第1200話 総力戦の前に


 なんだか思わせぶりでいて、なんとも微妙なお知らせを見てきたけど……まぁそれはまだ先の話だからいいや。すぐに合流出来るようにジャングルの安全圏でログアウトはしておいたから、ログインはそこからで!

 えーと、先にハーレさんがログインしてるはずだけど、父さんや母さんと色々話をしてたから少し遅くなったなー。まぁそれでも20時半くらいなもんだから、時間帯としては問題なし! とりあえずこれを使っとこ。


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 121/121 → 120/120(上限値使用:1)


 競争クエストの真っ最中だから、本格的にLv上げに専念出来ないのが痛いなー。まぁ勝っても負けても、競争クエストの参戦ボーナスで後から経験値は貰えるからいいけどさ。

 どうも今回の競争クエストって上の方で成熟体Lv10くらいを想定してるっぽいし、今のLv8になっていれば割と十分なLvではあるみたいだしね。いや、もう少しでLv9には上がりそうだから、そこまでは上げておきたい気もするけど!


「あー! ケイさん、やっと来たのです!」

「ん? あー、上か」


 なんだか上から声が聞こえてくると思って見上げてみれば、いつものようにアルに乗った状態で、ハーレさんがこっちを見下ろしてきていた。PTは解散状態になってないから、アルが解散にならないように維持してくれてたか。

 風音さんも既にいるから、俺が一番最後だったっぽい。ちょっと父さんと母さんと話してたのが、思ったよりも長くなり過ぎたなー。


「とりあえず上がってこい、ケイ! 『根の操作』!」

「ほいよっと!」


 俺の目の前まで降りてきた根をロブスターのハサミで挟んで、アルに引っ張り上げてもらう。いやー、味方だとこの辺の根を切る心配がないのはありがたいもんだね。


「少し遅かったみたいだけど……何かあったのかな?」

「リアルの方で両親と話しててなー。それでちょっと遅くなった」

「私は除け者なの!?」

「……今回に関してはイエスだな。誰かさんがぶっ壊した食洗機の買い替え話になってたんだよ」

「さーて、ケイさんも来たので、ゾンビなヘビを倒しに行くのです!」

「おいこら、露骨に話題を逸らそうとすんな!?」


 わざと壊した訳ではないんだろうけど、ハーレさん的には話題にしたくない内容みたいだな、この反応! まぁ自分が壊したものの買い替えについての話には、わざわざ加わりたくもないか。


「壊れて買い替えずに撤去したって聞いてたけど、買い替える事になったんだ?」

「なんか壊れて以降、食器の片付けは俺の役目になってたからなー。ダメ元で話してみたら、そりゃもうあっさりと新しいのを買う事になったぞ」

「ケイがハーレさんより少し遅れてログインしてくるのは、確かその手の片付けをしてるからだったな。そうなると、ハーレさんとタイミングはほぼ同じになるのか?」

「多分、そうなるなー。次の3連休のどこかで設置を頼むみたいだし、そこから後の話だけど」

「まぁタイミング的にそうなるか」

「あはは、いくらなんでも今から買って……あれ? 設置を頼むって、割と大掛かり?」

「……詳しくは分からんけど、母さんは張り切ってたな」

「ふふっ、おばさんのその様子はなんだか想像つくかも」

「……ヨッシさん?」


 なんでそこで笑った? あ、そうか。俺の母さんとヨッシさんって、なんだかんだで面識はあるんだった。俺だってずっと家にいる訳じゃないし、家にいたとしても誰かが来てても、わざわざ顔を出すような事もしてなかったっけ。

 頻繁にではないけど晴香が誰かを家に連れてきてた事はあるから、それがヨッシさんだった? あー、その辺まで意識して見てなかったからなー。幼馴染なんだし、それくらいはある方が当然か。


「リアルの話はそこまでかな?」

「……話が……脱線し過ぎ?」

「あー、それもそうだな」


 アルのクジラの背中の上に到着したし、流石にアルやサヤや風音さんにはさっぱり伝わらない内容はこの辺で切り上げにしとこ。……これ以上はサヤが拗ねそうだから、その辺は要注意! 


 それにしても、引っ張り上げてもらいながら周囲を見回してみたけど……ここの安全圏って人が意外と少ないんだな。全く人がいない訳ではないけど、多い訳でもない。

 もうこれは浄化の要所を押さえにいく人達の集合場所として、人払いがされてる? なんか呼び方が長いから、占拠班とでも勝手に呼んでおこうっと。うーん、あんまり自称強者が集まらないようにとは思ってたけど、この人の少なさはどうやったんだ?


「アル、少し気になったんだけど、これってもう人払いがされてる?」

「いや、それはされてねぇぞ。多分だが、ジャングルの方に参戦する人は集まってるはずだ。大急ぎでジャングルの方へ移動してる人は結構いたからな」

「……その時に……混み合ってたから……参戦しない人は……避けてるみたい?」

「あー、そういう感じか!」


 なるほど、ここの安全圏を出てすぐの場所でも、20時から割り振りを開始してるんだもんな。20時前後でその途中にあるここが混雑するのは、よく考えたら当然の事か。

 ベスタの事だから、その辺の事も考えてそれぞれの集合場所に設定したのかも? 別に占有エリア自体は他にもあるんだから、ジャングルに2ヶ所も用意する必要はなかった気もするし。


 でも他の場所は荒野と海だから、適応が必要な種族の人数を考えたら、そうでもない? うーん、まぁ結果としては今の状況が良いような気もするし、深く考える必要もないか。


「そういや、これも確認。サヤ、ヨッシさん、頼まれた役目を引き受けるって事で良いんだな? そうじゃないなら、すぐにでもここは離れるけど……」

「今更、そのくらいの無茶振りはなんて事ないかな!」

「もう何度も囮の役目はやってるし、その辺は問題ないよ」


 まぁここにみんな集まってた時点で、それはもう大体分かってたようなもんか。もしサヤかヨッシさんが賛成していなかったなら、俺やハーレさんへはフレンドコールで後から連絡して、ここは離れてただろうしね。


「おし、それじゃ大暴れをするって事で決定だな!」

「……今度こそ……青の群集は……叩き潰す!」

「風音さん、まだそれはちょっと早いのさー!?」


 風音さんの戦意というか殺意は全然変わってないようで何よりだよ。まぁ浄化の要所を真っ先に押さえに行くなら、激戦が予想出来る内容だしなー。ジェイさんが大人しく後ろで下がって見てるとは思えないし、直接リベンジを果たす機会もあるはず。


「さて、それじゃ時間潰しも兼ねて、そこのゾンビな大蛇を倒していくか。ケイには具体的にどう見えてんだ?」

「えーと……腐った木が、とぐろを巻いてる感じ?」

「もの凄い変な感じなのさー!?」


 普通サイズのヘビならツタみたいな感じで見えるんだけど、大蛇となると木のサイズだから違和感がとんでもないな!? あー、前はシンプルなデフォルメで大丈夫だったのに、馬鹿フラムが余計な事をしたので駄目になったし……。

 ん? あれ、ちょっと待てよ? あれからなんだかんだでそこそこ時間は経ったはずだし、元々駄目になったのは気分的な部分の影響が大きい。……今なら苦手生物フィルターを緩めて置き換えじゃなくてデフォルメに戻しても大丈夫かも? 俺の弱点になり得る部分だし、ここはなんとかして――


「苦手生物フィルターをかけまくって、あえて変な光景のスクショを撮るのもありな気がしてきたのです!」

「あ、それは面白そうだね。またスクショのコンテストがあった時には、それでやってみる?」

「でも、それってスクショには苦手生物フィルターの内容が反映されるのかな?」

「あぅ!? それは試して見たことがないから分かんないのさー! はっ!? ケイさん、試してもらってみていいですか!?」

「……まぁ別にそれくらいはいいけど」


 まだ大急ぎで動かないといけない時間でもないし、今は特にゾンビな大蛇と戦闘中のPTもいないしなー。苦手生物フィルターを緩める前に、今の状況でスクショを撮ってみるのもありか。


 それにしても……そういう苦手生物フィルターの使い方は完全に想定外。まぁそもそも苦手な生物に対して使うものなんだから、わざわざそれをスクショに撮りたいとは思わないんだろうね。

 とにかく今は試しに撮ってみるとして……おし、撮れた。俺の目には苦手生物フィルターがかかった状態でのスクショに見えるけど、これを誰かに渡すとどうなるかが問題の部分だな。


 えーと、スクショの共有は……あった、あった。今は……PT間での共有でいいか。ハーレさんだけに見せてもいいんだろうけど、他のみんなも気にはなるだろうしね。


「おぉ!? ちゃんと苦手生物フィルターが反映されたスクショなのです!?」

「……これは、大蛇と聞いてなければ何か分からないかな?」

「上からだからとぐろを巻いてるように見えるけど、横から見たら腐った木を積み上げてる風にしか見えないかも?」

「なんというか……燃やしたくなる光景だな。瘴気も出てるから、擽ってる炭みたいにも見えなくもないか」

「……これは……よく燃えそう」


 みんなそれぞれに好き勝手な事を言ってはいるけど、どうやらハーレさんの目論み自体は上手くいきそうだ。とはいえ、次のスクショのコンテストがいつ開催されるかは……全く不明だけどなー!

 少なくとも先に共闘イベントが来てから、その後に第2回目のスクショのコンテストじゃね? あー、でも必ずしも同じ順番になるとも限らない? 短めの期間でスクショのコンテストを開催して戦闘系のイベントの間を開けるって可能性もあるにはあるな。


「さてと、ちょっと苦手生物フィルターをデフォルメまでに弱めてみるか」

「え、ケイさん、大丈夫なの!?」

「大丈夫かどうかを試す為にやるんだよ。……ぶっちゃけ、見た目が違い過ぎるのも支障はあるからな」

「……確かにそれはそうかな?」

「ケイが一番、苦手な生物との遭遇確率が高いんだしな。ただ、無茶はするなよ?」

「それは分かってるって。……さーて、平気に戻っててくれよー!」


 フラムが3rdでまたヘビを作ってきたりしない限りは、これで大丈夫なら問題はなくなるはず。赤の群集にはフラム経由で俺がヘビが苦手だと伝わってる可能性は高いし、ウィルさんがそこにつけ込んでくる可能性もあるもんな。

 正直、霧の森の中でヘビの集団とかやられたら、今の状態だと変に敵の種族を正しく認識出来ずに危険になる可能性はある。フラムが言わずにいる可能性もあるにはあるけど……そこを楽観視するほど、あいつの口の固さは事は信じちゃいない。


 だからこそ、今のこの都合がいい状態であのゾンビな大蛇で実験するまで! という事で、設定を開いて苦手生物フィルターの設定を緩めて……よし、これで以前の設定に戻ったはず。この設定で、平気かどうか確認だ!


「あ、普通に平気だな。うっわ、ちょいちょい肉が無くなって、骨が見えてるのか、この大蛇……」


 リアル寄りではなくてでデフォルメされてはいるけど、それでも腐ってるようなゾンビ感は普通に分かるもんだなー。まぁそれは見た目的に判別材料として重要な部分だし、ヘビをちゃんとヘビの形で認識出来るように戻ってるのは助かった!


「普通に見えるのはよかったかな!」

「だなー。ぶっちゃけ、ウィルさんにヘビの集団とか用意されたらどうしようかと思ったし……」

「ケイ、それはジェイさんにも言える話じゃねぇか?」

「ジェイさんって俺がヘビが苦手なのは知ってたっけ……?」

「……マムシさんにそういう話をした事はなかったか?」

「あー、そういうのもあったような、なかったような?」


 うーん、ちょっとその辺の記憶は怪しい。でも、俺がヘビが苦手だと知っているなら、ジェイさんが使ってこないのも不思議なとこではあるよなー?

 マムシさんとは一応戦えてはいたから大した弱点だとは思われてない? どうもそれは違和感があるけど……。


「あ、ここぞという時の切り札に残してる可能性はありそうだ! ジェイさんの場合だと特に!」

「……それは……ありそう? ……使うなら……今回?」

「確かにそれはそうなのさー!? 何度も使えない手段だから、とっておきの手段に取っておいてる可能性はあるのです!」

「良かったな、ケイ。ここで試しておいて」

「まぁ絶対にそうだとは言えないけどなー」


 でも、これで不安要素が1つ薄れたのは間違いない。ヘビに対する苦手意識が無くなった訳ではないけど、それでも正確に種属を把握出来るようになったのは大きな――


「そういえば、スクショのコンテストでヘビでアナログ時計を作ってたのもあったかな? 確か、あれって青の群集の団体部門だったよね?」

「おぉ!? 言われてみれば、確かにあったのさー!」

「えっと、名前もヘビ的な名前だったよね? なんだっけ?」

「確か……アオダイショウじゃなかったか? そうか、よく考えてみたら普通に青の群集にはヘビの集団がいる可能性もあったんだな」

「……そんなのもあったなー」


 うん、あれは確かただの枝に見えてたはず。というか、スクショを取った時に苦手生物フィルターが適応されるのは今回知ったけど、ゲーム内でスクショを見る場合でも普通に効果があるんだったね。……まぁゲーム内で苦手生物フィルターの効果が出てる範囲なら問題なしって事で、大丈夫なはず!


「おし! こうなったら、むしろヘビを使ってなんか仕掛けてこいやー!」

「……それを……返り討ち!」

「そういう事だ!」

「……上等!」


 ヘビを克服した……というのは少し違うけど、それでも戦闘に支障が出ない範囲にはなった。俺らがPTで動くのは想定してるだろうから、俺単独を狙ってくるのは難しいはず。

 作戦として考えられるとしたら、俺だけ見えてるものが違う点を利用しての状況の混乱狙い。やるとしたら、ツタ系植物とヘビを混ぜて、どっちか分からなくする事くらいだな。でも、それはもう有効じゃなくなった。


「ま、その辺は片付いたとして……あのゾンビの大蛇を倒すのは結局どうすんだ?」

「まだ集合時間まで時間はあるし、倒していくぞ!」

「「「おー!」」」

「了解だ!」

「……うん!」


 チラホラと見知った人も転移してきてるし、本格的に作戦が動き出す前にこれはやっとこう! 今倒すのが必須って訳でもないけど……地味にLvが上がる手前で止まってるからなー。可能なら、これでLv9に上がってくれ!


 

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