第1223話 手段の推測


 青の群集支援種であるカレンを完全に仕留め切る為に、盛大な爆音と共に激しい攻撃が続いている。容赦のない攻撃だけど、まぁ競争クエストにはそんなものは必要ないって事で気にしない。


 その間に、着々とカトレアの『浄化の守り』が強化されていってるのが凄いな。小型種族の人が投げられてきて、受け渡しが終われば他の人に投げられてエリア切り替え地点に戻っているっぽいのがなんか凄まじい。……地味にアイルさんが投げられてるのを見かけたけど、まぁそこは見なかった事にしよう。

 小型種族でなければ、シアンさん達を筆頭にした海エリア勢が海流の操作で流して運んでるっぽいねー。いやー、流石は総力戦!


 他にも散発的に戦闘音があちこちから聞こえてはいるから、まだ競争クエスト自体は終わっていないんだな。……こういう時に油断すると足を掬われるから、警戒はしておかないと。

 とはいえ、俺は精神面も戦闘面での消耗が激しいし、他のみんなもそのはず。まだ行動値はそれなりに残ってる方だけど、魔力値は空っぽだしな。


「はい、色々と回復アイテムを出したから、これを使っていってね」

「ヨッシ、ありがとー! いっただきまーす!」


 ヨッシさんが色々と調理済みのアイテムを出してくれたから、それを食べて回復! 魔力値が回復するのは乾物系の加工品。ドライフルーツは苦手だから、干し肉でも齧っとこう。レモンの丸齧りは流石に酸っぱいしなー。


「みんなは今は休む事が役目だからねー! さて、その間にあれをわたし達に気付かれずに運んできた手段の推測の話をしていこっか」

「頼んだ、レナさん。あ、風音さん、今はサイズは元に戻しておいた方がいいんじゃないか?」

「……そうだった。……小型化……解除」


 アルの生成した水で勢いを削ぐ為に小型化してたからな、風音さん。休む事が役目なら、行動値を半減させた状態からは脱しておかないとね。


 ここまで気を抜き過ぎていいのかとも思うけど、あの岩のドームを運んだ手段が気になっているのは事実だし、休憩が必須なのも事実。……レナさん、サヤ、ハーレさんの3人を筆頭に観察力があるメンバーは他にもいたはず。

 それなのに見落とした理由を知っておくのは、警戒をする為にも重要だよな。その手段で、この段階からまだ奇襲を受ける可能性もあるしさ……。


「レナさん、あれは結局、具体的にどうなってたんだ?」

「あくまでわたしや灰のサファリ同盟の人達での推測なのを前提でお願いね、アルマースさん。えっと、どこから話そうかな? んー、とりあえず材料の運搬からにしよっか。2班が来る時に攻撃を受けたのがあったでしょ? あの中に、岩を沢山飛ばしてきてたのを覚えてない?」

「もがっ! ごっくん! それ、ツキノワさん達が迎撃したやつなのさー!」

「そういえばそんなのもあったね。レナさん、それが関係してたりするの?」

「うん、まぁね。あの手の攻撃、あちこちであったらしいんだよね。特にカレンを見失う前の、その周辺にいる人に対してさ?」

「……それが材料集め……ううん、材料運搬の手段かな? 予め、そういう用途で持ち込んできてた?」

「即興で用意したとも思えんし、元々そういう用途として用意してそうだな。それを投げ飛ばして攻撃だと思わせつつ、1ヶ所に集めていた訳か」

「ある程度、何ヶ所に散らばせて、それを回収する班みたいなのはあったみたいだけどね。さっき、ようやくその辺の目撃情報を確認出来てさ。多少の足らずは現地調達はしてたみたいだけど、時々わたし達のとこみたいに関係ない場所に偽装っぽい攻撃もされてた感じ」

「……ジェイらしい……下準備と……作戦」


 ふむふむ、色んな攻撃手段で揺さぶりをかけてきているのかと思ったけど……いや、それ自体は間違いではないか。揺さぶりにも使いつつ、材料集めだと思わせないようにもしていたと考える方が自然だな。

 天然の岩を投げる事自体が攻撃にもなるし、あの岩のドームが作れなくても作戦としては有効か。相当な事前準備をしてなければ、実行は不可能なんだろうな。うーむ、恐るべき執念……。


「後は、ケイさんがハッタリで言ってた土の操作Lv10の効果で組み上げて……って、とこなんだろうけど、ここは確証がないんだよねー。明らかに昇華の生成量増加でも足りないはずだから、操作系スキルのLv10で属性に合わせた『生成量増加Ⅱ』が手に入るんじゃないかって推測にはなってるけど……」

「あくまで、あれはハッタリで反応を引き出しただけだしなー。その辺は実際に効果を誰かが確認するまではどうしようもないか……」

「一応、もっと大人数で分担してやってたって可能性も考慮はしておいてね。操作系スキルのLv10の効果の誤認か、もしくはその情報を引き出す為の反応って可能性も捨ててはいないからさ。剥奪に合わせて、あえて誤認するように解除した可能性もあるしね」

「そこは了解っと。ジェイさんなら、それくらいはやりかねないしなー」


 とはいえ、そこまで極端に間違えているとも思えないけど……だからこそ、警戒しておけって事か。まだ確定でない情報を、そのまま鵜呑みにはするのも危険だしね。

 とはいえ、『生成量増加』の系統ではⅠがあるんだからⅡがどこかで手に入るのは確定と考えていいだろうし、その条件が操作系スキルがLv10に至った時でも不思議ではない。今はあくまで疑惑だけど、実際に群集内で取得者が出て初めて確定に出来る内容か。


 岩のドーム自体の材料の運び方と、その組み方のついての推測はこのくらいで終わりっぽい? まぁ推測なのを前提にしてくれって意味は分かった。確定情報として扱うのはまだ時期尚早って事だね。

 さて、それじゃ次に気になってる事を聞いていこう。ぶっちゃけ、これが1番気になっている部分だしさ。


「材料の調達の手段は分かったけど、偽装はどういう手段? レナさんでも気付かなかったんだよな? そんな事って可能なのか?」

「うん、そこはわたしとしてもビックリだったんだけど……ケイさん、闇の操作だけでの偽装を考えてない? それだと、絶対に結論は出ないよ」

「……そういう言い方をするって事は、スキル単独での偽装じゃない?」

「まぁねー。わたしが気付いたのも、そういう偽装……ううん、演出が得意そうな人達に心当たりがあったからだけどね。一応、さっき小規模にだけどちょっと試してもらったから確実性は高いよ」

「……マジで?」


 実行に移せる人達に心当たりがある上に、既に再現を試してみてるって事は、かなり確実性が高い内容じゃん! 闇の操作だけではなく、他の何かと組み合わせる事で偽装するって事だよな。何をどう組み合わせれば――


「……こういう……事? 『アースクリエイト』『闇の操作』『土の操作』」

「わっ!? 風音さんのトカゲが、黒い龍の体表に紛れて完全に見えなくなったのさー!? それもあんまり不自然じゃないよ!?」

「……本当かな!? え、なんで!? 闇の操作で隠すのって、他の場所との境目に違和感が出るのに……」

「そうなんだけど、それをどうにかする手段を見つけてねー。風音さん、その手段で正解!」

「……やっぱり」


 これが正解……? 確かに風音さんの緑色のトカゲが見えなくなったし、俺じゃ闇の操作だけでも十分誤魔化されそうだけど……サヤのコメント的には境目の違和感を無くしてるって事なのか。

 でも、ただの土を生成しただけで……いや、待て。アースクリエイトで生成出来る種類は1つじゃない。生成出来るのは土と小石と……砂!


「あー、そういう手段か! 風音さん、今操作してるのって土でも小石でもなくて、砂だよな? しかも、3つに分けて場所によって密度を変えてる?」

「……うん」

「やっぱりかー! そんな手段ありかよ!」

「……なるほど、そういう偽装方法か」

「えっ!? えっ!? どういう事ですか!?」


 再現をした風音さんはもちろん、アルもカラクリには気付いたみたいだな。俺も風音さんのを見て思い至ったけど、よくもまぁこんな手段を思いつくもんだ!


「簡単に言うとね? 砂の密度を変えて全体的に見え辛くした後に、闇の操作を薄めにかけて黒いフィルターをかける感じ。これで砂自体が真っ黒に見えるけど、境目の砂の密度を下げる事で、闇の操作がある部分とない部分の違和感を減らすの。心当たりについては、青の群集には『青の野菜畑』がいるしね?」

「はっ!? 確かにあの人達なら、これだけ手が込んでる事はやりそうなのさー!?」

「……それだけ、今回の対戦は本気って事かな」

「まぁそうなんだろうねー。ただ、最初に仕掛けてきた日は昼の日だから、多分、偽装方法自体を考えたのはあの後だと思うけど……」


 それでそれだけの偽装を用意してこれるのは、相当厄介としか言いようがないけどな! まぁ構想自体は前からあったのが、ここ数日で実行可能になったって可能性もあるけどさ……。


「これ、考えたのは誰だろうねー? ジェイさんを疑いたくなるけど、ジェイさんとも限らないし? どうも、やり方がジェイさんって感じもしなくてさー」

「あー、まぁ確かに」


 むしろ、ジェイさんならド派手に動いてそっちに意識を引きつけてその間に……って作戦を立てそうな気がする。いや、そういう動きは実際にあったし、案を出した人が複数人になるのか?

 青の群集で偽装となると……あのスミが地味に発案者な気がしてきた。2回目の開催の競争クエストで、かなりの脅威として出てきたあの人は色々と身を隠す術に長けてたもんな。その案を元にジェイさんが作戦を整えた……? いや、これは推測に推測を重ね過ぎか。


「レナさん、それであの大規模なものまで偽装し切れるのか? 確かに相当見辛くはなってるんだろうが……」

「まぁアルマースさんのその疑問も分かるよ。でもまぁ色々と悪条件も重なっててね? 地味に曇り気味かつ、月明かりが全然なかったのは運が悪かったとこだろうねー。それとまだ偽装に使うのはこれだけじゃなくて……ヨッシさん、冷気を生成して風音さんの砂と闇の間に入れてみてくれない? 氷雪の操作と同じようになるイメージで。本当は回復に専念してほしいとこだけどさ」

「え、ここで氷雪の操作に似せた氷の操作? まぁやってみるけど……『アイスクリエイト』『氷の操作』!」


 回復中だから行動値はあまり使わない方がいいんだろうけど、これは実物を見た方が早いって判断か。まぁそれでも節約の為に簡易的な氷の操作で済ませて……って、こうなるのか!?


「ちょっと違和感はあるけど、薄い雲が広がってるように見えるね。でも、遠目だと分からないかも?」

「あぅ……少し違うけど、こんな感じの雲は見た覚えがあるのです……」

「私もかな……。ただ雲が流れてるだけかと思ってた……」

「氷雪の操作……それもほぼ静止状態で運用が出来れば、もっと本物の雲みたいに見えると思うよ。月明かりが無い状況なら、初見だとまず騙されるね」

「マジで!?」

「……レナさんがそこまで言い切るほどか!?」


 今の再現はあくまで簡易的なものだから薄めの雲っぽい感じだけど……その精度が上がればこんなものじゃないのか。そしてそれが出来そうな集団として『青の野菜畑』が心当たりとして出てくるのか。

 確かに以前、スクショの撮影で見かけた時には凄い連携だったもんな。もし競争クエストに参戦してきていたなら、こういう高度な偽装作戦をやってもおかしくない。むしろ、嬉々として引き受けてそうな気がする。


「……そんなに……凄いの? ……ヨッシさん……動かすから…合わせて?」

「うん、これは実際に見た方が早いね」


 そう言って風音さんが、レナさんを隠すような形に砂と闇を移動させていく。それに合わせてヨッシさんも動かしていくけど……なるほど、これは角度を変えれば丸分かりなのか。

 だけど、これを全方位でやられたら……いや、下から見上げるのに1番効果的な内容か。見破るつもりなら、可能な限り高いとこから見るのがいいかも?


「……これは……見つけるのが……難しい」

「あくまで初見ではねー。絶対にこうだとは言い切れないけど、カラクリ自体は推測は出来たし、闇の操作が軸になってるのはわたしが破棄したから確定。あの時にはもう他のはなかったから、偽装メンバーは撤退済みだったんだろうけど……何度も通用させる気はないよ」

「もちろんなのさー! これは他の雲と見比べれば、違和感はあるはずなのです!」

「雲が流される速度を見ていれば、違和感はあるはずかな! 2回目はやられないよ!」

「正直、俺らはお手上げな気がするし、その辺は任せた!」

「ぶっちゃけ過ぎだな、ケイ!? いやまぁ、俺も確かにそれは思うけどな……」


 上空まで突っ切って見渡せれば俺らでも見つけられそうな気がするけど、どう考えても大人数での大掛かりな準備が必要な内容だ。あくまで推測でしかないけど、再現が出来たのは小規模なもの。

 クジラよりも大きなあの岩のドームを隠そうとするのなら、それこそ偽装要員だけでも10人以上必要な気がする。あの岩のドーム自体も、土の操作Lv10があればそれだけで可能とも思えない。


 うーん、これは集団での連携の練度が盛大に活きてきたか。あー、もしかして昼間の青の群集のサバンナエリアの占拠に時間がかかったのって、この辺の連携の特訓の時間稼ぎをされてた? 夜の日の今日中に総力戦にはしたかったけど、まだ不完全だったから……? 

 うっわ、確認する手段がないけど、やっててもおかしくない可能性ー!? 確か、赤の群集との再戦エリアの……カズキの森林だっけ? あそこは青の群集が防衛し切ったって、ザックさんが探ってきてたよな。


「あの岩のドームをあの形に組み立てたのは……真上でかな? 途中までは雲に偽装して、広げて運んできた? その方が途中までの偽装はしやすいかな?」

「多分ねー。そこまでは上空で雲に偽装して、組み立て終わった時点で闇の操作だけにして投下だったと思うよ。本隊って呼ばれてた方は……まぁここを攻める戦力は戦力だったんだろうけど、どっちかというと今みたいな攻撃を受けない為だろうねー」

「まぁ、あの戦力はそうなるかー」


 そうなるとあれを本隊と呼んでいた大して強くなかった指揮をしていたトカゲの人とその指揮下にいた人達は、ダミー情報をばら撒いて色々と誤認させる為の囮か。後から流れで考えてみると、いくつも罠を仕掛けまくられてるじゃん!

 やっぱりやばい、ジェイさん!? というか、青の群集自体がもう欠片も油断出来ない! いや、油断する気はないけどさ!?


「……それにしても、この岩のドームって、どれだけ間に岩を詰め込んでるんだろうねー? 破壊し切らない程度に着弾位置を変えてるとはいえ、いくらなんでも丈夫過ぎない? もう軽く20発は撃ち込んでるよ?」

「はい! それなら脱出してくる時にチラッと見えました!」

「およ? あの状況でよく見てたね? ちなみに何重になってた?」

「3重か4重だと思います! その間に土が詰まってる場所と、通り抜けられるような穴がいくつか空いてたのさー!」

「本当によく見てるな!? てか、頑丈に作り過ぎじゃね!?」


 脱出後に水に浸かったあの状況でしっかりと見てたハーレさんも無茶苦茶だけど、青の群集も無茶苦茶な物を作ってるな!? どんだけの数の岩が必要なんだよ、それ!


「……これはあれじゃないかい、ツキノワ?」

「次のスクショのコンテストの開催時に石垣を作ろうって話して、置いたままになってたあの岩を使われたか……」

「ちょい待った!? 元々、ここに大量の岩があった!?」

「まぁ……端的に言うとそうなるな。なんか、すまん」

「……マジっすか」


 このタイミングでは知りなくなかった情報なんだけど!? あー、でも事前にミヤ・マサの森林が再戦エリアの対象になるとは告知された訳でもないもんな。……もしかすると、ひっくり返した最初の攻め込みの時に、その岩を見たからこその作戦立案か? あり得そう……。


「え、ツキノワさん、あの計画ってもう動いてたの!?」

「まぁなー。って、言ってる場合でもなさそうだぞ、レナさん」

「およ? 今の爆発で岩が一気に内部に動いたね。これは、やっと倒せたかも?」


 なんか地味に衝撃の事実が発覚したタイミングで、次の動きが出始めたっぽい。一定以上には押し切れなかった大量の岩が、今のスチームエクスプロージョンで大きく動いたって事は、カレンの浄化の守りを突破したのかも!?

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