第1242話 状況の説明と把握
とりあえずアルの樹洞に入れるようにしてもらって、その中でレナさんへ『インクアイリー』が黒幕として動いている事の説明をしていった。ログインしてなかった事で、敵に回ってる可能性を考えてしまったのも含めて……。
「んー、そっかー。『インクアイリー』の人達が動いてるのが判明した状態で、わたしがログインしてなかったらそりゃ不安にもなるよねー」
「……なんか変に疑ってすまん、レナさん」
「あはは、気にしなくていいよ、ケイさん。判明した時間帯を考えたら、ピンポイントで不審な状況になってただろうしねー! わたしも、他の人がその状況なら疑ってただろうしさー」
「そう言ってもらえると助かる……」
軽く笑って流してくれたけど、少し前の焦りっぷりがなんか妙に恥ずかしくなってきた……。いや、本気で敵に回ってなくてよかったけども!
「それにしても……そっかー。『インクアイリー』のみんなが、今回の件の黒幕だったんだ。ちょっと意外なとこが動いてたねー?」
「レナさんからしても意外なの!?」
「うん、ちょっとだけねー。実行自体はしそうな気はするけど、そもそもどういう繋がりで黒の統率種に固有のクエストが存在してる件に行き着いてるんだろ? その辺の情報交流は薄かったと思うんだけどなー?」
「……『インクアイリー』とやらが、動き始めたきっかけの部分が不思議なのか?」
「そうそう、そうなの! 基本的に内輪で成立してる共同体だからさー。まぁ全員の交友関係を把握してる訳じゃないから、その辺はわたしも知らない接点があったりするのかもしれないけど……」
「あー、なるほど……。そりゃ流石にレナさんでも何もかもは把握してないか……」
「あはは、それは流石に無茶ってもんだよ、ケイさん! んー、でも、各群集を抜けちゃってるっぽい人はチラホラいるねー。およ? 個人的な伝手がある人達が繋がっていってるような……? ふむふむ、伝手を辿って勢力を広めてる感じ? あ、確かにこれは騒動を起こした人にも繋がっていってるねー」
レナさんがフレンドリストを眺めているっぽい状態で、そんな事を言ってるけど……それが分かるってすげぇな!? 相変わらずの交友関係の広さがとんでもない!
「んー、こうなると逆になんでわたしにはお誘いがないのか、不思議になってくる感じだねー?」
「……レナさんを誘うと、断られた時のダメージが大きそうかな?」
「あー、確かにそれはあるかも? 灰の群集だと、あんまり敵に回りたくはないしねー」
「そういう言い方だと、レナさんが赤の群集や青の群集にいたのなら敵に回ってるって風にも聞こえてくるんだが……?」
「およ? そう言ったつもりだから、アルマースさんの認識は間違ってはないよー?」
「恐ろしい事をサラッと言うのな!?」
「……レナさん、マジで?」
「うん、マジだよ、ケイさん。赤の群集なら赤のサファリ同盟相手に戦うチャンスだし、青の群集は作戦で固めすぎててちょっと窮屈なとこもあるからねー!」
そういう理由なのか!? あー、レナさんが灰の群集所属で、味方で本当に良かった。というか、灰の群集でなら敵に回る気はないのは……気に入ってるって事なんだろうね。
「あ、ちなみに『インクアイリー』自体のメンバーは全員ではないけど、それなりには把握はしてるけど……状況を聞いた限り、そこにこだわらない方がいいね」
「はい! レナさん、それはどういう理由からですか!?」
「えっとね、『インクアイリー』は互助会みたいなもので明確な指揮系統を持ってないのと、わたしの観測出来る範囲でも『インクアイリー』以外の人達が結構な人数が参加してる感じがするからだねー。あくまで中核を担ってるだけ……ううん、場合によっては、この話自体を持ち込んだ人が別にいるのかも?」
「え、まだ裏に誰かが隠れてるの?」
「更に黒幕がいるとなれば、厄介なのさー!?」
「まぁそこまでその人自体は脅威じゃないとは思うけどね。それが『黒の統率種による占拠』の情報を持ち込んだ人じゃないかなー? 多分、無所属の人?」
「そんな人がいるのかな!?」
「あくまで想像だけどねー」
ふむふむ、互助会的な側面がありつつ、基本的には内輪で成立している共同体が『インクアイリー』のあり方なのか。そういう性質なら、リーダーは持ち回りでの交代制なのかも?
『インクアイリー』自体がそういう性質だからこそ、傭兵や無所属との接点が無ければ分からない黒の統率種という存在自体に辿り着いた事には違和感かあるのか。
なるほど、話を持ち込んだ人がいるってのはそこからの推測になるんだな。……ダメ元でいいから、一応これは聞いておこうっと。
「レナさん、ちょっと質問をいいか?」
「いいけど、そろそろ場所を移した方がよくない? 桜花さん、既にログインしてるよ?」
「あ、マジだ!?」
アルが一応『樹洞投影』で外の状態を見れるようにはしててくれたけど、全然外を見てなかったよ。あー、レナさんに確認しておきたい事は後からにした方がいいか。
「とりあえず、桜花さんの樹洞の方に移動! 話の続きはそれからで!」
「はーい!」
「その方が良さそうかな!」
「そだね。手早く移動しちゃおう」
「だな」
「それじゃ急がないとねー!」
という事で、手早くアルの樹洞から脱出! ふぅ、ともかくレナさんが敵に回るという事態は避けられたようでよかった、よかった。……本気で焦るしな、その展開になったらさー!
◇ ◇ ◇
桜花さんに手早く声をかけて、桜花さんの桜の木の樹洞の中へと場所を移動。まだ中には余裕がある段階だったので、奥の方へ引っ込んで話の続きだ! 桜花さんも話に混ざりたそうにしてたけど、流石に人が大量に来ている状況では無理だったようである……。
「ところで、今回は作戦の通達って中継でやるんだね? わたしはてっきり、もう割り振りが始まってると思ってたんだけどさー?」
「ベスタは今回、作戦を用意しないって言ってたぞー」
「およ? そうなの? あ、でも、ここまでの事態になってるのなら、下手に作戦を組む方が動きに制約がかかって危険なのかもねー。うん、そういう事なら納得!」
あっさりとベスタの意図が伝わったけど、まぁ少し考えればすぐに思い至る内容だよなー。レナさんほどの実力者が、そう簡単に見落とす事もないか。
「さーて、それじゃケイさんが聞きたい事とやらに答えよっか。どういう内容?」
「レナさんが予想してた『インクアイリー』に今回の話を持ち込んだ無所属の人って、何か心当たりってない?」
「あー、その件かー。わたしも無所属の人を全員把握してる訳じゃないし、その辺は分かんないかも? まだ無所属の人の方が分かるかもしれないよ?」
「……流石に無茶な内容だったか」
「まぁそこは仕方ないんじゃないかな?」
「ですよねー」
ダメ元のつもりだったし、そういう存在がいるかもしれないという予想が出てきただけでもよしとするか。どういうきっかけであったとしても、既に大々的に動き出しているのは間違いないしさ。
無所属の人の方が分かる可能性があるのなら、羅刹や北斗さんに話を聞きたいとこではあるよな。もしくは時雨さん……は流石に無理だね。黒の統率種のままだろうし……って、あれ? その辺はどうなってるんだ?
「レナさん、時雨さんとはリアルで接点があるんだよな?」
「あ、うん、そうなるけど……時雨さんは流石に違うと思うよ? というか、灰の群集へ傭兵に来てる人は明確な目的を持ってきてるから、そこは除外しても――」
「レナさん? 急に黙ってどうしたんだ?」
「……1人、いるかも。黒の統率種の情報を持ってる可能性があって、その上で群集に勝たせないように動きそうな人!」
「え、マジか!? 誰!?」
「誰も何も、ケイさん達も知ってるね。ほら、わたし達が権利を傭兵の剥奪したドライアだよ」
「ドライア!? え、そういう可能性があった!?」
「そこでその名前が出てくるか!?」
「……確かに、群集に勝たせない為に動く事はありそうかな?」
「でも、それって逆恨みなんじゃない?」
「逆恨みだからこそ、ありそうな気もするのです!」
「……そう言われると、確かにそうかも?」
確かにハーレさんの言う通り、剥奪された状況への逆恨みで動いているという可能性はある。ドライアは傭兵の権利を無くして競争クエストへの参戦自体も出来なくなっているはずだけど、だからこそ他人任せの群集に勝たせない手段を取る事は考えられるか!
「レナさん……ドライアは、黒の統率種の情報を知る事はあり得るのか? あれは羅刹さんが正体を探ったからこそ判明した内容だよな?」
「可能性としては十分あるよ、アルさん。元々、ドライアと時雨さんの間では無所属同士での面識はあるんだしさ。それに……正確な情報が無くても、明確に何かあると思わせられれば『インクアイリー』なら動き出すよ」
「元々が検証をする集団だから、足掛かりさえあれば十分って事か!」
「うん、そういう事。今回、問題を起こしてた集団と『インクアイリー』が繋がってる理由はその辺にあるのかも?」
「……そこを繋いだのが、ドライアって事かな?」
「間に誰かが挟まってる可能性は高いけど、悪名を利用した作戦ってのはその辺を利用したのかもね」
「マジか……」
うっわ、そういう風にあのドライアが繋がってくるとは思ってなかった。ウィルさんからの共闘の提案は、ドライアの傭兵の権利を剥奪した後だったよな? そもそも『霧の森』の情報自体はドライアが見つけてきたって話もあった気がする。
ドライアの傭兵の権利を剥奪してから無所属の集団の目撃情報が出始めていたような気がするし、『インクアイリー』が本格的に動き始めたのがその頃になるのか? もしかすると、元々無所属の一部の人が計画を立てていて、それをバックアップする形で勢力が拡大したのかも?
「……みんな……何の話? ……ドライアって……誰?」
「あ、風音さんか。ドライアってのは、風音さんが灰の群集に入ってくる前に――」
「なぜ、今のタイミングでドライアの名前が出てくる!?」
「おわっ!? あ、北斗さんか!?」
やってきたばかりの風音さんに事情を説明しようとしたら、その前に北斗さんの翼竜が割り込んできたよ!? あー、急な登場でビックリした。でも、あの傭兵の権利の剥奪をした時にいた北斗さんが反応してくる気持ちは分かる。
「……割り込まないで」
「はいはい、風音さん、睨まないのー。北斗さんも、今のは急過ぎるからね」
「……今のは流石にすまなかった、風音さん」
「……謝ったなら……別にいい」
ふぅ、レナさんが間に入る形でなんとか殺気の出ていた風音さんの様子が収まったね。風音さんは怒ると怖いけど、まぁ今のは北斗さんの気持ちは分かるけど、悪いのは北斗さんの方だしな。
「およ? ベスタさんからフレンドコールだね? ケイさん、ちょっと出てくるから少し席を外すねー!」
「ほいよっと!」
このタイミングでベスタからフレンドコールって事は、ベスタもレナさんに何か用があるんだろうな。あー、そういや今日のベスタは単独で動く気はないって言ってたし、『インクアイリー』への接点を持っているレナさんと組んで動くつもりなのかも?
「ベスタさん、どうしたのー? うん、うん、『インクアイリー』の件ならケイさん達から聞いたよ。それで――」
そういや聞きそびれたけど、レナさんがログインしてなかった理由って何なんだろうね? うーん、気にはなるけどリアルの都合もあるだろうし、変に詮索し過ぎない方がいいか?
「ケイさん……さっきドライアの野郎の名前が出てたのは、なんかあんのか?」
「あー、その辺の説明をした方がいいよなー。北斗さんには、推測の信頼性がどんなもんか意見が欲しいとこだしさ」
「……ほう? あの野郎、また何かやらかしてんのか」
「まぁその辺は事情を説明するから、聞いた上で判断してくれー」
「とりあえず聞かせてもらおうか」
なんか今度は北斗さんの方が殺気立ってるなー。なんというか、ドライアの事を嫌ってるような感じもするけど……そりゃあの時のあの態度が、無所属でのいつもの事だったのなら嫌いにもなるか。
事情を説明したら、北斗さんはキレそうな予感。まぁ確定情報じゃなくてレナさんの推測でしかない情報だけどさ。
「風音さん、今日はどうするのー!?」
「……みんなと……一緒に動くのは……駄目?」
「あー、別に駄目って訳じゃないけど、まだ今日の方針を決めてないからなー。その辺は北斗さんに説明した後で、みんなで相談して決めるのでいいか?」
「……いいよ。……状況は……気になる」
「なんか悪いな、後回しにさせちまって……」
「……まだ……開始までは……時間があるから……大丈夫」
風音さんは戦力として申し分ないし、1PTで動くとしても空きはあるから全然問題はない。問題ないどころか、普通に風音さんは大歓迎だよなー。
とはいえ、PTとしてどういう風に動いていくかはまだ全然相談が出来ていない部分だしね。特に誰も問題視しないとは思うけど、独断で決めるのは出来るだけ無しの方向で!
とりあえず今は北斗さんへ、レナさんの推測を伝えておこう。ドライア自身はもう今回の競争クエスト自体には参加出来ない状態のはずだけど、ドライア本人の事を俺らより知っている人の意見は貴重だしね。
ドライアというよりは他の誰とどういう風に接点を持ってるか、そういう情報の方が欲しいところ。まぁ霧の森での総力戦の開始までもう1時間は切ってるから、役立つ情報があるか、あったとしてもそれを役立たせる事が出来るのかは怪しいけど……。
ほんの少し前に来ててくれれば1回の会話で済んだんだけど、そう都合よくいかないのは仕方ないな。とにかく、説明を始めていきますか!
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