第1191話 協議の開始


 もうなんか嫌な状況になってきてるけど、とりあえず協議自体は開始になった。あー、フラムじゃなくて水月さんに来てほしかった……。

 俺への嫌がらせの為に、わざわざこいつを連れてこなくていいじゃん。俺が来なかったら意味がないのに、なんで連れてきたんだろう?


「さて……どのような順番で決めていきましょうか? 赤の群集にとっては、片方は無関係な案件ではありますし……」

「その辺は承知済みだから、問題ねぇぜ! 先に今日の分を決めてってくれ!」

「……なるほど。フラムさんはそのように言っていますが、赤の群集代表としての総意だと思って構いませんか?」

「あぁ、問題ねぇぞ。別にフラムは飾りで連れてきた訳じゃねぇしな」

「代表の一員と認識してくれ。……特にケイさん」

「俺、名指し!? ……まぁ分かったけど」


 ウィルさんにまさかの名指しで言われたけど、フラムは俺への嫌がらせだけって訳でもない? ……というか、今日の分を決めて……? それって、元々赤の群集は全群集での総力戦は今日のつもりではない?


「……との事ですが、灰の群集の方々はそれでよろしいでしょうか?」

「あぁ、それで構わん」

「問題ないかな! ……ケイ、あまりリアル基準だけで考えない方がいいかな?」

「……それもそうかもな。ジェイさん、俺も問題なしだ!」

「では先に、ミヤ・マサの森林での総力戦の協議を始めましょうか」


 フラムのリアルでの方は知っているけど、よく考えたらゲーム内……それも赤のサファリ同盟としての動きで具体的な事はろくに知らないもんな。

 知ってる範囲としては不動種として中継役をしててそれなりに知名度はあるくらい……って、ここに来る理由としてはそれで十分じゃん!? リアルの方を知ってるから変に否定したくなるけど……事実だけを抜き出して考えれば、灰のサファリ同盟の不動種の人や桜花さんクラスの人が参加しにきているのと同じか……。


「回りくどいのは面倒くせぇし、ジェイに任すと裏があると警戒されるだろうから俺から言わせてもらうぜ! 青の群集としては、今日の夜にミヤ・マサの森林での総力戦を望む!」

「協議したい内容としては斬雨が言った通りだ。灰の群集としてはどうだ?」


 とりあえずフラムの事は今は頭の中から放り出して、青の群集との総力戦の協議に集中だな。ある程度は考えてはいたけど、やっぱりこの後すぐに対戦って形は望んではいなかったか。

 さて、ここは提案を受け入れるか、それとも突っぱねるか……時間帯的には夜からの方が灰の群集としても都合はいいけど、あっさり青の群集の希望を受け入れ過ぎるのもなー。


「……断ると言ったらどうする? 度重なる変更につぐ変更だ。青の群集の都合ばかりに合わせる理由もないが?」

「……それを言われると厳しいのですけどね。ですが、疲弊している状況で総力戦を望みますか?」

「ふん、理由はどうあれ、そこは時間をかけ過ぎた青の群集の失策だろう? なぜそれに合わせなければならん?」


 おー、ベスタはとりあえずは突っぱねてみるつもりか。夜の方が都合がいいとはいえ、元々青の群集の都合に合わせる形で変更になってきてるもんな。

 今日の夜ともなれば赤の群集の動きも関わってくるし、何かしらの譲歩を引き出す気か。その辺をちょっと突いて――


「赤の群集としては、この青の群集からの提案はどうなのかな? 今日の夜に灰の群集と青の群集での総力戦になれば……今日はもう無理だよね?」


 おっ、サヤがそこに切り込んだ! この青の群集からの提案は、赤の群集が今日はもう何もしないという大前提が元になっているもんな。いくらなんでもこの1戦が終わった直後に全群集での総力戦をしたいなんてのは……無茶があり過ぎる。


「その辺、赤の群集の意見を聞かせてもらえねぇか? 俺らとしても、そこを確定させなきゃ提案以上の事は何も言えねぇ段階だ」

「あー、それなら問題ねぇぜ! 元々、全群集での総力戦は明日の夜って希望だからよ!」

「今フラムが言った通りだ。ジャック、返答はこれで問題ないか?」

「あぁ、そういう事なら話を先に進められそうだ。その上で改めて提案だ。灰の群集には今日の夜に総力戦を求める。……突っぱねるというのであれば、青の群集は全群集での総力戦には応じない」

「……そうきたか」


 げっ、この状況で赤の群集を巻き込んできた!? でも、この一手は……諸刃の剣だな。赤の群集を利用する形にはなるけど、総力戦が成立しない原因を俺ら灰の群集の方に作り出してきてるし……。

 下手にここで強引に突っぱねれば……そもそもどっちの総力戦も成立しなくなる。譲歩を引き出すどころか、逆に反発を招く要因を作って脅しをかけてくるか!


「え、それは困るんだけど!? どうすんの、ルアー、ウィルさん!?」

「……フラム、少しだけ静かにしててくれ。青の群集は、俺らを利用して有利な条件を引き出そうってか?」

「正直、今の状況で灰の群集を納得させる手がありませんからね。利用出来るものは利用させていただきますよ、ウィルさん」

「灰の群集と全力で戦いたかったからって、俺らをサバンナの方へ強引に誘導したのは赤の群集だしよ? これでお互い様ってとこじゃねぇか。なぁ、作戦参謀のウィルさんよ?」

「……まぁその件は否定はしねぇよ。ルアー、この件は乗ろうと思うが構わないか?」

「不本意ではあるが、お互い様と言われたら仕方ないな」

「おし、それで決定だな! それで、灰の群集はどうすんだ?」


 くっ、地味にフラムがうぜぇ! でも、明確に今ので赤の群集が味方に付いて、青の群集の提案……というか、脅しが有効になってしまった。

 別に提案自体に反対って訳じゃないけど、この流れは面白くないな。なんかここから出来る事ってないもんかなー? 青の群集の思惑通りってのは……いや、むしろここは素直にやられたとして、気分を良くさせておいた方がいいのか?


「……仕方ない。その条件で手を打つが……ミヤ・マサの森林での開始時間の決定権はもらうぞ?」

「流石にそこは要求されても仕方ありませんね。具体的には何時がよろしいでしょうか?」

「22時に開始でどうだ?」

「……思ったよりも遅い時間を指定してきましたね。いえ、その時間で問題ありません」

「ならば、青の群集との総力戦はその時間帯で決定だ」


 ほほう、22時からって本当に遅めの時間にしたもんだね? というか、ベスタはこの時間の決定権を取る為に、あえて突っぱねてたんじゃ?


「ちょいとベスタさんに質問、いいかー?」

「……内容によるな。なんだ、フラム?」

「なんでそんなに遅めな時間帯なんだ? 21時とかでもいいんじゃね?」


 ちょ!? そこを直球で聞いてくるか、こいつ!? 俺らもその辺の理由は聞いてないのに……ある意味、この図々しさは凄いな。駆け引きも何もあったもんじゃないじゃん。


「単純に群集内の要望なだけだ。……そもそもは19時までに終わるようにという希望が多かったしな。この時間は、20時台や21時台でこれまで色々と参戦しにくかった人への配慮だ。流石に23時だと長引いた場合が遅くなり過ぎるから、そのギリギリのラインにしただけ……これで納得か?」

「あー、確かに夜の20時台だと晩飯食ってて無理って奴もちらほらいるもんな! なるほど、なるほど! 言われてみりゃ、そういう人は俺らの方にも……ん? 頭を抱えて、どした、ウィルさん?」

「……いや、なんでもない。ともかくその話は納得でいいな?」

「おう!」


 サラッと赤の群集の内部の状況を話しかけてたし、何やってんだよ、こいつ!? あー、でも俺らが日付けが変わる前に終わらせるのが多いのとは別に、22時頃から本格的に活動し始める人もいるのは確かか。

 自分達基準で考えてたけど、毎度同じような時間帯になるとずっと参戦出来ない人が出てくるもんな。俺らが知らないとこで、そういう要望はベスタが集めてたんだね。


「まぁ誰にとっても都合がいい時間帯なんてものはありませんからね。その辺の調整には……こちらも相当苦労しましたので」

「作戦をご破産にした事なら、苦情は聞かないぞ。取るなら取れって言ったんだし、それを選ばなかったのはジェイさん達だからな」

「……文句の1つも言いたくはなりますけど、それはもう済んだことですしね。ともかく、ミヤ・マサの森林での総力戦は本日22時に開始という事で構いませんね?」

「それは問題ないけど、開始の合図はどうするのかな? 1回目の開催の時と同じ感じで、お互いに非参戦の人が一斉に合図を出すのでやるかな?」

「……そうですね。場所も同じ場所ですし、それで対戦開始でよろしいかと。ジャック、それで構いませんよね?」

「それでいいだろう。ベスタ、開始10分前に互いに非参戦者が現地入りでいいか?」

「あぁ、それで構わん」

「では、そのように。これで青の群集と灰の群集での総力戦についての協議は終了でよろしいですか?」


 えーと、色々と駆け引きはあったけど、結果としてはどこからも不満が出ない形で落ち着いたか。というか、移動してくる時に俺らはベスタから設定する時間について聞いておくべきだったかも? まぁ今更言っても遅いけどさ。

 ともかく22時開始なら、俺らは特に心配する必要もなく参戦出来そうだ。再戦になるエリアだから、新エリアほどは広くもないからなー。


 って、ちょっと待った。ここでまだ確定にしたらダメだ。赤の群集がこういう真似をしてくるとも思えないけど、青の群集の狙いの後押しをしたんだからその分の責任は負ってもらわないと。

 うーん、ベスタに確認を取ってからにしたいけど……流石にそんな内緒話が出来る状況じゃないか。よし、ベスタが俺の意図を汲み取ってくれる事に期待しよう!


「協議の内容自体はそれで終わりでいいけど、決定は保留。それを決めるのは、次の話が終わってからで」

「おーい? ケイ、何言ってんだ?」

「……ケイさん、それは何故ですか?」

「全群集の総力戦の話が決まってないからだよ。流石にないとは思うけど赤の群集に、ここで総力戦は無しって言われれば……今日の夜に霧の森を取られるだけだぞ? だから、決定するのはそっちが確定してから。……誰がどう動くか分からないし、動きを絶対に制限出来る訳じゃないしさ。他の群集の指揮系統なら尚更に」

「……なるほど、そういう事ですか。まぁ確かにそれはそうですね」


 可能性は低いとは思うけど、これだけはやっとかないとなー。どちらかというと、これは青の群集との約束というよりは、赤の群集に対しての牽制。全員は制限出来ないという共通認識はあるはずだから、それを変な風に利用されない為のもの。


「……随分と警戒してんだな、ケイさん。俺らの騙し討ちの可能性を考えてんだな?」

「まぁ、ウィルさんにはしてやられたばっかだしなー?」


 午前中にウィルさんが仕掛けてきた内容を考えれば、警戒し過ぎてもし足りないという事はない。青の群集そのものを、他のエリアへ行くように仕向けたんだからさ。

 だからこそ、表向きの群集の意向とは別に……他の流れを作ろうとする可能性も考えられる。真っ向勝負ではなく裏をかいて霧の森を取りに動く……そんな騙し討ちの可能性は潰しておかないとね。


「そんな事はしねぇよ!? なぁ、ルアー!?」

「俺らとしてはするつもりはないが、群集全体を抑えられる訳じゃねぇからな。……騙し討ちをするなって警告もあるんだろうが、それ以上に俺らに群集の意向に沿わない連中の動きをある程度は抑え込んでろって話だろ?」

「まぁそんなとこ。青の群集との総力戦の後ろ盾になったんだから、赤の群集のプレイヤーが大勢で下手な真似をしたら……『卑怯者』と呼ばれるのは覚悟しといてくれよ。誰が『リバイバル』の指揮下なのか、俺らには判別は出来ないからさ?」

「怖えよ、ケイ!? 灰の群集には、ヤバいレベルの顔の広さのレナさんがいるじゃん!?」

「だったら、青の群集の味方をした件は取り消しとく? そうなったら今度は『風見鶏』とでも呼ぼうか?」

「うぐっ!? どっちに転んでもろくでもねぇ状況!?」


 レナさん頼りでなくとも、伝手自体は色々あるからなー! 新体制へと移行した赤の群集としては、以前みたいな悪評へ戻るのは避けたいはず。ウィルさんは特にそこは気にするだろう。いや、ウィルさんだからこそ、他の人以上に効くはず。

 赤の群集が青の群集の思惑通りに動かされるというのなら、俺らとしてもそこを利用してしまうまで! まぁ完全に俺の独断でやってるけど、ベスタが止めてこないなら大丈夫なはず! というか、ウィルさん相手にはこれくらいしないと、大真面目に危険だよな。


「……これはやられたか。ルアー、どうする?」

「どうするも何も、拒否する選択肢はねぇだろ。……ったく、ジェイさんといい、ケイさんといい、色々と仕込んできやがる」

「今の赤の群集には言われたくないんだけど!?」

「その点には大いに同意ですね!」


 おー、ジェイさんと見事に意見が一致した。やっぱりジェイさんから見ても、今の赤の群集は脅威的か。まぁそりゃ完全に群集の動きを誘導された後なんだから、警戒もするよなー。


「ケイはああ言ったが、群集全員の行動の制限も不可能だ。だから赤の群集には筆頭の共同体『リバイバル』の責任として、他の群集からも確認出来る形で総力戦について19時までに大々的に通達を出してもらおうか。『灰の群集と青の群集の総力戦が開催中の間は、霧の森には一切手を出すな』と」

「……ベスタ、条件はそれだけか?」

「不可能な事を要求しても仕方ないだろう? それとは別に、全群集での総力戦の協議もあるしな。ただ、『リバイバル』傘下のどこかからでも侵攻指示でも出てこようもんなら、覚悟しておけ」

「……ここは仕方ねぇか。フラム、戻ったら俺とウィルで模擬戦を使って通達するから、不動種同士で全群集に公開状態になるように調整しろ」

「お、おう!」


 おし、これで赤の群集は今日は相当動きにくくなったはず。流石に全員の制限が出来るとは思ってないけど、何もしない時よりは相当な抑えにはなる。俺が無茶振りして、妥協ラインをベスタが提示って形にはなったね。


「ジェイ、青の群集との総力戦の確約は、全群集の総力戦の話がまとまってからでいいか?」

「状況が状況ですし私達としてもそれで構いません。よほど条件の折り合いが悪くない限りは、全群集の総力戦自体は可能だと思っていますしね」

「なら、そちらの話を進めようか」

「えぇ、そうしましょう。では、次の協議内容は全群集での総力戦についてです」


 さーて、まだまだ一筋縄ではいかない協議の続きだな。……流石にこれ以上の腹の探り合い自体は無いとは思うけど、問題点があるにはあるんだよなー。そこをどうするかが、次の協議の焦点か。

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