第1217話 大きな動き


 現状の灰の群集の状況と、青の群集の動きは大雑把にだけど把握。全体像を詳細に把握するのは不可能みたいなもんだから、あれだけ分かれば十分。

 今は灰の群集は俺らがここに来た後の襲撃で出鼻を挫かれたけど、青の群集が1番の狙いにしてきたカトレアの確保は阻止出来た状況だ。まだ決定的な勝敗が決まる状況にはなってない。

 ベスタとのやりとりは可能な限り小声でしてたけど、1班のメンバーにはPT会話経由で断片的にだけど聞こえてはいるはず。でも、2班の方はさっっぱりだろうから、その辺は伝えないとね。


「1班、2班に伝達! 現状は把握したけど、俺らのやる事には変更は無しでこのまま継続! 青の群集に浄化の要所は絶対に渡さないぞ!」


 大声になり過ぎない程度に、それでいてみんなにはちゃんと伝わるように呼びかけていく。返事こそないけど、緊張感は高まった気がする。まぁここで変に返事するのに意識を逸らすような状況の方がまずいか。


 というか、まだ戦闘らしい戦闘は発生してないんだな。……ふむ、カトレアの件で青の群集は、動かすメンバーの再編中ってとこか? 状況が大きく変わってきたとこだし、カトレア捜索だけに戦力を回す事はないはず。

 でも、これは俺が大々的にいう訳にもいかないからな。可能な限り、ベスタへの合図をこっそりとみんなに伝えておかないといけない。……もう盗み聞きをしに来てる敵がいないとも限らないし。


「森守りさん、ちょっとアルのクジラの上まで来てくれ。伝えとく事がある」

「ん? 俺って事は、遊撃の役割についてか?」

「まぁそんなとこ」


 それもあるけど、だからこそ俺の近くに呼び寄せるのが不自然にはならなくなる。……よし、森守りさんがすぐ近くまで来たね。ここからは可能な限り小声で。


「ケイさん、俺らは何をすればいい?」

「先に遊撃としての頼みたい動き方の方を伝えるぞ。森守りさん達は、元々のここの防衛には組み込まれてないから、その範囲外で動きながらの警戒を含めて青の群集の探りを入れてくる連中の妨害を頼みたい」

「……なるほど、ケイさん達は大きくここから離れる訳にもいかねぇもんな。俺らがウロウロして、隠れにくくすればいいんだな」

「そういう事。『森林守り隊』はモンスターズ・サバイバルと同じように、灰のサファリ同盟の正式結成時に分かれて出来た共同体って聞いてるし、観察力はあるよな?」

「個人差はあるが、まぁ普通よりはあるはずだぜ。今はちょっと人数が少ないが……流石にそこは仕方ねぇか」

「3班が合流してくる時にも、『森林守り隊』の人達は来るんだよな? そっちと合流してもらう形でいいか?」

「そりゃ構わねぇが……それまで生きてるかどうかが問題だな。ま、そこは今言っても仕方ねぇか! おし、それじゃその役目は派手に目立つように――」

「あ、ちょい待った!」

「……悪い、ここで止まると不自然だからそのまま行くぜ。何か見つけたら、真上に小石を投げるから気にしといてくれや」


 遊撃の話についてはそれでいいんだけど、まだ話は終わってないのに戻られたら困る!? でも変に止めるのも何かあるって言ってるようなもんだし……先に伝言を頼みたいって言っとくべきだったか。


「ケイ、私の方で合図は伝えておくよ。3班を要請する合図は何かな?」

「合図は『閃光』だ。一応、発声だけで発動はしないつもりだけど、状況次第では実際に使う可能性もあるからそのつもりで」

「うん、分かったかな。それを2班に伝えてもらえばいいんだよね?」

「そうなる。すまん、ちょっと手順を間違えた」

「これくらいなら、なんとかなる範囲かな」


 サヤには俺が何の伝言をするつもりだったのかは分かってたか。まぁ合図そのものは言ってないはずだけど、合図を決めた事自体は分かるよな。

 あ、森守りさんがサヤの横を通った時に、蜜柑をを受け渡す形にしながらサラッと伝えていったね。あー、監視されているという想定で動くのは地味に面倒!


「さーて、俺らの役目は隠れてる青の群集の追い立てだ! 行くぞ、野郎ども!」

「「「「「おう!」」」」」


 森守りさんはそんな風に大声で宣言してから、周辺を警戒している2班の人達の横を通り過ぎていった。……多分、今の間に合図は伝わったよな? 確認するのも危ないから、そこは信じよう!

 それにしても、開始前に騒動を引き起こした割には、群集に反感を持ってるあの連中からの妨害らしき妨害は無いもんだな? 多少の牽制は入れてるし、単純に競争クエストの真っ最中だと手出ししにくいだけか? ……いや、疑わないって事にしたんだから、そこを気にする事自体が無しか。


「2班が来てから大々的な動きがあると思ってたが……特に目立った動きはねぇな? ケイ、その辺はどうなってんだ?」

「細かく説明してるほど余裕はないから、ざっくりと説明するぞ。今は大雑把に言って、最初の狙いがお互いに失敗して状況がリセットされてる段階。多分、動くメンバーを再編中のはず」

「……それが終わったら……激しく……仕掛けてくる?」

「その可能性が高いとは思うから、みんな要警戒で。それと……俺自身にも言える事だったんだけど、爆音に気を取られ過ぎないように。風雷コンビや風音さんがここまで来た手段だって、強襲としては有効――」

「はっ!? ケイさん、森守りさん達の合図の小石です! 西側!」

「西側に近い人、警戒! 他の方向も油断するな!」


 ちっ、こんなにすぐに何かあった時の合図って事は、もうすぐ近くまで探りに来てる青の群集がいたか! まぁ俺だって可能な状況なら、強襲する前に探りは入れるけどな!

 ついでに言えば、それがバレて意識が逸れた瞬間が攻撃チャンス! その辺はみんな分かってるみたいで、西側だけでなく全方位への警戒度が一段階上がったね。今までも決して油断してた訳じゃけど――


「仕留めに行くぞ、疾風の!」

「おうともよ、迅雷の!」

「って、またか! 風雷コンビ!?」


 くっそ、本当にベスタがいないと完全に制御が利かないな、このコンビは! いや、でも全くの考え無しで動いてる訳じゃないみたいだし、イレギュラー要素としてはありか!

 この2人の間でしか成立してない、謎の連携がとんでもなく厄介だけどな!


「南の上空より、銀光が多数! おそらく、強風の操作で吹っ飛ばしているものかと!」

「2班、迎撃開始! ここから本格的に襲ってくるぞ! ケイさん、悪い! 1班の方で西側の警戒に当たってくれ!」

「どうもその方が良さそうだな。そっちは任せろ!」

「おう、任せた! 上空だけに警戒するなよ! 森の中を抜けて攻撃してくる可能性も忘れるな!」


 2班のリーダーのサッポロさんが俺らの方に西側の警戒を任せてきたけど、確かに南からの攻撃は1人や2人どころじゃない。はっきりとは人数は絞りきれないけど、最低でも1PT……本気で攻める気なら、連結PT1つ分くらいの戦力は回してきてるはず。

 青の群集がどういう風に狙ってくるのかは、この攻防戦でどのくらいの戦力が来るかで探ってみるか。サッポロさんが言ってるように、上空だけが攻撃経路じゃないしな!


 ともかく俺らは西側を含めて、全体の警戒を……って、あれ? 西の方に向かって動いた風雷コンビが反転してきた? 今の動きはわざとか!


「わっはははははは! 引っ掛かったな、青の群集! やるぞ、疾風の! 『エレクトロクリエイト』!」

「上空を塞いでた俺らが退くと、飛んでくると思ったぜ! いくぜ、迅雷の! 『エレクトロクリエイト』!」


 あー、盛大に目立ってた風雷コンビが離れたのを狙ってくるのを、逆に狙い返すのが目的か。白の刻印の守護でチャージのキャンセルをしてても、ダメージは普通に入るもんな。

 俺の指示を無視してわざわざ目立つ位置にいたのは、この為か……。あれ? ちょっと思ったんだけど、ベスタの指示は聞くんだよな、この2人。事前にベスタからこういう風に動けって指示されてる可能性って……あぁ、もう! 仮にそうだとしても別にいい! 今は西側を――


「ケイ、西側の様子が変かな!? 戦闘はしてるみたいだけど、青の群集がこっちを攻撃してる気配がないよ!」

「って事は、陽動か! 今の襲撃以外にも何か狙ってる可能性があるから、1班、2班共に警戒!」


 南からは上から攻撃を仕掛けつつ、西からは地上からの襲撃? 確かに意識は逸れるけど、真逆の方向にしてないのは何でだ? 背後を警戒させた方が良いはずだけど……ただ単なる襲撃側の位置の問題?


「『爪刃乱舞』! くっ、森守り! 1人……いや、違う!? 3人抜けたぞ! サルが両手にそれぞれ1人ずつ抱えている!」

「3人!? このタイミングで……って、風雷コンビ、それは待て!」

「行かせるか! 『鋭角連突撃』!」


 姿が見えてない位置での状況だから、何がどうなってるのかがさっぱり分からん! 位置的には風雷コンビが斬り倒しまくった木々よりも先の位置だけど……って、確かに丸い種族を2人抱えたサルの人が飛び出てきた!?


「もう遅い! 行ってこい、お前ら! 『並列制御』『狙撃』『狙撃』!」

「「おう! 『アブソーブ・エレクトロ』!」」

「「なっ!?」」


 投げ飛ばされたのは、なんか丸いからアルマジロか何かだけど、そこはどうでもいい! 風雷コンビの昇華魔法を吸収するのを始めっから狙ってやがった!


「風音さん、火を! 俺が土で昇華魔法!」

「……分かった! 『ファイアクリエイト』!」


 もう完全に吸われ始めてしまったけど、過剰魔力値を魔法の強化に使われる前に仕留め切る! 仕留め切れなくても、溶岩で押し潰して動きだけでも封じないと!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 119/120(上限値使用:1): 魔力値 299/302


<『昇華魔法:ラヴァフロウ』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/302


「ちょ!? 反応が早い!?」 

「即座にそう来るか!?」


 慌ててるけど、とにかくこれでアブソーブ・エレクトロを発動してた2人は溶岩の下! その辺の木も一緒に燃え尽きてるけど、競争クエストで戦ってる最中にその辺の事を気にしてられるか!


「おし! とりあえずこいつらは封じたから、2班は予定通りに対処は頼む!」

「おうよ! 直接受けず、落ちたところを攻撃していけ! わざわざ真っ正面から付き合ってやる必要はねぇ!」

「「「「「おう!」」」」」

「ちっ、ここを抑えてる連中なだけあって判断が早いか! だが、こっちは消耗を気にしなくていい! ともかく攻めまくれ!」

「「「「「おう!」」」」」


 強襲してきた青の群集と2班の本格的な戦闘が始まったか。サッポロさんの指示で銀光を放ちながら突っ込んできた相手はそのまま地面に突撃させて、側面から攻撃をしていってる。

 それに対して青の群集はそのまま、次の応用スキルの発動に繋げて……って、連続体当たりを同時に何人もか! くっ、消耗は無視するみたいな言葉も聞こえてたし、勝負を決めに動き出したっぽいな!


「1班は2班の攻撃をすり抜けてきた奴を集中撃破で!」

「了解だ! 守り切るぜ、俺らの拠点!」

「負けられないであるよ、この戦い!」

「ケイさん、こっちの連中は倒したぞ!」

「了解っと! 森守りさん達、ナイス! そのまま継続して、周辺を探ってくれ!」

「おう、任せとけ!」


 もっと細かく指示を出していきたいとこだけど、そんな余裕はない! 物量差で押してくるのは想定してたんだから、ここからはそれを耐え切っていくのみ!

 どうしても必要なとこは俺が指示を出すけど、細かいところはツキノワさんと刹那さんに任せる! その為の役割分担で、それぞれの指揮を取るリーダーを決めたんだからな!


「……もう……効果が……切れる!」

「アル、海水を生成して味方の誰にも触れないように展開! ハーレさんとアリスさんは溶岩が消えると同時に拡散投擲!」

「電気の通り道を作ろうってか! 了解だ! 『並列制御』『シーウォータークリエイト』『シーウォータークリエイト』『並列制御』『海水の操作』『海水の操作』!」

「え、私も!?」

「アリス、こっちはいいからやってこい!」

「ツキノワ……うん、分かった! 拡散投擲なら、セットを切り替えたこれの出番だよね! 『魔力集中』『白の刻印:増加』!」

「おぉ、私と同じなのです! 『魔力集中』『白の刻印:増加』!」


 おっ、アリスさんの白の刻印が増加になってるのは良い誤算だな。アルの生成した海水は……よし、みんなを避けて上手く電気の流れを作っている。

 溶岩が消えてすぐに攻撃を仕掛けてきたとしても、これなら攻撃の照準を定めるのに戸惑いは必ずある。直接視界を共有してない限り、言葉で回避させられる状況ではないからな!


「おし、解除になった! って、はぁ!?」

「ちょ!? 海水!?」

「ハーレさん、アリスさん!」

「「『拡散投擲』!」」

「げっ!? 『エレクトロウォール』! あっ!?」

「防御に強化分を使ってどうすんだ!? くっ! 『エレクトロクラスター』!」

「吸われて終わりにしてたまるものか! 『自己強化』『高速飛翔』! なぁ、疾風の!」

「その攻撃は、全部俺らが引き受けるぜ! 『自己強化』『高速飛翔』! なぁ、迅雷の!」

「「なっ!?」」

「ナイス、風雷コンビ!」


 ははっ! 強化したエレクトロクラスターで無差別攻撃を狙ったみたいだけど、してやられた風雷コンビがやり返したか! いくら強化されたとはいっても、風雷コンビは雷属性かつ魔法型だから電気魔法のダメージの通りは悪い。

 移動速度を一気に上げて、エレクトロクラスターが落ちてくる前に誰かに当たりそうなのを見極めて当たりにいって防いでる。……本当に色んな意味で無茶苦茶なコンビだな! ……それでも結構なダメージだけど、他の人が受けるよりは相当マシなはず。


「もらったのであるよ! 【我が身を覆うは大地の鎧! 大地の突きにて、地へと還れ!】」

「ぐふっ!」

「がはっ!」


 えーと、相変わらずの無駄にオリジナルな詠唱の刹那さんの攻撃だけど……土属性に纏属進化して、その状態で地面にタチウオを突き刺したら、地面から銀光を放つ尖った岩が出てきて串刺しにしていった。

 今のは……刺突系の応用スキルと土属性の応用複合スキルか? いや、そこは今深く考えなくてもいいところ! とりあえず今の刹那さんの1撃で、アルマジロの2人は撃破完了っと!


「ケイ、次が北の上空から来てるかな!」

「およ? 東からは陸から来てるね」

「本格的に攻め込み始めてきたな!? 風音さんと風雷コンビは大急ぎで魔力値を回復! 全員、気合いを入れていくぞ!」


 俺もレモンを取り出して、魔力値は少しでも回復しておこうっと。全快にはほど遠くとも、魔法が多少でも使えればそれで戦略は大きく変わってくるしね。


 さーて、ここからが正念場だな! 一気に送り込める人数には限度があるし、こういう攻撃を何回にも分けてやってくる気なんだろうよ! でも、そんなのは元より承知! カトレアがここに辿り着くまで、意地でも守り抜くのみだ!

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