第1239話 今回の作戦は
ジェイさんとのフレンドコールは終了! 今回は状況が状況だったから探り合いは無しを提案したけど、ジェイさんがそれに乗ってくれて助かった。
ベスタや桜花さんは何か話し合ってるみたいだけど、これはどうしたもんだ? 『インクアイリー』が赤の群集に働きかけている可能性は伝えておきたいんだけど……あ、ベスタがこっちに気付いた?
「戻ったな、ケイ。何か妙な様子もあったが……ジェイは何を言ってきた? 自分達で聞いていないとか言っていただろう?」
あー、ベスタはその辺の俺の言葉はしっかりと聞いていたのか。まぁそこは伝えようと思ってた内容に関わる部分だし、聞いてくれるのは丁度いいな。
「ジェイさんが俺へとフレンドコールをしてきた理由は、ルアーとウィルさんに繋がらない状態だったからだってさ。……推測でしかないけど『インクアイリー』が何か話を持ちかけてるんじゃないかって状況」
「……あの2人が塞がったままだと思っていたが、やはりそんなところか」
「え、マジか!? あ、マジだ……」
フレンドリストを見てみれば、ルアーもウィルさんもフレンドコール中。……ジェイさんが繋がらない状態だったのが俺へフレンドコールをかけてくる前だったのに、まだ続いてるのは妙に長いな?
「具体的にどういう話をしているかは分からんが、赤の群集……『リバイバル』としては、『インクアイリー』に手を貸すという決定は下せんだろうな」
「そこは俺も同意だし、ジェイさんも同じ見解だったぞ」
「だろうな。後で様子見がてら、繋がるようになったら連絡してみるか」
「……今度のは素直に事実を言うとも思えないんだけど?」
手を組む事になったとしても、突っぱねたとしても、他の群集に伝える内容は変わらないはず。手を組むとしたら表面上には決して出してこないし、突っぱねたならそれ以上の情報は得られないだろうし……聞くだけ無意味なような?
「『インクアイリー』が接触したかどうか、その事実確認が出来れば十分だ。長々と話しているその相手が誰か知れたらそれで構わん。入れ替わりで他のプレイヤーからの連絡が続いてるだけかもしれんしな」
「……あー、まぁ確かにそりゃそうだ」
「答えないようであれば……まぁ、共闘を破棄する事を匂わせるだけだ。桜花と灰のサファリ同盟に、万が一の下準備はしてもらっているしな」
「はい!? え、そういう動きも想定してんの!?」
まさかの共闘の破棄を考えてた!? あー、でも赤の群集がまともに共闘が成立しなくなった場合については考えておかないとマズいか。……『インクアイリー』の裏工作が成功して、崩された共闘のままに固執する方が危険だしさ。
というか、ハーレさんが誰かにフレンドコールをしてるっぽいけど、もしかしてその相手は灰のサファリ同盟か? 桜花さんもフレンドコール中だし、具体的にはどう下準備をしてるんだ?
「ケイ、自分のフレンドコールの内容は周囲に聞こえているのを忘れるなよ? 『赤の群集を分裂させる』という脅しを受ける可能性の話の時点で、『インクアイリー』の介入自体は想定していた」
「……あー、そりゃそうなるよなー」
ジェイさんとの会話での、俺の反応の部分だけでもそれなりに状況の推測自体は出来てたっぽいし、それを前提にして既に動き出してた訳かー。流石はベスタ、動きが早い!
「それで、具体的にはどういう下準備をしてるんだ?」
「単純な話だ。赤の群集で共闘が成立しなくなった場合には、赤の群集を除外して動くだけだな。それを、上からではなく横から広めてもらっている段階だ」
「横から赤の群集を除外……って、青の群集との共闘を、指揮してる人達を通さずに成立させようとしてる!?」
「ふっふっふ、噂という形で色々と情報を流してもらっているのさー! あ、ベスタさん、ラックへの連絡は完了です! 中立地点で非参戦の人達を中心に、不自然にならない形で広めてくれるってー!」
「俺の方も、青の群集にいた頃の馴染みの相手に伝え終わったぜ。ぶっちゃけ羅刹さんと北斗さんが広めた情報で、傭兵を経由して赤の群集への不信感が出てきてるとこらしいな。噂の流れとしては不自然ではなくなりそうだぜ?」
「ちょ、そういう流れ!?」
「きっかけはケイの動きからになるがな。ハーレ、桜花、よくやった」
あー、確かに今の一連の動きって俺がきっかけではあるのか。……ちょっとした可能性の意見を求めただけだったのが、随分とややこしい事になってきたもんだ。
「おそらくこれで、万が一の際には灰の群集からの呼びかければ、青の群集は共闘を受けざるを得ないだろう。少なくとも青の群集の傭兵が赤の群集の傭兵に引っ張られる形で寝返るのは、外面が悪くなるはずだ」
「あー、上を通さずに噂って形にするのはその辺が理由か……」
青の群集のまとめ役が、傭兵に対して共闘を強要出来ないのは変わらない。だけど、赤の群集の傭兵が利用される可能性があり、それを起点に共闘状態を壊そうとしている勢力がいる事が分かれば……その流れに乗るのは避けようとするか。
今やってる事って動きを誘導しようとする点は同じではあるけど、どっちなら当人達が納得するかって話だよなー。共闘を拒んで『インクアイリー』に使われるか、傭兵として参加を貫いて共闘に従うか、そういう2択。……片方に関与してる身としては言うのはあれだけど、嫌な2択だな。
「単純な話だが『インクアイリー』の目論みさえ潰してしまえれば、後は予定通りの総力戦だからな。誘導されている共闘崩しの流れさえ変えてしまえれば、それで構わん」
「……なるほど。でも、他に策がある可能性もあるんだよな? 桜花さん、その辺の情報って出てきた?」
「悪い、その辺はサッパリだ! それぞれの群集に補足されたみたいだし、これ以上の探りは中止にしたぜ」
「あー、そうなるのか」
まぁウィルさんもジェイさんも、桜花さんの動きは確認してたっぽいしな。今以上に探りを入れるのは限界になったんだろうね。
「そういえばケイ、『インクアイリー』のリーダーについて聞いていたな?」
「それはジェイさんから少しは聞けたぞ。でも、有益な情報は得られず……」
「……何? ジェイは何を知っていた? 『インクアイリー』という名は知っていても、俺も詳しくは知らないんだが……」
「え、ベスタでもそうなのか!?」
「……なんでも知っていると思うな。そもそも『インクアイリー』は表に出てきていない……つまり、詳しく知られていない集団だからな。情報なんざ、大して無いようなもんだ。レナが色々と知ってそうではあるが、今はログインしてないからな」
「あー、そりゃそうだよな……」
てか、レナさん、こんな大事な時になんでいないの!? レナさんなら『インクアイリー』の事どころか、それに協力しそうな各群集にいる隠れてる集団のピックアップとか出来そうなのに!?
まぁレナさんにもリアルの都合はあるだろうから、その辺は仕方ないか。競争クエストの最後の1戦には参戦してくるだろうし、その時までに情報が得られたらいいんだけど……。
「そういう理由もあるから、ジェイが何かを知っていたならその内容を話してくれ」
「ほいよっと。役に立つ情報かは分からないけど、『インクアイリー』には決まったリーダーはいないんだとさ。共同体としてのリーダーは不定期に変わっているって話」
「……ちっ、それは地味に厄介な内容だな。その状態でこの動きが可能なのか」
「そうだよなー。トップが未確認ってのは相当厄介な人が隠れて――」
「ケイ、その可能性もあるが……それ以上に危険な可能性もあるからな」
「……え?」
ベスタ級のリーダー格の存在が確認出来ないってのは相当厄介なはずだけど、それ以上に危険な可能性って何がある? ベスタは、俺が伝えた話の中でどういう可能性を見出した?
あっ、そういう事か! リーダーの存在が確認出来ないってジェイさんが言ってたから、そのままベスタみたいに別格に強い人が痕跡を隠しているものかと思ったけど……そうじゃない場合もあり得る! 確かにこっちはこっちで相当危険だな!?
「……リーダーがいないんじゃなくて、誰もが状況に応じてリーダーを勤められる可能性で合ってる?」
「あぁ、今のを聞いて俺はそれを危惧している。多少の個人差はあるだろうが、群集に依存せず検証を行なっている集団だ。それくらいやってのける可能性は考えておいた方がいいだろう」
「それって相当厄介そうなのさー!?」
「だけど、無いとは言えない可能性だぜ? 俺もその可能性は十分あると思うがな」
「桜花さんから見ても、その可能性はあるのか……」
想定している以上に厄介な相手だというのは分かっているんだし、その実力を甘く考えない方がいいのかも。むしろ警戒し過ぎても、し足りないくらいな気がしてきた。
「……あー、これ以上は考えてても結論は出ない気がする!? とりあえず共闘は青の群集とだけでも維持出来るようにするんでいいんだよな!?」
「あぁ、今はそれで構わん。俺の方も通達は大体終えたところだし、羅刹や北斗が広めた情報や、今の噂として流した件は即効性のあるものではないからな。ひとまず『インクアイリー』への対策はこのくらいでいいだろう」
「ん? 他にも策がある可能性はどうなったんだ?」
「桜花はもう下手に探れない段階になったからな。これ以上の探りは無理だし、具体的な策への足掛かりがない事には推測のしようがない。向こうも警戒に入っただろうし、もう情報は出てこないと考えた方がいいだろう」
「……それもそうか」
探りを入れたからって、確実に相手の狙っている策が分かる訳じゃないもんな。俺らだって、今みたいに桜花さんの樹洞の中という隔離出来る場所で話し合ってるんだしさ。
外に向かって出した情報以外の内容を完全に知り得るのは、この場にいる人達のみ。……その中にスパイがいない限りは、ここでの情報は漏れないもんな。
同じような手段や共同体のチャットを使えば、漏れない策なんてどうとでも用意出来るか。赤の群集への妨害工作が判明したのは、外部の協力者が必要だったからこそだよな。うん、人の口には戸は立てられぬとはよく言ったもんだよ。
「それじゃここからは、霧の森での作戦会議?」
「あぁ、その件か。今回は特に作戦は立てないぞ」
「はい!? え、なんで!?」
ベスタからとんでもない事を言われた気がするんだけど、今回は一切の作戦無し!? それはいくらなんでも考えてなかったぞ!?
「なんでも何も、これだけ状況が混乱している中でまともな作戦が立てられる訳がないだろう。状況次第で敵が味方になる状況だぞ?」
「……そう言われると、作戦は無理だなー。でも、基本方針くらいは!?」
「流れが想定出来んから、各自に好きに動いてもらう事にはなる。群集支援種がどうなっているか、現状も不明だしな。安全圏にいるヤナギは無事なのは確実だが、ミズキがどうなっているのか……」
「あ、そういや霧の森はその2人か!?」
1番馴染みのあるミズキとヤナギさんが、霧の森に向かっている群集支援種になるんだよな。今の話の流れ的に、ミズキが異形へと変わる可能性があるのか……。
「ケイ、開始前に安全圏やその他の場所で状況の通達は行う。ただ、今回は状況が状況だから臨機応変に動いてもらうしかない。囮や足止めを頼むつもりもないぞ」
「あー、特に作戦がないのなら、そういう動きにもなるか。……それだと総指揮も特になし?」
「あぁ、基本的にはな。ただ、競争クエスト情報板での状況のやり取りは密にしていく。今回の方針と言えるのは、その程度だ」
「……なるほど」
そうなると、常に誰かが競争クエスト情報板に常駐しておいて、状況の変化に応じて動きを変えていく感じになるんだな。囮としての役割を頼まれないのも、ちょっと新鮮な気がするよ。
明確な役割の割り振りや、作戦らしい作戦はないとはねー。まぁ状況を考えたら、ベスタのその判断にも納得。赤の群集や青の群集と戦っていても『インクアイリー』が出てきたなら共闘へと移行するんだし、作戦を立ててもちゃんと機能しないもんな。
そういう意味では、青の群集がどういう風に行動方針を決めてくるかが気になる。赤の群集とはちゃんと共闘が成立するかの部分から疑う必要もあるけど……それは実際に始まるまで分からないか。
「ケイさん、今日はどういう風に動いていきますか!?」
「あー、その辺はみんな揃ってから相談だな。流石に今ここで勝手に決める訳にもいかないし……」
「確かにそれはそうなのさー!?」
というか、そのくらいの事は分かってて聞いたよな、ハーレさん!? まぁ群集全体での作戦が特に無しだと、その辺はしっかりと考えておかないと駄目な部分か……。
「まぁどこかのPTと連結PTにするのでも、連結PTにせずにPT単位で動くのも、それぞれで決めてくれ。20時過ぎ……遅くても20時半頃にはその方針で伝えていくが、先に知っておいた方が楽だろうしな」
「そりゃそうだ。あ、そういやベスタはどう動くんだ?」
「……まだ決めていない。いや、正確には考えている事はあるが……相手の都合があるから勝手に決められん段階だな」
「そういう言い方って事は、ソロで動く訳でもない?」
「あぁ、そのつもりだ」
ふむふむ、具体的にどう動くのかまでは教えてくれるつもりのないようだね。まぁ一緒に動くつもりの人が誰なのか分からないけど、まだ話が通せてないっぽいし、その辺は決定事項としては話さないんだろうね。
今回は俺らのPTに入ってくるという訳でもなさそうだけど、誰を誘うつもりなんだろ? 今の状況を考えると……あー、レナさんという可能性はありそうだな!
「ケイさん、そろそろ19時が近いのです!」
「あ、もうそんな時間か!?」
体感的にはそんなに時間が経ってた気はしないんだけど、なんだかんだで思った以上に時間は経ってたようである。ふぅ、今日は開始する時間自体が遅くなったのもあるしな。
まだもう少し時間があるといえばあるけど、少し早めに切り上げておくのもありか。おし、そうしよう!
「俺とハーレさんは一旦ログアウトで晩飯を食ってくるわ」
「お腹空いたのさー!」
「あぁ、今のうちに食ってこい」
という事で、その場にいた人達に軽く挨拶をして、桜花さんの樹洞から出て、一旦晩飯を食う為にログアウト。さーて、晩飯を食ってみんなが集合してから、俺らのPTとしての行動方針を決めていきますか!
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