第1151話 戦力を集めて
灰の群集の方針は、赤の群集の誘いに乗って峡谷エリアで対決する事に確定した。推測に推測を重ねてるけど……これで赤の群集の狙いを読み違えたら痛いなー。
「さてと、ベスタが来るって言ってたけど……今回は俺らが弥生さん達の抑えだろうなー」
「十中八九、それで間違いないな。そうなると……ここの遮音目的じゃなく、ステータス強化目的で森林か海で『灰の刻印』をもらってくる方が良さそうか」
「ほう? なんだ、既に分かってんじゃねぇか」
サッと空を駆け上がってやってきたね、ベスタ。まぁ単純にすぐ近くにいたんだろうけどさ。
「おっす、ベスタ。俺らが弥生さん達の抑えに動くのは良いんだけど……流石に5人であの2人を抑え切る自信はないんだけど……?」
「ケイ達だけに無茶を押し付ける気はねぇよ。複数のPTで、連携して完全に抑え込む予定だ。……悪いが、今回は俺はそっちには回らんぞ」
「ベスタには総指揮をやってもらわなきゃ困るし、そこは問題なし!」
元々ベスタが自由に動けるようにする為の弥生さんとシュウさんの抑え込みだ。ベスタがこっちに参戦してこないのは、元々想定済み!
「ベスタさん、具体的にはどういう形になるのかな?」
「……流石に時間帯が時間帯だからな。とりあえず海エリアで空を飛べる大型種族の増援と、各エリアでログインしている対抗出来そうな奴らを集める予定だ。人員選定はこれからだが……」
「まずはログイン状況の確認って事かな?」
「簡単に言えばそうなるな。弥生とシュウを真っ向から抑え込もうと思わなくていい。ともかく今回は数で抑えて、動きを封じる」
ふむふむ、今回の作戦としては何倍もの人数で耐え切れない状況にしてしまおうって事か。要は数の暴力で仕留めてしまおうって内容だな。
「作戦自体はそれでいいけど……それだと、真っ向勝負の方は戦力不足にはならない?」
「……それはそうなんだが、俺が抑えるとしても、抑えられるのはどっちか1人だけだからな。俺がやるにしても多少は戦力は回してもらう事になるぞ。その上で、ここの地形は正直ややこしいにも程があるが……ケイがまた総指揮をやるか? 俺はそれでも構わんぞ」
「それは遠慮する! あー、そもそも他に取れる選択肢が無いってとこか……」
「そういう事だ。あの2人は誰でも相手が出来る相手じゃないからな」
流石は赤の群集のトップクラスの実力者のネコ夫婦。今の状況は完全に後手に回ってしまっているし、弥生さんとシュウさんは確実に誰かが抑え込んでおかなければ危険な戦力だし、そこの役目は誰かがしなきゃいけない……か。
あー、キツい役目なのは間違いない。間違いないけど……今回の競争クエストでは、既に弥生さんとシュウさんには負けてるんだよな。いや、より正確に言えば弥生さんだけに負けている。……負けっぱなしで終わりたくはないもんだ。
「まぁ嫌なら無理にとは言わん。どうしても嫌なら、ボス攻略の方に回ってもらっても構わんぞ。他の手段をなんとか考えるからな」
ベスタとしては今の状況で、最善だと考える手を打とうとしてるはず。ははっ、一度負けてて、その上で対決は避ける? 逃げるようなもんだろ、それ! また負けるかもしれないけど、それでもベスタが俺らになら出来るという判断で任せようとしてくれてるんだもんな。
「……みんな、ここはどうする? 俺は正直、リベンジをやりたいんだけど?」
「へぇ、奇遇だな、ケイ。俺も負けっぱなしは嫌だと思ってたとこだ」
「抑えるだけじゃなくて、安全圏に送り返すのさー!」
「人数はこっちの方が多いんだし、今度は勝つかな!」
「打倒、弥生さんとシュウさんだね!」
「って事だ、ベスタ!」
みんな、負けっぱなしは悔しいみたいだよな。うーん、今ならなんとなくジェイさんの気持ちも分かる気がする。まぁだからといって、青の群集に負けてやる気はないけども。
「ふっ、頼もしいもんだな。なら、倒してしまって、そのまま安全圏から出さないようにしておいてもらおうか」
「ほいよって言いたいけど、流石にそれは無茶じゃない!?」
「……他にも戦力を集めると言ったのを忘れるな。どんなに少なくても連結PT1つ分くらいの戦力はそっちに回す」
「いやいや、それでも安全圏から他のプレイヤーも来るよなー!? それも相手にしろって!?」
戦力が増えるとは言っても、なんか急激に要求水準が跳ね上がった気がするんだけど!? あ、でも弥生さんがハイテンションの状態なら敵味方関係なく大暴れするんだから、可能性はあるのか? うーん、その辺はシュウさんの動き次第になるような――
「なんだ、ケイ? 自信がないのか?」
「そんな事は言ってないし、やってやろうじゃん、その役目!」
「……あっさり乗せられてんじゃねぇよ、ケイ。まぁ気持ちは分からんでもないがな」
「そういうアルこそ、やる気だよなー!?」
「まぁな。やると決めたからには全力でだ! ベスタさん、少し時間を貰ってもいいか?」
「戦力を集めるのに少し時間がかかるから、元々もうしばらくは待機しておく予定だったが……アルマース、何をする気だ?」
「使用はぶっつけ本番にはなりそうだが……ここの1戦用に、スキル強化の種を使うのもありかと思ってな」
「ほう? それなら期待しておこうか」
おー、何の強化に使うのかを悩んでたアルが、ここでスキル強化の種を使うのか! 確かに弥生さんとシュウさんを相手に戦って、その上で安全圏に閉じ込めようと思うのなら切り札は増やしておいた方がいい。
「俺はしばらくの間、弥生とシュウ対策の準備に回る。各群集の群集支援種の捜索部隊を先行して動かすから、それでこちらの交戦意思は伝わるはずだ」
「ほいよっと! あー、でも言い出した俺が言うのもあれだけど……赤の群集の意図を読み違えてたら、相当厳しくならない?」
「それならすぐに作戦を切り替えて、霧の森へと狙いを変えれば済むだけだ。その場合は、各群集が大した労力もなく1エリアずつ取る事になるだろうがな」
「あー、そうなるのか?」
全面的に衝突が起こらないのなら、そういう可能性にはなりそうか。少なくとも青の群集は1エリアを確実に取りにきてるっぽいし、赤の群集の狙いが真っ向勝負じゃないのなら霧の森まで追ってくる事はないはず。
面白みには欠けるけど、競争クエストで占有エリアを手に入れるという目的を果たすのであれば、そういう妥協も充分あり得るよな。
「ベスタさん、それってボスの横取りは大丈夫ですか!?」
「その可能性は決して油断出来ないがが、そこに警戒し過ぎるな。それに、そこは今回は俺の担当範囲だから、ハーレ達は自分達の方に集中しろ。考えなくていい所まで考えていると、足を掬われるぞ?」
「はっ!? 確かにそれはそうなのです!?」
「私達は、私達の目の前の事に集中かな!」
「そうだよね。そうじゃなきゃ、何の為の役割分担なのか分からないしさ!」
「そういう事だ」
やっぱりこういう所は頼もしいよな、ベスタ! 決して油断出来ない赤の群集が相手だし、青の群集だって隙を見せれば奇襲を仕掛けてくる可能性はある。
でも、今回は俺らは弥生さんとシュウさんを抑え込むのが役割なんだ。他の事を考えながら出来るような簡単な事じゃない。それこそ、他の抑え込みに回ってくるメンバーとの連携にこそ集中すべきところ!
「あ、ベスタ。俺らは俺らで、自分達のPTに戦力を呼ぶのはあり?」
「別にそれは構わんが……連結PTにはならないようにしておけよ? 俺の方で後から調整はしていくが、流石に元から連結PTになってたらややこしいからな」
「それは了解っと!」
「よし、それじゃ俺は本格的に戦力を集めてくる。調整段階になったら競争クエスト情報板で呼びかけるから、そのつもりで誰か1人は確認しておいてくれ」
「ほいよっと!」
「それじゃまた後でな」
そう言うとベスタは、アルのクジラの背の上から飛び降りていった。てか、下を見たら人が続々と集まってきてて、大混乱な状況だな!?
あ、なんだかんだでもう9時半は過ぎて、10時が近いくらいなのか。どんどんログインしてきてる人が増えてきてるみたいだし、大急ぎで準備をしても間に合うように調整してる感じなのかも?
「とりあえず私が競争クエスト情報板を見ておくね。アルさんはその間にスキル強化の種で!」
「おう! ヨッシさん、任せたぞ!」
「……アル、スキル強化の種を使うのはいいけど、具体的に何に使うんだ?」
「それはこれからまとめを確認しながら決める。そういうケイこそ、誰を臨時メンバーに入れるつもりだ?」
「羅刹か、風音さんか、可能であれば十六夜さんだな。まぁログインしてればになるけど……」
「羅刹さんと風音さんはログインしてれば大丈夫だとは思うけど、十六夜さんは受けてくれるのかな?」
「……まぁ十六夜さんは、羅刹と風音さんの2人ともが駄目だった場合だな。とりあえずこっちの2人から確認してみる」
十六夜さんは連絡さえ取れれば、多分駄目とは言わないと思うんだよな。ジャングルでの1戦の時には、すごいタイミングで助けてくれたしさ。
ともかく、今はログインしているかの確認からだな! 戦法的に安定するのは、物理特化の羅刹か、魔法特化の風音さんだから、どっちかログインしててくれー! フレンドリストには……よし、羅刹はまだみたいだけど、風音さんはいた! 位置は森林深部だから、桜花さんのとこか?
「羅刹はまだログインしてなかったけど、風音さんがいたからフレンドコールをしてみるわ!」
「分かったかな。……私も、スキル強化の種を使おうかな?」
「うーん、私も強化すべきな気がしてきたのです! あ、その前に今度こそこれをやっておくのさー!」
「あ、今度こそ取得になるかな?」
サヤとハーレさんもスキル強化の種で強化するのはありだろうね。それはそうとして、ハーレさんがリスで全身を広げるように伸ばしているから、今度こそ大型化の取得が出来る? もしそうなれば、多少は攻撃の幅が広がるはず。
って、長々と脱線してても仕方ないし、今は風音さんへのフレンドコールが先だ。今回の臨時メンバーとして参加してくれればいいんだけど……。おっと、すぐにフレンドコールに出てくれたね。
「風音さん、今は大丈夫か?」
「……桜花と一緒に……最新情報を確認してた。……ケイさん……戦力が……必要?」
「単刀直入に言えば、風音さんの力を貸して欲しい」
「……いいよ。……相手は?」
「赤の群集がメインの相手で、多分だけど青の群集とは戦闘にならない可能性は高い。俺らの役割は最高クラスの戦力の弥生さんとシュウさんの足止めだ」
「……あのネコの夫婦! ……それは楽しみ……すぐに行く。……桜花、行ってくるね。……うん、楽しんでくるね!」
あ、そこでフレンドコールが切れた。なんというか、俺らが相手をする相手が弥生さんとシュウさんだと分かった途端にテンションが上がってた気がするけど、それってやっぱりシュウさんの魔法が気になるから?
まぁその理由はなんでもいいや! 風音さんはアブソーブ・ファイアが使えるし、昇華魔法の種類も多彩だ。俺らとの組み合わせでも色んな種類が使えるし、弥生さんは魔法には弱いはず。
って、あれ? なんか桜花さんからフレンドコールがかかってきたけど、どうしたんだろ? このタイミングだと何か風音さんに問題があったりした!? えぇい、大急ぎで内容を確認する為にフレンドコールに出ないと!
「桜花さん、何か風音さんに問題でもあったのか!?」
「おおう!? いや、そういう訳じゃねぇけど……タイミング的にそう思うよなー。あー、風音さんについては特に問題ないどころか、やる気満々で飛んでいったから心配ねぇぞ」
「ほっ、それは良かった……。無理して俺らの方に来てる訳じゃないんだな」
「すまん、すまん。変な勘違いをさせちまったな」
「えーと、そうなると……大真面目にどういう用件?」
「あぁ、用件は2件あるんだが、まずは1件目からだ。今、森林深部で大々的に峡谷エリアへの戦力の集結の呼びかけが広まってるんだが、近場に来てた赤の群集の人が、気になる事を言っててな?」
「……どういう内容?」
「『おっしゃ、ちゃんと通じて狙い通りになったっぽいな! 気合い入れてやらねぇと!』ってテンションが上がって戻って行った奴を見たぜ。俺的には意味は分からんが、ケイさんなら分かるんじゃねぇか?」
「それ、マジか!?」
「おう、マジだ!」
赤の群集の狙い通りで、ちゃんと通じて、気合を入れるか。ははっ、その反応ってどう考えても読みが当たってたって事じゃん! わざわざそんなダミー情報を流す理由は薄いだろうし、むしろ合図は受け取ったという返事なのかも。
「ヨッシさん、ちょっと新情報があるから書き込んでもらっていいか!?」
「うん、いいよ。どういう内容?」
「森林深部にて、灰の群集の動きを見て『おっしゃ、ちゃんと通じて狙い通りになったっぽいな! 気合い入れてやらねぇと!』って発言してた赤の群集の人がいたってさ!」
「それって、罠って事は? 流石に可能性は低いと思うけど……」
「ゼロとは言えないけど、そういう反応があったって事を伝えてくれ!」
「了解!」
よし、罠の可能性は捨て切れないけど、言葉のままに受け取れば要望通りに真っ向勝負になる可能性は高まった。……これで罠だったら、悲惨だけどなー! 仮に罠だとして、どういう戦略があり得るのかも考えておくべきか?
「桜花さん、とりあえず今の情報がありがとな! それじゃ――」
「ケイさん、待った、待った! 用件は2件あるって言ったろ!?」
「あ、そうだった……。すまん!」
「まぁこれから本格的に衝突となれば、気持ちも分かるけどな。さて、もう1件の方を伝えるぞ?」
「ほいよっと」
さて、桜花さんからの1件目の情報ってなんだろう? こうして大急ぎでフレンドコールをしてきたからには、何かしら重要な事があるっぽいけど……。
「ついさっきまで、俺のとこに十六夜さんがいたんだけどな。風音さんの言葉を聞いて、大急ぎで飛び出していったぞ。多分、そっちに行ったんじゃねぇか?」
「マジか!? え、十六夜さんがこっちに来てる!?」
「多分な。これは知っといて損はないと思ってな」
「それは確かに……」
必ずしも十六夜さんが集団行動をしてくれるとは限らないけど、それでも相当な実力者が来てくれるのはありがたい。……まさか十六夜さんを誘えないかと少し考えてた時に、そういう状況になるとはね。
「それじゃ用件は伝えたぜ。競争クエスト、頑張ってくれよ!」
「おう!」
そこまでで桜花さんとのフレンドコールは終了になった。さーて、弥生さんとシュウさんを倒して抑え込む為に頑張っていこうじゃないか! まぁしばらくはまだ待機だけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます