第1157話 強襲作戦の最終調整


 今はベスタが手配してくれて、ラックさんが俺らの赤の群集の安全圏への強襲の為の移動用の人員が来るのを待っているところ。正直、この流れになってホッとしたよ。


「はぁ、なんとかなりそうで良かった……」

「ケイ、今日は妙に慌て過ぎじゃないかな?」

「……なんというか、今までにないくらいに行動を誘導されてる感じがして不気味なんだよ」

「そのケイの気持ちは分からなくもねぇな。どう考えても、今回の赤の群集は明確に連携が取れてるし、作戦もしっかり用意されてる感じがあるしな」

「……何度かケイさんが気にしてたけど、やっぱりウィルさんが作戦参謀?」

「ウィルさんでなくても、確実に誰かがいるのは間違いないのです!」

「そうなんだよな……」


 今でも作戦参謀はウィルさんの可能性が高いとは思ってるけど、ぶっちゃけそこは誰でも関係はない。重要なのは、誰かが立てている作戦の通りに動かされないように立ち回る事だ。

 その為に考えた手段が無理そうで焦ったけど、ベスタや灰のサファリ同盟のおかげでなんとかなりそうなのが救い……って、ラックさん達が来たか!


「みんな、お待たせー! 大急ぎだったけど、火の昇華の水の昇華を両方持ってる人を4人! 流石に人数が足りなかったから普通のスチームエクスプロージョンになるけど水の昇華を1人、火の昇華を2人にしたからねー! あと岩の操作での固定が出来るメンバーを4人、連結PTにして連れてきたよ! 私達は小型化してても問題ないから、これでいけるよね?」

「おぉ、それは助かる!」


 今気付いたけど、魔法砲撃にした場合は2人での昇華魔法の発動って出来ないんだった!? その辺はラックさんの方で調整してくれたっぽいけど……誰か気付いて指摘してー!?

 あ、そうか。昨日の風音さんがやったのは共生進化での特殊な方法だったけど、その辺が逆にその仕様を忘れる要因になってるのかも!? そうじゃなきゃ、いくらなんでも俺も含めてみんなして見落とし過ぎだよ! うん、まぁ今はそこは気にしないでおこう。


「ラックさん、俺らとは連結PTにはしないのか? 人数的に無理だよな?」

「うん、役目が終わった時点で私達は離脱するから! 戦力的には多分足手まといだからね。えっと、ダイクさんはこっちの枠で良いって聞いてるから水の昇華だけの枠にしたけど、それで良いんだよね?」

「おう、それで問題ないぞ! ……地味に魔法砲撃だと2人での昇華魔法にならないのは忘れてたぜ……。てか、それってどうやって推進力に変えるんだ?」

「あはは、まぁ使う事は多くないし仕方ないよ。えっと、指向性が無くても初速を得るには使えるんじゃないかなーって思ってるんだけど、駄目かな?」

「あー、ありっちゃありか? 出発の時なら、それでもいけそうだとは思うけど……ケイさん、どう思うよ?」

「別に指向性が無くても、加速には十分だぞ。てか、魔法砲撃に関しては俺も完全に忘れてた……」

「ラック、ナイス機転なのさー!」

「あはは、ありがと。ともかくいけそうな感じで良かったよ! それじゃ、ダイクさん、PT申請ね」

「おうよ!」


 よし、これで移動の方の人員は確保完了! ダイクさんだけじゃなく、割とみんなが失念してたっぽいけど、ラックさんナイス機転!

 さて、それじゃ大急ぎで出発……の前に、俺らの方がPTの連結をしてなかったよ! えーと、今のPTリーダーがアルだな。


「アル、紅焔さん達とPTの連結を頼む!」

「あ、そういやそうだったか。リーダーは紅焔さんか」

「おっと、忘れてたな!」


<紅焔様のPTと連結しました>


 危ない、危ない! 危うく連結PTにするのを忘れた状況で始めるとこだった。一緒に動く以上は連結PTを組んでた方が便利だし、忘れちゃいけない大事な部分だよな。


「……紅焔、俺をPTに入れろ」

「おっと、そういやそうなるよな! ……十六夜さんにPT申請をする日が来るとは思ってなかったぞ」

「……俺としても誰かとPTを組んで、こんな風に動くとは思ってなかったがな。……ともかく急ぎだし、始めるぞ。『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』『岩の操作』」


 おぉ、アルのクジラの背中の上に、横幅を延長するような形で岩の足場が追加されていく! なんというか、クジラの背の上に正方形の岩を乗せたような感じになったな!


「十六夜さん、これって地味に俺の飛行の支えにもなってねぇか!?」

「……ふん、龍が2人と木が1人、そのままのサイズで乗るんだ。……重量で高度が下がるのには補佐が必要だろうが」

「確かにそりゃそうだな。助かるぜ!」

「……この程度、別に構わん」

「……凄い操作精度。……並列制御も同時に3つ? ……やってる事が、かなり滅茶苦茶?」

「……なんとでも好きに言え。……俺は俺の好きなように動くだけだ」

「……興味深い!」

「……いいから乗れ」


 サラッと風音が凄い発言をするもんだな!? 十六夜さんは全然気にしてないみたいだけど、風音さんは完全に興味を持ったみたいだよなー。

 えーと、アースクリエイトを並列制御3つだと、行動値の消費は6になるはず。まぁそっちは軽いからいいけど、岩の操作3つは……1つ目が19、2つ目が38、3つ目が57になるはずだから……全部で120も行動値を使ってる事になる。

 俺の今の行動値、ほぼ全てを消費する量なんだけど!? 十六夜さんはLv9だけど、かなりギリギリなんじゃ? これって相当無茶をして……いや、暴発ですぐ行動値を回復させるスタイルなんだし、問題はないのか。


「おっしゃ、とにかく急ごうぜ! おらよっと!」

「えぇ、そうですね」

「大暴れするぞー!」

「おう!」

「私達はアルマースさんの木の後ろ側ねー!」

「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」


 飛翔連隊の面々も十六夜さんが作り出した岩の足場の上にどんどん乗っていき、移動要員として来てくれた人達は、ラックさんの号令に合わせて……積み重なっていってる!? 

 えーと、リス、ネズミ、イタチ、トカゲ、キノコ、タケノコ、カメ、小さなクマ、小さな竜、タンポポ、小さな杉の木……って種類が多いな!? あー、全員灰のサファリ同盟所属の11人だね。見事に全員バラバラの種族だけど、まぁそこは重要じゃない。ともかくラックさんから引き継いで、俺の方で指示を出して――


「それじゃ乗った順に固めていくからねー! 予定通り、次々とスチームエクスプロージョンを放てるようにみんなを積み重ねていくよー! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「ラックさん、俺はどうすりゃいい?」

「えっと、ダイクさんは一番上の段で! 全員の発動が終わるか、到着の目処が立った時点で切り離すから、そのつもりでお願いー!」

「おう、了解だ!」


 え、ちょっと待って。普通にラックさんが連れて来た人達の大半を岩でアルの尾の付け根辺りに固定していってるんだけど……これって、何か思い違いをしてたっぽい気がしてきた。


「もしかして、ラックも来るのー!?」

「え、あれ? それは言ってなかったっけ?」

「連れてきたとは聞いたけど、ラックが一緒に来るとは聞いてないのさー! それに岩の操作の人数が5人になってるのです!」

「あはは、自分の事の説明を忘れちゃってた! 私達の方は途中で切り離すから、指揮系統は別が良いと思って、私がこっちの部隊は率いるよ! ケイさん、それで大丈夫だよね?」


 あー、うん、なるほど。状況は今のラックさんの説明で理解した。確かに途中までなら、俺が指示を出すよりもそっちの方がいい。これなら俺らは移動に関してはほぼ気にせずに、突撃へと集中出来るもんな。


「ラックさん、それは俺らは戦闘の方に集中しろって認識でいい?」

「うん、そうなるね! ちなみに私は移動部隊の支えの担当ね。他の4人で、岩の操作でのみんなの固定をやっていくよー」

「……それ、ラックさんへの負担が大きくないか?」

「もし危なくなったら、決めてる順番で1番最後の人からサポートに回ってもらう予定だから大丈夫……だと思う? あはは、ここまで無茶なのをやるのは初めてだから、自信ないや」

「……ですよねー。いや、でも大丈夫だ! 昨日にジャングルでの防御は良かったしな!」

「あはは、まぁあれはみんな頑張ってたしね!」


 ダイクさん以外は灰のサファリ同盟の所属だから戦闘は得意じゃないって人が多いはずだけど、それでも昨日のジャングルでのエクスプロードを防ぐ為の防御の連携は本当に良かった。

 あれは幾重にも岩の操作を重ねて防御してたし、少しでもズレがあれば防げなかっただろうしさ。そんな精度で岩の操作を使える人達なんだから、心配なんかいらないか!


「さーて、それじゃみんな、予定通りに頑張っていこー! 期待には応えていくよー!」

「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」


 灰のサファリ同盟のみんな、何気に気合いが入りまくってるな! というか、俺がここで変に呼びかけるよりも、最初から灰のサファリ同盟に話を通した方が早かった気がする。

 いや、それでもあそこで呼びかけてなければ、十六夜さんが一緒に戦う事はなかったかもしれない。これからやる事では、ある意味では十六夜さんが最も適任な役目だしさ。


「……なんか俺だけ疎外感がすげぇんだけど!?」

「自分で希望したんだから、そこは文句を言わない! あ、わたしも行くから、紅焔さんの方のPTに入れてくれない?」

「お、レナさんも来るのか! あれ? レナさんはクエスト攻略の方に動くって話じゃなかったか?」

「んー、元々はそのつもりだったんだけど、弥生とシュウさんの動きが妙なのが気になってねー。クエスト攻略の方にはオオカミ組とかモンスターズ・サバイバルとか三日月とか、色んな共同体が動いてるから任せて大丈夫でしょ!」

「あー、なるほどな! そういう事なら、ほれっ!」

「はーい、ありがとね!」

「……レナ……よろしく」

「風音さん、よろしくねー! それにしても、すっかり馴染んじゃってびっくりだよ。今は楽しい?」

「……うん……楽しい!」


 あ、そうか。元々、レナさんと風音さんは知り合いというか、レナさんの伝手で俺らと知り合う事になったんだった。ははっ、知り合った当初はこういう状況になるとは思ってなかったなー!



 そうやって話している間に、ラックさんが連れて来たタケノコの人が岩の操作を使って俺らの固定をしてくれている。ラックさんが固定したスチームエクスプロージョンの発動要員の姿は……アルの根の隙間で真正面を向いてる俺らには見えないがな!

 それにしても……クジラの上に大きな岩の板が生成され、アルの木の真正面にライルさんの松の木がいて、その右隣に風音さんの黒い龍、左隣には紅焔さんの赤い龍がそのままのサイズでいるのは圧巻だな!

 そうか、この状況のが突っ込んでいく事になるんだなー。うん、突っ込まれる側じゃなくて良かった気分だよ。……同じ事をされる可能性が出てたけど、それよりも一段階規模が上回った気もする。


「さてと、準備は完了! 出発合図は、ケイさんに委ねるね!」

「ほいよっと! 今のうちに言っておきたい事がある人っているか?」

「それでしたら、いくつか質問をいいでしょうか?」

「ライルさん、気になる事があるなら今のうちに確認しといてくれー! 動き始めたら、そんな余裕はないと思うからな」

「えぇ、それは分かっています。十六夜さん、カウンターを狙われたら受け止めると言っていましたよね? それは具体的にどのような方法でしょうか?」

「……岩の追加生成で、敵自体を呑み込んで抑え込む。……岩自体は破壊されるだろうが、既にそのタイミングでは用済みだからな」

「なるほど、追加生成をする余地はある気はしてましたが、そういう用途があるのは承知しました。それではケイさん、もう1つ確認です」

「え、俺の方にもあるの?」


 ライルさんが気になってる事ってなんだろう? 俺もちょいちょい見落としてる要素があったりするから、そういうのがあるのなら今のうちに潰せるだけ潰しておきたいよな。ここはしっかりと聞いておかないと。


「ラックさん達……移動班と呼ばせてもらいますね。移動班が離脱してから実際にぶつかって行く際に、一時的に固定が外れる瞬間があると思うのですが、その対応はどうしましょうか?」

「あっ、そういやそうか!?」

「あ、そっか!? ごめん、そこは私も見落としてた! えっと、それなら行動値に余裕がある人が最後まで残って――」

「いえ、ラックさん、それは必要ありません」

「え、でも、それじゃ途中でみんなが投げ出されちゃう!?」

「あくまで予定がどうなってるのかの確認したかっただけですし、多分未定だというのも分かっていましたから」

「ライルさん、何か狙いがある?」


 今のをただの確認だとはっきりと言い切ったのなら、その対応は既に考えてあると思ってよさそうだ。ライルさんなら岩の操作が使えるし、最後の固定はライルさんがするという内容か?


「ライルさん、どうするの?」

「固定については、私が引き継ぎましょう。紅焔と風音さんはその時点で空中へ離脱するのでいかがです?」

「……問題ないよ」

「俺もそれで良いが、ライル、岩の操作をそこで使ってどうすんだよ?」

「いえ、固定は必要だからするだけですね。それに……今回は私は根下ろしをして戦おうかと思っているのですが、十六夜さん、私を盾としていかがです?」

「……ふん、巻き込んで瀕死にしても知らんぞ?」

「そこはお気になさらずに。その分だけ、大暴れを期待させて頂きますので」

「……いいだろう。……その提案は受けようか」


 ちょ!? ここでライルさんと十六夜さんが連携して動く事が確定か! ははっ、安全圏の目の前で根下ろしをする松の木と、それ盾にする敵味方関係なく暴れる戦法の十六夜さんの連携か! こりゃ楽しみになってきた!

 そうなると俺らも何か仕掛けたいとこではあるけど、何か良い手段はないものか? アルのチャージ攻撃を仕掛けて……いや、この移動方法だとチャージの終わるタイミングが合わない可能性があるから却下だな。うーん、何かないもんかな?

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