第1155話 いざ、戦場へ


<『始まりの森林・灰の群集エリア1』から『未開の峡谷・灰の群集の安全圏』に移動しました>


 無意味に変な目立ち方をして、逃げるような感じで安全圏まで戻ってきて、転移場所から少しズレた場所に移動完了。さっきの無駄に目立った出来事は無かった事にして、初めの動きだけでも決めておこう。


「みんな、聞いてくれ。今回はもうその場の判断で動いていくしかないけど……ぶっちゃけどう指示を出すのがいい?」

「はい! ケイさん、どういう指示の選択肢がありますか!?」

「簡単に言えば、俺の指示を相手にも筒抜けにするか、それとも聞こえないようにするかの2択だな。俺だけなら、移動操作制御の水で遮音は出来るからさ」

「……そんな事が……出来るんだ?」

「まぁなー。あえて大々的に筒抜けにして弥生さんの闘争心を煽るのもありかと思ってるんだけど、その辺はどう? サヤやハーレさんの強化を教えるような形になると思うけど」

「……それはありかな? 要するに弥生さんが作戦を優先するより、戦いたいと思う状況を作る訳だよね」

「そっか、そういう使い方もいけるんだね。うん、ありだと思うよ」

「ふっふっふ、その案に賛成なのです!」


 手に入れたばかりの新たな切り札を囮みたいに使う事になるからサヤとハーレさんが難色を示す可能性はあるとは思ったけど、そこは杞憂だったみたいだね。

 多分これなら、もし俺らが避けられたとしてもそれなりに弥生さんに興味を持たせる事は出来るはず。そうなった場合、シュウさんの優先順位は弥生さんの意志を尊重する方向で動く可能性が高い。


「俺も賛成だが……あくまで、それは俺らが避けれらた場合でいいんだよな?」

「そうなるなー。真っ向から戦う場合は……遮音して、警戒心を煽る方向でやるか」

「状況に応じての使い分けって事でいいんだな? まぁそこは予め言ってもらえる方が助かる」

「まぁそんな感じ。正直その後は向こうの動き次第だから、作戦は特になし。倒すならシュウさんからにしたいけど、それも完全に臨機応変で。……風音さんにはちょっと無茶振りかもしれないけど、そこは勘弁な!」

「……それは……大丈夫。……なんとか合わせる」

「そう言ってもらえると助かる! それで風音さんは、今回はアルの上には乗らずに単独で飛んでもらえるか? 状況に応じて攻撃方向をバラけさせる事もあるかもしれないから、その時はアル以外のみんなを乗せてもらえると助かるんだけど……」

「……問題ない。……任せて!」

「それじゃ任せた!」


 基本的にはアルを中心にして動くけど、安定した飛行性能を持つ風音さんの龍は別働隊として機能させられるからね。予めそういう事があるかもしれないと言っておければ、戸惑う事も少なくなる。


「ケイさん、1つ確認をいい?」

「どうした、ヨッシさん?」

「峡谷エリアに入ってからは、最新の情報の確認はどうするの?」

「一応、動向は確認したいから、戦闘以外の時は継続してヨッシさんに確認を任せていいか? ただし、戦闘が始まったら戦闘を最優先で!」

「うん、任せて!」


 弥生さんとシュウさんとの戦闘が始まれば余裕は無くなるだろうけど、それまでは俺らと同じ目的で動くメンバーの増援の確認も必要だしね。こういう時はヨッシさんにいつも任せる感じになってるけど、そこは頼りにさせてもらおう!


「さてと、これ以上の作戦は考えるだけ邪魔になるから、戦いながら臨機応変にで! それじゃ弥生さんとシュウさんを相手に戦いに行くぞ! まずは2人を探すとこからだけど、もう普通に喋りながらいくぞ!」

「「「「おー!」」」」

「……うん!」


 ちょっと動向のチェックや下準備に時間がかかってしまったけど、ここから俺らも本格参戦だ! 確認した情報の内容的には、避けられてさえいなければ目立つように赤の群集のプレイヤーと戦闘をしていれば、向こうから出向いてくるはず。

 もしそれでやってくる気配がなければ、避けられているものとして俺らの方から出向くまで! だからこそ、今回は本格的に弥生さんとシュウさんとの戦闘に入るまでは堂々と喋っていてもいい。


<『未開の峡谷・灰の群集の安全圏』から『未開の峡谷』に移動しました>


 という事で、対戦エリアへの移動完了! 風音さんだけはアルに乗ってない状態だけど、他のみんなはいつものように根の下で隠れるように待機中。

 今は高過ぎない程度の位置で浮いてるけど……あちこちから戦闘音や声が響いてきてる!? うっわ、上空のあちこちで銀光やら白光やら火やら電気やらで、明かりがあるのか。


「あはははははははははは!」


 うん、その中に聞き覚えのある笑い声があるなー。これは弥生さんが暴れてるので間違いないけど……大雑把に北の方から聞こえてくるって事くらいしか分からない……。あれ、なんか想像と全然違う?


「なんか凄い事になってるんだけど!? これ、弥生さんの位置って分かりにくくね!?」

「……あはは、凄い乱戦にはなってるって話だったけど、これは想像を遥かに超えてたよ」

「わー!? 昨日と同じエリアだとは思えないのです!?」


 確かにあちこちで乱戦にはなってるし、俺らの下を駆け抜けていくプレイヤーも大量にいる状況だもんな。10時は過ぎたし、ログインした人が増えてきて参戦者がどんどんやってきてるのか? これは少し状況を読み間違えた? いや、今どんどん状況が動いている真っ最中になる?

 あ、そうか! 赤の群集が早めの時間に動き出してたのは、このくらいの時間帯で本格的な衝突になるように時間調整をしてたのかもしれない。今の時間くらいから動き出していれば、青の群集も同時に動き出してただろうし、三つ巴の戦闘に突入していた可能性が高いのか。


 赤の群集に灰の群集全体の動きを誘導されてる感じがするのが不気味だけど、今更どうこう出来る事でもないから、そこは考え過ぎないようにした方が良さそうだな。

 こりゃ、予想外の何かをぶつけた方がいいかも? 赤の群集の思惑通りになってる状況だもんな。かといって、そう都合よくそんな手段は用意出来ないぞ。


「これだけ色んな音が聞こえてたら、普通に話しても問題なさそうかな」

「……それ自体はありがたいが、こうなるとどうやって目立たせる?」

「確かにそこは問題だよなー。少なくとも、ここで昇華魔法をぶっ放して意味があるとも思えないし……」

「……まずは……移動?」

「まぁそうなるよなー。問題はどこに移動するかだけど……」


 弥生さんとシュウさんの動きを捕捉するにしても、流石に安全圏を出たばかりの場所じゃ話にならない。かといって、この状況だとどこに進むのが正解だ?

 可能な限り赤の群集のプレイヤーに見つかるようにしつつ、その上で弥生さん達が無視出来ない状況になる場所……あ、これならいける? 予想してるとも思えないし……。


「初手から、赤の群集の安全圏に向かって突っ込むか」

「……いきなり無茶な事を言ってくるな、おい!? いや、でも無視は出来ない手段か」

「自爆特攻になるのかな?」

「まぁそう簡単に死ぬ気はないけど、無視出来ない手段としてはありだろ? 確か羅刹が赤の群集の安全圏は北って言ってたよな?」

「そのはずなのさー! でも、流石に遠くないですか!?」

「……そこが問題なんだよな」


 俺と風音さんでスチームエクスプロージョンを使って一気に距離を詰めるという手段はあるけど、それでも流石に距離は届かないだろう。せめて、2回か3回、同じ手段で強引に進んでいきたいところ。

 俺らだけでどうにかしようとすれば……辿り着いたとしても、魔力値が尽きている状態になるよな。それじゃ意味がないけど、それは俺らだけにこだわった場合の話。さーて、これだけ下に人が集まってるなら、やってやれない事はないはず!


「ちょっと下にいる人達の手を借りるか。みんな、一時的に連結PTを組むのは問題ないよな?」

「そりゃ別にいいが……おい、まさか!?」

「多分、そのまさかだな! こちら、赤の群集のネコ夫婦を抑えに行く『グリーズ・リベルテ』! これから注意を引きつける為に、上空を強行突破していく!」


 俺らだけでは足りないのなら、足りるように協力を求めればいい。とりあえず注目してもらわないと困るから、一旦ここで区切っておく。急な話にはなるから、変に混乱は招かないようにしないとね。

 何もこれからの1回だけで攻め落とそうなんてのは考えてない。ただ、弥生さんとシュウさんが無視出来ない状況を作り上げるのみだ!


「グリーズ・リベルテが呼びかけてる?」

「強行突破するのは分かったけど、それを呼びかけてるのはなんでだろ?」

「抑えに動く部隊の中で、先行するって話だったけど……」

「戦いに行く前に、これは聞いていこうぜ」

「戦況に大きな影響がありそうだしな」

「呼びかけるって事は、何か俺らに役目があるんだよなー!?」


 よし、全員が全員じゃないけど、結構な人が足を止めてくれた。誰にでも頼める訳じゃないけど、該当する人がそれなりにいてくれよ!


「俺らはこれから魔法砲撃にしたスチームエクスプロージョンを推進力にして、赤の群集の安全圏まで一気に突っ込む! ただ、それを俺らだけでやるのは距離があり過ぎて無理なのと、辿り着いた時に魔力値が枯渇した状態になると困る。だから、その移動役を出来る人に頼みたい!」


 さて、これでどう反応が出てくるか。えーと、最低限でも3回は使いたいから、魔法砲撃持ちの水の昇華持ちと火の昇華持ちを3人ずつか? いや、温存が目的なら固定役も他の人に任せた方がいいのかも。

 そうなると固定に使える岩の操作か氷塊の操作持ちの人も3人は欲しい。それで9人だから……可能なら連結PTのフルメンバーで挑みたいとこか。だとすると、それぞれの役目で4人ずつ、合計12人が現状では理想の構成。


「安全圏への殴り込み!?」

「へぇ、面白そうじゃん」

「……確かに、それをやれば流石に赤の群集も無視は出来ない?」

「でも、ネコ夫婦の抑えに行くんじゃないの?」

「バカか! そんな状況を無視出来る訳がないだろ!」

「バカって何さ!?」

「そこの2人、喧嘩してる場合じゃねぇだろ!」

「「……すいません」」

「スチームエクスプロージョンで移動って、ジャングルでグリーズ・リベルテがやってたって話だよな?」

「墜落したって聞いたけど……大丈夫なの?」

「そのまま突っ込む気じゃね!?」

「それ、凶悪な攻撃になりそう!?」

「……ネコ夫婦も、大暴れしてる場合じゃなくなりそうだな」

「安全圏の強襲は考えてなかったな……」

「具体的に、何持ちが何人ほど必要なのかを教えてくれー!」

「可能なら協力するぞ!」


 よし、協力しようって人達も出てきてくれてる。なんかチラホラと見覚えがある人もいるし、これはいけるかも!


「具体的には、魔法砲撃が使える水の昇華持ちの人、同じく魔法砲撃が使える火の昇華持ちの人、あと可能であれば全員の落下を防ぐ為の固定役として岩の操作か氷塊の操作に自信がある人! 最低でも3人ずつ、可能なら4人ずつで連結PTのフルメンバーにしたい!」


 問題は、この場にそれが可能なだけの人数がいるかどうかと、それを引き受けてくれるかどうか。正直、移動の為だけに協力してくれって内容だし、ベスタへの確認も取ってないからな……。断られた場合は……仕方ないから、別の案を――


「はっ、そこなのさー!? 『魔力集中』『爆連投擲』!」

「ぐふっ!? がはっ? ごふっ!?」

「げっ!? ライさん!?」


 ちょ、こんな安全圏の近くまでライさんが潜り込んできてたのかよ!? ハーレさん、ナイス! ははっ、ここでライさんに聞かれてたのはある意味では丁度いい!

 この作戦は、あくまでも赤の群集の安全圏を襲う事が目的じゃなくて、弥生さんとシュウさんを誘き寄せる為のもの! 本命の狙いがそっちだから、赤の群集には狙い自体が伝わっても問題ないどころか、存分に警戒してもらった方がいいからな! もし俺らを無視する作戦だったとしても、これで完全な無視は出来なくなったはず!


「……固定役、引き受けようか。『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『土の操作』『土の操作』『土の操作』『土の操作』」

「ぐふっ! ちょ、なっ、その数!?」

「十六夜さん、追撃は任せるのです!」

「……あぁ。……まずはコイツは始末する」

「ぎゃー!?」


 相変わらず同時操作数がヤバイな、十六夜さん。石のナイフが……これは16本か? 岩壁にライさんを刺して縫い付けて、その上でどんどん切り刻んでいってるな。ハーレさんの爆発する連続投擲でも合わさって、凄まじい勢いでHPが減っていってる。


「はーい、ダイクもいってらっしゃい! 『強蹴り』!」

「いやいやいや、行くのはいいけど、なんで蹴り飛ばすのさー!? えぇい、ともかく今はこれだ! 『白の刻印:増幅』『アクアエンチャント』!」

「トドメは風雷コンビ、よろしくー!」

「了解だ! 行くぞ、疾風の! 『エレクトロクリエイト』!」

「おうともよ! 迅雷の! 『エレクトロクリエイト』!」

「ちょ、過剰じゃ――」


 おぉ、レナさんに蹴り飛ばされたダイクさんが水属性を付与して、そこに風雷コンビの昇華魔法のサンダーボルトが見事に炸裂。うん、過剰ダメージな気はするけど、ライさんのHPは全て無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。


「はーい、ライさんの始末完了! 他には……うん、とりあえずはいなさそうだね」

「よっと! レナさん、蹴り飛ばさなくてもよくね!?」

「え、丁度良い位置で狙えたでしょ? しっかり風雷コンビがいたのも把握してたから、ああいう手段にしたよねー?」

「そりゃそうだけど!?」

「あ、ケイさん。その魔法砲撃で水の昇華持ちなら、ダイクを連れてってー!」

「ちょ!? まだ行くとは言ってない……あー、もう! 重要そうだから行くけどさ!」

「それは助かる! ダイクさん、よろしくな!」

「おうよ!」


 なんか若干ヤケな感じだけど、ダイクさんなら知ってる相手だしやりやすいとこではあるもんな。とりあえずこれで、水の昇華枠の方は1人確保!


「十六夜さんも、手伝ってくれるのでいいんだよな?」

「……あぁ。……1つ聞くが、到着してから好きに暴れても構わないのか?」

「それは別に問題ないけど……もしかして、暴発で暴れまくるつもりだったりする?」

「……こんな機会、早々ないからな。……雑兵の相手は任せておけ」

「ははっ、そりゃ助かる!」


 ははっ、十六夜さんがこっちに来てるって話は聞いてたけど、こんな形で一緒に戦えそうな状況になるとは思わなかった。

 これで固定役の枠も1人確保! さーて、他に協力してくれる人は何人確保出来るかが重要だぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る