第1190話 協議の前の探り合い
ベスタとサヤと共に、群雄の密林の東部に位置する青の群集の安全圏の前まで辿り着いた。エリア自体は相当広いけど、占拠した事で敵が襲ってきにくくなってるのが大きいね。まぁシンプルにLv差が出来たのもあるし、成熟体になって今までよりも移動速度が増しているのも大きいか。
うーん、でも安全圏の中の様子はこちらからでは見通せない。この辺は、峡谷エリアでの赤の群集の安全圏を強襲した時に見た様子と同じか。
「到着したけど、これはどうすればいいのかな?」
「少し待て。向こうからは見えているから、俺が到着した時点で同行している者を含めて承認する手筈となっている」
「あー、そうか。向こう側から、こっちの様子は見れてるんだもんな」
今こうして見えるのはまぁいいとして……あんまり普段は安全圏の近くでは何かしたりするのは避けた方がいいのかも? どの程度まで見通せるか分からないけど、気付かれない状況で観察されるという場所は避けておきたい!
まぁエリアの端も端だから、わざわざここまで出向いて何かをするって事はないだろうけどさ。……どの程度見渡せるのか、機会があれば峡谷かサバンナで見てみた方がいいかもなー。
<ジェイ様から『群雄の密林・青の群集の安全圏』への立ち入りが承認されました>
うぉ!? なんかメッセージが出てきたけど、これが安全圏へ立ち入る為の手段か。てか、当然のように承認してきたのはジェイさんなんだなー。ジェイさんがいるのは当然だと思っていたけど、やはりいたか! こういう場所にいない訳がないよなー。
「ケイもサヤも承認はされたようだな。それじゃ行くぞ」
「え、承認されてるって分かる……あ、これか」
「灰色のカーソルの上に、青い小さな光の球が付いてるね。これが承認の証みたいかな?」
「だなー。それじゃ行きますか!」
「……油断せずに行くかな!」
俺自身のは自分では判別しにくいけど、サヤとベスタにそういう証が出ているから分かりやすいね。その証の部分をよく見たら、承認者ってのも出てくるんだなー。
サヤを承認したのは斬雨さんで、ベスタを承認したのはジャックさんか。どちらもこの協議にいても不思議じゃないというか……ジェイさんは青の群集のリーダーじゃなくて、作戦立案の担当か。双頭のオオカミのジャックさんの方がリーダーのはず。
「……ジャックさん、オルトロスじゃなくてケルベロスになってる可能性ってあると思う?」
「オフライン版だと完全体がケルベロスだったが……どうだろうな?」
「微妙にその辺は進化階位にズレがあるみたいだけど、多分まだオルトロスな気がするかな?」
「まぁ、そうだよなー」
多頭のオオカミのモンスター形態としての完成系がケルベロスだもんな。そこから超越体で人化して、ベースの名前が『アシュラ・ワーウルフ』だっけか? 腕も増えてかなり操作のクセが強かったはず。
ベスタのコケと融合したオオカミがどうなるのかも謎だけど……まぁそれは今は関係ないから別にいいや。
余計な考え事をしている間に、安全圏を仕切っているバリアみたいなとこに突入! 承認がなければ弾かれて入れないんだろうけど、俺らは承認を得てるから素通り出来るはず!
<『群雄の密林』から『群雄の密林・青の群集の安全圏』に移動しました>
おし、無事に通り抜け完了! 見える人は……普通にオルトロスで双頭のジャックさんと、コケを背負ったカニのジェイさんと、タチウオの斬雨さんだけ。見える限りでは他に誰もいないし、協議の為に人払いはしてる感じか? 奥にいるのは妨害ボスらしきゾンビなカメだな。
あ、近場に青の群集の群集支援種っぽいのが3体ほどいるね。松の木とキツネと……デカめのヤドカリ? 多分、このヤドカリはあの城塞ガメの中身の精神生命体か。あの横取りされた結果を、こんな形で見る事になるとはね……。
あの時はサヤの言葉がなければ、本当にヤバかったもんな。うん、こうして隣にいるのが頼もしく思えるもんだ。
「……ザッと周りを見た感じでは、他には誰もいなさそうかな?」
「離れた場所から隠れている可能性もある。油断はするな」
「ほいよっと」
「分かったかな」
ジェイさん達には出来るだけ聞こえないように、小声でだけど確認はしとかないとね。ベスタが無所属対策の可能性は言ってたけど、それだけじゃなくて同時に別の目的も用意している可能性もあるし。
「ケイさん達がPTで来る可能性は想定していましたが、サヤさんと2人でというのは正直意外でしたね。何かご用事でもありましたか? 例えば……新たなスキルの取得や強化を狙っていたりでしょうか?」
「おう、そうだぞ! 次の1戦で完膚なきまで叩き潰すから、覚悟しとけ、ジェイさん!」
「……直球で、そう来ましたか」
「ジェイ、それ以上は止めとけ。逆に付け込まれるぞ」
「……えぇ、そのような油断はないようにしますよ、斬雨」
どうせ行動を読まれてるなら、必要以上に警戒度でも上げといてもらおうか! どっちにしても今回は冗談抜きで負ける気は欠片もないし、今の言葉に偽りはなし! 元々、負けるつもりで動いてはないけどな。
「あー、すまん。どうもジェイの奴はイラついててな」
「だからといって協議の前に無用に荒立たせるような詮索はさせるな、ジャック。俺らが警戒して来ている事くらい、承知しているだろう?」
「……まぁな。だが、俺らが何も仕掛けてないし、ここの指定に拘ったのは無所属排除の為だと言っても……全面的には信用しないだろ」
「ふん、分かっているならいい」
おー、さっき啖呵を切った俺が言うのもなんだけど、既にバチバチと心理戦をやり合ってんなー。ベスタの読み通り、無所属排除については折り込み済みか。でも、それなら灰の群集の安全圏でもいい話だしね。
それにしても、今回の協議に俺達グリーズ・リベルテが参加してくるのを想定していたのか。ついさっき、来るかどうかをベスタに聞かれるまで来る予定もしてなかったんだけど……。
「……なるほど、ここを選んだ理由はケイか。わざわざ伝言をケイに頼んだとこから仕込みだろうが、当てが外れたな?」
「さて、何の事でしょうか?」
「まぁ惚けるならそれでも構わんか。どうせ失敗に終わった事だ」
「……はぁ、つくづく思った通りにはいきませんね、あなた達が相手だと……」
ん? その反応って事は、マジで俺が狙い!? てか、あのベスタへの伝言を俺に頼んだのから……なるほど、あれは確実に協議がある事を俺に認識させる為か。
それで俺をここに連れてきたかった理由はなんだ? ここでなければならない理由……あぁ、そういう事か。ははっ……あの時からずっと狙ってやがったな、ジェイさん! だったら、こうしてやろうじゃん!
「ジェイさん、ここで俺らがこのヤドカリからトレードする事って可能? これ、俺らから横取りした奴だよな?」
「……地味に煽ってきてませんか、ケイさん?」
「いやいや、根にはもってるけど、ここでキレたりはしないから。さっき言ったじゃん、次で完膚なきまでぶっ倒すって。あ、流石にトレードは不可か」
「……ジェイ、こりゃ逆効果じゃねぇか?」
「ベスタさんと違って、心理的な動揺を狙えると思ったんですけどね……」
やっぱりそういう狙いかい! でもまぁサヤが一緒にこなければ……流石に少しは動揺してた可能性はあるかも。風音さんを連れて来なかったのも大正解だな。多分、風音さんならジェイさん相手に今頃襲いかかってそうだ。
そういえば特訓をしている声が聞こえてたPT会話が全然聞こえなくなってるね。これが安全圏での仕様って訳かー。あれ? そういやあのバリアみたいなのがあるのって、占拠したエリアに面してる側だけだよな? エリア的には独立してるから、問題ないのか?
「ジェイさん、赤の群集は回り込んで来るって聞いたけど……承認ってどうなるんだ?」
「……知らないのですか? 相変わらず、仕様に対して変に知識の偏りがありますね」
「その辺は放っといてくれない!?」
とりあえずその辺の知識に偏りがあるのは自覚してるけど、新たな要素を全部網羅なんかしてられるか! むしろ、完全に把握してるのは念入りに作戦を立てるタイプのジェイさんだからこそって気がするけど!?
必要な情報は必要になった時に手に入れるので十分! まぁそれが出来ない時もあるけど……いつも前情報を調べてばっかじゃ、探索の楽しみが減るじゃん。そりゃ時間短縮をしたい時には事前に調べたりもするけどさ。
「ケイ、それなら妨害ボスを倒すだけで問題ない。逆にいえば、妨害ボスを倒さなければここまでは来れないがな」
「あー、なるほど。そういう仕様か」
「それなら、無関係な無所属も今の状況なら迂闊に近付いては来れないかな?」
「まぁそういう事になります。戦闘が始まれば、来たのが分かりますからね」
「話してる間に来たみたいだぜ、ジェイ」
「どうやらそのようですね」
「さて、倒せない奴が来てるとも思わないが……様子を見に行くぞ」
「では、そのように。ケイさん達もご覧になりますか?」
まさかの見物のお誘い!? いや、でも誰が来てるのかは分からないけど、ちょっと興味深いとこではある。くっ、ここで一緒に見物をさせて共犯にするつもりか!?
「ここで赤の群集を戦わせるのも目的か? それとも俺らに覗き見させて、自分達は見てない状況を作るか? そこを聞かねば、動く訳にもいかんぞ」
「……私はどれだけ警戒されているのですか? この戦闘に関しては赤の群集からの提案ですからね。むしろ、私達に見せつけるのが目的でしょうし……」
「あー、ベスタ。俺らが言うのもあれだが、何でもかんでもジェイを疑ってかかるのは控えてくれないか?」
「ジャック、さっきの今でその言葉に説得力があるとでも思うのか?」
「……だよなぁ。だから言っただろ、ジェイ! 流石にやり過ぎだと……!」
「何一つ成功してはいない気もしますが……疑念を深めてしまうという点は愚策でしたか」
まぁ確かに青の群集の目論みは何も成功してないけど、何かを仕掛けてくるって警戒自体は間違ってなかったしね……。ジェイさんはこれだから、本気で油断ならないんだよな。
「おっしゃ、撃破完了! 俺、結構強くなってきてね!?」
「あー、まだまだ狙いが甘ぇよ、フラム。それでも本当に赤のサファリ同盟の一員か?」
「ルアーさん、弥生さん達を基準にしないでくれねぇ!?」
「ま、それでも結構強くなった方じゃねぇか?」
「おっ、分かってんな! 流石はウィルさん!」
……あー、うん。なんでフラムのツチノコが今この場に来てるんだ? 赤のサファリ同盟の人が来るにしても、何もこいつじゃなくてもよくね? そもそもこの手の交渉に向いてる奴じゃないし……よし、決めた! あいつがこっちに気付く前に、立ち去るのみ!
「サヤ、ベスタ、悪いけど俺は――」
「流石にそれは待ったかな!」
「離せ、サヤ! ややこしい事になる前に、俺は戻る!」
「……何ですか、このケイさんの反応は?」
くっ! サヤに止められて、立ち去ろうにも立ち去れない!? フラムがいると、どうも調子が狂うんだよ! 頼むから帰らせて!?
「おっ! ケイとサヤさんじゃねぇか! 他のメンバーはいねぇの?」
「……なんでフラムがここにいるんだ?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた! 理由はよく知らんが、今回は俺が適任だからウィルさんが一緒にこいって言ってくれてな! それで来た感じだ!」
「……あー、そう」
くっ、フラムに気付かれた! 赤の群集というか、ウィルさんめ……俺相手にフラムを妨害要員として用意してくるんじゃない! 峡谷エリアでの午前中の事といい……いいように使われてるな、この能天気フラムは!
「ケイ、とりあえず落ち着け。……ジェイが興味深そうに観察してるぞ?」
「ちょ!? ……はぁ、分かった」
「もう離しても大丈夫そうかな」
サヤが離してくれたけど……ウィルさんめ、ジェイさんにこの光景を見せる事すらも作戦の内か。落ち着け、俺。とりあえず今はフラムがそこにいるだけであって、特に害は発生はしていない。警戒すべき事は具体的にはまだ何もないんだから、落ち着け。
赤のサファリ同盟の一員として来たなら不自然でもなかったはず。だけど木製クマになってるウィルさんと、飛んでるヒレが刃物みたいなルアーとの3人組というのでちょっと戸惑い過ぎだ、俺!
「待たせたな、青の群集と灰の群集」
「……随分と変な真似をしてくれるな、赤の群集?」
「おいおい、これから対戦をどうするかって話し合いをするのに、いきなり睨み合いは勘弁してくれ……」
それぞれの群集の代表として、ルアーとベスタとジャックさんが揃ったけど……この協議って本当に大丈夫か!? いや、そもそも状況を狂わせる中心に地味に俺がいる気がするのは気のせい!?
「……サヤ、やっぱり帰りたくなってきたんだけど?」
「それだと赤の群集の狙い通りになるかもしれないから却下かな?」
「……ですよねー」
どう考えてもフラムを連れてきているのは、俺への嫌がらせだよなぁー!? この協議で俺に参加されたくない理由でもあるのか、赤の群集! それとも……これからもこういう風に仕掛けていくぞって警告か?
くっ、正確な狙いが分からないから、サヤの言う通り下手に帰る訳にもいかないよな……。ただ単に、俺の調子を狂わせるだけが狙いって気もするけどなー! ……とりあえず基本的にはベスタに任せて、大人しくしとこ。
「さて、随分と興味深い光景は見られましたし、残り2戦になった競争クエストの対戦についての協議を始めましょう」
あ、そこで司会をするのはジェイさんなんだ。……変なとこをジェイさんに見られたのも、後々痛い気がするなぁ。
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