第1222話 勝利への一手


 レナさんから時間稼ぎ終了の合図がきた。ベスタからではなくレナさんからなのは、俺以外のみんなにもちゃんと伝わるようにする為だろうね。

 正直に言えば、このまま俺らで全員倒し切りたいとこだけど……競争クエストの中でそれを押し通すのはただの我儘だ。


 それに、俺らの事を配慮せずに巻き込むという手段もあったはず。別にそれで文句は言わないし、必要とあらばそうするはず。そうしないという事は、俺らに更にここにいる相手の意識を引きつけろって事だよなー! だったら、盛大に派手にやるまでだ!


「風音さん、スチームエクスプロージョンでいく! みんな、急げ!」

「分かったかな! 『略:突撃』! ハーレ!」

「サヤ! ありがと!」

「なっ!? 逃すかよ! 三日月、押し流せ!」

「いや待て、斬雨! この流れは明らかに変だ!」

「消耗してる筈なのに、このタイミングで昇華魔法……だと? それも、俺達に分かる形で?」


 疑念を抱いてくれて結構! その間に俺らとそっちのメンバーとの間に少しだけど距離は出来たし、これで分断は可能になったからな。威力なんて、今回は下まで吹っ飛ぶ事しか考えてないからいらないんだよ!


「……ここ! 『ファイアクリエイト』」


 流石は魔法大好きな風音さん、今の状況でみんなを適切に吹き飛ばせる位置に生成してくれた! さーて、俺も続きますか!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 67/117(上限値使用:4): 魔力値 286/302


<『昇華魔法:スチームエクスプロージョン』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/302


 あ、魔法は意外とそんなに使ってなかったから、思った以上に残ってた。発動した水蒸気爆発は、風音さんの方の魔力値が少なかったみたいで威力は控えめ。でも、下に降りるまでの勢いとしては十分!


「ぐっ!?」

「ちっ!」

「……何を企んでやがる、灰の暴走種!」


 スミのそんな声が聞こえてくるけど、知るかっての! 俺らは下へ、青の群集の面々は上へ、それぞれ吹っ飛ばされていく。まぁ青の群集の面々が本当に吹っ飛んでるかは分からないけど、俺らが下まで吹っ飛んだのは間違いない。

 さて、このまま地面かアルに突撃してもいいけど、下手にアルへ負担をかけるような真似は避けた方が――


「『アクアクリエイト』『水の操作』! 全員、回収するぞ!」

「助かる、アル!」

「アルさん、ありがとー!」

「ありがとかな!」

「……『小型化』……助かる」


 ははっ、俺が用意しようかと思ったら、先にアルに用意されたか。って、そもそも俺がやろうと思っても魔力値が無かったわ! 地味に判断力が鈍ってきてるっぽいから、そろそろ集中力の限界か。

 ともかく、みんなが次々とアルの用意した水の中に飛び込んで、落下での朦朧の危険性は防げた。


 後は岩のドームから出て……いや、ドームを下げ始めてきた!? ちっ、スミの明かりだけじゃ暗くて……って、その明かりすら消されたか! ヤバい、これは逃げ場を完全に塞ぐつもりの動き!?


「確実に1人ずつ仕留める気だったが、作戦変更だ! 何か企んでいるようだし、アルマースだけ仕留めてカレンを置いてそのまま強引に押し切る! 全員、一斉にかかれ! 水魔法と火魔法は絶対に使うな!」

「「「「おう!」」」」

「その声、ジャックさんか!?」


 くっ、獲物察知で反応があったのは10人くらいだけど、これで全員分くらいか!? てか、地味にここを支えてる人もドサクサに紛れて返事をしてない!? 参戦出来るの、この状況から!? えぇい、正確な人数を数えてる暇まではなかったからざっくりとしか把握出来てないぞ!

 でも、全員が出てきて俺らを倒し切るの諦めるほど追い詰めたのは確実。後は外のみんなに任せるのみ! 俺らのやるべき事はやり終えたぞ! 完全にドームに閉じ込められる前に頼んだ!


「ベスタ、後は任せる!」

「あぁ、時間稼ぎはご苦労。後は任せろ。出番だぞ、レナ! 『森林守り隊』! 他の連中もだ!」

「異常に硬いけど、これが土の操作ならこれで! 『黒の刻印:剥奪』! ……消えはしたけど、一部だけ! やっぱり並列制御か、複数人での発動みたい!」

「やっぱりか。だったら、これでどうだ! 『黒の刻印:剥奪』! レナさん、黒曜、どうだ!?」

「まだ少し残っているみたいだね、ツキノワ。だけど、もう1撃! 『黒の刻印:剥奪』!」

「森守りさん、岩の崩れ始めを確認! 次の段階、任せるよ!」

「了解だ、レナさん!」


 ちょ!? 聞こえた声の感じだと、3重に土の操作を発動してた? しかもそれぞれの操作を消し去っても、それでも形状を維持していたって……ただ場所を分けて生成してた訳じゃなくて、多少の損傷があっても崩れないようにお互いを支えるような複雑な構造にしてた?

 1つの発動だけで同時に4つまで……いやLv10だと同時操作数がもっと増えてる可能性がある。大量のパーツに分割して、並列制御もLv2にして、その上でパズルみたいに組み上げたのがこれか? どんな精度の操作だよ、それ!


「テメェら、やるぞ! 第1陣、爆破を開始!」

「「「「『アクアクリエイト』!」」」」

「「「「『ファイアクリエイト』!」」」」

「第1陣、大急ぎで魔力値を回復! 第2陣、位置につけ!」

「「「「「「「「おう!」」」」」」」」


 おわっ!? かなり近くからもの凄い爆発音が聞こえたけど……何このデカい爆発音!? 2人での発動よりも凄まじい音量なんだけど、何をどうしてるのかが見えない!


 支えていた土の操作を無効化したからスチームエクスプロージョンで破壊しようとしてるのか? あー、そのまま下に落としたらカレンが浄化の要所に辿り着いちゃうもんな。

 それがあるから、土の操作Lv10という危険な要素の可能性を把握していても、その操作の剥奪は実行に移せなかった。まぁ思った以上に複雑な事をしてたっぽいから、消そうと思ってもあっさり消せたかは怪しいけど……。


 これはカレンごと中にいる青の群集をどっかへ吹き飛ばしていく作戦ってとこか。まぁその辺の正確な意図は後で把握するとして、とりあえず下の方の塞ごうとしていた岩は崩れたから、俺らの脱出チャンス! って、あれ? 落ちてきてる岩が空中で止まった?


「ケイ、何かしたか?」

「いや、何もしてない。流石にこの数の岩は俺だけじゃ止められない……って、灰のサファリ同盟とモンスターズ・サバイバルか! あ、他にも沢山いる!?」


 何人いるのか分からないくらい、大勢の種族の人が俺らの近くへやってきた。万が一に備えて、浄化の要所を押さえられないように来たっぽい? もしも落ちてきた際に、物量で一気に攻めてカレンをランダムリスポーンさせる気なのかも。


「時間稼ぎありがとよ、グリーズ・リベルテと風音さん。テメェら、1個たりとも岩を下に落とすんじゃねぇぞ!」

「「「「「おう!」」」」」

「ラック! 頑張ったよー!」

「ナイスだよ、ハーレ! あ、アルマースさん、真下から移動してもらえる? 私達はこれから、この岩のドームが落ちないようにするからね」

「おう、了解だ。みんな、水の操作を解除して移動するぞ!」

「ほいよっと!」

「はーい! みんな、頑張ってー!」

「うん、頑張る! 下からも逃がさないし、岩も落とさせないよ! みんな、支えていくよー! 『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』!」

「「「「「『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』!」」」」」」


 灰のサファリ同盟とモンスターズ・サバイバルが中心になって、その他の人も交えて、落ちてきてる岩そのものを操作していってるのか。それを下から支えるように魔法産の岩を生成してるっぽい。ははっ、すげぇ人数での岩の操作。

 これだけの量の岩を支えるにはこの規模での操作が必要になるのに、土の操作はLv10に至れば1人で可能になると考えると……恐ろしいな。


 俺らはアルが操作する水が消えて、クジラの上に着地っと。みんなも無事にアルの上に降りて、そのまま岩のドーム……の残骸とでも言うべき場所の真下から移動していく。

 あれだけの人数を揃えてきたのは、真下の空いている部分を完全に塞ぐ為か。岩の操作の利用に長けた人は、灰のサファリ同盟やモンスターズ・サバイバルには多いもんな! 戦闘は不向きって人でも、ああいう感じで塞ぐ人員としてなら動けるもんだ! それにしても……。


「改めて見ると、やっぱりデカイな、これ」

「こんなもん、どうやって運んできたんだ?」

「……そう簡単に見落とすとも思えないかな。月明かりはなくても、この大きさは流石に……」

「意識が海水の方に行ってたのはあるけど、それでも謎過ぎるのさー!?」

「闇の操作で隠すにしても、限度を超えてるよね?」

「……闇の操作を……薄く広げても……3分の1……くらいしか……隠せない」

「マジか……」


 風音さんが言うなら、間違いなく隠せるのはその範囲まで。なのに、実情は真上に持って来られるまで気付かなかった。……そのカラクリはどうなってる? 偽装にも大人数が関わってた?


「岩を落とすなよ! 第2陣、爆破を開始!」

「「「「『アクアクリエイト』!」」」」

「「「「『ファイアクリエイト』!」」」」

「続けて第3陣も用意をしつつ、第2陣は大急ぎで魔力値を回復! 岩が無くなるまで、爆破し続けるぞ!」

「「「「「「「「おう!」」」」」」」」


 おぉ!? 2回目の盛大な爆発音が聞こえてきた!? あー、下から出てなんとなく状況が分かった。これ、さっき考えてたのとは内容が違うな。

 4方向から同時にスチームエクスプロージョンを放って、中身を押し潰す気だ。カレンごとどこかに吹っ飛ばすとか、そんな甘い攻撃じゃなかったよ。下の岩も、逃さない為に塞ぐのが目的か。……容赦が一切ないし、俺らごとされなくてよかった!


「わたしの出番は終わりっと! みんな、お疲れー!」

「あ、レナさんか。てか、もう離れてもいいのか?」

「うん、いいよー。もうそこまでカトレアも来てるから、後はあれを退けるだけだもん」

「え? あ、マジだ!?」


 レナさんの指差す方向を見てみれば、周囲を色んな種族の人達でガッチリと固められた栗の木のカトレアの姿がある。ははっ、カトレアをここまで連れてくるって意味でも時間稼ぎは必須だったのか。

 ここから青の群集から増援が来るとしても防衛戦力はバッチリだし、浄化の要所を押さえて守り切るのは成功したんだな。ジェイさんが死んでこの場にいないのが少し怖いけど、それでもあれだけの海水と雷を受けた後なら再編には時間がかかるはず。


「そうそう、さっき気にしてたアレの運び方ね。色々な場所の情報を集めて、それなりに推測はしてるよ」

「そうなのかな!?」

「レナさん、それを教えてー!?」

「うん、そのつもりで来たんだけど……あ、ちょっとだけ待って。動きがあるみたい」

「……動き?」

「ほら、上」


 レナさんが指差すのは、岩のドームの最上部の更に上にいる赤い龍って、紅焔さんか! 横には岩で飛んでる松の木もいるから飛翔連隊が揃っている……あ、ベスタとカインさんもいるのか。てか、紅焔さんはフレイムランスを発動中?


「レナさん、上で何をやってるんだ?」

「あえて、上だけ攻撃は手薄にしてるんだよねー。ほら、スミってリスとコケの同調の人がいるじゃない?」

「……偵察防止か。ベスタがいるのは……コケの監視?」

「うん、そういう事! まぁジェイさんへの警戒でもあるよ。あの中でリスポーンしてないとも限らないからさー?」

「あー、そういやそうか」


 移動種の木、それも小型化させたようなタイプの人がいればあの中でリスポーンも可能ではあるよな。仕留められた風に装って、こっそりと覗き見つつ指示を出していた可能性は……無いとは言えないか。


「やはりコケだけで出てきたか、ジェイ」

「……目の前にいるのがベスタさんという事は、読まれていましたか」

「ふん、あくまで可能性を考慮しただけだ。やれ、紅焔」

「おうよ! くたばれや、ジェイさん!」

「……カトレア!? それにこの人数は!?」

「悪いな、俺らの勝ちだ」

「ここまでの……ようですね」


 そんな声が聞こえてきたけど、そんなにあっさりとジェイさんが負けを認めるか? まだ何か仕込んでそうだけど……あ、フレイムランスが放たれたから、ジェイさんを仕留めたっぽい。


「岩が崩れ始めたぞ。第3陣、爆破を開始!」

「「「「『アクアクリエイト』!」」」」

「「「「『ファイアクリエイト』!」」」」

「第1陣、回復は済んだな!? 第3陣は大急ぎで魔力値を回復! 脱出はさせんし、圧殺していくぞ」

「「「「「「「「おう!」」」」」」」」


 おわっ!? 少しでも大量の岩に動きがあれば爆破していく感じか! ただバランスを崩しただけなのか、中で誰かが動いた結果なのかは分からないけど……欠片も逃す気はなさそうだ。


「あれで素直に諦めるとは思えん。紅焔、カインの用意した天然の火を内部に広げろ。ライル、後は予定通りにだ」

「えぇ、分かりました。ガンガン燃やして火を増やしていきますよ、カステラ、辛子! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「風雷コンビが斬りまくった木片が役に立つとはなー」

「魔法産の海水だったから、すぐに乾いてくれたのも助かるとこだね」

「おらおら、どんどん燃やしていくぜー! 『風の操作』!」

「おー! あっという間にすげぇ火だな! 流石はカインさんだぜ! それじゃやるか! 『炎の操作』!」


 えーと、なんかどんどんとライルさんが作った岩の足場の上で盛大に焚き火か何かが燃え上がって、それを操作した紅焔さんが岩の隙間へと送り込んでいく。

 本当に容赦がないな、これ!? 吸収出来ないように魔法産ではないとこが、更に容赦ない!? まぁ競争クエストでその辺を気にする必要もないか。


「んー、まだしばらくかかりそうだねー」

「……レナ……なんで……まだなの?」

「ほら、何度か爆破したのに一定以上にはまだ岩が進んでないじゃない? 多分だけど、まだカレンの『浄化の守り』が生きてて突破出来てないからだねー。岩が全部砕けて駄目になるのが先か、『浄化の守り』を削り切って仕留めるのが先か……青の群集がまだ何かを仕掛けてくるのが先かってとこだよー!」

「……なるほど……まだ……油断は出来ない!」

「最後の1つだけは勘弁してほしいけどな……」


 ここまでやって、まだ青の群集からの反撃があったらキツいわ! とはいえ、油断が出来ないのも確かか。ジェイさん、地味に本当にあの岩のドームの中にいたっぽいし……。


「まぁケイさん達は今のうちにちょっと休憩しててよ。その間に、気にしてる件の推測を話していくからさ」

「そうしてくれると助かる……」


 ぶっちゃけ、相当疲れたからなー! あー、このまま何も次の展開が起こらずに、勝ちまで行ってくれー!

 ともかく、今は消耗した分も含めて休憩! その間にこの岩のドームを気付かれずに持ってきた事の推測を聞いておこうっと。


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