第1158話 強襲開始!


 色々と準備に手間取って、思った以上に時間はかかってしまったけど、それでも安全圏への強襲作戦は精度としてかなり上がったはず。……若干、弥生さんとシュウさんを抑え込む目的からズレてしまってるような気もするけど、それでも無視が出来なくなる事には変わりないはず!


 色々と手段が追加されたし、俺らも何か仕掛けたいとこなんだけど、良い案が思いつかない。やるとしたらアルの攻撃だけど、チャージだとタイミングの問題がなー。

 連撃系ならいけなくも……って、そうか! 今こそ、アルの新スキルの使い所じゃん! 取得してからまだ使ってないから、パッと出てこなかったよ! でも、これならいけるはず!


「アル、1つ提案!」

「……なんかまた更にとんでもない事を追加しようとしてないか?」

「そりゃ当然! ライルさんが固定を解除するまでの間に、『白の刻印:剛力』を使って強化した……えーと、スキル名はなんだっけ? ほら、昨日のフィールドボス戦で手に入れたアルの応用連携スキル!」

「『連旋・重突撃』か? なるほど、突っ込む際に盛大に火力を上げて襲い掛かれって事か」

「そう、そういう事! そこで安全圏の前を滅茶苦茶にする!」

「いいぜ、その案に乗ってやろうじゃねぇか!」


 ふっふっふ、これならスチームエクスプロージョンの勢いを移動だけでなく、攻撃にも転化出来る。ライさんが今頃、情報を伝えて迎撃体制を整えてるかもしれないけど、それを強引にぶち破ってやろうじゃん!


「あはは、なんだかどんどん恐ろしい攻撃手段になっていくねー! そこまで済んだら、後はそれぞれの判断で臨機応変に動くって感じでいい?」

「それでいいと思うけど、みんなはどうだ?」

「問題なしなのさー!」

「とりあえずライルさんと十六夜さんからは離れておく方が良さそうかな?」

「私はその間は毒対策……あ、でも範囲がカバーし切れないかも?」

「……ならば、毒をばら撒け。……その分、俺らが動きやすくなる」

「あ、それもそうだね。ケイさん、麻痺毒と神経毒でのポイズンミストの発動でもいい?」

「ほいよっと。場合によっては、麻痺や凍結を狙ってもらったり、抗毒魔法を使ってもらうから、そのつもりでよろしく!」

「うん、そこは了解! あ、ポイズンミストの発動の場合はケイさんとになる感じ?」

「あー、状況的に多分そうなりそうだし、それで!」

「うん、それじゃそれで!」


 この辺は実際に安全圏の目の前まで吹っ飛んでいってから、実際に周囲の確認をしてからになるからなー。既に赤の群集がポイズンミストを使ってたら、流石に対処しないと危険だしね。

 十六夜さんの案のポイズンミストは確かにありだけど、他の手段を使う可能性は最初から言ってた方が、その時になった時に混乱はしなくて済む!


「さてと、他に何か聞いておきたい人はいる?」


 そう呼びかけて、少し経っても返事はない。今思いつく範囲では、これ以上の内容は出てきそうにはないか。まぁこれだけ色々と出てくれば十分だよな! さぁ、それじゃ赤の群集の安全圏への殴り込みを実行に移す為の準備の仕上げをやっていこう。


「さて、先に準備しとくか。『魔力集中』『白の刻印:剛力』!」

「あー、そっか。アルは今のうちにやっといた方がいいか。他のみんなは、戦闘開始になってから自分の判断で使ってくれ!」

「はーい!」

「分かったかな!」

「……途中で離れるなら、もう使っておいた方がいいかも。……『自己強化』」

「俺らはそうかもな。『自己強化』! それにしても、風音さんと対戦する前に共闘するとは思ってなかったもんだ!」

「……それはまた別に話だよ?」

「ははっ、違いねぇ! 今はお互いに全力を尽くすまでだ!」

「……うん!」


 風音さんと紅焔さんの間でのゴタゴタは、今は気にせず動けそうなのはありがたいね。育成の方向性での違いはあっても、味方として動く分には何の問題もないんだな。


 これで突っ込んでいった際の危険要素の排除の準備はある程度出来たはず。本当なら抗毒魔法とポイズンミストを両方使ってしまいたいとこだけど、そこの人員は足りてないから仕方ない。

 他にもまだ対処が必要な事もあるかもしれないけど、可能性を思いつく限り上げて、その対処を今からするのは現実的に無理だ。その辺はもうその場で臨機応変に対応するとして、始めていきますか!


「それじゃこれより赤の群集の安全圏への強襲作戦を開始する! 俺らの後ろにいる人達は影響を受けないように待避! ラックさん、全体指揮は俺が取るけどスチームエクスプロージョンの発動合図の方は任せた!」 

「あ、そっちは私の指揮なんだね。それは了解だよー!」


 どの種族の人がどの役目なのかは分からないし、俺からは見えない位置だから、ここはラックさんに任せるのが1番だろう。アルも地面に降りてた状況から、空中へと浮かび上がっていって、準備が着々と進んでいく。

 なんだか浮かびにくそうな様子ではあったけど、そこは十六夜さんが生成した岩で持ち上げる感じで補佐してくれたみたいだね。発動してからなら、吹っ飛んでいくんだしこの辺は問題ないはず。


「アルさん、安全圏の方角はもう少し左ね」

「……こんなもんか、レナさん?」

「うん、ばっちり!」


 このタイミングで気付いてももう遅いけど、最新のマップを貰ってくるのを忘れたー!? いや、でもレナさんが把握してくれてるみたいだから、ここはレナさんに方向の微調整は任せよう!

 あー、慌てたり焦ったりしてたから、微妙に色々と不備があるぞ。……変に悪影響が出なければいいけど、そこはもう実際に動いてみるしかないな。ともかく、実行開始!


「ハーレさん、後ろの退避状況はどうなってる?」

「えーと、後方のみんなは退避完了です!」

「ほいよっと! それじゃラックさん、合図をよろしく!」

「了解! あ、ダイクさん、1番初めでも問題ない?」

「おっ、1番手か! おっし、やってやろうじゃん!」

「もう1人は予定通りで……それじゃそんな感じでいくよー! スチームエクスプロージョン、発動!」

「おうよ! 『アクアクリエイト』!」

「うん! 『ファイアクリエイト』!」


 ダイクさんともう1人の人のそんな声が聞こえた直後に、背後から強烈な爆発音と共に一気に加速していく。うおっ!? 2人での発動だから威力はあるけど、爆風に指向性が設定されてないから、吹っ飛び方が荒れ狂ってる!?


「おわっ!? こりゃきついな!?」

「ありゃ? 流石に初速は、指向性を持たせた方が良かったかも?」

「……アルマース、可能な限り自分で安定させろ! ……俺の方でサポートはする!」

「了解だ、十六夜さん! 『高速遊泳』!」


 おっ、アルがスチームエクスプロージョンで得た初速を高速遊泳で安定化させて、十六夜さんがその姿勢制御のサポートをしてくれている。凄い勢いだけど……風の対処を忘れてたー!? どんだけ今日は不備をやらかしてんだよ、俺!

 でも、固定を分散してやってるのと、ライルさんや風音さんや紅焔さんが前にいるから……風の影響はそうでもない? みんな割と普通っぽいし、この状況なら無くても大丈夫なのか?


「わっはっは! こう風を切って進んでいく感じはいいもんだ!」

「……それは同意。……分かってるね、紅焔さん」

「当たり前だ! ドラゴンの雄大さには、この程度の風は問題ないぜ!」

「……まだまだいける!」

「紅焔と風音さんは随分と余裕そうですね!? いえ、私もまだ大丈夫ではありますけど!」


 あ、少し心配してたけど、紅焔さんと風音さんは心配の必要は欠片もなかったっぽい。ライルさんが少し不安な感じだけど、しっかりと固定はされてるから大丈夫そうだね。


「アル、次の加速をしても大丈夫だと判断したらラックさんに伝えてくれ! ラックさん、アルからの合図で次の発動分をよろしく!」

「おうよ! てか、もういいぞ!」

「了……! それ……次の……を開……て!」

「……ん! 『並列……』『…………クリエイト』『ファイ…………イト』!」


 あれ? 後ろからの声がまともに聞こえ……って、おわっ!? 今度は安定した感じで、一気に加速した!? って、そうか! 俺より前の人の声は風に乗ってでも聞こえてくるけど、後ろの人の声が微妙に届き切ってないっぽい。

 ちっ、同じ連結PTにしてない状況だからPT会話に切り替わらず、こういう状況になってしまってるのか。いや、でもやる事自体は決まってるし、前にいる俺らの指示がラックさん達に届くなら問題はない!


「アル、いけそうか!?」

「……無茶苦茶な速度だが、やるしかねぇだろうが! 集中させてくれ!」

「……ほいよ」


 変に今は声をかけない方が良さそうな感じだな。岩壁の上をもの凄い速度で吹っ飛んで、乱戦の様子があっという間に流れていってるもんな。軽くマップを見てみても、凄まじい勢いで一直線にマップが埋まっていっている。

 ははっ、極端に体勢を崩さない状態で安定はしているし、この調子ならいける! ちょいちょい、何かに当たったような衝撃と叫び声が聞こえるのはスルーでいい!


「ラックさん、次を頼む!」

「……解! 次………、お願……」

「お……! 『……制御』『ファ……アクリ……』『アクア…………』!」


 相変わらずまともに聞こえてないけど、なんとなく発動しようとしているには分かった。その証拠に、その直後にはすぐに次の爆発音と、更なる急加速が始まっていく。

 少し勢いが落ち始めた段階で、アルは次の発動をしてもらった感じか。まぁ途中で失速してしまったら意味ないもんな。更に勢いが増してるから、このまま更に加速していってしまえー!


「……そろ……固定……厳し……!」

「分かっ……! ……ぐに交代……!」

「うん! ……った!」


 ん? 聞き取れない会話がラックさん達の方であったけど……あ、岩の生成をしてるから、操作の交代か! この速度での移動中で上手く出来ればいいんだけど……って、消える前の岩の表面を覆ってから、そこから追加生成で固定し直してきたか。

 ほほう、この速度での移動中に連携して固定役の交代とか早々する機会はないけど、それでも地味に練度が高いな。やっぱり今の灰のサファリ同盟の生産部門の人達は侮れないね。


「この勢いならあと2回でほぼ確実に辿り着くよ!」

「だとよ、ケイ! レナさんの見立てなら間違いないだろ」

「そりゃそうだ! これから2発分が終わったら、その時点でラックさん達は離脱! そのタイミングに合わせて、紅焔さんと風音さんも俺らからは離れて動き出してくれ!」

「……分かった!」

「おうよ! だったら、もう準備をしてようじゃねぇか! 『フレイムランス』!」

「おぉ!? 紅焔さん、いきなりやる気なのさー!?」

「あー、呑気に喋ってる時間はもうそんなにねぇか! ラックさん、次を頼む!」

「了解! ………人、お願……ね!」

「いく……! 『並列……』『…………クリエイト』『ファイ…………イト』!」


 これで魔法砲撃でのスチームエクスプロージョンを推進力にした、3度目の加速。いくら移動が速くても距離があって、しっかりと固定されているからこそ、こうやって一応の会話が出来ているけど、もうそれはこれ以上は無理だろうな。


 紅焔さんがフレイムランスの発動準備をしてたけど、多分準備完了よりも先に到達する。でもまぁ、全く無意味でもないだろうけどさ!

 俺も清水魔法か砂岩魔法を撃ってしまいたくなるけど、ヨッシさんとポイズンミストを発動予定だから、それは無理。その後の動きは臨機応変にだから――


「ラックさん、最後を頼んだぞ!」

「って、もうか!? ライルさん、引き継ぎ準備!」

「えぇ、分かっています! 『アースクリエイト』『岩の操作』! ラックさん、もう大丈夫です!」

「……ん! みんな……切り離……撤……! っ!?」

「あはははははははは! これは一体何をやってるのかなー!?」


 ちょ、この高笑いは弥生さん!? ちっ、この周辺のいたのか! でも、あっという間に声が遠かっているし、引き付けた上で安全圏への強襲が――


「邪魔……させない! 加速……と、切り離し……同……に……余った……魔法!」

「頼ん……だよ! 『……制御』『ファ……アクリ……』『アクア…………』!」

「一泡……せるまで! 『アクア……リエ……』!」

「これで…………らえ! 『ファイ……リエイ……』!」

「あはははははははは!」

「弥生!」


 2つの爆発音がしたと同時に、更なる加速が始まっていく。これは……2つ、スチームエクスプロージョンを発動したのか! 確か単独発動出来ない1組がまだ残ってたから、そっちを弥生さんの方に向けて発動した感じなのかも。

 そのタイミングでライルさんの岩の操作へと固定が切り替わったし、ラックさん達は切り離して落ちていったのか。……ここで戦う無茶はしなくてもよかったんだけど、シュウさんの慌てた声も聞こえてたし、ナイス判断だ! ここから先は任せとけ!


「皆さん、私の方で固定は引き継ぎました! もう目前ですので、油断なさらずように!」

「おっしゃ! 行くぜ、風音さん!」

「……先に行く。『高速飛翔』!」

「ちょ、待っ!?」

「……ふん、大した迎撃体勢ではないな」


 位置関係的に仕方ないんだけど、ライルさんの木で赤の群集の様子がよく見えない……いや、風音さんと紅焔さんは飛び立って、安全圏から出る時にすり抜けていくバリアみたいな物が隙間から見えてる始めた。

 さっきの最後のスチームエクスプロージョンで更に勢いを増して、安全圏の手前に近付いていっている。さぁ、ここから大暴れ開始といこうじゃないか!

 

 

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