第1218話 勝つ為の防衛戦
少し前までの状況とは一気に変わり、青の群集からの攻撃がどんどん苛烈になってきた。ちっ、これはもうベスタ達3班の増援が……いや、まだだ!
もう少し引きつけて、青の群集からの敵の増え方が鈍ってからだ! まだ攻勢が激しくなり始めたとこだし、向こうは消耗はお構いなしで動いているんだ。でも、いつまでもこの増援ペースは続くはずがない!
「ヨッシさん、ポイズンミストをいくぞ! 移動阻害重視で!」
「了解! 『ポイズンクリエイト』!」
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 119/120(上限値使用:1): 魔力値 35/302
<『複合魔法:ポイズンミスト』が発動しました>
移動阻害を狙うから、毒としては麻痺毒と神経毒の両方で。まぁハッタリとして俺の指示ではない毒でも構いはしないけど、その辺の発動の偽合図でも決めておけばよかったかも?
「麻痺毒と神経毒の抗毒魔法を展開しろ! 可能な限り、その中に退避!」
「おうよ! 『アンティヴェニン・デュオ』!」
「こっちもだ! 『アンティヴェニン・デュオ』!」
「その間に毒霧を吹き飛ばせ! 『ウィンドクリエイト』『強風の操作』!」
「おう! 『ウィンドクリエイト』『強風の操作』!」
毒をどうやって無力化するか、その手段を見極めたかったのと、その指示を出す相手を特定するのが狙い! 麻痺毒と神経毒で動けなくなった人より、対処の指示と実際に対処した相手の排除を優先だ。
真っ向から全員潰すのは、人数差的に無理だからなぁ! 操作系スキルに何かで動きを阻害しようとすれば味方まで邪魔する事になるから、今は無視でいい。毒霧を吹き飛ばしたいなら勝手にしてくれっての!
「優先標的を、抗毒魔法の発動指示を出したトカゲの人と、実際に発動したハチの人2人、合計3人に設定! 毒の効果は無視していい!」
「了解なのさー! サヤ、トカゲの人を狙うのです! 『狙撃』!」
「分かったかな! 『魔力集中』『爪刃乱舞』!」
「露払いは任せとけ! 『ルートスキューア』!」
「ちっ! 灰の暴走種を優先的に狙え! 指揮系統を潰すのが有効なのは、お互い様だ!」
「行かせるかよ! 『連強衝打』!」
「クマを囲んで仕留めろ! 『爪刃双閃舞』!」
「闇雲に狙っても、当たらないかな! 『爪刃乱舞』『爪刃乱舞』!」
「やらせはしないのさー! 『連投擲』『連投擲』!」
「「なっ!?」」
「おらよ! 『リーフスライサー』!」
流石は、サヤ。ゴリラの連続パンチも、ライオンの連続の爪での攻撃も、最小限の動きで避けつつ、サヤのクマの爪でバランスを崩すように斬りつけている。その上でハーレさんが連撃カウントを使い切らせてるのはナイス!
「このレベルの近接相手に、近接で挑んでどうする! 魔法で畳み掛けろ! 『ファイアインパクト』!」
「「「『ファイアインパクト』!」」」
「……回復……させてもらう! ……『アブソーブ・ファイア』!」
「ちっ、火のアブソーブ持ちがいたか! 使用禁止魔法には火属性を加えとけ!」
へぇ、火属性を加えておくって事は、それ以外に既に禁止指定になってる属性があるっぽいなー。まぁどう考えても俺の水属性だろうけどさ。
その辺は想定内だけど、風音さんが少なからず今ので魔力値を回復出来たのは大きい。……とはいえ、今ここにいる相手を使っての回復はもう厳しいか。
「風音さん、もう少し回復しつつ、俺の防衛を頼んでいいか?」
「……任せて」
俺自身も戦いはするけど、ただ闇雲に戦えばいいって訳じゃない。俺自身が敵を多く倒すよりも、敵を冷静に観察して、状況判断を下すのが指揮としての役目! サヤ達が仕留めに動いたので、指揮を出していたトカゲの人は下がり気味か。
大人数で仕掛けてきてるけど、思ったほど連携は取れてない? こりゃ指揮を潰せば意外と楽……いや、それは油断だし、気を引き締めておかないと。とりあえずちょっと相手が混乱中の間に味方の確認!
2班の方は危なげなく処理をしてるし、サッポロさんを筆頭に各PTのリーダーが連携の指示を出しているか。大きな動きがある時でない限り、俺が下手に割り込む方が危険だな。それで1班の方は……。
「おら、吹っ飛んでけ! 『双打連破』!」
「ぐはっ!?」
「がふっ!」
「この乱戦で吹っ飛ばし過ぎだよ、ツキノワ。『連強蹴上撃』!」
「はーい、いらっしゃーい! 『踵落とし』『踵落とし』! この調子で、次々いくよー!」
なんかサヤの方に向かおうとしてる相手にツキノワさんと黒曜さんとレナさんの3人で、吹き飛ばし連携が出来上がってる!? 黒曜さんが使ってるスキルは初めて聞いた気がするけど、上へと連続で蹴り上げる連撃系の応用スキルっぽいね。
ツキノワさんが相手を吹っ飛ばし、それを黒曜さんが真上に蹴り上げ、レナさんが蹴り落としつつ、その反動で飛び上がってまた蹴り落としてる……。凄いな、この状況!?
「もう2人追加だ、おらぁ!」
「それ以上させるか! このクマどもを囲め!」
「させないよ! シオカラ、モコモコ! 『並列制御』『魔法弾』『魔法弾』!」
「いくよ、アリス! 『アイスインパクト』!」
「ぶっ飛ばしちゃえ! 『ウィンドインパクト』!」
「いっけー! 『並列制御』『連投擲』『連投擲』!」
おぉ、魔法弾での連携か。この乱戦の中なら、2人の魔法を狙いが正確なアリスさんが分割して投げ飛ばすってのもありだな。流石は同じ共同体で連携慣れしてるだけはある。
「ケイ殿! 凄い数の増援が来ているのであるよ!」
「ちっ! 今度は南の上空と陸の両方からか!」
「どうもそうみたいだけど……」
刹那さんとジンベエさんは、俺らアルの元にいる場所に様子を伺いつつ防衛へ来てくれたけど、よくない状況になってきた。こりゃ、本格的に準備が済んだ感じだな。
「……何人いるんだ、これ? あー、サヤ、深追いし過ぎずそろそろ下がってきてくれ。分断されても厄介だし、そろそろ状況が大きく動きそうだ」
「あ、うん、分かったかな!」
「ハーレさんは狙撃で行動値を節約しつつ、アルとヨッシさんと風音さんで連携して防衛。一気に全員では動かず、交代しながらな」
「了解なのさー! 近寄らせないのです! 『狙撃』!」
「おうよ!」
「了解!」
「……うん!」
麻痺毒や神経毒が切れた人達が動き出して、俺らに向かって攻撃を仕掛けてき始めた状況になってきたし、それ以上のヤバい増援も見えてきている。いざとなれば俺も本格的に動くけど……あの増援への対策を考えないと、一気に瓦解しかねない。
今すぐに3班を呼ぶ? それも可能ではあるけど、その動き自体は想定されている可能性が高いよな。やるとしてもそのまま単純に呼ぶだけじゃ駄目だ。そもそも、この攻撃してきている連中が特に大した事はないのが気になるけど……これは油断を誘う作戦か?
「灰の暴走種を仕留めろ! 『ファイアボム』!」
「ちょ!? おいこら、火魔法は禁止だってさっき言ってただろ!」
「え、そんな事を言ってたか?」
「言ってたんだよ!」
「お前ら、言い争いをしてる場合か!」
「……回復……ありがと。……『ブラックホール』」
「おわっ!? 吸い込まれる!?」
「ちょ、マジか!?」
「『根下ろし』! お前ら、掴まれ! 『根の操作』!」
「はっ! そんなその場凌ぎでどうにか出来るとでも思ってんのか! 『土の操作』『双打・重撃衝』!」
「ついでにこれでもくらっとけ! 『ポイズンインパクト』!」
「うげっ!?」
おー、この状況で根下ろしをするタンポポってどうなんだ? 防衛してる側の俺らならともかく、攻めてきてる側がそれとしてどうする……。なんか妙に連携どころかまともに指揮も取れてない感じだぞ、これ。
こうなってくると向かってきている最中の増援が大本命だな。今までで一番の規模の襲撃っぽい感じだし、今俺らに攻撃してきている連中は襲撃部隊の編成の時間稼ぎだったのかも? そもそも、こうして分析してる余裕がある方がおかしい状況だし……。
「『アイスウォール』! ケイさん、そろそろ3班を呼んだ方が良くない? 今は連携が取れてないけど、あの数で押されたらどうしようもなくなるよ?」
「まぁそろそろ頃合いではあるだろうけど……せめて、到着した増援の態勢くらいは崩しておきたいんだよ。そうじゃないと、逆に狙わねかねないし……」
「それは……まぁそうだよね。『アイスウォール』! 防御に使う統率個体を増やすよ!」
「……その方がいいか。でも、行動値には気を付けてくれ」
「了解! 『強化統率』! ハチ2号、3号、『防衛行動』! アルさん、サヤのフォローで行動値も魔力値を結構使ってたし、今は回復してて」
「あぁ、頼むぜ、ヨッシさん」
氷属性になった統率個体のハチが2体、ヨッシさんの周りを飛び始めた。1号は既に仕留められてるけど、再生成に必要な10分は……まだ経ってないか。でも、これで多少は防御もよくなったはずだし、少しだけどアルの回復の時間と、もう一手何かを仕掛けるくらいはいける!
戦闘の余波で駄目になっていく木々はあちこちに広がっているけど、そのおかげで色々と見渡しやすくはなってきた。……ふむ、いっそ斬り落とすってのもありか。出来そうなスキルを持ってそうなのは……。
「刹那さん、あれは使えないか? ほら、風の斬撃を飛ばせる、応用複合スキル」
「『連風閃』であるか? 纏風にすれば使えるには使えるであるが……拙者、今、纏土中であるよ?」
「今はさっきの『地昇突』が再使用時間中じゃねぇか? だったら属性を切り替えて対空攻撃で斬りつけるのはありだろうよ?」
「それもそうであるな、ジンベエ殿! それでは拙者、その役目を引き受けるのである! 【纒いし力を解き放ち、新たに纏うは風の衣】!」
よし、相変わらずな刹那さんだけど纏風への切り替えは問題なしだな。これなら遠距離からの風の刃での連撃が放てられる。
「ジンベエさんは、回避した連中が着地したタイミングを狙って連続突撃で撹乱を頼む。それまでに次の仕込みをするからさ。ヨッシさん、ディールさん、合図をしたらまた毒をいくぞ。内容は別々だから、そのつもりでよろしく!」
「了解!」
「おうよ!」
「了解だ!」
「富岳さん、ちょっと確認。アブソーブ系スキルは持ってる? 持ってるなら属性は?」
「俺が持ってるのはアブソーブ・ウィンドだが、使い所があるか?」
「ばっちりなー! 『黒の刻印:剥奪』を持ってる人はいる? 突っ込んでいける近接の人だといいんだけど、いなけりゃ俺らの方で――」
「それも俺は持ってるぜ、ケイさん。強風の操作を解除して、吸い取れってんだろ? 俺が適任だろうよ」
「両方いけるなら、そうなるけど……2人はいたぞ?」
「それも問題ねぇよ。どっちのカンガルーも剥奪にしてるからな」
「あー、そういう事か!」
そういう刻印系スキルのセットの仕方もありか。確かに富岳さんの戦闘スタイルだと敵に近付く事も多いだろうし、足場にしている操作系スキルを強制的に破りたくなる機会も結構ありそうだ。
別枠で使うんだから、1分間の再度の刻み込み不可の制約にも引っかからないもんな。これはいい意味での大誤算だし、これは富岳さんが適任というか、是非との富岳さんにやってほしいところだね。
「それじゃ任せた、富岳さん!」
「おう、任せとけ!」
さて、次に考えるべきは毒で動けなくなった人に対して何か処置をする気配がない事か。『アンチドート・コンバート』持ちを警戒してたけど、この場にはいないのか……そこまで至っている人自体がいないのか、どっちもあり得る状況もあり得る。
でも、その辺を隠していると疑い始めたらキリがないし、いないという想定でいく。ポイズンミストへの対処方法もさっきと同じという前提で考えるからこそ、富岳さんの役目に意味がある。
「アル、ポイズンミストが広がると同時に海水を地面スレスレに広げられるか? それなら消耗もそんなにないだろ?」
「ポイズンミストはカモフラージュだな? おし、任せとけ!」
「風雷コンビ!」
さて、ここで風雷コンビが俺の指示を聞いてくれるかどうかが重要にはなってくるんだけど――
「任せておけ! なぁ、疾風の!」
「おうよ! なぁ、迅雷の!」
「まだ具体的に何も言ってないんだけど!?」
「海水と我らとくれば、自明の理! なぁ、疾風の!」
「皆まで言わずとも伝わったぜ! なぁ、迅雷の!」
「「大暴れするのみだ!」」
「……まぁいいや」
具体的に何を発動するかまでは指定してないけど、そこは別に問題ないしなー。アルの用意した海水を通して、電気を流してもらえればそれでいい。そして、今の反応ならそれは十分通じているっぽい。
よし、徐々に攻撃が届く距離まで近付いてきてるし、作戦開始といきますか! まずは下準備から……これは相手に聞こえてもいいから大声で!
「ディールさん、ポイズンクラスター! 今度は毒で殺すつもりで、盛大に真上からいっちまえ!」
「おうよ! 『トキシシティ・ブースト』『ポイズンクラスター』!」
「ちっ、強化した毒での無差別攻撃か!? 抗毒魔法は……仕留められてんじゃねぇか! 各自、防ぐか相殺しろ!」
「自分で防げない奴は後ろに来い! 『ウィンドウォール』!」
「上から来るって分かってれば、どうとでも凌げるんだよ! 『ウィンドウォール』!」
サヤが引いた事で、離れていた指揮をしていたトカゲの人が戻ってきたか。2班も1班の他のみんなも、流石に一旦引き気味になってきている。いや、これはここからが勝負所だと分かってて下がってきた感じみたいだね。
今の対応だと、ポイズンクラスターでは毒の指定が出来ないという情報は無しか。という事は、毒魔法Lv10に対する警戒は薄めでいい。ポイズンミストを吹き飛ばすという形で対処してきたのなら、アブソーブ・アクア持ちがいない可能性が高いか。
「はっはっは! どれだけ防げるもんだかな! 『ポイズンクラスター』『ポイズンクラスター』!」
「お前ら、もう少し持ち堪えろ! あと少しで本隊が来るからな!」
おー、ここまでしてくれとは言ってないけど、盛大に毒が放たれまくってるなー。通常発動のクラスター系の魔法は無差別攻撃だけど、連発すると凄いな。
てか、本隊が来るって言っちゃっていいのか? ……これ、偽情報とかじゃないよな? なんか急に不安になってきた!?
それにしても地味に風雷コンビがさっきの最後の一言は大声だったけど、あれは勝負所って合図だよなー。制御は困難だけど、もうこのコンビは喧嘩しない限りは自由に動かした方がいいのかも?
でも2班の人達には全然指示が出せなかったのが痛い……って、サッポロさんが俺らの方まで下がってきた?
「ケイさん、2班の俺らは盾にしてくれていい。あの大勢の増援を乱してから、3班を呼ぶんだろ?」
「……伝わってて助かるよ。それじゃ、例の合図で作戦開始って事で」
「おうよ!」
さーて、それじゃ本格的な迎撃作戦を開始といきますか! ディールさんの毒で右往左往してる目の前の連中を始末するフリをして、増援……いや、本隊の態勢崩しをやっていこうじゃん! ……変に出てきた不安が当たりませんように!
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