第1199話 ゲームの事とリアルの変化


 風音さんの龍の背中に乗って、手早くジャングルの安全圏まで移動を済まし、今はログアウトして、現実へと戻ってきた。いったんの所では特に新しいお知らせもスクショの承諾もなかったしなー。


「兄貴、ちょっと質問ー!」

「……当たり前のように、俺の部屋に入ってくるんだな。それで、質問ってなんだ?」


 まぁ流石にログアウトのタイミングが完全に重なってたし、いったんとのやり取りは最小限だったから晴香がドアを開けてくるタイミングだったけどさ。

 やっぱり俺の部屋に鍵をつけるか? ホームサーバーに連動出来る電子キー辺りでも……いや、いっそ原始的な物理オンリーの鍵の方が確実? 特に悪さという悪さをされてる訳でもないけど……こうも高頻度で入ってこられるとなー。


「なんで兄貴の部屋って鍵はないのー?」

「それは俺が聞きたいわ! って、質問内容はそれかい!」

「それは今思っただけ! 質問は別の内容です!」

「……なるほど。それで、結局質問ってなんだ?」


 ただの思いつきで質問したい事とは別の事を聞いてきただけか。妙なタイミングで紛らわしい事を言ってくるなよ! てか、大真面目に晴香からの質問って何だ?


「えっと……峡谷エリアで、傭兵の権利を剥奪された人は大丈夫ですか?」

「ん? あー、そういやそんな人もいたっけ。あれならもう参戦資格はないから大丈――」


 いや、本当に大丈夫か? 競争クエストそのものには参戦出来なくても、情報的を流出させる事くらいは出来るよな。少なくとも、荒れそうになった場合に、誰がどういう反応を示す事くらいの確認は出来るはず。

 仮に傭兵としての権利を剥奪される事を前提とした作戦を用意されていたとすれば……俺の総指揮を貶したのはわざと? 何を言えば灰の群集が、邪魔な者として排斥するかを試してた? いやいや、これは流石に飛躍し過ぎだ!


「……兄貴? やっぱり何か問題ありそう?」

「あー、全然考えてなかった可能性だったなー。正直、なんとも言えないけど……なんでそんな風に思ったんだ?」

「あの人の言い方、なんかわざとらしい妙な違和感はあったのさー! 無自覚に変な風に怒らせる人は普通にいるからその手の人かと思ってたけど……群集に不満を持ってる人が集団化してるなら、なんだか危険な気がしたのです!」

「……なるほど」


 和を乱すような発言をしてたのは間違いないし、元々がそういう人だという話もあったから気にしてなかったけど……妙な感じのわざとらしさね。晴香にそういう印象があったのは、割と無視出来ない情報か。

 なんというか、本心を隠してた晴香が言うと地味に説得力が出てくるなー。でも、今はこう言っておくしかないね。


「気にはなるけど、それも推測の1つに過ぎないぞ。……本格的に考えるとしたら、暗躍してる無所属集団の正体がはっきりしてからだ。今は晩飯を食って、青の群集との総力戦に集中!」

「……うん、分かったのさー! 晩御飯、なんだろなー!?」


 晴香が気にする理由は分かった。今の群集に対して不満を持っている集団だとすれば……傭兵として、元々自分が所属していなかった群集にスパイとして潜り込んでいる可能性もあるか。

 こりゃ、妙に諍いを起こしてるような傭兵の人がいないかのチェックをした方がいいかもしれないね。俺らじゃそれは無理だから、顔の広いレナさん……いや、どちらかというと競争クエストに自分では参戦してない人の方がいいのか。そうなると……頼りになる心当たりは桜花さんだな。


「兄貴、考え込んでどうしたのー!? 今は晩御飯だって言ったのは兄貴だよー!」

「……それもそうだな。さてと、とりあえず晩飯を食いに行くか!」

「おー!」


 時間があれば……ちょっと桜花さんにその辺の話をしてみよう。多分、群集の作戦を動かす側の人ではない方がいいはず。……場合によっては、明日にでも慎也に探りを入れてみるのもありかもな。

 まぁそれは後での話だし、ともかく今は晩飯だ! ……昼は無理を言って早めにしてもらったのに、その意味は全然なかったんだよな。青の群集との対戦は時間が変わりすぎだけど、今度こそズレはしないはず!



 ◇ ◇ ◇



 色々と考えてけど、とりあえずは腹ごしらえという事で……晩飯の鯛飯と鯛の刺身は食べ終えた。たまにある釣り好きのお隣のおじさんからのお裾分けだったそうで、どうやら朝から船に乗って釣りに行って大漁だったらしい。


「ふぅ、満足なのさー! それじゃ先に行ってるねー!」

「ほいよっと!」


 そう言って晴香は先に自分の部屋へと戻っていったけど……俺は食器の後片付け。晴香にやらせると大惨事になるからだけど、この辺は今更ながら不公平だよな。……ちょっとダメ元で聞いてみるか。


「父さん、新しく食洗機を買ったりはしない?」

「ん? そういや前のが壊れてから、片付けは圭吾に任せっぱなしなんだよな。そうだなぁ……」


 正しくは晴香がぶっ壊したんだけど、父さんは晴香贔屓だからそこはあえて突っ込まない! この食器の片付けが省けるようになれば、それだけみんなと合流もしやすくなるし、ダメ元で言ってみた割には好感触! このまま、勢いで買い替え決定までいってしまえ!

 というか、何をどうしたら食洗機を壊せるんだろうな? うーん、そもそも食洗機が我が家にあったのって何年前だっけ? 1回目は保証で直して、2回目で保証期間切れで直すの自体を諦めたんだったはず? えーと、それが俺が高校に入ってから少し経った頃だっけか?


「あー、母さんはどう思う? 買い替えの躊躇ってたよな?」

「……そうね。2回も晴ちゃんが壊しちゃって、落ち込みが酷くなっちゃってたから……」


 ん? あれ、ちょっと待てよ。1回目に壊したのは相当前だった気はするけど、2回目に壊したのは……もしかして、ヨッシさんが引っ越すのが分かった頃か!?

 あー、母さんが買い替えを躊躇った理由が今になって分かった。別に買い替え費用が無かったとも思えないのに、買い替えない理由がよく分かってなかったけど……晴香が色々と不安定な状況だったからか。


「でも、今なら大丈夫そうだし……反対はしないわよ?」

「……おし、そういう事なら夏のボーナスで買うか! 明日には出るからな!」

「お、マジか! 父さん、母さん、サンキュー!」


 おし、ダメ元のつもりだけど言ってみるもんだな! というか、父さんのボーナスって明日出るんだ。まぁ時期的にそんなもんなのかも?


「でも、流石にすぐには無理ね。まずはどれを買うかを選ばないといけないし……お父さん、少し付き合ってもらえるかしら?」

「……あー、フルダイブで実寸大のチェックか。どうも俺はあれは苦手だ……」

「流石に何も見ずに買う気はありません! 前にあったのは少し邪魔だった割に使い勝手もちょっと悪かったから、この際だから作り付けを設置するのもいいわね」

「ちょ、母さん!? 地味に欲しがってたんじゃないのか!?」

「あら、それはそうよ? あ、晴ちゃんが下手に触らないように、ロックをかけられるものがいいわね。どうせなら――」


 あー、母さん的にも欲しいには欲しかったのか。晴香の状況が酷かったから遠慮してただけで、もう大丈夫になった今の機会を逃す気はないみたいだね。

 父さんは……まぁ全然使わない訳でもないけど、電子マネーやらフルダイブでの仮想空間の展示場とかは好きじゃないんだよなー。とはいえ、今は完全に主導権は母さんが持っていった状態。ならば、言う事は1つ!


「父さん、色々と任せた!」

「……どうも、あのフルダイブを始める感覚には慣れん! 便利なのは分かるんだがなぁ……」


 一応、家電量販店とかは存在はしてるけど、緊急時の間に合わせ用か、仮想空間で展示場を構えてる店で買った商品の受け取り場所なんだよな。もしくは、その場でフルダイブしてのお試し。父さんが言うにはもっと昔は実物を置いてたらしいけど、その辺はよく分からん!

 実物と遜色ないものを、仮想空間内ではあっても実際に使えるんだから便利だと思うけどなー? 候補の品を選んで見積もりデータを発行してもらえば、携帯端末の方から実際の我が家にAR表示で置いてみる事も出来るしさ。


「あ、そういや父さん、俺の部屋に鍵が無いのはなんで? 晴香の部屋にはあるよな?」

「ん? 晴香の部屋のは後付けで、元々どっちの部屋にもないぞ? というか、家の中にはトイレの簡易的な鍵しか付けてねぇぞ?」

「……え、マジ? あ、言われてみたらそういやそうだった」


 今更ながら、リビングにも、父さんと母さんの寝室にも、他の部屋にも鍵は無かった。むしろ、晴香の部屋だけにある方が変なのか。

 兄妹だって判明してから晴香が入り浸るようになるまで、実際にそれで特に問題なかったしなー。てか、いつから晴香の部屋に鍵があったのか、地味に知らないような気が? ……その辺、全然意識してなかった。


「まぁ晴香が受験勉強に集中したいからって、後から設置したんだが……」

「鍵が欲しかった理由自体は……別でしょうね」

「……なるほど」


 晴香自身が具体的にどういう風に考えていたかは分からないけど……その鍵は、家族にも見せたくない事があったからか。あー、もう俺は本気で色々と気付いてなかったんだな……。


 そうなると、俺の部屋へと勝手に入ってきてるのは……晴香なりの寂しさの埋め合わせなのかもな。うーん、多分この辺は本人に聞いても絶対に言わない部分だろうね。つくづく実感してるけど、晴香は自分の感情を隠すのが上手すぎる。

 今は色々と吹っ切れたみたいだけど、ヨッシさんが近くにいなくなった事実は変わらない。もしかすると落ち込んでた自分の部屋だと、変に嫌な気持ちを思い出すとかはあるのかも? 


「年頃なんだし、鍵が必要だと言ってきたら用意はするつもりだったが……どうする?」

「あー、どうしよう……?」


 俺が言えば用意はしてくれるつもりでいたのか、父さん! でも、なんというか……俺の部屋に入ってくる理由が分かってくると、鍵をつけて入れなくし難いな!?

 でも、鍵が欲しいといえば欲しい。流石に問答無用で開けられまくるのも、ちょっと面倒な時もあるもんなー。ずっと鍵をかけておかなくてもいいけど、入られたくない時に閉められるようにはしとくか。


「それじゃ父さん、鍵を頼んだ!」

「おう、任せとけ! あー、母さん?」

「……一緒に選びましょうね? 食洗機とホームサーバーと連携出来る電子キー」

「やっぱり駄目かー!?」


 なんだろう、この光景は? いや、まぁ父さんがあんまりフルダイブが苦手なのは知ってるけど……そんなに嫌なもんなのか? うーん、その辺の感覚はよく分からん!

 まぁいいや、後は任せて自分の部屋に戻ろうっと。あんまり頻繁にある訳でもないけど、晴香と喧嘩をしない訳でもないからなー。そういう時には問答無用で閉め出せるようにはしておきたい。あと、普通に朝は寝たい時!


「あ、圭吾! 多分、鍵も食洗機も設置は来週の連休の何処かになると思うが、それで問題あるか!? そこで無理ならもう少し後になるが……」

「それで問題なし!」

「おう、了解だ!」


 そういや、来週は月曜日が海の日で祝日だから3連休だったっけ。そこを乗り切って週末になれば、遂に夏休み! 来年は受験だから、高校時代で気兼ねなく思いっきり遊べる夏休みは今年までか。……進路も考えていかないとだなー。



 ◇ ◇ ◇



 ちょっと予定外に時間がかかってしまったけど、自室に戻って再びフルダイブ。19時は過ぎてるし、いったんから新しいお知らせは何かあるかな? えーと、今回の胴体には……『競争クエストは遂に終盤戦へ突入! その先に何があるのか!?』となっている。

 その先に何があるのかって……何かがありそうな思わせぶりな書き方だな!? 予定としては大型アップデートが……って、それはまだもうちょい先か。


 前回の競争クエストの次は、共闘イベントがあったっけ。今回の競争クエストが終われば、2回目の開催の共闘イベントがある?

 可能性としてはありそうだけど……流石に忙しいのを連発はキツいから、少し休憩期間が欲しいよな。その辺、どうなんだろね? ちょっと聞いてみるか。


「いったん、すぐに戦闘タイプのイベントの連発になるのか?」

「次の開催する何かについては、まだ答えられないよ〜?」

「……何かあるのは間違いないんだ?」

「そりゃね〜! ただ、色々な要望があって、それに合わせての微調整は行っていくよ〜!」

「……なるほど」


 要望に合わせて、日程調整くらいはするって事か? そうなると、流石に競争クエストが終わってすぐに共闘イベントが始まる事もないのかも。

 あ、でも競争クエストに参加してる人の方が少ないって話だし……そうでない人も参加する事が多かった共闘イベントをすぐに始めるって可能性もありそう? って、どっちの可能性もあって分からんわ!


「……大型アップデートと同時に、何かイベントが発生とか?」

「申し訳ないけど、お答え出来ません〜」

「だよなー!」


 今日が7月9日で、大型アップデートが20日の実装だったはず。……何もない期間を1週間くらい作って、軽いイベントでも挟んで大型アップデートで共闘イベントを開始って可能性はありそうだ。

 もし共闘イベントが開始になるなら、事前にその告知は出てくるはず。前回はプロモーションビデオがあったし、前兆のイベントを仕込んでくるのかも? でも、これは推測以上にはならないし、次の事よりも今の事を考えよう!


「まぁその辺はお知らせが出るのを待っとくわ。そういや、スクショの承諾はある?」

「今は特にないよ〜」

「ほいよっと。それじゃコケでログインをよろしく!」

「はいはい〜! 夜からも楽しんでいってね〜」


 そんな風にいったんに見送られながらゲーム内へと移動していく。さーて、競争クエストも残すところ、あと2戦! 今日中にそのうちの1戦が終わるし、明日には最終戦が総力戦として待っている。

 なんだか無所属の不穏な様子や、その正体自体に不穏なものを感じるけど……ともかく頑張っていくのみだな! どっちも勝ってやろうじゃん!

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