第1160話 読めない狙い
赤の群集の安全圏の前に強襲には来たものの、どうも様子が想定していたのとまるで違う。ライさんに聞かれていたから、対応に戸惑って右往左往する事はないとは思ってた。そこまでは思ってたけど、ここまで想定から外れるとは思わなかった。……って、ちょっと待って!?
あー、今になって初めて気が付いたけど、安全圏の中の方は……俺ら灰の群集からでは見えないのか。いや、正確にはバリアの先に灰の群集の安全圏みたいな岩壁に囲まれてる様子みたいなのは見えるけど、プレイヤーらしき姿は一切見えないんだけど……。
うーん、これはこういう仕様っぽいな。安全圏って名前が付いてるだけの事はあるみたいだし、多分赤の群集のプレイヤー以外が入れないんだろう。あ、赤の群集の傭兵は入れるのかも?
「……これ、向こうからは丸見えかな?」
「……他の群集の安全圏の中までは流石に行った事ないけど、多分ねー」
「レナさん、それってヤバくない?」
「ヤバいと思うよ。わたし達が近付いてるのに、何もしてこないんだからさ」
「……ですよねー」
自分達の安全圏ではバリアでその先の視界が遮られるなんて事は無かった。だから、ライルさんと十六夜さんがいる場所を通り過ぎて、安全圏の方へと近付いていくサヤとレナさんに向かって何も仕掛けてこないのは不自然過ぎるし、何か企んでいるはず。
くっ、もし動きがあるとしたらここからだけど……って、動きがあったけどこれはマズい! ちっ、獲物察知の妨害を切ってきたけど、やっぱりそういう形かよ!? 思いっきり嫌な予感が的中……いや、それなら妨害を解除する必要もないし、何か企んでそうだな、これ!
「全員警戒! 左右の岩壁の上とその奥に、赤の群集の反応が多数! 完全に囲まれてる! サヤ、レナさん、こっちに戻ってくれ!」
「っ!? 分かったかな!」
「……やっぱりそっち側に回り込んでたんだ。でも、まだなんか引っかかるなー?」
そんな風に言いながらも、慎重に安全圏の間近まで近付いてきていた2人が駆けて戻ってきている。実際の光景は確認出来なかったけど、多分岩壁を登って反対側へと送り込んでたのは間違いなさそうだな!
「はっ!? ケイさん、青いモヤと紫色のモヤが重なりそうなのです!」
「ヨッシさん、抗毒魔法! 種類は……麻痺毒と神経毒で!」
「了解! 『アンティヴェニン・デュオ』!」
よし、この前兆はポイズンミストだろうから、これでアルの元にいるメンバーの行動阻害の毒は封じれるはず。植物系の種族は多くはないから、この状況で広範囲での動きを封じるなら選択肢は限られてくるもんな。だけど、完全に防げるかは毒の種類次第だからかなり賭けだ!
予想通り毒の霧が一気に広まって包まれたけど、毒の効果は出てないから防げたっぽい。それはいいんだけど、サヤとレナさんが防げずに呑み込まれそう!? それにその先にいるライルさんと十六夜さんもか!?
「離れたとこを狙われたかな!?」
「うーん、あんまり魔法は心許ないんだけど……そうも言ってられないね。サヤさん、肩を借りるよ!」
「え、あ、うん!」
「『魔法砲撃』『並列制御』『ファイアウォール』『ファイアウォール』! わたしのはそんなに保たないから、今のうちに!」
「分かったかな!」
「ライルと十六夜さんさんは、これで凌げ! 『ウィンドクリエイト』『強風の操作』!」
「辛子!? 助かります!」
「……礼を言う。ここにきて、赤の群集が一気に動き出したか」
おぉ、そういう手があった! 火の防壁魔法や操作した強風で毒霧に触れないように対処しているね。でも、これで攻撃が終わるとも思えないけどな!
「はっ!? 上から攻撃なのさー! でも、照準が分かんない!」
「って、デカい火の塊!? ちっ、ファイアクラスターか!」
「ケイさん、手分けして当たりそうなのは相殺するぞ!」
「おうよ、辛子さん!」
しかも無差別な攻撃になる通常発動のパターンかよ! でも、辛子さんの言うように当たりそうな部分だけ相殺してしまえばいい!
<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します> 行動値 118/118 → 117/117(上限値使用:4)
クラスター系のこの攻撃の1撃辺りの威力は、正確な威力は測れてないけど衝撃魔法くらいの威力はあったはず。だったら、これで相殺――
「ケイさん、辛子さん! 魔法で相殺はダメなのです!」
「なんで……って、そういう事か!?」
分裂して迫ってくる火の球の間に、水の膜がある竜と、砂が周囲を漂ってるサメがいる。ちっ、このタイミングでアブソーブって事は、水魔法だろうが、土魔法だろうが、相殺しようとすれば吸収する気か!
だったら、今はこれで凌ぐしかない。確実に俺らに迫ってきている火の球が2発ほどあるからなー!
「辛子さん、ここは俺が防ぐ!」
「了解だ!」
辛子さんの魔法は土属性だから、視界を塞ぐ可能性があるのは避けたいしね。普通の発動で防ぎ切れるか分からないから、こっちで強化して防ぐまで。これまでは吸収しにこれないだろ!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』は並列発動の待機になります> 行動値 110/117(上限値使用:4): 魔力値 281/302
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値10と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 100/117(上限値使用:4): 魔力値 266/302
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
魔法砲撃で2重に展開するよりも、耐久値を上げる為に通常発動で展開! 当たりそうな火の球が2発だから、こっちの方が正解のはず! おし、属性の相性は良かったからなんとか耐えれた!
「なんとか戻れたかな!」
「ふぅ、危ない、危ない! ……紅焔さんと風音さんは、ガストさんと地上からの攻撃で完全に翻弄されてるね」
「え、マジで? うぉ!? マジだ!?」
防ぐので精一杯でそこまで見てる余裕が無かったけど……ガストさんが2人を引きつけつつ、地上からの遠距離攻撃の猛攻を受けてる感じか。くっ、この今の状況は俺らの方が完全に抑え込まれてるじゃん!?
てか、アルを襲ってきたタチウオの人はどこ行った!? 多分、十六夜さんに仕留められた? いや、そっちは気にしてても仕方ない。見えてる範囲の対処が先!
「……鬱陶しい。……まずはタカを仕留める。……『ブラックホール』」
「おわっ!? ちょ、吸い込みの強力さが弥生さんの比じゃねぇな!?」
「風音さん、そのまま抑えてろ! 『白の刻印:増幅』『火刃熱閃舞』! 本体のキノコは……そこか!」
「なっ!? 知られてんのかよ!?」
「させないよ。『レイ』!」
「助かったぜ、シュウさん! おらよっと!」
「あ、逃げんな!?」
「……ネコ夫婦!」
げっ!? このタイミングでシュウさんがやってきたのか!? それなら弥生さんも来てるはずだけど、どこに――
「あははははははははははは! いいね、いいね、いいねー! 強襲してくる相手は殲滅だよねー!」
「おわっ!? 弥生さんか!」
「あはははははは! まずは紅焔さんから相手をしてくれるのー!?」
「相手はするけど、戦うとは言わねぇぜ! 『高速飛翔』!」
「弥生、好きなように暴れておいで」
「あはははははははははははははははははははははははは!」
「……こっちも……忘れてもらったら……困る! ……『魔法砲撃』『ファイアクラスター』」
「あははははははは! 楽しいねぇ! 先に相手をしてくれるのー!?」
「……あっさりと……躱してくる!?」
「あははははははははははは! いいよ、いいよ、いいよ! 対人戦はやっぱりこうでなきゃねー!」
うげっ、飛行種族の紅焔さんの龍を相手に、空中を縦横無尽に駆け回って攻撃を仕掛けまくってるし、そこに風音さんも混ざってとんでもない空中戦になってるんだけど!? シュウさんは……傍観か? そんな余裕ありまくりな雰囲気で!
いや、元々それが今回の作戦なんだからこれでいいはず! なのに、なんで不安な気持ちが出てくる!? なんだか今の状況すらも赤の群集の手の内のような、そんな不安感が拭えない。一気に攻めるつもりが全然そうならなくて、防御に専念させられてるせいか?
そもそも、獲物察知で確認出来ている人数はとんでもなく多いのに、なんでこんなに考える余裕がある? ……今の状況、赤の群集の思惑を本当に出し抜けてるのか? 毒の霧で身動きが取れない状況ではあるけど、追撃してこない理由はなんだ?
「……シュウさんが、弥生さんのサポート以外に大技を使ったの? え、どういう事?」
「レナさん、何か気になる事があるのか?」
「正直、今の状況は色んな点で気になることだらけなんだけど……本命の狙いが分からない……」
「マジか……」
「……ふん、その辺はどうでもいい。ライル、少し手を貸せ」
「それは構いませんが、何をすればよろしいので?」
「……俺を東側の岩壁の上まで、岩で覆って飛ばせ。……片側だけでも、数を減らしてこよう。ケイ、それでいいな?」
「大暴れしてくるってことか。それなら十六夜さん、任せた!」
「……了解だ! いくぞ!」
「承知しました。『アースクリエイト』『岩の操作』! 辛子、残っている操作時間で霧の除去を!」
「おうよ! おらぁ!」
その辛子さんの言葉と同時に、まだ残っていた毒の霧が吹き飛ばされていく。そしてその直後に、ライルさんの生成した岩で固められた十六夜さんが東側の岩壁の上へと飛んでいっていった。
「……ふん、これだけの人数がいてあの程度の攻撃か? ……何を企んでいるか知らんが、潰させてもらおうか! 『暴発』!」
その直後から、何やら割と近くで凄まじい戦闘音が響き始めたけど……十六夜さんが大暴れしまくってるんだろうな。地味にそっちの方向の獲物察知の反応が続々消えていってるしねー!
「ケイ、ここからどうする? 西側に攻め込みに行くか、紅焔さんと風音さんの方を支援にしに行くか?」
「悪い、ちょっと考えさせてくれ」
「……急げよ?」
「……ほいよ」
アルの言う事はもっともなんだけど、根本的に考える猶予はあるのが本気で不気味過ぎるんだよ、この状況! 元々は完全に考える余地なんかなくて、ずっと動きっぱなしになると思ってたのに……。
今の時点で、赤の群集で強いと知ってる人はガストさんと弥生さんとシュウさんしか見ていない。これ、いくらなんでも少な過ぎないか?
いや、もしかしたら十六夜さんが今暴れてる東側の岩壁の先や、西側の岩壁の先で指揮を取ってる可能性はあるはず。真っ向勝負を仕掛けてきた時点で、クエスト進行の方に戦力を回してる可能性だって十分ある。
あぁ、もう! ここ以外の戦場の最新情報が知りたいけど、今の状況で競争クエスト情報板の確認なんてしてられんぞ! どうする? 弥生さんとシュウさんだけ引きつけて、一旦離脱するか? でも、どうやってそれを実行する!?
いや、焦るな。だけど今ある状況をまとめて、相手の狙いを読め。そうしないと、相手の思惑通りに動かされる。この状況、どうするのが最善だ?
「よう、久しぶりだな。ケイさん」
え、安全圏の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。この声の主は……あぁ、やっぱりいるとは思ってたよ! てか、なんか凄い姿になってるんだけど!?
なんか木彫りのクマになってるんだけど……これは木との融合種か何かか? ウィルさんの木ってそういやなんだっけ? 印象が薄いから、多分樫の木?
「久しぶりだな、ウィルさん。それにルアーもライさんもか」
「新生の赤の群集の共同体『リバイバル』、作戦参謀として真っ向勝負に応じてくれた事には礼を言うぜ。俺もだが、ルアーもライも、こういう機会があるのを望んでたからな」
「……そりゃどうも」
わざわざウィルさん自身が出てきて、作戦参謀を名乗ってきた? 今までの経緯を考えたら、それくらいの筋を通そうとする人な気はするけど……それが今のタイミングである必要があるのか?
それにライさんが擬態せずにいて、リーダーのはずのルアーが何も言わない? なんだか違和感が凄いんだけど、なんだこれ。
「今の状況で出てくれば、そりゃ警戒されるか。まぁ、その警戒は間違ってないがな!」
「わっはっはっは! ケイ、くたばれ! 『魔法砲撃』『ポイズンインパクト』!」
「げっ、フラム!?」
西側の岩壁の上に、他の人も次々と姿を表してきてるけど……こっち側にも隠れていたのは獲物察知で分かっていた話。いきなりフラムが先陣を切ってくるとは思わなかったけど!
フラムのツチノコが毒魔法を撃ってきたけど……こいつはそんな遠距離からのが当たるとでも思ってんのか。地味に毒魔法を使えるようになってるっぽいけどさ。
<行動値6と魔力値18消費して『水魔法Lv6:アクアインパクト』を発動します> 行動値 94/117(上限値使用:4): 魔力値 148/302
とりあえず魔法砲撃にしたアクアインパクトで、フラムからの攻撃は相殺。それはもう簡単だったからいいとしても……その後ろからゾロゾロと出てき始めた多くのプレイヤーの方が問題だな。
ようやく戦闘らしい戦闘になってきたけど、これって俺らが早くに攻め込み過ぎたのが原因だったりする? ……いや、そこまで楽観的な考え方はやめておいた方がいいか。むしろ、今のタイミングでウィルさんが出てきたのは、この状況を作る為の時間稼ぎが目的だった可能性が高いな。
ともかく今は目の前の事に集中! 流石に弥生さんの相手は紅焔さんと風音さんの2人だけでは厳しいだろうけど、今回はここに足止め出来れば作戦としては成功なんだし、最悪でも全滅しても問題はない! でも、油断はせずに出来るだけ時間は稼いでいきますか!
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