第1240話 最後の1戦の前に


 いったんの所では特に何も新しい情報はなかったので、手早く済ませて現実の方へと戻っていく。競争クエスト中にはスクショの承諾が少ないのは、ある意味当然の事か。

 それはそうとして……俺の部屋の椅子に思いっきり座っている晴香の姿が見えるなー。やっぱり鍵は必要だけど、取り付けはいつになるんだろ? そもそもどういうタイプの鍵に決まったのかをまだ聞いてないから、後で聞いてみるとして……。


「……相変わらず、普通に俺の部屋にいるんだな?」

「ちょっと兄貴に話があったのさー!」

「話って……アルバイト絡みか? ……それとも相沢さん絡み?」

「両方なのです!」

「両方かよ! でも、そんなに時間はないぞ……?」

「だから、手早く済ますのです!」


 どうやら今のうちに話しておこうというのは変わらないようである。というか、どういう内容の話だ? 大体の話は既に終わってるような気がするんだけど……。


「兄貴的には、相沢さんの事をどう思ってますか!?」

「……それ、アルバイトは関係あんのか!? てか、何故答えなきゃならん!?」

「兄貴が気まずいなら、私から店長さんに時間が被らないように話しておくのです!」

「あー、そういう話の繋がりか……」


 なるほど、確かに相沢さんとは変にややこしい事になっているのは間違いないし、晴香から間接的に店長さんへと話を通してもらうって事も出来るのか。……いや、でもそういう避け方もどうなんだ?


「兄貴としても、忘れ去ってた人という事が発覚した相手とは一緒はやりにくいよね!?」

「確かにやりにくさはあるけど、言い方ー!?」


 晴香のこの棘のある言い方は何!? 相沢さんの弟への恨みが、相当根深かったりすんの!? ……ヨッシさんへの嫌がらせとかがあったとは聞いたから、本気で嫌ってそうではあるよな。


「……そういう晴香こそ、俺よりも相沢さんとは一緒じゃない方はいいんじゃないか? 俺の方はまぁある意味では自業自得だし、それで避けるのは逆に悪い気もするんだけど――」

「私は別に大丈夫なのさー! 本人が相手じゃないし、会う事は絶対にないもん!」


 急に食い気味に言ってきたけど、本人が相手じゃないのは分かる。でも、絶対に会う事がないってどういう意味だ? 家が近いなら、買い物に来る事もありそうだけど……。

 あー、まぁ高校生が普段からスーパーを使う事も早々ないか? 俺がよく行くのは学校帰りに母さんから買い物を頼まれる事がよくあるからだし、そういう機会でもなければわざわざ来ないのかも?


「んー、気にしてるのは分かるけど……あえて避けるのは気が引ける。いやまぁ、明日の状況次第だけどさ」

「明日って、何かあるのー!?」

「……今日の件で、ちょっと高校の下駄箱前で悪目立ちしてな。その状況次第だ……」


 痴話喧嘩だとか聞こえていたのが、どういう風に影響があるのかにもよるんだよな。……周囲に変な伝わり方をしてなきゃいいんだけど、ややこしい誤解が発生してたらどうしよう? あー、そうなったらそうなった時に考えるか……。


「なんだか、すごい変な事になってそうなのさー!? 具体的に何があったの!?」

「……相沢さんの反応を、周囲に痴話喧嘩だとか思われたみたいでなー。あー、地味に明日が憂鬱……」


 てか、よく考えてたらあの時には同じ小・中学出身の奴も何人かいたような気がする。仲が良い相手ではないけど……場合によっては本当に面倒な事になるかも。


「それは面倒な事になってるのさー!? 付き合ってるって思われてる可能性がありそうだよ!?」

「……そうなると面倒なんだよな。はぁ……」

「兄貴、ドンマイです!」

「随分と弾んだ声だな、おい! 他人事は気楽だし、面白い状況ってか!?」

「はっ!? そういうつもりじゃないのさー!」


 晴香め、喧嘩を売りにきたのか!? 実際に付き合ってる訳でもないのに、勝手に周囲が誤解するのって面倒なんだぞ! 中学の頃、それで散々な目に遭った友達がいたからな……。

 その友達に少し親しくしてる女友達がいたのを、周りが勝手に盛り上げまくって……その気になって告白したら、『友達以上には見れない』って盛大に玉砕してたのがなぁ……。その後はギクシャクするようになったのに、周囲はあの2人が付き合ってると言われてたのを見ているのは……居た堪れなかった。

 最近はまともに連絡も取れてないけど、あいつは元気にしてるんだろうか?


「兄貴、なんか心ここに在らずだよ?」

「……あー、ちょっと色々と思い出しただけだ。晴香、他人の恋愛を遊び道具にはすんなよ?」

「そんな気はないのです! というか、兄貴は何かあったのー?」

「俺じゃないけど、中学の頃の友達がなー。あれはもう見てられなかったし……」

「そうなの!? あぅ……それだと余計な事をしたら、変に警戒しそうなのです……」

「……はい?」


 なんで今のでそんな反応が返ってくる? あー、もしかして身近にそういう人がいたりするのか? あんまり不用意に首を突っ込むのは――

 

「圭ちゃん、晴ちゃん、もうご飯だけどどうしたのー?」

「あ、すぐに下りる! 晴香、その話はもう終わりだ。晩飯を食いに行くぞ」

「はーい! ……中々、難儀な状況なのです……」


 なんだか悩ましげな晴香のボソッとした呟きが聞こえたけど、まぁそういう話題が出来るようになっただけ、前の沈んでいた状況からは完全に脱してはいるんだな。

 晴香の身近な人だと……あぁ、同じ高校のラックさんとか関係ありそうだ。サヤやヨッシさんという可能性もあるのか? 2人とも我が家のVR空間でリアルの姿で会った時に思ったけど、普通にモテそうだもんな。まぁそういうのでゴタゴタも色々あったっぽいけどさ。


 それにしても恋愛か……。誰かを好きになるって、どういうもんなんだろうね? その辺、経験がないからよく分からん! とにかく今は晩飯だ、晩飯!



 ◇ ◇ ◇



 本日の晩飯はそうめんだった。理由は聞いてないけど、母さんも今日は帰ってくるのが遅くなってたそうで、簡単なメニューになったとの事。まぁ用意してくれるだけありがたいけどなー。


「それじゃ兄貴、先に行ってます! 急いでねー!」

「ほいよっと」


 いつものように俺が食器の後片付けしている間に、晴香は自室へと戻っていった。……晩飯を食べながら聞いたけど、食洗機自体はもう注文済みになってるそうである。

 俺の部屋の鍵もホームサーバーと連動した電子キーに決まって、まとめて注文して取り付けは次の土曜日との事。別に俺としては鍵がかかれば簡易的なのでも良かったんだけど、何かあった時に外からでも開けられるタイプにするって事で、ドアノブごと取り替えに決定。


 まぁその辺は良いとして、さっさと食器洗いを済ませて……って、母さんが横までやってきた? 


「圭ちゃん、何か急ぐのかしら?」

「あー、まぁちょっと21時からやる事があって、その下準備があって?」

「あら、そうなの? それなら今日の片付けはお母さんがやるから、行っても大丈夫よ?」

「お、マジで!? 母さん、助かる!」

「どういたしまして。まぁ今日の晩ご飯は手抜きになっちゃったからね」

「……そういや、母さんが遅かったのってなんで?」

「スーパーで世間話に捕まっちゃっててね。ほら、圭ちゃんと晴ちゃんが兄妹揃ってのアルバイトの件でね?」

「ちょ、そういう理由!?」


 あー、そりゃ俺以上に常連の母さんなんだし、知ってる店員さんも多いんだし、そりゃ伝わるよなー。兄妹揃ってアルバイトともなれば、特に目立ちもするか。……ちょっと待った。それだと、もしかして――

 

「あ、そうそう。圭ちゃんが女の子を連れていたって聞いたけど、その辺の事をお母さんは知りたいなー? 紹介してくれてもいいのよ?」

「そういう相手じゃないから!? ただの同級生で、アルバイトの件で被ってただけだから!?」

「あら、そうなの? 相沢さんの娘さんって聞いてるけど、圭ちゃんは小学生からずっと同じよね?」

「……そうっぽいですねー」


 母さんの方がよっぽど把握してたよ、相沢さんの事! 恐るべし、母の主婦ネットワーク……。たまにあるんだよな、こういう事。


「……なんだか思ってたのとは随分と違う反応ね?」

「あー、ちょっと色々とあってさ……」


 色々とあったのは事実だけど、実は小学校・中学校も含めた頃からの同級生だとは思っていなかったとはここでは言えない! というか、こうして話してたら食器の片付けを代わってもらった意味がなくね!?


「圭ちゃん、実は同級生だったのを忘れてたりしたのかしら?」

「……そ、そんな事は……」

「あったのね?」

「……はい」

「まぁ圭ちゃんも晴ちゃんも同級生は多いし、誰でもは覚えてない事もあるわよね。確か同じクラスだったのは、小学1年から3年の間だったかしら?」

「……あー、なるほど」


 同じクラスだった時期って、そんなに前かよ! 思わぬところから思わぬ形で情報が出てきたなー。というか、その時期で覚えてろって方が無茶じゃね!?

 母さんもよく覚えてるけど……あー、相沢さんの弟が晴香とも同級生になるからか? ヨッシさんも含めてなら、俺の方よりもそっちで印象深いって可能性はありそうだな。


「ところで、急ぐんじゃなかったの?」

「あ、そういやそうだった!? 話し込んでたら、代わってもらった意味がない!?」


 内容が内容だったから、つい脱線してしまった!? 可能なら晴香と一緒にみんなと合流して、情報の整理は1度で済ませておきたいもんな。大急ぎで向かえば、多分まだ間に合うはず!



 ◇ ◇ ◇



 そうして再びいったんの所へとやってきた。19時でお知らせの変更がある事があるから、ここはチェックしておかないと! えーと、今の胴体部分の内容は『第2回の共闘イベントの開催告知、COMING SOON!』か。なるほど、やっぱり次にあるのは共闘イベントなんだな!


「いったん、これって告知の告知になるのか?」

「そうなります〜! 具体的な内容は、もう少しお待ち下さい〜!」

「それはいいけど……また中途半端な情報の出し方だなー」

「思わせぶりな内容を表示してたら、お問い合わせが多くてね〜? それなら堂々と告知しようという事になりました〜」

「……なるほど」


 競争クエストの最後の1戦が終われば何かあると匂わせていたけど、それに対してのお問い合せが多かったのか。まぁ気になる部分ではあるし、夕方の色々な推測の起点にもなった内容でもあるもんな。


「この感じだと、開催までは少し間が空くっぽい?」

「うん、そうなるよ〜! というか、競争クエストが完了してから開始の日程を組むので、即座には始められません〜」

「そういう予定の組み方もどうなんだ!?」

「期限を切らないのは、競争クエストのクリアを急かさない為だね〜。まぁ全体的に競争クエストの進行は想定よりもかなり早いから、その辺は気にする必要はないけど〜」

「あー、競争クエストの進行って早いのか」


 よく考えてみたらテスト期間明けくらいから開始で、その週末までに残り1エリアまで進んでるんだよな。競争クエストの開催期間って、地味に1週間もないのか。……確かにその進行は早い気がする。


「そうなると、競争クエストが終わればしばらく公式からのイベントがない空白期間があったりする?」

「そういう事になります〜! その期間に、色々とやってみてね〜!」

「まぁやれる事はいくらでもあるもんなー」


 それこそ、競争クエストで勝ち取ったエリアから繋がる色々な新エリアの探索は出来そうだもんな。シュウさん達と約束している『刻浄石』や『刻瘴石』の共同での検証も約束してるし、成熟体でのフィールドボスの誕生の法則も調べていきたいよね。とはいえ……。


「……先の事を考える前に、今は目の前の競争クエストに勝つ事に専念だな。ところでいったんに質問」

「はいはい〜。どんな質問かな〜?」


 急いでみんなと合流したいとこだけど、そもそも合流場所を決めてないしなー。ハーレさんが合流してから、俺がその場所に行くような感じでいいだろ!

 という事で、一応聞いてみる。問題ないと言われそうな気はしてるけど、それでもダメ元で!


「群集のまとめに虚偽の情報を意図的に書き込むのは、運営的にはどういう見解になるんだ?」

「誹謗中傷なら運営も動くけど、そうでないなら虚偽の情報の書き込みだけなら何もしないよ〜! 他の群集に潜り込むのも作戦行動の内だという判定になります〜」

「あー、やっぱりそういう判定か。群集を混乱させる為に、敵が潜り込んで妨害工作をするのは問題無しって感じ?」

「基本的にはそうなるけど、少し煽る程度ならやり過ぎない限り許容範囲ではあるよ〜。ただし、これまで整理されてきたまとめ情報を削除していくような行動とかは作戦行動の範疇を超えているとして処罰対象になります〜」

「あ、そういう場合なら運営も動くのか! というか、普段でも問題になりそうな行為だな、それ……」

「通常時でも問題行動に当たるような行動なら、当然だけど処罰対象だからね〜!」

「まぁそりゃそうか」


 そういう妨害工作は考えてなかったけど、今までのまとめ情報の削除は嫌がらせとしては本気で腹が立つ内容だもんな。流石にそのレベルの行為だと、妨害工作の範疇を超えた問題行為という判定になるんだね。

 普段でも駄目な事は、基本的に駄目。当たり前と言えば当たり前な事か。別にスパイ行為は禁止されてないしなー。まぁそれを撃退するのも禁止されてないけど……。


「あー、そういやスクショの承諾は来てる?」

「今は特にないよ〜。競争クエスト中は承諾の件数が少し減るから、負担が軽くなるのさ〜!」

「あー、やっぱりそういう傾向はあるんだな」


 少なくとも俺が写っているスクショの承諾が少なくなっているのは、間違いなく競争クエストの影響だろうしね。対戦の真っ最中にスクショを撮ってる余裕はないし、引っ込んで特訓をしてる事も多いしなー。

 まぁその辺は競争クエストが終わればまた増えてくるだろうから良いとして……。

 

「それじゃコケの方でログインを頼む!」

「はいはい〜。競争クエストの最後の1戦、頑張ってね〜!」

「おうよ!」


 そんな風にいったんに見送られながら、再びゲームの中へと移動! さーて、最後の1戦を勝つ為に頑張っていきますか。とりあえずみんなと合流が最優先だな!



――――――

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