第1238話 青の群集との情報共有


 ウィルさんには青の群集への連絡は俺の方からするとは言ったけども、まさかのジェイさんからのフレンドコールがきた。さて、出てみるけど……どういう反応が出てくるか……?


「……ようやく繋がりましたね、ケイさん。わざと無視しているのかと思いましたよ」

「出て早々、辛辣だな!? こっちだって色々と都合があるからな!?」

「ベスタさんと、赤の群集から別々に聞いた情報の擦り合わせをしていたところでしょうか?」

「……まぁそこは否定しない」


 思いっきり状況は読まれてるし、ほぼ正解ですがな! なんかジェイさんの様子がピリピリしてる気がするけど……何か問題でも発生中なのか? いやまぁ今は全ての群集にとって問題が発生中ではあるけども。


「さて、共闘するからには探っていて何を見つけて、どういう経緯になっているのか、状況の説明をお願い出来ますでしょうか? ウィルさんと同時にフレンドコールが可能になったケイさんなら、事情は分かっているのでしょう?」

「ジェイさん、ちょっと待った! ウィルさんに俺がフレンドコールをしてたのが分かってるのに、自分達では聞いてないのか!? 何で俺に!?」

「……しようとしましたよ。ですが、その直前に誰かに塞がれましてね。他の方にフレンドコールが切れ次第、連絡するようにはしてもらっていますが……」

「はい!?」


 ちょっと待って。さっきベスタがルアーとウィルさんはフレンドコール中になってるって言ってたけど、青の群集の誰かが相手じゃないのか?


「……それって、ジェイさん以外の青の群集の誰かという可能性は?」

「無いとは言えませんが、その報告を待つよりはケイさんに尋ねた方が早いかと思いましてね。……赤の群集に、何を聞いたのですか?」


 あー、ピリピリしてる理由はそこかー! 自分で聞こうと思ってたのに、それが出来ない状況に陥ってイライラしてる状況か、ジェイさん!

 でも、誰か他の青の群集の人が……あ、俺らとは別の灰の群集の人の可能性もあるのか! 流石に誰がどういうタイミングでフレンドコールをかけるかなんて、確認したり制限したりは出来ないし……いや、待てよ?


「……もしかして、これも妨害工作か?」

「これも……という事は、探っている赤の群集の傭兵への働きかけの件は確定しているのですか?」

「あー、まぁそんなとこ。てか、やっぱり把握されてるんだな、その辺」

「……群集の管理下から外れたあの情報経路は、探っている行為自体が筒抜けになりますからね。その経路を使っても、今回の黒幕に中々繋がらないのが不気味なのですが……」


 なるほど、桜花さんが探っているのはそういう情報経路になるのか。まぁ人伝での匿名性の無い探り方なんだから、『誰がどういう情報を探しているか』という情報自体も伝わるよなー。

 だからこそ、無理に聞き出そうし過ぎればその中から除外されてしまう独自の経路か。……桜花さんがどこまで探れたかは確認出来てないけど、『インクアイリー』の名前まで辿り着けないのも、ある意味当然でもあるね。


 そうなると、俺らが探っていた事自体が『インクアイリー』にも筒抜けになってると考えて……あ、ウィルさんとルアーにフレンドコールをしてきているのは『インクアイリー』のメンバーって可能性もあるのか!?

 ちっ、そうなると青の群集への情報提供は出し惜しまない方がいいな。伏せる事が有用に働く事もあるけど、逆に仇になるパターンも確認してきたばかりだしね。


「ジェイさん、今回は状況が状況だから腹の探り合いは無しでいくぞ。黒幕は赤の群集が知っていた」

「……という事は、黒幕は赤の群集での騒動の件の残党ですか? それにしては違和感があり過ぎるのですが……いえ、今回は探り合いは無しと言いましたね。では、こちらもそれに合わせましょう。今回の件、悪意が動機では無いと考えていますが……その答えは出たのでしょうか?」

「ジェイさん、正解。動機は黒の統率種での占拠の実行で、中心になっているのは赤の群集にいた『インクアイリー』っていう検証メインの共同体みたいだ」

「『インクアイリー』ですか!? 何故あそこが動いて……いえ、今、黒の統率種での占拠と言いましたね? なるほど、あれは群集にいては実行が不可能でしょうし……」


 この反応は『インクアイリー』の事も、黒の統率種が占拠出来る可能性も、普通に存在は知ってたっぽい!? あー、単に俺が知らなかっただけっすかー。ベスタも知ってたし、競争クエストでは動いてこないという共通認識があった集団だったんかい!

 これってウィルさんが堂々と疑惑を口にしていたとしても、実際に動き出すまでは断定出来る状況にはならなかった気さえしてきた。明確に疑惑を向けたら、それに合わせた偽装を施してきてそうな……そんな予感がする。


「……事情は概ね理解しました。確かにあそこであれば、今までの違和感は全て腑に落ちます。となると、探ってきた相手への伝言の『捨て駒』は、赤の群集の傭兵の事ですか」

「あー、ジェイさんの方もあの伝言は聞いたのか」

「その反応からして、おそらく同じ人物に当たっていたのでしょう。あれが『インクアイリー』からの伝言となると、策が1つではない可能性が高いですね。探れる範囲の内容が本命だとは思えません」


 ジェイさんから見てもこういう反応って、思ってる以上に『インクアイリー』という集団はヤバいんじゃね!? 確かに伝言を残しているのを考えると、誰かが辿り着く可能性を想定した上での事なんだろうけど……。


「……ジェイさん、具体的には何を仕掛けてくると思う?」

「皆目、見当が付きませんね。それこそケイさんが何をしてくるかと同じレベルで、予想が出来ません」

「ちょ!? 俺って『インクアイリー』と同列扱いなのか!?」

「えぇ、そうですけども? ケイさんは表に出ている『インクアイリー』の一員のようなものですが、自覚はないのですか? 違いといえば、群集に向けて情報を出すか出さないか、対人戦に積極に参加するかどうか、そのくらいの違いですよ?」

「……あー、そういう言われ方をすれば否定出来ない気がしてきた」


 ジェイさんに言われるまで客観視が出来ていなかったけど、本質的には俺らがしている事と『インクアイリー』のしている事は大差ない訳か。それが想定されていた競争クエストには参戦しないというのを、想定外の規模で動いている事が判明したから厄介なんだな。

 うーん、いつも見ている情報共有板にいる人達が別の勢力として独立して暗躍してるようなもの? そう考えると恐ろしいな、この状況!? あ、そういや中心として動いている共同体とは聞いたけど、リーダーの名前は聞いてない気がする……。


「あー、俺は正直『インクアイリー』の事は全然知らないんだけど……その辺をもうちょい詳しく聞いても大丈夫か?」

「……構いませんが、私も全体像はあまり把握していませんよ? あぁ、赤の群集から何か聞き忘れましたか?」

「さっき気付いた内容だけど、まぁそれもある。その代わり、この情報を進呈で!」

「……まだ何かあるのですか?」

「赤の群集、正確にはウィルさんがだけど……向こうから教えてくる気は皆無だったみたいだぞ。ぶっちゃけ、俺らに共闘の申し入れがあった時点から『インクアイリー』の関与の疑惑はあったらしいけど……」

「正体に目星を付けているとは思っていましたけど、やはりそうでしたか。断定したのは……いつになるんです?」

「聞いた事が本当なら、俺らが探りを入れて動き出した後らしい。ただ、それをそのまま鵜呑みにしていいかは……正直微妙なとこ」

「まぁそこは疑ってかかった方が良い部分ですね。言わなかった理由としては……ウィルさんの事ですし、赤のサファリ同盟のように表へ引っ張り出して協力を求めるのを考えていたくらいでしょうか」

「そこは突っついてみたし、実際そのつもりだったみたいだなー」

「……ある意味、違った形で表に出てきたようなものですけどね」


 この辺はジェイさんも、ウィルさんと同じような反応をするんだな。それだけ『インクアイリー』という集団への警戒度が高まってるって事なんだろうけど、だからこそ、この情報は大事! なのに、なんで聞き忘れてるんだろうね、俺は!?


「それでケイさんの聞きたい情報はなんでしょうか?」

「……『インクアイリー』のリーダーの人って、なんて名前?」

「あぁ、それですか。それは知るだけ無意味な情報ですね」

「ん? それってどういう意味?」

「決まったリーダーが居ないという話なんですよ、あの集団。共同体として登録しなければいけないリーダーは存在しますが、不定期で入れ替えているそうですし……」

「はい!? え、それじゃどうやって動いてんの!?」

「全体像を把握出来ていない理由がそこにあるんですよ。おそらく内部で発言権が強い、灰の群集で言うところのベスタさんのような方は存在しているはずですが……その情報が一切掴めないんです」

「……マジか」


 うっわ、表に出てきてないベスタみたいな人がいる可能性があるって危険度が更に増した気がするんだけど……。


「おそらくウィルさんは、その辺は教えても無意味だと判断して話さなかったのでしょうね。もしくは……」

「あー、まだ味方に引き入れるつもりで考えてるとか?」

「実際に総力戦が始まる前であれば、引き入れる線は残っていると思いますよ。無所属になってからでも、傭兵という形で引き入れるのは可能ですし……。あぁ、接触してこちらに味方に引き入れるのを狙ってみるのもありですか」

「無茶な事を言い始めたな、ジェイさん!?」


 てか、ウィルさんもその辺は本気で考えてそうだよなー!? くっ、そういう狙いがあったとしても、相手の危険性が分かった以上は下手に共闘の破棄も出来ない状況にされてるし!

 あー、『インクアイリー』も厄介だけど、ウィルさんもつくづく厄介だな!? ……でも、敵を傭兵として味方に引き入れるのもありではあるのか。接点ならレナさんが持っていそうだし、状況次第ではその可能性に賭けてみるのもあり?


「……まぁ、よほどの条件を提示しない限りは味方にはならないでしょうけどね。既に明確な目的を設定しているようですし……」

「それに釣り合うか、それ以上の何かを提示しなきゃ無理か……」

「えぇ、そういう事になります。ウィルさんがそれを提示する用意があるとなれば、それこそ最大の脅威にもなり得ますけどね」

「……その展開よりは、『インクアイリー』相手には共闘で挑む方がマシな気がする」

「それは全面的に同意ですね。さて……そうなると、今ルアーさんとウィルさん宛へのフレンドコールを塞いでいるのは『インクアイリー』のメンバーか、その協力者といったところでしょうか」

「あー、それは俺も考えたけど……ぶっちゃけ、もしそうだとすれば何を話してると思う?」


 あくまでもこれは推測での話にはなるけど、可能性としては無視出来ないものでもある。『インクアイリー』としては共闘を潰したいんだろうけど、赤の群集としてはそのまま頷く訳にもいかないはず。

 ん? いや、待てよ。今の赤の群集に限ってなら、その交渉は成立し得るのか! 共闘をするフリをしながら、裏では実は協力関係を結んで『インクアイリー』が黒の統率種での占拠をさせたとしても、2エリア確保済みの赤の群集なら可能な状況だぞ!?


「……マズいですね。話の持っていき方次第では、赤の群集自体が『インクアイリー』の味方になる可能性はあり得ますよ」

「そうなると、別の意味で共闘が崩壊するよな!?」


 ジェイさんも同じ可能性を考えたみたいだけど、そうなってくると本気でマズい……。赤の群集が、群集としての勝利を捨てて『インクアイリー』との共同戦線にでもなれば……いや待て。流石にそんなに上手くいくか?

 

「ですが、流石にそうなれば『リバイバル』への反発は大きく出るでしょうし、話を受けて動けるとしても少数だと考えた方が良いでしょうね。これが2つ目の策なのかもしれません」

「……赤の群集の内部分裂狙いかー。それも傭兵以外のとこからだと……どっちかというと、下手な事をすれば『赤の群集を分裂させるぞ』って脅しを受けてる?」

「『リバイバル』に対して有効なのは、味方に引き入れるよりはそちらでしょうね。ケイさん、おそらく一定数は共闘を拒む方が出てくるとは思いますが……」

「まぁその場合は普通に戦うだけだし、『インクアイリー』は関係なくそういう人は出てくるだろうから問題なし!」

「……確かにそれはそうですね。これは今更過ぎる内容でしたか」


 あくまでも俺らが動いて協議してきた内容は、基本方針としてのものであって強制出来る内容じゃないからね。強制しようとしたら……それこそ、かつての赤の群集での騒動の再来になりかねない。

 だから群集としての動きに従わない人が出てくるのは仕方ないし、それで今回の『インクアイリー』のような動きが出てくるのもどうしようもない事ではある。でも、それにどう対処するかも俺らの自由!


「とりあえず知りたい情報は分かりましたし、群集の方へとその辺りの情報を通達しておきます。相手の正体と目的が分かったのなら、その情報を広めておくのが寝返りの抑止力にはなりますしね」

「赤の群集の方が不安だけど、青の群集の方は任せたぞー!」

「えぇ、赤の群集にどういう意図があるにしても、状況的には共闘を維持するのが確実なようですしね。そういう意味では羅刹さんや北斗さんが行っている情報拡散は有効な手段ですし、『インクアイリー』も多少は動きにくくなっているはずですからね」

「そうだろうとも!」


 ふっふっふ、先んじて羅刹や北斗さんに……って、あれ? 北斗さんって、羅刹に任せて晩飯を食べにログアウトしてなかったっけ?

 あ、近くをみてみればいつの間か羅刹がいなくなって、北斗さんに変わってた!? 30分で交代って言ってたけど、色々と話してる間に思った以上に時間が経ってたっぽい!? あー、ハーレさんと紅焔さんも戻ってきてるじゃん。


「それでは色々と動かないと時間が足りなくなりかねないので、この辺で失礼します。色々と厄介な状況にはなっていますが、今日は勝たせてもらいますからね!」

「いやいや、昨日に続けて今日も勝たせてもらうっての!」

「……それでは、また後ほど」

「ほいよっと」


 次に会うのは、競争クエスト最後の1戦の霧の森でだな。新エリアになる霧の森は広いはずだけど、その辺の作戦会議もしていかないとなー。

 ここまで新エリアでの競争クエストの攻略手順自体は同じで、エリア的な特徴が大きく左右してたくらいか。今の時点で群集支援種の2体がどうなっているかが重要な状況だろうね。

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