第1148話 日曜日の朝


「兄貴、起きろー!」

「うおっ!?」


 ちょ、いきなりなんだ!? 今のは……って、どう考えても晴香だよな!? え、もしかして寝過ごしたか!? 今の時間は……って、まだ9時じゃん! 目覚ましは9時半で設定したんだけど、それより早い!?


「……もう起きてたのか、晴香」

「早起きは三文の徳なのさー!」

「それは平日の自分に言ってやれよ……」

「そこは気にしても仕方ないのさー! というか、そんなに言うほど早くもないのです!」

「そりゃまぁそうか」


 平日ならとっくに起きてる時間を過ぎまくって、大遅刻な時間帯だしなー。そもそも寝坊をしたくてしてる訳でもないし、俺だって休日だと気が抜けて寝坊するけどさー。ふぁ、まだ眠い……。


「……で、なんで俺、起こされたの?」

「動きがあったら起こすって話だったよね!?」

「あー、そういやそうだっけ」


 いまいちまだはっきりと目覚めてなくて、頭が働いてないな……。えーと、確か昨日の解散前にそんな話をしてたような気はするけど……って、ちょっと待った!? 起こされたって事は、動きがあったって事か!? あー、駄目だ。やっぱりまだ目覚めきってないし、これは仕方ないな。


「……おやすみ」

「二度寝は駄目なのさー!?」

「……眠いんだよ。今回は他の人に頑張ってもらうって事で……」

「えー!? これ、どうすればいいの!?」


 何も俺じゃないといけない訳じゃないんだ。昨日は頑張ったんだし、今日の昼からは確実に青の群集との対戦はあるんだし、2日連続で朝から攻め込んでくる青の群集の相手は他の人達で対処を任せてもバチは当たるまい。

 それじゃあと30分ほど、おやすみ……。予定の時間になったら起きるから、それで…………。


「わー!? 本当に寝始めたのさー!? あぅ……サヤとヨッシになんて説明すればいいの!? 弥生さんとシュウさんが大暴れしてるの、止められないよ!?」


 ん? 微睡みかけてた中で気になる言葉が聞こえてきた。今、弥生さんとシュウさんって言った? という事は、今動き出してるのは赤の群集!? なんでこんなタイミングで?

 なんか今ので急激に目が覚めた。てっきり2日連続の青の群集からの奇襲かと思ったのに、想定外も想定外だ!


「晴香、動き出したのは赤の群集か?」

「わっ!? あ、反応してくれた! うん、赤の群集が思いっきり動き出してる! 場所は峡谷エリア!」

「……12時以降を狙われるなら分かるけど、なんでこのタイミング?」

「それは分かりません! だから慌ててるのー!」

「まぁそりゃそうだよな」


 そんなの、赤の群集の人に聞かなければ分かるはずもない事だ。推測は出来るだろうけど、判断材料がなさ過ぎる。……赤の群集がどの程度の規模で動いて、どんな事をしてるかを把握してるかを聞かないとどうしようもない。

 あー、眠気はどっかいったから、すぐに起きてログイン……って、思いっきり腹の音が聞こえたんだけど、これは俺じゃないぞ?


「……あぅ、お腹空いたのです」

「そういや晴香、朝飯は?」

「まだ食べてない! そろそろお母さんが起きると思って、ログアウトしようとしたとこに弥生さんとシュウさんが暴れ出したって情報が入ってきたのです!」

「……なるほどね。で、母さんは?」

「……まだ寝てたのです。お父さんも!」


 まぁ父さんも母さんも、日曜のこの時間なら寝ている事も珍しくはないか。父さんが起きていたら、晴香の場合なら近くのコンビニにでも車を出してパンでも買ってきたりするけどさ。

 俺の場合は、そんな事はないけども。まぁ勝手に台所に置いてるものを食べて済ますからなー。……晴香の場合は大惨事になるから、それをさせられないだけでもあるし。


「とりあえず現実側の情報は把握っと。腹が減っては何とやらだ。何か食べれるものを探すから、その間に分かってる事を教えてくれ」

「はーい! ふぅ、これで一安心なのさー!」

「あ、そういやサヤとヨッシさんに連絡は?」

「既に2人とも起きてたのです! 起きたばっかだったみたいだから、少し待ってって話なのさー! ちなみにアルさんとは入れ替わりになったのさー!」

「……なるほど」


 そうなると、朝飯を食べながら晴香から分かってる範囲の情報を聞いて、ログインすれば全員集合は出来そうだな。……出来るだけ急いだ方が良さそうだけど、空腹状態でフルダイブする訳にもいかないし、ササッと朝飯を済ませようか。


「さてと、とりあえず台所だな」

「はーい!」


 普段なら掲示板をチェックしたいようなタイミングだけど、流石にその余裕はなさそうだ。あそこがこの手の情報収集に役立つのなら確認した方がいいんだけど、そうじゃないから今はスルー! 下手すれば、ダミー情報を摑まされる可能性もあるしね。



 ◇ ◇ ◇



 という事で、台所で食べられるものを捜索中。……カップ麺の買い置きはあるけど、朝からこれはどうなんだ? おっと、食パンを発見! これなら手早く済ませられるから、トーストにしてジャムでも塗って食べてしまおう。


「おー! 食パンだー!」

「簡単だけど、これで手早く済ますぞ」

「はーい! ……あんまり話す時間が無さそう?」

「どの程度の情報があるかにもよるけどな」


 さっきの様子から考えると、まだ晴香自身が色々と詳しい内容を把握してない可能性もある。今この瞬間でも大きな動きがあるのかもしれないし……逆に暴れてるって表現も気になるな? とりあえずトースターに食パンを入れて、焼いていこう。


「それで具体的にはどんな状況だ? 峡谷で弥生さんとシュウさんが大暴れだって言ってたよな?」

「うん! えっとね、もう偵察も何もお構いなしに峡谷エリアの上空で大暴れ中! 赤の刻印の存在は確認されてるのに、使ってる様子がないそうです!」

「……それ、陽動というか囮じゃね?」


 弥生さんとシュウさんだけが大暴れしてるだけなら、それこそ俺らが強行偵察をやってたのと大差無いよなー。赤の刻印が使えるように気にはなる動きではあるけど、大慌てするような内容か?


「初めはそう判断して気にしてなかったのさー! でも、それに合わせてあちこちで倒される人が急に増加したのです!」

「……流石にそれは、関係ないとは言えなさそうだな」

「それで警戒段階が上がったのさー! でも、奇襲ばっかりで具体的に何がどうなってるかまでは不明なのです!」


 ふむ、弥生さんとシュウさんが囮なのは間違ってない気はするけど、その裏で確実に何かが動き出している状況か。派手に目立たせて気を引きつつ、その間に他の人達が罠に嵌めてきている?

 そうなると、赤の群集全体での作戦として動き出している? いくらなんでも少人数でどうこう出来る内容ではないはず。


「赤の群集の本命は……峡谷エリアか? いや、そう見せかけて主力は他のエリアに送り込んでる可能性も否定は出来ないな」

「その辺の確認の為の人員が不足気味なのさー! だから兄貴も起こしたの!」

「まぁそりゃそうだろうな」


 ログインしてくる人が一気に増えてくるのは10時以降だしね。まぁ9時台になれば少しずつ増えてくるし、俺もそれに合わせて目覚ましをかけていた。今回の動き自体は、昨日の青の群集と同じ発想?

 違う群集なんだし、同じ作戦を連発してる訳じゃない。そもそも青の群集が昨日やったから、2日連続は無いと油断していると判断して逆に仕掛ける事にした? いや、待てよ? そもそもこの時間帯にあちこちで奇襲って、準備は何時から――


「兄貴、焼けたっぽいけど、トーストは放置なの……?」

「あ、悪い!」


 タイマーになってるから焼け焦げる事はないけど、焼き終わった時の音を聞き逃してしまってた。……情報が足りてない今の状況で考え過ぎるだけ無駄か。せめてもう少し情報が欲しい。


「ほれ。晴香、ジャムは何にする?」

「今日はハチミツの気分なのさー!」

「ほいよっと。俺もハチミツにしとくか」


 もうわざわざ他のジャムを取り出すのも面倒だし、一緒のものにしてしまおう。母さんお手製のジャムの種類を聞いたつもりが、ハチミツと返ってくるとは思わなかったけどな。まぁハチミツもたまに食べたくなるから、気持ちは分かるけどさ。


「何か考え込んでたけど、何か分かったー?」

「さっぱり不明だな。……そもそも、この時間帯にあちこちで奇襲ってのがどうも引っかかってなー」

「どういう事ー?」

「いや、あそこで移動するのはどうやっても時間がかかるだろ? 遮音する刻印は2時間しか使えないし、大規模に動かすとなると人を集める段階で朝7時くらいから動いてないと無理じゃね? それも他の群集から察知されないようにとなると、相当厳しいような……」

「だったら、朝7時から一生懸命、準備をしてたんじゃないですか!?」

「……まぁその可能性が無いとは言わないけどさ」


 でも、そこまでして欲しいのか、あの音が響く峡谷? 何か本命が他に隠れてるような気がするんだけど……何の根拠もないんだよなー。うーん、やっぱり判断するには圧倒的に情報が足りない。

 これが青の群集なら、勝ちを取りに行く為の作戦だというので納得出来るんだけどな。実際、昨日とか赤の群集に根回しをした上で奇襲を仕掛けてきた訳だしさ。


 だけど、今の赤の群集は……傾向が全然分からん! ジャングルでの1戦では目立つ弥生さん達を筆頭に有名どころの戦力を投入してきてたのに、本命は海エリアの確実な確保だったんだからなー。


「あー、弥生さんとシュウさんが揺動役として優秀過ぎる! 無視出来ない戦力だから放置は出来ないし、かと言ってあの2人がいる場所が本命とも限らないし! 本当に誰だよ、指揮取ってるの!?」

「兄貴、落ち着いてー!?」

「……すまん」


 ともかく平然と強力な戦力を捨て駒として扱える人なのは間違いない。……やっぱり自分自身を捨て駒にして、色々な騒動の始末をしようとしたウィルさんが総指揮か? 赤の群集の本命のエリアを絞らないと、都合の良いように踊らされかねないぞ。


「いや、もうこうやって色々考えさせられてる時点で、既に罠なのか?」

「兄貴、今度は食べるのが止まってるし、考えるのは後にしよ?」

「……それもそうだな」


 今ここで考えていても結論が出る訳じゃないし、ここは落ち着いてサッサとトーストを食べてしまおう。まだ寝起きで思考が上手くまとまってない感じもするし、灰の群集のみんなの意見も聞いて考えた方が良さそうだ。……朝飯がまだだったのも、上手く頭が働いてない原因かもしれないしさ。


「……なんだか声がすると思ったら、圭ちゃんと晴ちゃんはもう起きてたのね?」

「お母さん、おはよー!」

「おはよう、母さん」

「はい、おはよう。あら、冷凍ピザでも焼こうと思ってたけど、朝ご飯はトーストにしちゃったの?」

「がーん!?」

「あー、冷凍室までは見てなかった。まぁちょっと急ぐから、これで問題なし!」

「そう? それならいいけど」


 どうしてもピザだと、トーストよりも焼くには時間がかかるからね。急がないといけない今の状況なら、早い方がいい。

 あ、そういえば昼飯はどうしよう? いつも通りの12時だと、青の群集との対戦の解禁時間と被ってしまうけど……そこはもう早めに食べてすぐに戻るしかないか。12時に解禁ではあるけど、大勢が食事時なのは間違いないし、12時に即座に大規模な衝突にはならないはず!


「よし、食べ終わり! 行くぞ、晴香!」

「はーい! あ、お母さん! お昼は手早く食べれるものに出来ない!? 出来るだけお昼は早めに食べ終えたいのさー!」

「それは出来るけど、晴ちゃんは何が食べたい?」

「えっと、えっと……あ、カツサンドが食べたいです!」

「カツサンドね。それじゃ軽く朝ご飯を食べて、カツ用のお肉を買ってくるわね」

「やったー!」


 カツサンドなら、そこまで食べるのに時間はかからないはずだし、食器の片付けについても手早く済ませられる。ナイスなメニュー選択だぞ、ハーレさん!

 さて、昼からの準備に備える事は出来たし、朝飯も食べ終えた。それじゃ自室に戻ってログインしてから、情報収集と赤の群集の狙いを探っていきますか!



 ◇ ◇ ◇



 そうしてやってきました、いつもいったんのいるログイン場面。胴体部分は『新規出現の種族に対する苦手生物フィルターの使用について』ってなってるけど、これは昨日と同じか。うーん、そこまで長くないだろうし、説明を聞いてる時間くらいはあるか?


「昨日は疲れてお知らせを聞く余裕はなかったみたいだけど、今は大丈夫かな〜?」

「正直、微妙なとこだけど……その説明って長い?」

「そんなに長くはないよ〜?」

「それなら先延ばしにし過ぎても駄目だろうし、今のうちに聞いとくよ」

「はいはい〜。それじゃ手短かに説明するね〜! 苦手生物フィルターに『スケルトン』と『ゾンビ』という項目が追加されました〜! これを選んでくれれば、どんな種族でも『スケルトン』や『ゾンビ』に該当する対象の見た目が変わります〜!」

「あ、そういう感じなのか。……掲示板で慌ててたのはなんで?」

「そこは……苦手生物フィルターへの登録が解禁になるのが、その『スケルトン』や『ゾンビ』の名称が正式に確定してからだったからだね〜! 今は仮の表記を変える事で、すぐに適応出来るように調整をしました〜!」

「……なるほどね」


 何気に今後あのスケルトンやゾンビに名前が付くというのが確定したけど、そうなる前に苦情が出たから慌ててた訳か。その辺はタイミングを間違えて設定してしまったって事なんだろうけど、対応が済んだなら問題ないな。

 まぁ元々俺は平気だから大丈夫な内容だけど、苦手な人からしたら大問題だろうしね。ヘビが苦手な俺としては、その気持ちはよく分かる。


「いったん、スクショの承諾はある?」

「今は特にないよ〜!」

「それなら確認する手間はないな。それじゃコケでログインを頼んだ!」

「はいはい〜! でも、その前に今日のログインボーナスね〜!」

「おっ、サンキュー!」

「それじゃ今日も楽しんでいってねー!」

「ほいよ!」


 危うくログインボーナスを貰うのを忘れるところだったけど、流石は管理AIのいったんだ。忘れる事なくしっかりとログインボーナスを渡してくれた。

 それじゃ今日も始めていきますか! とりあえずログインしたらみんなと合流してから、今の最新状況の確認と赤の群集の狙いを探っていこう!

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