第1192話 全群集での総力戦の協議


 とりあえず、まだ確定は出来ないという形で青の群集との協議自体は終了。まぁ内容自体に問題がある訳じゃないし、理由については青の群集も納得してくれたので、これからの件が無事に決まれば、そのまま確定にして問題はない。

 という事で、今からは……全群集での霧の森での総力戦の協議の開始。……すんなり進むとも思えないな、今までの状況を見た限りでは。


「さて、それでは全群集での総力戦の協議を始めていきますが……まずは私の方から確認させてもらいたい事があります。先ほどの件の中で出てきていましたが、赤の群集はこちらは明日の夜を希望という事で間違いないですか?」

「間違いねぇぜ、ジェイさん! 具体的な時間決めはこれからって話だけどな!」

「……分かりました。ありがとうございます、フラムさん」


 まぁここは分かってた内容だけど……フラムが答えると裏がないように思える反面、逆にウィルさんが何か目的があるからこそ言わせてるって疑惑もかけたくなってくるんだよなー。

 どことなくジェイさんも不審に思ってる感じだし、フラムが出てきた時はなんでだと思ってたけど……これはこれで厄介な人選か。ウィルさん自身にも警戒しなきゃいけないのに、考えなしのフラムを介して何かを仕掛けてくるのは既に経験済みだしさ……。本人にその自覚がなさそうなのが余計に厄介。


「……少しいいかな?」

「どうぞ、サヤさん」

「根本的なところで疑問なんだけど……今は無所属が何か集団で企んでいるって話があったよね? その辺はどうするのかな?」

「あ、そういやその辺は聞いてねぇな! ルアー、ウィル、その辺どうすんの?」


 おーい、そこで何も考えてません的な解答をしていいのか? 俺もそこが懸念点だとは思ってたんだけど……まさか、今の赤の群集が無策?

 そうとは思えないし、これはフラムが聞かされていないだけって考えた方が自然な流れ。


「……ウィル、やっぱりフラムは諸刃の剣じゃねぇか?」

「……そうかもしれん。少し頭が痛くなってきた」

「そういう反応をするという事は、私達に隠しておきたい何か計画していましたか。……それとも、協議を有利に進める為の切り札としての用意でしょうか?」

「サヤが聞かなきゃ俺が聞いてたし、多分誰かしらが聞くのは想定してただろうから……後者だろうな」

「まぁそんなとこでしょうね。さて、計画している事を素直に話していただけるとありがたいのですが?」

「だなー。元々、相当な優位性を持ってるんだから……状況次第では、色々と前提からぶっ壊すぞー」


 赤の群集の手の平の上で踊らされるのは勘弁願いたいから、ちょっと強引な手を使ってでもその辺は聞き出してやろうか。大前提をひっくり返す条件自体はあるにはあるし、多分この流れならジェイさんも乗ってくるはず。


「……ケイさんが言うと洒落になっていませんね。具体的にはどういう手でやるつもりで?」

「いやー、まださっきの協議を確定にしてなくてよかったなー。ジェイさん、全群集での総力戦と、俺らと青の群集との総力戦の時間を入れ替える気はない?」

「……なるほど、それはそれで面白い話ですね。時間的には遅めですし……ありといえば、ありですか」


 おっ、乗ってきたな! どうせ俺ら灰の群集と青の群集が総力戦をする事自体は変わらないし、まだ協議での確約はされていない。確約してたら流石に覆すのは問題だけどねー。

 そして、そこに赤の群集自体は決定権は持っていないからこそ、青の群集が同意さえすればどうとでもなる。


「ちょ!? え、何がどうしてそうなった!? そんなのって――」

「斬雨、ジャック、今の提案はいかがです?」

「どっからその発想が出てくるんだって思いたくはなるが、内容自体はありじゃねぇの? ……赤の群集が何かを企んでるなら、尚更よぉ?」

「俺も斬雨に同意だな。……サラッととんでもない、前提ぶっ壊す提案をしてくれたもんだが」

「さて、青の群集からは同意は得られたな。ケイの提案には俺も参戦だが……赤の群集はどうする気でいる?」


 なんかオロオロして話を遮られてるフラムは放置しておいて、黙り込んでしまったルアーとウィルさんの方を警戒しないとなー。明日が平日だとはいえ、今日は日曜日。

 先に何かを仕込もうと思うなら、今のうちがチャンスでもあるからね。これならその時間的猶予を大幅に削る事は出来るはずだけど、どういう反応が返ってくる? 無所属の件で共闘しようって提案もあるけど……裏に何かを隠してるなら、その提案自体を受けるのが危険だしさ。


「……はぁ、流石に連携されると厳しいな。ウィル、これ以上の駆け引きは無しだ。このまま進めば、無所属に対する共闘どころか、総力戦自体が流れかねん」

「どっちも避けたい部分ではあるし、そこは仕方ないか」

「え? えっ? 何がどうなってんの!?」


 やっぱりフラムは何も聞かされてない感じだなー。うん、まぁ迂闊に内容を伝えてたらポロッと余計な事を喋るだろうし、実際に伝えてなくても余計な事は言っているもんな。フラムは諸刃の剣という表現には納得しかない。


「……ルアーさん、ウィルさん、説明はしてもらえるのかな?」

「あぁ、これ以上は心象を損ねるだけだ。説明は頼むぞ、ウィル」

「了解だ。……一応の弁明はしておくが、内容自体は話すつもりではあったからな?」

「ふん、それは自分達に都合の良いタイミングで……だろう? まぁそれはどこの群集でも同じだから、悪いとは言わん。だが、下手にやり過ぎるのも不利になるのも覚悟はしておく事だな」

「……えぇ、確かにそうですとも。やるのでしたら、一手も打つ手段を潰しておかないと……痛い目を見ますからね」


 おいこら、ジェイさん! 俺を見ながら納得するように力強く語るのはやめてもらおうか! ベスタも見ろ、ベスタも! ミヤ・マサの森林での前提のひっくり返しは、俺だけでやった訳じゃないから!

 というか、日程調整すらスムーズに進まなくなってるんだけどー!? 前にタッグ戦の打ち合わせをした時はこんなに……って、今とあの時じゃ条件が違うか。まぁ勝てるかどうかで占有エリアを取れるかがかかってるんだし、こうもなるよな。


「えっと、とりあえず話を戻してもらっていいかな?」

「……えぇ、そうですね。ウィルさん、お願いします」

「おうよ。まぁシンプルと言えばシンプルなんだが……無所属勢の動きが分からないなら、向こうが動き出して狙いが明確になってから叩き潰そうかと思ってな?」

「……なるほど。そういう作戦なら、もうある程度は動き出すタイミングの予想が出来ていますね? その為の活動猶予を、あえて与えようという狙いですか」

「俺らに伝えるタイミングを意図的に制限する事で、その時に共闘しつつも優位性を確保しようと目論んでた訳か。それで、無所属が今日は動き出さないと根拠はなんだ?」

「……理解が早過ぎて怖いんだが?」


 いやはや、ベスタもジェイさんも狙いを読むのが早いもんだね。でもまぁ、無所属の狙い自体は分かってないけど、行動を起こす大雑把な時間を把握していなければそういう作戦は用意ができないもんな。


 ウィルさんの狙いは無所属が大々的に動くのを見据えて、灰の群集や青の群集との共闘になった際にその場での指揮権を握りやすくする事か。共闘する事を決めていればその場で情報を1番持っているところが指揮はしやすいもんな。

 予め持っていた情報だとしても共闘にならない状況なら開示する必要はないし、だからといって共闘を決めていたら拒むにも拒みにくい状況になる。内容を話すつもりだったとは言ったけど、どこまで言って、どこからを隠すかまでは分からないしね。


「正確に無所属勢が動き出す時間が分かってる訳じゃないが……人の多い休日の夜に狙ってくる事はないという判断だ。まぁ確実な理由じゃないがな」

「……ベスタさん、もしかしてその辺を考慮に入れて今日の時間設定をしましたか? 少なからず青の群集でも無所属に動きがあるのは把握してはいますが……」


 あ、確かにその辺は可能性はあるな。ベスタに直接聞いてる訳じゃないからはっきりとは分からないけど、22時から今日の総力戦が開始なら……そこまでに大きな動きがあれば、霧の森への動きが出てくるはず。

 新エリア最後の1ヶ所ともなれば、今日の夜に無所属勢が大きな動きを見せれば……赤の群集は当然動き出すし、それは無視出来ない俺らが総力戦を取り止めて雪崩れ込む可能性が出てくる。既に何度も時間変更が発生してるんだから、更にもう1回でも今更ではあるしね。


「まぁそこは否定はせん。何らかの形で無所属の動きは抑えておく必要があるからな」

「……そうなると、俺らへの通達要求も無所属への牽制……いや、力を蓄えるなら今のうちにという誘導が狙いか?」

「ルアー、それは違うぞ」

「……なに?」

「むしろ、狙いとしては無所属への『下手に動けば全部が動く事を覚悟しろ』という警告だろう。違うか、ベスタ?」

「……ふん、どう解釈するかは無所属次第だ。あれを短絡的に攻めるチャンスだと判断して動くなら……大して問題視するまでもないだろうよ」

「これ、どういう状況になってんの!?」

「フラム、分かってないなら黙ってろ!」

「おぉ!? す、すまん、ケイ……」


 やっぱりフラムはこういう場には色んな意味で向いてないんじゃね? 掻き乱す役割としては機能するけど、大真面目な場面でも掻き乱し過ぎてるし……。

 まぁ無所属がどういう風に捉えるか次第だよなー。言葉通りに受け取ってあっさりと今日の夜にチャンスと動き出すなら……まぁ警戒する程でもない。総力戦と銘打ってるとはいえ、その意向に合わせて全員が参加する訳じゃないんだから。


「ごほん! ともかく話を戻しましょうか。赤の群集、灰の群集が共に無所属勢の動きに注視している事は分かりました。この際、どこの群集が裏で出し抜こうとしていても、そこは問題視しないと――」

「……それをジェイが言うのか?」

「なぜ味方の斬雨が、そういう事を言うんでしょうね!?」

「おっと、すまん。ついな?」


 まぁ多分、ここにいる全員が……あー、フラムだけは怪しいか? まぁあいつは例外として、他の全員は共通認識だとは思うけどなー。でも、そこを言い始めたら先に進まないのも間違いないか。


「ともかくです! 何か企んでいる無所属勢に対抗する案を出す前に、大前提となる全群集での総力戦を行うかどうか、ここを決めるべきでしょう?」

「確かにそれはそうかな。ベスタさん、灰の群集としてはこの話は受けるって事で良かったよね?」

「まだ確約は出来んがその方向性で考えてもらっていい。青の群集もそのつもりだろう?」

「あぁ、それで問題ない。ジェイ、その前提で進めてくれ」

「……分かりました。では、次に日程をと言いたいですが……おそらく先にこれを決めた方が良さそうですね。動きのある無所属に対して、共闘する事に異論がある群集はありますか?」


 ふむふむ、まぁそこを決めなきゃ話が先に進まないか。


「青の群集としては、共闘を受け入れる気があるのか?」

「私達、青の群集としましては……色々と思惑はあれど、共闘自体は構わないと思っていますよ、ルアーさん。先ほどのベスタさんの警告を、ウィルさんの認識で読み取った場合は危険だと判断しますので」

「……ウィル、その辺の見解はどうだ?」

「相当、危険なパターンだな。今日の夜に動く程度なら総力戦に参加せずにそれぞれの群集で自由に動く奴らで対処可能だろうが……明日に動くなら、それは真っ向から相手にしても勝つ自信があるって事だ」

「もしくは、単純に準備時間が足りないか、そこしかチャンスがないかというパターンでしょうが……ここは楽観視はしない方がいいですね」

「……なるほどな」


 こうして協議をしていて思うし、午前中の事も含めて考えると……ウィルさんってとんでもなく厄介なんですけど!?

 これ、最後の総力戦ってどういう風になるのか想像が出来なくなってきたなー。今日の夜に無所属勢に目立った動きが無ければ……それは、作戦立案をして指揮している人がいる可能性がありそうだ。しかも、ジェイさんやウィルさん水準の人が……。


「予想以上に無所属が危険な可能性が出ているようだし、今日の夜に無所属勢に大きな動きがなければ……共闘を行うという事でいいか?」

「あぁ、灰の群集はそれで構わんぞ、ルアー。別に共闘でなく、一時休戦でも構わんが……それをすると他の群集に押しつけるという作戦が成り立つからな」

「……それは考えなくもなかったですから、手段として否定はしませんよ。この共闘は、無所属の排除と共にお互いを縛る為のものでしょう?」

「あっ! そういう事も出来るのか!」

「……ウィルさん、次からコイツを連れてくるのはやめてくれない? 1人だけ通じてなさそうなの、すごい面倒い……」

「……そうだな。次からはそうさせてもらう」

「ちょ!? 俺の扱い、なんか酷くねぇ!?」


 フラムへの扱いが酷いというよりは、フラムの反応が酷いわ! 分からないなら分からないでもいいから、それならちょっと黙ってろ。


「ごほん! それでは、全群集で総力戦を行う事と、今日の夜次第ですが……総力戦の際に無所属勢と接触した場合は共闘を行う事に同意で構いませんね? ジャック、青の群集の代表はあなたなので、同意は任せますよ」

「それもそうだな。青の群集はその2つの件には同意だ」

「灰の群集もその2件に同意しよう。ただし、群集所属の全員を縛る事は出来ないと明言させておいてもらうぞ」

「ま、そりゃどこの群集でも同じ事だな。赤の群集も、その2件には同意だ」

「それぞれの代表の同意は確認致しました。まぁ意思統一が不可能なのは自明の理なので、そこを悪用する形でなければ不問という事でいいでしょう」


 これで最後の1戦になる霧の森での総力戦と、条件付きだけど無所属勢との共闘を行う事は確約出来た。まぁゲームのシステム的なものではなくて、一部のプレイヤー間での口約束でしかないけどね。

 でも、それに乗っかって楽しんでくる人が多いのは既に分かっている事。さーて、残りは明日の何時から開始になるかを決めるとこか。……妙に疲れる協議だなー。

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