第1237話 裏工作の攻防


 ウィルさんからフレンドコールで、暗躍している集団が『インクアイリー』という赤の群集にいた共同体だという事が判明した。……思った以上に厄介な相手だけど、だからこそ打てる手は打っておいて対処しないと!


「ウィルさん、『インクアイリー』が仕掛けようとしてる攻撃の内容は把握してる?」

「いや、それは知らないが……探っている中で何かあったのか!?」

「そこは把握してなかったのか……。赤の群集の傭兵に対して、共闘に従わないように働きかけるっぽいぞ。それで共闘を駄目にしようとしてる」

「……確かに、赤の群集に共闘を強制する権利はないし、もう成果は得ている以上は留めるだけの理由もないな。1ヶ所が崩れれば、他も連動して崩れて……ちっ、そういう狙い方をしてくるか!」

「よっぽど共闘されるのが嫌みたいだぞ?」

「そりゃそうだろうな。目的がハッキリと分かった今の状況なら、俺だって1番邪魔になる共闘は潰しに動くぜ」

「まぁ俺もそうするけど……ぶっちゃけ、どう防ぐ? こっちじゃ手詰まりだから、その件でフレンドコールしたんだけど……」

「なに? 敵の正体にある程度の目星がついたから、それを確認する為にじゃなかったのか……?」

「隠してる事を引き出すのも狙いの1つではあったけどなー。てか、他にまだ隠してる事ってあったりしない?」


 ここまでの情報で嘘を言っているとは思ってないけど、真実を全て言っているとも思ってはいない! 『インクアイリー』も油断出来ない相手だけど、それはウィルさんとて同じ事!


「今回に限っては、何も企んでねぇよ!?」

「だったら、待ち構えずそっちから連絡があってもよかったよなー? こっちから聞きに動かなきゃ、黙ってるつもりだっただろ? この状況でそれは悪手じゃね?」


 状況的にまだ青の群集には『インクアイリー』の存在は伝えてないはず。共闘しようというのに、その相手の情報を積極的に開示しないのは……疑ってかかるには十分な理由にはなる。さて、何を企んでる?


「……知らないなら、その方がいいとも思ったんだよ。赤の群集が一番勝ち数が多い状況だし、俺らリバイバルが裏で『インクアイリー』と繋がっていて黒の統率種の占拠を狙っていると勘繰られたくなくてな……」

「あー、まぁそういう疑いはかけようと思えばいくらでもかけられるしなー。でも、正体に近付いてからだと……逆にその疑惑に繋がるんだけど?」


 ウィルさんの言い分も分かるには分かる。確かに赤の群集の中にいた共同体が中心となっているなら、そもそもの黒幕が赤の群集そのものだと疑える。でも、正体不明の相手のままなら、その疑惑をかけられる事はない。

 そのリスクを避けたかったというのは、まぁ分からなくもない。というか、その理由だと赤の群集内部でも黒幕が『インクアイリー』だと知っているのは少数の人になりそうだな。……なるほど、向こうから連絡してこなかった理由は何となく読めてきた。


「あー、どうやっても疑われるしかない状況だな!? ……可能なら、他の群集に連絡をしないで済むようにする為って言えば納得してもらえるか?」

「やっぱりそんなとこかー。俺らみたいに聞いてきた分には答えるけど、自分達から教える事はしないって行動方針? 正体に繋がる内容を探られたのを察知したって理由で赤の群集から俺らへの連絡は出来ても、その後に青の群集には連絡しなかったって事実が残るもんな。積極的には喧伝したくないか」

「……そういう事だ。ちっ、既にケイさん達の方で対策に動き始めてるのか!? これじゃ青の群集に黙ったままの方がマズいじゃねぇか!?」

「まぁそうだろうなー」


 もう既に羅刹と北斗さん経由で、知り合いの無所属の人へと連絡は入れてもらっている。それ自体が信用されるかは分からないけど、青の群集も何らかの形でその情報は入手するはず。

 てか、何かを確認しながら話してるっぽいし、共同体のチャットで報告でも受けてるのかもなー。まぁその辺は想定内だし、別に問題ない範囲。もうこれで青の群集相手に黙ってる事は出来なくなったぞ、ウィルさん! 


 そもそも青の群集だって黒幕の正体は探っているだろうし、群集に依存してない伝手でのネットワークから探りは入れられる人もいるだろう。明確に『インクアイリー』という共同体まで辿り着くかは分からないけど、少なくとも悪意によるものではない事には気付くはず。

 

「……あー、すまん、ケイさん。この対応策自体は有効だろうが……赤の群集としては使えん」

「ん? 何か問題があった?」

「いや、単純に立場の問題でな? 無所属の傭兵だからといって、全面的に協力を強制出来る訳じゃねぇんだよ。……下手に寝返るなと赤の群集として指示を出せば、逆効果になりかねん」

「あー、確かにそれはあるかもなー。てか、赤の群集の傭兵の反応ってどんなもん?」

「……羅刹からの言葉だから『寝返りを促してくる』という内容自体は無視はしてないが、信用しきってもいないって感じだな。これが効果を発揮するとしたら、『インクアイリー』が実際に仕掛けてきてからか」

「そこで赤の群集から補足する形で情報開示は……あ、仕掛けてくる相手の正体が分かってて隠してたのが逆に仇になる?」

「……そこを見越した上での、この妨害工作だろうな!」


 うん、ウィルさんから直接は聞いてないけど、赤の群集やその傭兵に対して『インクアイリー』が黒幕だという事は大々的には開示してないので確定か。変な勘繰りを防ぐ為だったんだろうけど、その行為が逆に今は首を絞めている状況になってきてるね。


「……この状況はどう対処したもんか。完全に後手に回って……いや、待て。ここで羅刹やケイさんが動いた事で正体が判明した事にすれば、ダメージは最小限に抑えられるか? 実際、確定させられたのはそのタイミングだしな……」

「共闘は維持出来るようにしてもらった方が都合は良さそうだから、俺らの行動は利用してくれていいぞ」

「……助かる」


 ちょっと秘密にし過ぎてた事に一因はあるんだろうけど、ハッキリと判明したのは実際に俺らが探りを入れてからっぽいしなー。正体不明の集団が、自分の群集の中にいたって説明するのはし辛いだろうけどね。

 とはいえ、もう赤の群集はその情報を伏せたままにしておく方がリスクのある状況になった。後は傭兵の人達が納得するようにどう説明するかが問題だけど、そこは俺ら灰の群集が気にする事でもないな! 後の処置は任せて、ジェイさんにでも連絡しとくか。


「さてと、青の群集に連絡しとこうと思うけど、それについては問題ある?」

「あー、今話した事を全てぶちまける気か?」

「それは青の群集次第だなー。共闘に悪影響がありそうならウィルさんの思惑は伏せておくけど、状況次第では言うかもね」

「……止めたいが、それを止める手段もないか。それに、こうなった以上は時間の問題だしな……」


 ウィルさんが嫌そうなのは伝わってくるけど、羅刹が既に情報を広めているから青の群集がその動きを察知するのは確かに時間の問題。いや、もう既に動いているという可能性もあるか。

 ウィルさんとルアーへのフレンドコールは俺とベスタで抑えてる状態だし、連絡しようにも出来なくなってたり? あー、それは普通にありそうなパターンだし、フレンドコールが終わるのを待ち構えてる可能性はありそう。


「それじゃそろそろ切るけど、最後に確認」

「……『インクアイリー』の戦力なら、正確には把握してねぇぞ。だた、赤のサファリ同盟を上回る可能性は考えておいてくれ」

「あ、やっぱりそのレベルの見立てなのか。……ウィルさん、場合によっては競争クエストの切り札として引っ張り出す気だったろ?」

「……違う形で出てきてしまったがな」


 なんで隠そうとしていたのか、その一番の理由はそこか。実力派のサファリ系プレイヤーの集団の赤のサファリ同盟を上回る、他の群集にあまり知られていない強大な戦力なんて、競争クエストの切り札として出すには打ってつけだもんな。

 そんな集団が全ての群集の敵として動くというのは……まぁ、共闘を持ち掛けたくなる理由としても分かる。問題は個人として強い人が多いのか、集団として強いのかだけど……今回は両方兼ね備えてそうだよな。


「ケイさん、これだけは反論として言わせてもらうぜ? 多分、似たようなの集団がいるのは灰の群集も同じだぞ。それが今回、手を組んでる可能性だって――」

「その辺は承知済みだって。その可能性を疑って、探り始めたんだからさ」

「……そうか。灰の群集で、今回の件に加担してそうな集団に心当たりは?」

「あー、俺自身はそこまで顔が広くはないからなー。その辺は他の人に探ってもらってる最中だから、出せる情報は特にないぞ?」

「……やはり全体像の把握は困難か」

「ようやく中心の存在が把握出来たとこだしな……」


 色々と情報が集まってから考えてみれば、そこに繋がるヒント自体はいくつもあった。でも、全部が繋がって正体が分かったのはついさっき。

 赤の群集から疑惑段階からでも情報提供があればもう少し事情は違ってたんだろうけど、まぁそこを味方に引き入れるのも考慮してたなら無理な話か。俺だって同じ立場なら、正体不明のままで共闘の話は進めただろうし……。


「さてと、それじゃこの辺で終わりにしとくけど……『インクアイリー』に勝たせる気はないし、霧の森は灰の群集がもらうからな!」

「取らせるかよ! 霧の森は、赤の群集が勝ち取らせてもらう!」

「共闘の時以外は、全力で潰しに行くから覚悟しとけよ、ウィルさん!」

「そりゃこっちの台詞だぜ、ケイさん!」


 お互いに最後にこれだけは言っておいて、フレンドコールは終了。あくまで、共闘は暗躍していた無所属の集団……今は明確に呼び名が決まって『インクアイリー』への対処する為の作戦の一環でしかない。本来なら、赤の群集や青の群集とは真っ向から戦うとこだしね。


「ケイの方も話が終わったか」

「あ、ベスタは先に終わってたか。えっと、ルアーが言ってた内容には『インクアイリー』って集団の話は?」

「あぁ、出てきたぞ。存在自体は知っていたが、まさかあの手の集団が競争クエストに参戦してくるとは想定していなかったぞ……」

「ん? なんで参戦しないって想定してたんだ?」


 別に赤の群集を動かしている人達と敵対してた訳ではないみたいだけど、どうしてそうなってるんだろ? ウィルさんも味方に引き入れる事は画策していたみたいだし……その参戦を考慮してないというベスタの判断がちょっと意外。


「一応、そう判断した理由としては2つある。1つ目は、灰の群集にいる同様のいくつかの集団から、競争クエストには参戦しないという意思表明を受けているからだ」

「はい!? え、そんなの受けてたのか!?」

「あぁ、今回の競争クエストが始まった割とすぐ後にな。ちなみにその伝言を持ってきたのは十六夜だ」

「なるほど、十六夜さんからか!」


 十六夜さんは桜花さん経由で情報提供はしてくれてるけど、どちらかというとそういう表に出てこない人寄りだもんな。俺はあんまり把握してなかった人達になるけど、ベスタは把握していて、その上で競争クエストには協力しないと宣言してきてたのか。

 別に強制参加ではないし、変に参加を頼まれる前に断りを入れてきたのかも。そう考えると、律儀と言えば律儀な集団なのかもねー。まぁ面倒事を避けた可能性もありそうだけど……。


「それで、2つ目の理由は?」

「その手の集団は占有エリアには姿を現さないからだ。どこか人気のないエリアに不動種を用意して拠点にしているか、常闇の洞窟の奥にいるからな。そうでない場合は、そもそも拠点を持たずに放浪している」

「あー、なるほど……」

「見るとすれば初期エリアにトレードをしに来ている時くらいだな。そういう集団と知らなければ、判別手段はない」

「……そりゃそうだ」


 根本的に人が集まる場所には来ないし、来たとしてもトレード目的程度なら……そこらにいる普通のプレイヤーとの見分けなんか出来ないな。

 いや、別にプレイスタイルがそういう風になってるだけで、普通のプレイヤーと違う存在って訳でもないか。そういう人達だって、普通のプレイヤーだよ。


「要は占有エリアの獲得に興味を示すとは思ってなかったって事か。それが黒の統率種の専用クエストで、事情が変わったのが今回の件の始まり?」

「そういう事になるが……見事にしてやられたな。まさか、その偽装に問題を起こした連中の悪名を利用してくるとは……」

「そこは、本当に予想外だよな……」


 この感じだと、俺とベスタが聞いた内容にはあまり差異は無さそうな感じか。他に近くにいる人達が不思議そうな反応をしてるから、聞いてきた事の事情説明とその対策を……って、フレンドコール?


「あー、ジェイさんからか。って、なんで俺にだよ!?」


 俺の方からジェイさんへ伝えようとは思ってたけど、このタイミングでジェイさんから俺へのフレンドコールってどういう事!? そこはウィルさんかルアーへ連絡するとこじゃない!?


「赤の群集に直接聞けば誤魔化される可能性も考えたんだろう。多分だが、別の奴がウィルとルアーには連絡を入れているはずだ。2人とも、フレンドコール中になってるしな」

「……これ、ウィルさんとルアーがフレンドコールに出るのが嫌で2人で繋いでる可能性は?」

「無いとは言えんが、それが愚策なのは分かるだろう?」

「ですよねー」


 今の状況で青の群集からの連絡を遮断するのは、共闘を崩す為の妨害工作への対策をしている最中には愚策も愚策。その辺りはウィルさんが承知してない訳がないか。


「ケイ、青の群集への対応は任せるぞ。俺は灰の群集への通達の方をやっていくからな」

「ほいよっと!」


 さて、ジェイさんからのフレンドコールに出ますか! 青の群集でも情報収集はしてるだろうし、その辺も確認しとこうっと。

 あ、そういや紅焔さんと模擬戦に行ったハーレさんは……まだ戻ってきてないっぽいね。うーん、まぁ後で伝えればいいか。

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