てたけど、アルのおかげで助かった。……助かってるのか、これ? 俺が変な事を聞いたって判断されたら、また再開じゃね!? いや、別に変な事を聞く気はないけどさ!


「……ヨッシ、今のはどう思いますか?」

「……多分だけど、無自覚な嫉妬?」


 なんか微妙に聞き取りにくい声量で、ハーレさんとヨッシさんは何を言ってるんだ? 今のって……サヤが嫉妬? それも無自覚に? うーん、何の話をしてるんだ?


「ごほん! あー、ケイさん、すまんかった! それで大真面目にレナさんの事で聞きたい内容ってなんだ? 俺に聞くって事は、リアル絡みな気はしてるんだけど……」

「まぁある意味そうではあるかも? えーと、ダイクさんは『インクアイリー』の件のついては?」

「詳細まではまだ聞けてないけど、レナさんが赤の群集の騒動の黒幕を探ってる時に手伝ってくれたって集団が、今回の一件で動いてるんだっけか? あいにく、俺はその手の情報はあまり知らないぞ?」

「あ、そうなのか」


 てっきりダイクさんも色々と知ってそうな気はしたんだけど、意外とそうでもなかったっぽい。……本当に厄介な件に関しては、問答無用でダイクさんを巻き込んだりはしてないのかもね。


「まぁ概要だけでも知ってるならそれでいいや。ぶっちゃけ、俺らはレナさんが『インクアイリー』と繋がってる可能性を考えてしまったりもした――」

「ははっ! 赤の群集や青の群集に所属してたなら違っただろうけど、灰の群集を気に入ってるレナさんがそれをする事は絶対にねぇって!」

「おぉ!? ダイクさんが即答するほどあり得ない事なんだ!?」

「……なんだか、少しレナさんを疑った事に罪悪感が出てきたかな」

「……あはは、私も同じく」


 ここまでキッパリと断言されると、本当に罪悪感が出てくるね。……レナさん本人も灰の群集相手に敵に回る事はないって言ってたけど、ダイクさんから見てもそう断言出来るんだな。なんか少しでも疑って、本当にすみませんでした!


「ケイさんが聞きたい事ってそれか? 本人からじゃなくて、客観的な意見が欲しかったとか?」

「あー、結果的には聞けて良かった内容な気がするけど、聞きたかった内容は今のじゃないな」

「あ、そうなのか。それだと、どういう内容なんだ?」

「……あんまりこの手のは詮索しない方がいいんだろうけど、ログインしてなかった理由が気になってさ? 疑う理由として、ログインしてなかったって部分が大きかったもんで……」

「あぁ、そういう事か! レナさん、最近は18時から20時の間はほぼログインしてねぇよ? まぁたまーにいるにいるけど……この手段は下手に言えないか」

「ん? それってどういう……?」

「ほら、少し前にオフライン版の配信が解禁になったじゃん? それでお気に入りの配信者を見つけたみたいでなー。その人の配信時間が18時から20時なんだよ」

「そういう理由か!?」


 あー、そういえば前にレナさんが18時でログアウトしてる事もあったし、面白い子を見つけたとも言ってたっけ。俺もちょっと覗いてみたことがあるけど、確か『サクラ』だっけか? 確かに色々と無茶苦茶だったから、レナさんが気に入っても不思議じゃないな。超絶プレイとかとは別の意味で、興味深いのは間違いなかったしさ。

 そうなると、ログインしてなかったのは単にリアルタイムでその配信を見てたからか! あー、なんか一気に気が抜けたんだけど……。そうか、ただ配信を見てただけで……って、たまに18時台にもいなかったっけ!?

 あ、もしかしてレナさんは、フルダイブの制限を緩和する何らかの資格持ちか? 通常ではフルダイブ中……特にオンラインゲーム系では他のソフトは呼び出せないようになってるけど、それを可能にするようなのもあったはず? ……まぁそこまで詮索する必要もないというか、さっきダイクさんが言えないって言ってたのはこの部分かもな。


「ケイさんが知りたかったのは、こういう情報だよな?」

「そうなるなー。よく考えたら前に聞いた事がある内容だったし、もっとその辺をしっかり考えておくべきだったよ……」

「なんだ、初めて知った訳でもないのかー」

「……そういえば聞いた覚えは確かにあるかも?」

「はっ!? 確か、『失敗しかしないケイさんみたいな感じ』とか言ってた気がするのです!」

「あ、思い出したかな! それを聞いたのって、ウナギを獲った頃だったはず!」

「……俺はいない時の話か? ウナギを獲った覚えはないが、そういう事があったと聞いた覚えはあるな」

「アルがいなかった時だとは思うぞ。確か夕方だった気がするし……」


 詳しくは覚えてないけど、そういう話をした事があるのは間違いない。そこを思い出せていればレナさんを変に疑う事も無かったんだろうけど……今更言ってもどうしようもないか。

 次からはそういう事がないように気をつけよ……。味方を疑うとか、場合によっては相当失礼な事をしてしまったんだし、本格的に反省しておかないとな……。


「ちょ!? ケイさん達、沈み過ぎだぜ!? レナさんはそれくらいで怒ったりはしないし、気にしなくても大丈夫だって!」

「むしろ、怒ってくれた方が気は楽になるけどなー。って、それもこっちの都合でしかないか……」

「あー、その気持ちは分からなくもないのが、何とも言えない心境になるな!?」


 昨日の競争クエスト開始前の妨害工作で対応策として、味方を疑うなって方針を出してたのにな……。状況が状況だったとはいえ、それをレナさん相手にしてしまったのは本当に申し訳ない。


「だー! 気持ちは分かるけど、そうやって凹んでる方がレナさんに怒られるからな! てか、俺への状況説明も頼みます!」

「それもそうだな……。ここで気落ちして、変に負ける要因を作る方が最悪か!」


 やらかした事は今更取り消せないけども、後悔してるならそれを帳消しにするだけの事をやるのみだ! そして、今するべきは勝ちに向かって動く事!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る