第1224話 対戦の大詰め


 絶対に正解だとは断言は出来ないけども、青の群集が仕掛けてきた偽装手段の推測は聞き終えた。……岩のドームが大規模化した原因の一部は、どうも灰の群集の方にありそうだけど、まぁ流石にそこは仕方ない。

 今は既に済んでしまった事を考えるよりも、明確に変化が見えた方を重視していくべきだな。即ち、複数のスチームエクスプロージョンで周囲から押し潰しまくっていたけど、なんとか耐えていた状況が崩れてきた今の状態を!


 あ、紅焔さんが上で炎を盛大に渦巻くように動かして意識を向けさせてきた? なるほど、ライルさんが作ってる岩の上からベスタがこっちを見下ろしてきてるね。これは、全体への指示出しか。


「全員、攻撃を停止! 大量の岩はもう落として構わんし、それで一旦敵の姿があるかどうかの確認をする! 灰のサファリ同盟に通達! 今この場に来れていないメンバーで、カレンのリスポーン状況を大急ぎで確認しに回れ!」

「そこは大急ぎでやるねー! みんな、岩の操作は解除して距離を取って警戒を! もしまだ敵が残ってたら、その対処は他の人達に任せて私達は退避で情報チェックに動くよー!」

「「「「「「おー!」」」」」」


 ラックさんを筆頭に灰のサファリ同盟が中心になって落下防止をしてたけど、それが解除になって岩のドームは支えを失って一気に落下していってる。……あれだけの攻撃の中、生き残ってるとも思えないけど、決して油断は出来ない状況だ。


「それと、全方位へ警戒を怠るな! カレンだけが生き残ってるいただけで、プレイヤーの大半はとっくの昔に死んで離れている可能性もある。こちらの状況を明確に観察は出来ていないだろうが、今の動き自体は把握してるはずだ。灰の群集が優勢な状況だが、最後の反撃を狙ってくるならこのタイミングのはずだ!」


 あ、それは確かにベスタの言う通りか。さっきまでのカレンを仕留める為の岩で潰す状態から抜け出す手段が思いつかないのであれば、あえて無理に耐え切る必要はないもんな。まぁ最低でもこの岩のドームを構成していた人だけはいたんだろうけど。

 ジェイさんがあの岩のドームの中でリスポーンしていたのは確認出来たんだし、強襲メンバー全員がそこに連れてきていた移動種からリスポーン出来るようにしてた可能性はあるはず。……その人を真っ先に死なせて、そこからは変に耐えずに死んだ方が体勢の立て直しに動けた状況か。


 とはいえ、本隊と呼ばれた大規模な攻撃部隊にも大打撃を与えている。再編はしているだろうけど、その間にこの浄化の要所の周囲には灰の群集のメンバーが、カトレアを含めて既に大勢が揃っているしな。

 状況的にここから逆転は厳しいはずだけど、それでもこのまま何もせずに大人しく負けてくれる相手とも思えないし、仕掛けてくるなら――


「リーダー、カトレアへの『浄化の守り』の供給の為にエリア切り替え付近の防衛をしているオオカミ組より伝令! 青の群集からの強襲あり!」

「了解した! カレンの姿は……ないな。カトレアに浄化の要所の占拠を開始させるから『浄化の守り』の補充はもうしなくて構わん! オオカミ組を筆頭に、成長体や未成体を中心にカレンの捜索に切り替えろ! その強襲は、殺されてランダムリスポーンであちこちに飛ぶのに利用しろ!」

「了解! そう伝達しておく!」


 あ、オオカミ組の人達は全然見かけてないと思ったら、そういう動き方をしてたのか。まぁカトレアに向かって成長体や未成体の人を投げ飛ばしたり、水流や海流で流してきてたから、その部分の指揮を担当してた――


「って、全方位から爆発音!?」


 ちっ、やっぱり何も仕掛けてこないまま終わる訳もないか。でも、ここを凌ぎ切れば勝ちの可能性は高いはず。カトレへ向かって移動させる方が強襲されたなら、カトレア本体やここも狙ってくるのは当然か!


「やはり仕掛けてきたか。全員、音だけに気を取られるな! 吹き飛ばしてくる事自体もあるだろうが、その裏に隠れての地上からの奇襲も考えられる! 『森林守り隊』、即座に邪魔な大量の岩を吹き飛ばせ! 操作で固定されていなければ、どうにか出来るはずだ!」

「了解だ! 魔法砲撃でのストーム発動班、急いで排除の準備! 手筈通りに南側に吹き飛ばすから、そっち側にいる奴は計画通りに動け!」

「「「おう!」」」

「シンさん達、頼むぜ!」

「おう、任せとけさーて、最後の大暴れを開始といくか! 荒野エリアの意地、見せてやるぞ!」

「「「「おう!」」」」

「……その役目、付き合わせてもらおうか」

「ん? ヤドカリの十六夜さんって……あぁ、例の暴発運用の人か! おし、一緒に暴れるぞ!」

「……あぁ、そのつもりだ」


 ん? サボテンのシンさんを筆頭に荒野エリアメンバーが1PTほど、崩れ去った大量に岩のドームの残骸の前に並んでいるけど、何をする気だ? 地味にその中に十六夜さんも混ざっていったけど……。


「最後の猛攻は、想定済みなんだよ! 『並列制御』『砂の操作』『砂の操作』!」

「南側はぶっ飛ばす! 『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』!」

「天然の岩を利用出来るには、こっちも同じってな! 『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』!」

「全方位から攻撃、南側側は俺らが崩すまで! 『並列制御』『砂の操作』『砂の操作』」

「邪魔なものの撤去と、攻撃を同時にやるぜ! 『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』!」

「……ふん、たまには合わせて動くのもいいだろう。『並列制御』『土の操作』『土の操作』『土の操作』『土の操作』」

「全員、用意はいいな!? 森守りさん、頼む!」

「おうよ、シンさん! ストーム発動班、発動開始!」

「「「『魔法砲撃』『ウィンドクリエイト』『ウィンドクリエイト』!」」」


 7人の岩や砂や大きな石を操作した人達が、大量の岩に埋め尽くされた浄化の要所の真上を指向性のある暴風が3発撃ち込まれていくと同時に、凄い勢いで吹き飛ばされていった。

 ははっ、邪魔な岩の撤去するだけでなく、それを攻撃にも使っていこうってか! 特別に大きな岩は操作して持っていったみたいだし、少なくとも占拠の邪魔にならない程度には残骸は吹き飛ばしたんだな。……万が一に破壊されたとしても浄化の要所を岩で埋め尽くして、占拠しにくく出来るって状況でもあったのか。


「カトレア、占拠を開始しろ!」

『任せてください! これより浄化の要所の占拠を開始します!』


<競争クエスト『防衛せよ:ミヤ・マサの森林』の進行状況が更新されました>

<浄化の要所を灰の群集『群集支援種:カトレア』が占拠を開始しました>


 おっ、ベスタの呼びかけに応えてカトレアが浄化の要所の上に行って、根を伸ばし始めた。へぇ、占拠が始まればこうしてアナウンスが出るようになってるのか。

 進行状況はアナウンスはされないけど、カトレアの上部に占拠状況のゲージが出てるんだな。これが貯まり切れば、灰の群集の勝ちか。この猛攻でカトレアの邪魔をさせなければいい。それが残りの勝利条件!


「南からの攻撃は、ひとまずはシン達に任せておけ! 全体に通達! これより先は、おそらくまともに指揮を出せる状態ではない乱戦に突入になる。青の群集は大急ぎで再編成した状況だろうが、だからといって油断はするな! 逆にどこに強者が潜んでいるか分からない状況だと、肝に銘じておけ!  浄化の要所の占拠班以外は、各自の判断で青の群集を止めるように動いていけ 無理に倒す必要はないし、カトレアの占拠完了までの時間を稼げばいい! ここで最後にするつもりで、気合を入れていけよ!」


 そのベスタの呼びかけに対して、みんなが大声を張り上げていく。これが今いる全戦力での、最後の防衛戦になる。そうする為に戦うのみ! ここでカトレアが仕留められたら、それこそまた捜索からのやり直しだからなー!


 この場に集まってる人達は、それぞれの手段で迎撃準備を始めている。飛べる種族の人はもう空から吹っ飛んでくる相手を迎撃しに飛び立ってるいたり、地上からの攻勢に合わせて迎撃体勢を整えていってる様子も見える。


「意地でも守り切るぞ! お前ら、最終防衛戦だ、気合を入れろ!」

「「「「「おう!」」」」」

「海エリア組、いざって時はまた大津波をやっていくぞ!」

「巻き込み上等! とにかく守り切れ!」

「どんな攻撃が来ても、後ろには通すな!」

「わっはっは! 死んだら死んだで、後ろから襲撃するチャンス!」

「どんな手段でも、ともかく時間を稼いでいくよー!」


 さーて、気合いの入った声があちこちから聞こえてきてるし、俺らも吹っ飛んできてるのを叩き落としに……って、浄化の要所の占拠班は別なら、俺らの役目は別!? あー、なんとなく役割は分かってきた。

 今まで占拠をしてた俺ら1〜3班は、最終防衛線か。だからこそ、状況の把握と共に休憩をする状況になってたんだな。なるほど、俺らの中で岩のドームの破壊に動いてたのが一部の人だけだったのは、この為に休ませてたのか。


 あ、ベスタが俺らの方まで降りてきた。さて、ここからは俺達に対しての指示出しだろうね。とはいえ、大体の内容は予想出来る。

 何もせずにボーッと休憩しておけなんて事になるはずもないし、かといって攻め込む役割をさせてくるはずもない。さて、具体的にはどういう流れになるか……。もう周りで戦闘が始まったから、話す時間はそう無いぞ。


「もう時間がないから手短にだ。俺らが最終防衛線になって、カトレアを守り切るぞ。ただ、指揮については全体へ言った内容と同じにする」

「ほいよっと! そこはまぁ、班ごとのリーダーと、PTごとのリーダーでやればいい訳だな」

「ま、そうなるよな。任せとけ、リーダー!」


 サッポロさんもそう言ってるし、ここの役割分担はこれまでの防衛と何も変わらない。後は、もう全力で守り切るだけだ!


「お互いの邪魔になりさえしなければ、それで構わん。最悪、死んでも問題はない。ただ、意地でもカトレアは守り切れ。最終防衛戦、これより開始する!」


 時間が無いというのもあるだろうけど、これ以上はもう何も言葉はいらない。既にカトレアが浄化の要所の占拠を始めたから、完了のアナウンスが出るまで意地でも守り通すまで!

 俺らは最終防衛線だから、他のみんなの攻撃を抜けてきた相手と戦う事になるけど……この大人数をここまで突破してくる相手となると、どれだけいるのか。抜けてくる相手は、相当厄介な相手なのは間違いないだろうけどさ。


「およ? あらら、これはまた厄介な……サヤさん、ハーレ、アリスさん、気付いてる?」

「気付いてるかな! 近寄ってきてるね、例の偽装っぽい雲みたいなのが……でも、これは……」

「わー!? 偽装されてるのが1ヶ所だけじゃないのです!? えっと、東西南北に1つずつあるのさー!?」

「あー、これは嫌な感じだねー」

「はい!? ちょ、あの偽装が4つも!?」


 サヤ達は気付いてくれてるけど、俺じゃどの雲が偽装なのかが分からない! 分かってるのって、今の状態で何人いるんだ!? ……いや、今考えるべきはそこじゃない。どういう形で対策をするかだ。

 闇の操作は操作系スキルだから、乱す事自体は可能だし、黒の刻印の剥奪で消去も可能。でも、4方向から同時にとなると……あ、これならいけるかも!


「ハーレさん、ちょっと手伝ってくれ! 他にも遠距離へ投擲が使える人も協力を頼む! あの偽装をどうにかする!」

「了解です! アリスさん、手伝ってなのさー!」

「うん! 遠距離への投擲なら狙撃がいるよね!」

「ケイさん、そういう事なら俺もやるぜ」

「富岳さんもかな!? ケイ、私も参加した方がいいかな?」


 とりあえず俺はアルの上から飛び降りてっと! どっちの移動操作制御もまだ使えないんだから、ここは仕方ない。飛行鎧の方はもう少しで使えそうだけど、今すぐに使えなきゃ意味がない!

 準備するまでの間も、黙ってないでともかく移動。行くべき場所は、占拠を始めたカトレアのすぐ近く。必要なものは、そこに大量に転がっている!


「サヤと富岳さんの投擲だと、上空まで届くか!?」

「ケイさん、どの程度の上空まで必要だ!? 投擲の特性は持ってないから、そこまで遠くは無理だぞ!」

「閃光を使うけど、出来るだけ高くだ! 少なくとも地上で戦ってる人達が盲目の影響を受けない範囲!」

「え、どういう事かな!?」

「結構な距離が必要か!?」


 既に最後の戦闘中なんだから、準備を急げー! 偽装しているのを全員が分かるようにしないと、そこから崩れかねない! ……よし、砕け散った岩というか、もう小石に分類されるのが大量に転がってるとこまできた。


<行動値を5消費して『増殖Lv5』を発動します>  行動値 112/117(上限値使用:4)


 ロブスターのハサミを地面に突き刺して、その状態でコケを一気に増殖! ロブスターの表面を覆い切れてなかったから、これじゃ思ったほど広範囲の小石にはコケが広げられてないか。よし、もう一度!


「攻撃狙いじゃないから、威力自体はいらない! ともかく飛距離さえ出るなら、ぶっちゃけ投擲である必要さえない!」

「なるほど、偽装そのものを破るんじゃなく、周囲を照らして相対的に偽装の意味を無くすのが目的か。ケイ、合っているか?」

「ベスタの解釈で正解!」

「なら、ケイはその弾の準備を急げ。風雷コンビ、少し陽動に回ってもらっていいか? 上空に薄く広げるように電気を広げて、注意をそちらに向けておいてくれ」

「承知した! 行くぞ、疾風の!」

「ド派手にやるぜ! 行くぞ、迅雷の!」


 あー、もうびっくりするくらいにあっさりとベスタの言う事は聞くんだな、風雷コンビ! でもまぁ、意識がそっちに引きつけられてくれるなら、俺としてはその方がありがたい!

 さーて、それじゃこの競争クエストの最後の大勝負、大急ぎで下準備を終わらせてしまおうか! 偽装しているとこからの奇襲が始まる前にね!

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