第1149話 赤の群集の狙いの推測
日曜の朝から急に起こされたけども、なんとかログインは完了! いやー、あの時の眠気は強かった! なんとか眠気には打ち勝ったし、頭も少しは回るようになってきたね。
まぁそれはいいとして、今日は夜の日だなー。ログインした場所は昨日ログアウトした峡谷エリアの安全圏の、転移してくる場所から少し外れたところ。まずはこれからだな。
<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します> 行動値 121/121 → 120/120(上限値使用:1)
とりあえず夜目を使っておいて視界は確保っと。ん? ちょっと待った。この夜の中で、弥生さんとシュウさんが暴れている……? 昼間よりも見通せる範囲が狭まるのに、明確に個人が判別出来るってどういう状況だ?
うーん、その辺は猛烈に気になる部分だけど、情報収集をしないとどうしようもないのは変わらずだな。ともかくみんなと合流するのが先決……の前に忘れないうちにもこれは貰っとこ。後にしたら今日は本気で忘れそうだし。
<『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>
<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>
よし、これで問題なし! さーて、みんなはどこだ? ログインさえしてれば、サヤとハーレさんはここにいるはず。ハーレさんはアルと入れ替わりになったとも言ってたから、2人もここにいる可能性は高いか? とりあえずフレンドリストで――
「ケイさん、発見なのさー!」
「お、ハーレさんか。他のみんなは?」
「ログインしたばっかだから、これから探すとこ!」
「ケイ、ハーレさん、上だから登ってこい。『根の操作』!」
おっと、上から聞き覚えのあるアルの声と根が降りてきた。根で引き上げるから、掴まれって事だな。自分で飛んでも問題ないけど、わざわざ断る理由もないからこの根を使いますか。という事で、根をロブスターのハサミで挟む!
「えい! アルさん、いいよー!」
「おうよ!」
「おわっ!? ちょ!? そんなに勢い良く引っ張る必要ってある!?」
「わー!?」
上空に飛んでたアルのクジラの背中まであっという間に辿り着いたけど、なんか逆バンジージャンプをさせられた気分。もしくは一本釣りされた魚。いきなりビックリするわ!
「ケイ、今ので眠気は吹っ飛んだかな?」
「あれ? ハーレが起きないって慌ててた割には……普通だね? なんとか寝ぼけながらでもログインしてもらうから目が覚める方法をって言ってたんだけど」
「初めは寝ぼけてたけど、ログイン前には目は覚めてたから!? てか、ハーレさんの仕業かー!?」
「あー!? 普通に起きた後に、起きたのを伝えるのを忘れてたのさー!?」
「……ほほう?」
つまり今の一本釣りは、寝ぼけてる俺目を覚まさせるのが目的で、それの意味が無くなったのを伝えなかったから実行された訳か。まぁ急な事過ぎて、本気でビックリしたから効果はあっただろうけどなー!
「今回は謝らないのです! 動きがあったのに、二度寝をしようとしたのはケイさんだもん!」
「ケイ、元々動きがあれば起こすって話だっただろう? それで二度寝なら、ハーレさんを責めるのは筋違いだぞ?」
「うぐっ!?」
なんか少し釈然としない気持ちもあるけど、実際にその条件でいいって受け入れたんだしな……。それが嫌なら、昨日の時点で言っておかないと駄目だった。……今の状況、全面的に悪いのは俺か。
「ハーレさん、今回は俺が悪かった……」
「アイス1個で許すのです!」
「……なるほど、素直に謝罪を受け取る気はないと?」
確かに今回は全面的に俺が悪かったのは認めよう。認めたからには、妹相手でもちゃんと謝ろう。でも、そこで物理的にリアルでの対価を要求してくるのなら……話は別だよなー?
さて、どさくさに紛れてアイスを手に入れようとしたハーレさんはどうしてくれよう? やっぱりVR機器を売る件、値上げにしとくかー。
「はっ!? 何か嫌な気がするので、今のは無しで! ケイさん、ストップなのさー!」
「それは知るか! そこで対価を要求するなら、ちゃんと起きた件を伝えてなかった分だけこっちも相応の対応を――」
「『双爪撃』! ケイ、ハーレ、兄妹喧嘩はそこまで。いいかな?」
「「……はい」」
「よろしい」
ふぅ、爪を下ろしてくれたよ。あー、今の俺とハーレさんの前に爪を突き付けてきたサヤが怖かった。……今の方が、もっと目が覚めたような気がする。いや、普通にもう目は覚めてるけどさ。
「冗談抜きでこれ以上の悪ふざけは無しだぞ。状況が思った以上に厄介そうだ」
「……正直、どういう状況なのかさっぱり分からないってのが率直な感想なんだけど、何かハーレさんが俺らを起こしに来てる間に動きはあった? てか、夜なのになんで弥生さんとシュウさんって分かってんの?」
「あ、それは気になってたかな!」
「私もそこは気になってたね」
「ん? ハーレさんから聞いてないのか?」
ちょっと待って。よく考えたら、その情報をハーレさんが知らないはずがない。でも、その辺の話は全然聞いてないような? 微妙に頭が回り切ってなかったから、夜の件はログインしてから気付いた事だけど……。
「えーと、言い忘れてた気がします!」
「……まぁそういう事もあるか」
ちょっと文句を言いたい気分だけど、また言い争いになりそうだし、サヤにまた止められそうだから自重しとこ。……あと、その忘れた原因に俺が二度寝しようとした件がありそうな気もするから、あえて言及しなくてもいいな!
「って事だから、アル、その辺を教えてくれ!」
「おう。だが、その前に忘れないうちにこれだな」
「ん? あ、PT申請か!」
忘れちゃいけない事だよな! これを忘れたままじゃ、これからの動きに支障が出るしさ。
<ケイ様がPTに加入しました>
<ハーレ様がPTに加入しました>
よし、俺とハーレさんはこれでPTに加入は完了。アルをリーダーにして、サヤとヨッシさんは既に加入済みだったっぽいね。
「さて、話を戻すが……かなり単純な話だぞ? エリア中に弥生さんの例の高笑いが響いてるってだけだしな」
「すごいシンプルだな!? え、でもそれじゃシュウさんの方は未確認?」
「いや、その状態の弥生さんを確認しに向かった人が、シュウさんに仕留められていてな。それで一緒にいるという目撃情報が上がっているが……厄介な事に、シュウさんの方は遮音をしてるみたいだぞ。赤いサボテンマークがあるのは確認したそうだ」
「それ、意味あんの!?」
いやいや、弥生さんと一緒にいて声が響き渡ってる状況だと無意味だよな!? それとも、シュウさんの存在は隠したいのか? いや、それならシュウさんが倒して目撃されるという状況は避けるはずだし……一体何を狙ってそんな状況にしてるんだよ!?
「そこの理由が分からず、頭を悩ませてるところだな。もう少し俺の方で分かってる範囲を伝えてから競争クエスト情報板に場所を移すが、それでいいか?」
「……そうした方が良さそうだな」
「うん、分かったかな」
「とりあえず、分かってる範囲の情報からだね」
「二度手間になってもいけないから、それでいいのです!」
「おし、それで決定だな」
多分、今は人をかき集めてる最中だろうし……って、そういえばどこが灰の群集としての本命エリアかって話はもう確定した? 地味に重要な部分だし、その辺の確認をしておくか。
「アル、先に少し確認! 灰の群集としては、残ってる新エリアで取りたい本命がどこになったかは決まった?」
「あぁ、その件か。初めはサバンナ一択になりかけてたらしいんだが……今はもうどこにも確定しないという形になったぞ」
「……はい?」
「え、そうなのかな?」
「一択だったのが、どういう流れでそうなったの?」
その辺の要望って確かレナさんが灰のサファリ同盟を筆頭に手回しをしてくれてるはず。ヨッシさんも言ってるけど、サバンナ一択から何があればそうなる!?
「ふっふっふ、それは『灰の刻印』の存在が判明した事が理由なのです!」
「簡単に説明すると、『灰の刻印』でデメリット部分を一時的にでも抑えられるなら、群集支援種が占拠した状況になればデメリット自体が発生しなくなるか、抑え込めるという推論が出てきてな」
「あー、なるほど!」
言われてみれば、確かにその可能性はありそうだ。折角、勝ち取って得る事が出来る占有エリアなのに、使い勝手が悪いなんてのは割と台無しな部分があるのは決して良い状況ではない。
だからこそ使い勝手の良さそうな気がするサバンナが有力候補になったんだろうけど、そのデメリットを打ち消せる要素がある可能性が出てきたなら話は変わってくる……。
「あっ、そういう事か! 赤の群集も、同じ方針で動いてる可能性があるのか!? てか、原因はもしかして俺ら!?」
「……相変わらず察するのが早いな、ケイ。今回の赤の群集の動きは、俺らがフラムさんに遭遇した件が発端になってる可能性がある」
「……全群集がどこのエリアでも本命になり得る事に気付く前に、不人気になりそうなエリアを取ってしまおうって狙いかな?」
「そっか、だから早めな時間帯で、急いで攻め込んできた感じになるんだね?」
「まぁあくまで推測でしかないがな」
「……なんで峡谷エリアを狙ってきたのかが分からなかったけど、そういう推測があるなら納得だなー」
確実な内容とはいえないけど、峡谷エリアを取る事にデメリットがない可能性が浮上してきたなら、俺だって他の群集がそれに気付く前に攻め込むよ。昨日の夜の段階で動かなかったのは……今日の朝に攻め込む準備をする為か!
「アル、青の群集の方で『青の刻印』が解放されてるかは判明してる?」
「……そっちについてはさっぱりだ。峡谷エリアでは、今日はまだ青の群集の動きはほぼ確認されていねぇ。ただ、サバンナエリアの方では少なからず目撃情報はあるみたいだが……」
「『青の刻印』を見たという情報は上がってなかったのさー!」
「……まぁ人が多いとは言えない時間帯だし、そこは仕方ないか」
群集拠点種で刻んでもらえる刻印の効果時間は2時間で、そのエリア特有の効果を得られるのは1日1回限り。本気で取りに行く時じゃなければ、使用は控えるはず。それに油断を誘う為に、わざと使わないという可能性もある。
「あー、くっそ! これってもう完全に他の群集の本命を絞る事が出来ないじゃん!?」
「そうは言うがな、ケイ。俺ら灰の群集もそういう結論に至ってるからな? そこはお互い様だぞ」
「……そりゃそうだけど、結局どう対応するんだ? 赤の群集に峡谷エリアを明け渡して、灰の群集は他のエリアを狙いに行く?」
「今の争点はそこだな。峡谷で暴れている赤の群集と、サバンナで動きが見える青の群集を無視して、霧の森を取りに行くという案が出ている。それと同時に、戦いは避けずに戦って勝ち取りたいって意見も多いな」
あー、そういう風に真逆に意見が分かれちゃってるのか。うーん、占有エリアを手に入れるという目的だけで考えれば戦闘を避けるのが無難。でも、真っ向から戦って勝ち取りたいという気持ちも分からなくはない。
「……少し気になったんだけど、赤の群集は真っ向勝負を避けるの? なんだかそれは不自然な気がするんだけど……」
「ヨッシ、どういう事ー!?」
「ほら、1回目の競争クエストの時は色々と赤の群集は酷い状態だったじゃない? それを考えたら、確実に海を取る為に動いて、実際に取った今の状況で避けるような真似をする?」
「……確かに、それは違和感があるかな?」
そうか、赤の群集としては2回目の開催の競争クエストはリベンジ戦という側面があるはず。確実に1エリアは確保したくて動く事はあっても、その方針で全てを進めるとも思えない。
今のでなんとなくだけど、赤の群集の狙いが見えてきたかも。ウィルさんが総指揮の可能性も考えてるし、ルアーの率いる新たな共同体『リバイバル』のメンバーの事を考えたら……この可能性は十分あり得る。
「これは俺の推測なんだけどさ。弥生さんとシュウさんは、囮じゃなくて合図なんじゃね? 俺ら、灰の群集に対して真っ向勝負を挑むって感じで」
「あ、そっか。そういう可能性はあるかも?」
「……ケイ、どういう事かな?」
「弥生さんは戦う意志がある事の表明で、シュウさんが『赤の刻印』で戦うのはどこのエリアでも良いという合図。……それらの合図が通じないなら、そのまま取ってしまうというぞっていう宣戦布告もか」
「なるほど、俺らがフラムさんにあった『赤の刻印』を見てるし、既にそれが何かを把握してるっていう想定での話だな?」
「そう、そういう事! 俺らがその辺を放置しないのは、シュウさんが分かってるはずだしさ」
「確かにそれはそうなのさー!?」
昨日は一緒に検証をしたし、続きの検証を一緒にする事も約束してる。俺らだけで判断した訳じゃなくて、実際に『灰の刻印』の使用を確認されてる可能性もあるけどね。
これ、場合によっては青の群集とは戦わないって約束をしてるのかも? 灰の群集と真っ向勝負をしたい赤の群集と、占有エリアが欲しいはずの青の群集でなら、利害は一致する。問題は動向が読めない無所属だけど……って、無所属? あ、そういう事か!
「でも、それだと峡谷エリアでしてるっぽい下準備が不自然になるのさー!?」
「ハーレさん、そこは手段はあるぞ。全員が全員とは限らないけど、赤の群集の傭兵なら前から計画してれば出来るはず。傭兵はログアウトしても、安全圏には移動しないし」
「はっ!? 確かにそうなのさー!?」
他の群集の傭兵の人と全然遭遇してないから今まで失念してたけど、傭兵ならログアウトしてもその場に残るんだ。下準備の為の移動に時間がかかる部分はこれでかなり解消出来るはず。
「赤の群集ならウィルさん経由で無所属への伝手はあるだろうし、昨日羅刹が言ってたように2ndや3rdで別の場所にログインし直せば多少の戦力は増やせる。それに必要になれば、瘴気収束で転移して戦力も移せるはず」
「そうなると……ちっ、避けたら避けたで、戦場を避けた先に移して意地でも真っ向勝負に持っていく気か!?」
「あくまで推測だけどなー」
でも、少し前までは全く読めなかった赤の群集の狙いは、これでそれなりに説明出来るとは思うんだよな。そもそも峡谷エリアを取りたいだけなのであれば、昼の12時を過ぎてから攻め込む方が絶対にいい。
俺とベスタが昨日、青の群集の奇襲を前提からひっくり返した件は赤の群集の人も把握してるはずだしさ。その後の協議で仕切り直しになった事は知られていると思った方がいい。
「はい! 青の群集がその状況を大人しく見ていますか!?」
「青の群集は確実に新エリアを1ヶ所は取りたいだろうし、弥生さんとシュウさんを避けると思うけど……。それに俺らとは再戦の方もあるんだし……でも、まぁそればっかりは実際に動いてみないと分からん!」
「ま、そりゃ違いねぇな。つっても、あくまでも今の一連の話はケイの推測に過ぎないし、他の人達の意見も聞いてみようぜ」
「え、アルの知ってる情報は?」
「……あった情報は本命が絞れないってのと、傭兵が動いてる可能性についてくらいなもんだ。どれもケイの推測の中に出てきてるから、説明するまでもねぇ」
「あー、なるほど!」
そうなると、今の推測をみんなに伝えて具体的な方針を決めていく方が良さそうだね。PT単位で動いてどうこう出来る話じゃないし、群集としての動きを決めてからじゃないとな!
さてと、それじゃ競争クエスト情報板に顔を出して、今の話を伝えていこう! そこからどうなるかは、話してからじゃないとどうしようもないしね。
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