第1161話 安全圏の前での戦い


 赤の群集の安全圏への強襲は仕掛けたものの、1番狙っていたタイミングでは上手く決まらず……。左右の岩壁から挟撃されそうにはなったけど、片側は……凄まじい暴発音と悲鳴が聞こえてきてるから、十六夜さんが大暴れしている最中だな。

 十六夜さんの戦闘スタイル的に味方がいる方が邪魔だから、あっちは全面的に任せよう! まぁ弥生さんとシュウさんをここに抑えておくのが目的だから、死んだら死んだ時!


「わっはっはっは! 今こそケイに勝つチャンス! 『ポイズンボム』!」

「うるさいわ! このフラムが!」


 ちっ、魔法型のくせに先陣を切って飛び降りながら魔法を撃ってくるとか鬱陶しいんだよ! 全然当たってないけども! えぇい、フラムは今すぐに瞬殺してやりたい! ちっ、ウィルさんめ、わざと俺の神経を掻き乱す為にこいつを放り込みやがったな!


「ハーレさん、フラムの始末を頼む。集中出来ん!」

「了解なのさー! 『爆連投擲』!」

「おわっ! ぐふっ!? がはっ! ごふっ! ちょ、待っ!?」

「……なんだかよくわからないけど、チャンスみたいだね! 『並列制御』『アースインパクト』『アースインパクト』!」

「待っ――」


 おっ、カステラさんナイス! フラムが挟まれて潰されて死んだから、これで集中していける! いやー、もうあいつがいるだけで妙に調子が狂うんだから、この今の戦場にこそいて欲しくない相手だよな。さーて、集中していこうか!


「アルはみんなを下ろして、突っ込んで撹乱! ハーレさんは俺の上に乗ってくれ! サヤとヨッシさんはそれぞれの判断で! ただ昇華魔法の発動の前兆があれば、当たる前に潰すのを優先! 倒す事より、倒されない事と邪魔をする事を優先で!」

「おう、任せとけ!」

「はーい!」

「ケイ、私は下を抑えるかな!」

「私も距離は取らずに戦うね! 『高速飛翔』!」

「そこは2人の判断に任せる! カステラさんと辛子さんは、ライルさんと合流して連携して安全圏から出てくる相手を迎撃! レナさんはそっちに回ってもらえるか!?」

「私達で後続を抑えるんですね!」

「おっしゃ、ようやく暴れられそうだな!」

「僕ら、中々出番が無かったもんね!」

「それは了解だけど、先に相手をすべきのがいるよねー! 」


 西側の崖の上から続々と敵が降りてきているけど、これで一応の迎撃体勢にはなるはず。一気に昇華魔法で殲滅しても、どうせ安全圏で復活して出てくるんだから意味はない! ウィルさん達の相手をレナさん達に任す事になるけど、任せたぞ!

 そして俺らの方がやるべき事は、出来るだけ行動値の消耗は抑えつつ、この大人数が連携して動けないように暴れるのみ!


「いくぜ! 『旋転連突撃』!」


 よし、アルの連続突撃が始まるから即座に離脱だ。今はみんなで固まっているよりも、バラバラに動いて撹乱を狙う! 


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 96/117 → 96/111(上限値使用:10)


 という事で、俺はハーレさんを背中に乗せて上空へ離脱! 相手の中には当たり前だけど飛行種族はいるから、そこは俺とハーレさんで抑えるか。


「『踵落とし』! 『強脚撃』!」

「うおっ!? いきなり容赦ねぇな、レナさん!?」

「自分達は動かずに随分と余裕そうだけど、何を企んでるのー? ウィルさん! 『連脚撃』!」

「何って、真っ向勝負だっての! 群集同士のな!」

「レナさん、フォローします! 『根下ろし』『コイルルート』!」

「させねぇよ。『回鱗刃』!」

「あれ!? ライさん、どこ行った!?」

「辛子、後ろ!」

「いやいや、やっぱりこうだよなぁ? ……なんであんなに見つかるんだ?」

「あっ、またか!? ちっ、カステラ、砂の操作で炙り出せ! そこを俺が攻撃する!」

「了解! 『アースクリエイト』『砂の操作』!」

「おわっ!? それってズルくねぇ!?」


 ウィルさん達とレナさん達の戦ってる声が聞こえてくるけど、そっちを注視してる余裕は無し!


「あはははははははは! 避けるねぇ! 避けるねぇ! どこまで避け切れるかなぁー!?」

「こっちは2人がかりだってのに、相変わらずとんでもねぇ動きをしてんのな!? 『ファイアウォール』!」

「……強い! 『ファイアクラスター』!」

「あははははははははははははははは!」

「……全然……当たらない!?」


 相変わらず弥生さんの高笑いは聞こえ続けてるけど、とりあえずは紅焔さんと風音さんの2人は無事っぽい。声だけだから正確な様子までは――


「ケイさん、攻撃が下から5発来るのです!」

「ほいよっと!」


 他のとこの様子を伺ってる場合じゃないな。間違ってもハーレさんを振り落とさないようにする為に飛行鎧の岩を追加生成して、固定をしておいて……後ろへと急加速して、飛んできていた魔法や投擲を回避。


「次々来るのさー!?」

「こりゃ、キリがないな!?」


 あちこちに様々な色のモヤが見えているけど、この数は凄まじい。これ、飛行鎧だけで避け切れるのか? いや、ともかく今は飛行鎧の挙動で回避していくしかない。


「わっ!? わわっ!? 『散弾投擲』! わー!? 『散弾投擲』!」

「ちっ、回避し切れてないか!?」


 ハーレさんが当たりそうな攻撃は迎撃してくれているけど、流石の数の差があり過ぎる! 全方位を確認出来る訳じゃないから死角が出来るし、それをハーレさんがフォローしてくれて辛うじてってとこか!

 ともかく、避けろ、避けろ、避けろー! 反撃は出来なくてもいい! 今はひたすら回避に徹して、敵を引きつけるのみ!


「『爪刃乱舞』! 次に斬り裂かれたいのは誰かな!?」

「……今の、威力が異常に高くないか?」

「怯んでんじゃねぇよ! 1人相手だ、囲めば対処はしきれなくなるはずだ! 一斉にかかれ!」

「「「「「おう!」」」」」

「『略:エレクトロウォール』『爪刃乱舞』!」

「「「「「なっ!?」」」」」

 

「やるね、サヤ! 『麻痺毒生成』『棘乱射』!」

「ぐわっ!?」

「くそっ、ハチはどこ行った!?」

「『微毒生成』『毒針』!」

「ぐっ!?」

「隙間を縫って攻撃してきてるぞ! 少し距離を取れ!」

「くっそ、味方が邪魔じゃねぇか!」


「余所見してていいのかよ? 『重突撃』!」

「「「ぎゃー!?」」」


 色んな声が聞こえてくる中で、みんなそれぞれの戦い方に合わせて撹乱していってる様子が聞こえてくる。回避に集中してた事で、妙に乱れてた焦りの余地がなくなって、逆に冷静になってきた。

 みんながいくら強いとはいえ、こんなに一方的な展開があり得るのか? これって本当に寄せ集めの烏合の衆? 何かが引っかかるけど、何が引っかかる? まだ判断材料が足りない。だったら、判断材料を集めるまで!


「ハーレさん、少し今まで以上に無茶な挙動をするけど、その上で確認してもらいたい事がある」

「どういう内容ですか?」

「この集まってる人達の、所属の共同体を確認してほしい」

「……やるだけやってみるのさー!」

「それじゃ任せた!」


 さーて、それじゃずっと感じてる違和感の正体を探っていこうか。レナさんもウィルさんが何かまだ企んでいると見ているみたいだし、そこは俺も同感。今みたいな大規模な衝突が始まって、その違和感は更に強くなった。

 皮肉な話だけど、フラムを投入してきたのも余計に……どうすれば、意表を付ける? この人数相手でも対応し切れない何か……あ、これならいけるか!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 93/111(上限値使用:10): 魔力値 145/302


 パッと浮かんだのは、いつかのハーレさんが水の上に乗ってトランポリンのように跳ねていた様子。あれが今の水のカーペットでの移動方法として参考にしたもの。

 その運用方法は方向性は跳ねるのではなく、移動用に乗れるように調整したものにした。だけど、今それを別の方向に……今の精度で新たな手段へと再構築をする!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を3消費して『水の操作Lv7』は並列発動の待機になります>  行動値 90/111(上限値使用:10)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『水の操作Lv7』は並列発動の待機になります>  行動値 84/111(上限値使用:10)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 生成した水を8つの操作に分割して、分散させて追加生成をして円盤状に形成。それぞれの反発力は、最大まで強化。位置は……自分でびっくりするほど冷静に把握出来ている。これなら多分想定通りに扱える!


「……円盤状の水が8つ?」

「おい、何をする気だ!?」

「何でもいい! さっさと撃ち落とせ!」


「やるぞ、ハーレさん!」

「了解なのさー!」


 初速は飛行鎧でやればいい。そこから、1つ目の水へと突っ込んでいき、最大まで強めた反発力によって跳ね返る。その先にも既に用意していた2つ目の円盤状の水。ここでも同様にして跳ね返り、更に加速させていく。

 それを8つの水の円盤の位置を変化させ、次々と加速させる。ははっ、無茶苦茶な速度だけど、今ならミスる気は欠片もしないな!


「な、なんだよ、これ!?」

「知るかよ! でも、水を使ってんなら、それを破壊すれば――」

「させる訳、ないよな!」

「ぐふっ!」

「「「「「なっ!?」」」」」


 おぉ、飛行鎧ならどれだけ強引な挙動変化でも操作時間が削られる事がないから、強引に軌道を変えてみた。それで水を破壊しようとしてたタカをロブスターのハサミで殴り飛ばしたけど……すげぇ吹っ飛んだな。どうせなら、自己強化を使っておけば良かったかも?

 ははっ、相当な集中力が必要にはなるけど、こりゃいいや。この調子で、飛んでる奴らを全員落としてやろうか。流石に勢いだけの攻撃だから、瞬殺出来る程の威力ではないけど、今はそれで充分なはず


「あはははははははははははは! なにそれ、なにそれ、なにそれ!? ケイさん、いいね、いいね、いいね!」

「ちょ!? ケイさん、弥生さんがそっちに行ったぞ!」

「……へぇ? 面白い事をするね、ケイさん」

「……行かせない! 『ブラックホール』!」

「弥生の邪魔はさせないよ。『レイ』!」

「……邪魔をしないで! 『ファイアインパクト』!」

「フォローするぜ、風音さん! 『爪刃乱舞』!」

「2人がかりで僕の足止めかい。『ウィンドインパクト』!」


 あぁ、弥生さんが俺らに標的を切り替えたのか。一直線にこっちに向かってきてるけど……そうか、こういう手段もあるんだな。


「わっ!? ケ、ケイさん!?」

「心配すんな、ハーレさん」


 強引に飛行鎧で動きを止めて、弥生さんの真正面に全ての水を集めていく。まぁこれだけじゃ弥生さん相手にはどうにもならないだろうけど……今はそれでいい。その間に遮音に使っていた移動操作制御の水を2分割して、片方を俺の後ろ側に持ってきて反発力を強めて、その水を飛行鎧に強引に押し当てていく。

 飛行鎧は、吹っ飛ばないようにその場に強引に押し留めて……後はタイミングを測るだけ。移動に使うんだから、ダメージ自体は発生しないし、いけるだろ。


「あははははははは! いいね、いいね、いいね! これで私を吹っ飛ばすつもりだろうけど、そうはさせないよー!」


 そこで俺の水が弥生さんの銀光を放つ爪で切り裂かれて破壊されるのは想定済み。ここからは時間との勝負だ。


<行動値上限を3使用と魔力値9消費して『魔力集中Lv3』を発動します>  行動値 84/111 → 84/111(上限値使用:6): 魔力値 136/302 :効果時間 14分


 焦り過ぎてた反動なのか、無茶な状況に追い込まれたせいなのか、変な違和感をどうにかしようとし過ぎたからなのか、それとも他の何かなのか、理由は自分でも分からないけど、凄い冷静だ。今なら、これを失敗する気は欠片もしない。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 83/111(上限値使用:10): 魔力値 133/302


 弥生さんの背後に、ほんの僅かな水滴を生成。次で最後の一手。これを凌がれたら厳しいけど――


「『狙撃』!」

「あははははははは! ……えっ?」

「弥生!?」

「ようやく隙が出来たな、シュウさん! 『爪刃双閃舞』!」

「くっ!」

「……逃げるかどうか、自分で選んで。……『アースクリエイト』『岩の操作』」

「そんなもの! 『アブソーブ・アース』! 『ウィンドボム』!」


 ははっ、ハーレさん、足場の小石破壊のナイス狙撃だ! 今までよりも投げる速度も威力も相当違うから、Lv10になった効果が出て、弥生さんの対応を上回ったっぽい!

 さぁ、足止めが目的だからここまでする必要自体はないんだけど、個人的にはリベンジをしたいとこだからな。倒せるとまでは思えないけど、これで一矢は報いてやる。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を10消費して『双打連破Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 73/111(上限値使用:10)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『水の操作Lv7』は並列発動の待機になります>  行動値 67/111(上限値使用:10)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 弥生さんの背後に生成していた水滴を3分割にして、それぞれに急激に追加生成をして円盤状に広げていく。ハーレさんに移動用の足場を破壊されて落ちていってる弥生さんだけど、落とすものか。

 円盤状の水の2つを真下と真上に移動させ、最大限まで反発力を高めて挟んだ状態で次々と跳ねさせていく。それと同時に俺の飛行鎧の位置固定を解除して、俺自身を跳ね続けている弥生さんに向けて吹き飛ばす。


「っ!? あははは……やるね」

「これで、どうだ!」

「弥生!?」


 慌てたシュウさんの声が聞こえてきているけど、こんなチャンスは逃しはしない。全身全霊での加速で威力を強化した攻撃をくらえ。


「うっ!?」


 上下に跳ねてた弥生さんに、横からの俺のロブスターのハサミでの双打連破の同時の2撃が直撃! その吹き飛ばし効果で、背後に用意しておいたもう1つの円盤状の水に向けて吹っ飛んでいく。

 そこから最大まで設定した反発力で弥生さんが俺の方まで戻ってきたし、ここから更にもう2発――


「それ以上はやらせない! 『ウィンドボム』!」

「シュ、シュウさん!?」

「ぐっ!?」


 あ、弥生さんをハメ殺しにしてたのに、シュウさんが弥生さんを吹き飛ばして、代わりにシュウさんが俺の攻撃の対象に変わったか。流石は弥生さんを大事に思っているシュウさんだからこその行動だね。

 まぁこれでも別にいいか。弥生さんもシュウさんもどっちも厄介なんだし、どっちかだけでも弱らせられれば充分な成果だ。とりあえず最後まで発動してしまえ!


 

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