第1162話 大きな動き


 弥生さんを庇って強引に割り込んできたシュウさんに、銀光を放つロブスターのハサミを叩きつけていく。双打連破の吹き飛ばし効果と、魔法産の水の弾力性というか、反発性を持たせる事が出来るという性質の合わせ技。

 ははっ、こういう事が出来るスキル自体は揃ってた。揃ってたけども、アイデアとして形にはなってなかったし……双打連破で吹き飛ばした際の操作時間の削れ方が半端じゃない。今のスキルLvだからこそ、出来ることかもね。


「ぐっ!? うぐっ!?」

「シュウさん! シュウさん、シュウさん、シュウさん!」

「……今度こそ……逃がさない! ……『ブラックホール』!」

「邪魔しないで! この! この!」


 ん? 風音さんが弥生さんを完全に捕まえたけど……暴れ方が妙だな? いつもの大暴れしているけど攻撃は的確に仕留めていくような状態じゃなくて、ただ闇雲に暴れてるだけ?


「弥……生……約束を……」

「シュウさん、すぐに助けるから! この!」

「……弥……生!」

「っ!?」


 なんだか悲壮な声になってる弥生さんだけど、この状況ってなんか俺が悪者みたいじゃん!? 盛大にぶっ飛ばしてる最中に、今のも死別しそうで最後の言葉を残していくような雰囲気って必要!? なんか妙に弥生さんが大人しくなったけど、これは一体……?

 えぇい、そんな事を気にしてられるかー! 余裕ありまくりの弥生さんとシュウさんをここまで追い詰めたのはこれが初めてだし、このままとにかく押し切るのみ!


「これで、ひとまず最後!」

「ぐっ!」


 双打連破の最後の2撃を叩き込んで、それを水の反発力で俺の方へと戻していく。ここからは、飛行鎧の出番だ! でも、この飛行鎧を解除されると厄介だから、水のカーペットの方で飛行鎧を包み込む!

 俺の物理攻撃は決して強い訳じゃないけど、それでも魔法型のシュウさんには有効なダメージを与えて、HPは半分を切っている! ははっ、今ので朦朧も入ったみたいだし、このまま倒し切ってしまえ!


<行動値を5消費して『黒の刻印:脆弱』を発動します>  行動値 62/111(上限値使用:10)


 俺のロブスターのハサミだけを水の中に突っ込んで、シュウさんに黒の刻印を刻んで物理攻撃への耐性を大幅に引き下げて、次の一手で仕留め切る! あ、これってどっちに効果が……まぁどっちでもいいか! ともかく水の操作を解除。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を15消費して『万力鋏Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 47/111(上限値使用:10)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を20消費して『連強衝打Lv1』は並列発動の待機になります>  行動値 27/111(上限値使用:10)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『万力鋏Lv1』のチャージを開始します>


 シュウさんの白いネコの首を左のハサミで挟みつつ、右のハサミで連続して殴りつけていく! あ、先に触れた万力鋏の方が異常にダメージが大きい? なるほど、並列制御なら先に触れたスキルの方に黒の刻印:脆弱の効果が出るのか。


「え、シュウさんがそこまで追い詰められてるの、初めて見たんだけど!?」

「余所見してる余裕があるのかよ、レナさん! 『並列制御』『爪刃乱舞』『根の操作』!」

「およ!? わわっ!? 脚が木の根になってそれってありなの!?」

「出来るんだから、ありなんだろうよ! 『並列制御』『薙ぎ払い』『根の操作』! って、乗ってくるか!?」

「おっとっと! 何をやってるかが分かれば、その程度は問題ないよ!」

「ちっ、相変わらず厄介な!」


 なんか会話しか聞こえてないけど、とんでもない光景が繰り広げられてる気がするんだけど!? その光景、ちょっと見たい!


「大詰めで、油断していいのかい? 『アブソーブ・アース』! ……吸えない? 表面に水!?」

「残念でしたっと!」


 移動操作制御の土魔法が吸収出来るのかは知らないけど、この反応は表面を水で覆ってたのが良かったっぽいね。シュウさんが戸惑うのって、珍しい光景だな!


「だったら、これだね。『閃光』!」

「うわっ!?」


 やばっ!? 至近距離から、思いっきり閃光をくらって盲目になった!? でも、それはただの悪足掻き! 直接攻撃を狙ってこなかったのは、行動値がもう無いからか?

 

「……やられた!? ……ケイさん、気を付けて!」

「……シュウさん、ありがと。覚悟してもらうよ、ケイさん!」

「ちょ!? 今のって、弥生さんを解放する為か!?」


 ヤバい、ヤバい、ヤバい! この盲目の状況で、解放された弥生さんの相手とかは無理だから!?


「ケイさん、そのまま真下まで一気に降りてきて! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」

「サヤ、ハーレさん! ケイとヨッシさんの邪魔はさせるな! 『重突撃』!」

「了解なのさー! 『狙撃』『狙撃』『狙撃』!」

「分かったかな! 『並列制御』『爪刃乱舞』『爪刃乱舞』!」

「ちょ!? これ、花粉の弾か!?」

「目がー!? 目がー!?」

「両手両足での爪刃乱舞の発動ってなんだよ!?」

「手が付けられん! 発動が終わるまで、距離を取れ!」


 ははっ、みんな色々としてくれてるみたいじゃん! 周囲の様子は徐々に見えるようにはなってきたけど、ここはみんなを信じて真下に降りるのみ! まだ殴るのは残ってるから、殴りながらで!


「風音さん、弥生さんは俺らで抑えるぞ!」

「……でも……どうやって?」

「こうやってだよ! 風音さんは土を頼んだぜ! 『ファイアクリエイト』!」

「……分かった! 『アースクリエイト』!」

「やらせるか! 『ウィンドクラス――」

「……それは俺の台詞だ、ガスト!」

「十六夜!? なんでここに!?」

「……知る必要はない。くたばれ!」

「くそったれ!」


 どういう状況の戦闘が繰り広げられてるのかが分からないけど、ともかく真下へと急加速! これで、ヨッシさんが何かを――


「ケイさんは逃がさないし、シュウさん、助けるからね!」

「……それは……こっちの台詞!」

「くたばれ、弥生さん!」


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 27/111 → 27/113(上限値使用:8)


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 27/113 → 27/119(上限値使用:2)


 くっ!? 弥生さんがどういう攻撃をしてきたのかが分からないけど、衝撃はほとんどなかったから、威力の低い魔法か何かか!? でも、2連発だったから、両方の移動操作制御が破られた!

 いや、それでもまだシュウさんは捕まえてるし、まだ殴り続けてもいる! 落下位置まではズレてないはずだから、ここはヨッシさんを信じるのみ!


<『万力鋏Lv1』のチャージが完了しました>


「ケイさん、そのまま思いっきり振り抜いて!」

「ほいよ!」

「ぐっ!」


 おっと、最後の一撃を叩き込んだら落下の勢いが止まった? あ、盲目が回復してちゃんと見えるようになってきた……って、シュウさんが円錐状の氷に串刺しにされてる状況ー!?

 まだちょっとHPは残ってる状態だけど、もうチャージを終えた万力鋏の発動が待っている。弥生さんは……あぁ、慌てたように空中を駆けながらこっちまで来てるけど、その真上から溶岩が降り注いでいる状態だな。弥生さんも相当なダメージを受けてるし、回避する余裕はなさそうだ。


「今回は勝たせてもらったぞ、弥生さん、シュウさん!」

「……弥生、負けるのは久しぶりだね?」

「あはは、そうかも? ……ごめんね、シュウさん。取り乱しちゃったのが失敗だったよ」

「その反省は後だね」


 そんな会話を最後にしながら、シュウさんは俺のチャージを終えた万力鋏で挟み切って、弥生さんは風音さんと紅焔さんの発動したラヴァフロウに呑まれて、2人ともほぼ同時にポリゴンとなって砕け散っていった。

 おっしゃ、今まで全然勝てる気がしなかった弥生さんとシュウさんの同時撃破に成功した! ははっ、戦力差はかなりあったけど、まさか倒せるとは! おっと、自分が落下中なのを忘れないようにしないと……よし、なんとか着地成功!


「全員、下がれ! 弥生さんとシュウさんを倒した相手だ、下手に攻撃をしてもこっちが消耗するだけだ!」

「……なぁ、ルアー。あの十六夜って人、やばくねぇ?」

「確かにライの言う通り、あの戦力は誤算も誤算だな。ウィル、どうする?」

「とりあえず、体勢を立て直す。弥生さんとシュウさんが回復してくるまでは、時間を稼ぐぞ。誰がどの属性のアブソーブ系スキルを持ってるか分からんしな」

「おし、分かった」


 そのウィルさんの指揮で、赤の群集の面々は俺らから距離を取っていく。……ここでそういう判断をしてくるか。弥生さんとシュウさんじゃなければ、俺らの排除は不可能と判断した?

 いや、それはおかしい判断だよな。アブソーブ系スキルでの吸収を警戒する理由は分かるけど、そんなものはこれだけの人数差ではあまり意味のない事だ。俺らが吸収したとしても、その許容量を超えるだけの数で押せばいいだけ。そもそも対応出来る属性の方が少ないんだから……。


「……レナさん、ウィルさんが何か企んでるみたいな事を言ってたよな? その内容に心当たりは?」

「人数の割に攻撃が甘過ぎるね。その気になってれば、弥生やシュウさんの手を借りなくても……わたし達の反撃があったとしても、もっと攻勢は強められたはず。それに、強い人が少な過ぎるのも気になるよ」

「……俺としても違和感があったな。……初めは力量不足なだけかと思っていたが、あっさりと倒せ過ぎている」

「……なるほど」


 十六夜さんからも意見が出たけど、どう考えても多勢に無勢な今の状況。この人数差で奮戦出来たのは、みんなが頑張った成果だというのは間違いないはず。だけど、今はそれだけで済ませていい状況じゃない。

 何よりも、顔の広いレナさんからしても他の強い人達の姿は結局見えないまま。……あぁ、なんとなく狙いが読めてきた。ちっ、嫌な予感がずっとしてたけど、これが狙いなら……完全にしてやられたかもしれない。


「時間稼ぎが目的か、ウィルさん!」

「さてな? もしそうだとして『はい、そうです』と言う訳がないだろう?」


 あー、もうそりゃごもっとも! 俺らは弥生さんとシュウさんを抑えに来てて、それ自体には成功してるけど、それは囮か! いや、でもベスタの総指揮でみんなが動いてるんだし、他の赤の群集の強い戦力がクエスト攻略に動いてても別に大丈夫な――


<規定条件を達成しましたので、競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開の峡谷』が進行します>

<エリアボスの討伐ボーナスとして、『ミマタノオロチ』は灰の群集所属の群集支援種になり種族を変更した後にランダムリスポーンとなります>


 おし! エリアボスの討伐が完了したみたいだし、トドメは灰の群集が取れたっぽいな! 他のクエスト進行部隊は、ちゃんと進められてるようで安心した!

 って、もう安全圏から弥生さんとシュウさんが出て……げっ!? 2人だけじゃなくて、クジラの人と小動物の人の集団がいる!? ちょ、これってまさか!?


「よし、そろそろ頃合いだな。弥生さん、シュウさん、ベスタを抑えに向かってくれ」

「ウィルさん、エリアボスを倒したら、主戦力を相手に大暴れしてもいいって約束だったけど――」

「弥生、それはダメだよ。それは反故にはしない約束としたからには、即座にリベンジをしたくても我慢しておくれ。気持ちは分かるけどね」

「……はーい。あーあ、負けるとは思ってなかったなー」

「へぇ、弥生にしては珍しく、集団の方針で動くんだねー?」

「ごめんね、レナ? これでも敵味方問わずに暴れても許容してくれる状況には感謝してるからさー。だから、今回はその範囲に留まるようにシュウさんにお願いしてるの」

「あらら、そうなんだ? それ、今言っちゃっていいの?」

「追いかけてくるなら、それはそれで望むところだからねー」

「ケイさん達には、また次の機会にリベンジをさせてもらうよ」

「ルアー、そっちの指揮は任せたぜ」

「分かってるっての、ウィル! あー、ようやく本格的に戦えるぜ。いくぞ、野郎ども!」

「「「「「おう!」」」」」


 やばっ!? ここを俺らが強襲した時の手段を、弥生さんとシュウさんを送り込む為に使う気か!? ちっ、どうにかしてそれは阻止しないと――


「こっちは総攻撃を開始だ! だが、絶対に誰も仕留めるなよ! 全員、ここで足止めさせてもらう!」

「はい!? ウィルさんの狙いって、俺らの足止め!?」

「ベスタは大半において高水準だが、思考はズレてねぇからな。1番危険なのは、咄嗟の思い付きで新たな戦法を出してくるケイさんだ」

「……うん、よく考えたらそうかも?」

「そこで納得しないでくれる、レナさん!?」

「もっと早くにそこは僕らも考えておくべきだったかも?」

「……なんだか当たり前になり過ぎていましたね」

「よく考えたら、当然の判断ではあるか」


 くっそ! レナさんを筆頭に、カステラさん、ライルさん、辛子さんに納得されてしまうのがなんか釈然としない! だー、それはどうでもいい!

 ともかく俺らの足止めが目的なのだとしたら、すぐにでもここを離脱しないと! いや、その前にベスタへ強襲を狙われてる事を伝えて――


「わわっ!? 危機察知の反応が多過ぎるのさー!? 『拡散投擲』『散弾投擲』『散弾投擲』!」

「ちっ、1撃ずつは弱い攻撃かよ! ケイ、このままいっそ、死んで戻るか!?」

「だー! その方が良いかも――」

「全員、攻撃を止めろ!」


 ちょ!? ウィルさんのその号令で、攻撃がピタッと止まったんだけど!? くっ、死んで戻る事すらさせてくれないのか!?

 そうしてる間に弥生さんとシュウさんとルアーを乗せた空飛ぶクジラが、俺らと同じように吹っ飛んでいく準備が進んでる!? でも、その前には多くの人が集まってて強行突破が出来そうにない! ここからどうすればいい!?

 

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