第1147話 黒の統率種についての報告


 群集拠点種からもらえる灰の刻印という新たな要素が判明した。こういう要素があったのなら早めに全部の経路確立をしておくのが良かったんだろうけど……それについては結果論でしかないか。

 ともかく今は、話し忘れた黒の統率種の時雨さんについて伝えて……って、ちょっと待てやー!


「なぁ、アル」

「ん? どうした?」

「アルが説明しても良かったんじゃね!? 時雨さんの事!」

「いやいや、俺の場合は表示が『木』だからややこしいんだよ。今は少ないが、多い時は多いからな。ケイの方が圧倒的に匿名性が薄れてるから、その辺は伝えやすいだろ?」

「うぐっ!? 否定が出来ないのが、なんとも言い難い!?」


 確かに誰が情報源かハッキリさせておいた方がいい内容だから、アルが俺らのPTの木だと説明するよりも、俺からの説明の方が通りやすいのは分かるけど! さっきもほぼ匿名性が無くなってたのが、ハッキリと出てたけども!


「……他によく書き込むコケの人っていないのか?」

「いや、たまにいるぞ? ただ、ケイとは口調が違うからな。一人称が『僕』だったり、『私』だったり、違う部分も多いぞ」

「そういうとこかー!?」


 同じコケでもそういう違いがあるなら、俺だと断定される訳だよ! ……次から情報共有板に書き込む時は、一人称を『俺』以外にわざと変えて書き込もうか。……無駄な労力をかけるだけで特に意味はないし、流石にやめとこ。


「ケイ、そろそろいいかな?」

「……なんか釈然としない気持ちはあるけど、まぁそこは飲み込んどく。あんまり長引かせてもあれだから、サクッと報告を済ませよう……」

「うん、それでいいかな!」


 なんかサヤに急かされた感じだけど、これ以上無駄に時間をかけても仕方ないとこだしね。眠気も出てきてるし、手早く済ませて今日は早めに寝よう。という事で、再び情報共有板へ!


 キツネ2  : この『灰の刻印』って、『黒の刻印:消去』で消せる?

 オオカミ  : おそらく、それは無理だろうな。あれの効果は『白の刻印』と『黒の刻印』に限定されている。

 カンガルー : 消せたとしても、手が足りなさ過ぎるだろうがな……。

 キツネ2  : あー、そうか。それは残念……。

 シカ    : 無力化する手段は……あるのか?

 ウマ    : 出てきたばっかだし、その辺は不明だよな。

 草花2   : わーっはっは! 死亡では『灰の刻印』は消去されない事を確認してきたぞ!

 クマ2   : もうやってきたのかい!? 随分早いね!?

 リス2   : 一時的に無所属になってる人達は常闇の洞窟の中にある奥の方の転移地点の近くにいるから、場所さえ分かってればそう時間はかからないよ。

 オオカミ  : 草花2の人、良くやった。死亡では『灰の刻印』は消えないとなると、2時間は効果が発動し続ける訳か。

 ライオン  : そうなると、ログアウト中では効果時間の減少がどうなるかが気になるとこだな。

 

 ほほう、普通に『灰の刻印』についての情報収集が続いてたし、内容としても興味深い。結構な疲労が溜まってなければ、この情報収集に参加しておきたいとこではあるよなー。

 って、呑気に見てる場合でもないか。今ので少し書き込みが途切れてるし、今のうちがチャンス!


 コケ    : 全く別の話にはなるんだけど、傭兵絡みで重要な情報があったからその報告!

 オオカミ  : ん? 権利を剥奪したアイツの件なら、もう周知してあるぞ。もう競争クエストに参加する権利自体がないから、乱入の心配もいらん。

 ドラゴン2 : 来てやってるとか言ってたっていう、あれか? 迷惑な奴もいたもんだな。

 クジラ   : だよねー! なんでそんなに上から目線なのさ!

 コケ    : あれはもう周知済みなんだ。まぁそう言いたくなる理由は分かるけど、それとは全くの別件。

 カンガルー : 傭兵に何か特有の要素があるのか? いや、あるにはあるか。

 草花4   : ちょいちょい群集のプレイヤーとは仕様が違うっぽいもんね。安全圏には戻されないとか、他のエリアに飛ばされるとか。

 オオカミ  : それで、具体的にはどんな内容だ?

 コケ    : タコの黒の統率種がいるって報告を上げたじゃん? あれの続報。

 カンガルー : なんだと!?

 クマ    : そりゃ興味深いじゃねぇか。

 イカ    : あれだよな、ジャングル群集支援種を異形への進化を促したって奴。

 キツネ2  : もしかしたら灰の群集の傭兵かもしれないって話だっけ?


 おー、みんなこの情報には食いついてますなー。そりゃ俺だって聞く側になったら絶対に気になる情報だし、その気持ちは分かる! それじゃ手早く説明していきますか!


 コケ    : それの続報で間違いないぞー。峡谷エリアで偶然遭遇して、なんとか意思疎通に成功した。

 クジラ   : おぉ、コケの人、ナイス!

 草花4   : え、でも黒の統率種って喋れないんじゃ? どうやって意思疎通をしたの?

 コケ    : そこは身振り手振りで! 意外となんとかなるもんだぞ?

 キツネ   : まさかのボディランゲージ!?

 オオカミ  : なるほどな。それで何が分かった?

 コケ    : えっと、灰の群集の傭兵で確定っぽいんだけど、ここで傭兵のプレイヤー名を出すのは?

 カンガルー : そういう事なら名前を出しても良いんじゃないか?

 リス    : 名前が分かれば、わたしが分かる事もあるかも?

 キツネ   : この場合は仕方ないでしょ。

 オオカミ  : この場合は名前こそが重要な情報になってくるし、もし何か問題が出たら俺の方で対処を考える。コケの人、名前を教えてくれ。


 ベスタが問題が起きた際には対処してくれるなら大丈夫か? まぁ別に悪評を広めようとしてる訳じゃないし、問題が起こる可能性自体は低いはず。

 半匿名の情報共有板だからプレイヤー名を出すのは避ける風潮にはなってるけど、それもケースバイケースか。もしかすると、時雨さんを傭兵として承認した人が今ここにいるかもしれないしね。


 コケ    : そういう事なら伝えるぞ。黒の統率種になってるタコの人は時雨って人だ。俺らのPTが傭兵として承認した人が、その可能性が高いって事で声をかけて、タコの人がそれを認めた感じ。

 クマ    : 時雨の奴、ログインが確認出来んと思ってたら、そんな事をしてたのか!

 リス    : あー、そっか! 時雨さんかー! そういえば黒の統率種に進化出来る機会があったら、進化したいって言ってたっけ! 

 イカ    : なんか心当たりのある人がすぐに出てきたー!?

 オオカミ  : クマの人、リスの人、時雨というのは知り合いか?

 リス    : うん、そうだよー! ログインしてないなーとは思ってたけど、そっか。黒の統率種になってたら、そりゃ分からないよね。

 クマ    : 時雨に関しては、傭兵の承認をしたのは俺らの共同体だ。意気込んでた割にログインしてないと思ってたが……今ので納得がいった。というか、アイツはタコを持ってたのか。


 びっくりするほどあっさりと時雨さんに関する情報が出てきたよ!? リスの人はおそらくレナさんだから、顔の広さ的に知ってるのは納得。

 クマの人は……確証はないけど、ツキノワさんか? まぁとりあえず今は時雨さんを傭兵として承認した人が出てきたのは良い状況だね。しかも知ってる2人共が、羅刹の同じ理由で納得してるから信憑性が更に上がったよ。


 キツネ   : それ、直接話した訳じゃないんだよね? 他の人が、その時雨さんのふりをしてる敵って可能性はない? ほら、本当に急用でログイン出来ないのを分かってて、反応を真似てるとかさ?

 カンガルー : ……確かに、喋れないのならその危険性もあるにはあるのか。

 カメ    : 無所属や他の群集の傭兵が、素性を騙っているって事?

 タヌキ   : もしそうなら、危険な気がする……。


 あ、全然それは考えてなかったけど、そういう可能性もあったか! 言われてみれば、確かに時雨さんだという純然たる証拠はどこにもないんだよな。うーん、でもそこを疑い始めるとどうしようもないような……。


「みんな、これについてはどう思う?」

「あー、考えてなかった可能性だが……肯定も否定も出来ないのが痛いな。それを確定する手段はねぇぞ?」

「……だからこそ、厄介な気もするかな」

「でも、そこを疑い始めたら、黒の統率種は全て敵だと思って動くしかないのです!?」

「確かにそうなるんだよね……。これ、想像以上に厄介な状況になったかも」

「あー、変な方向にややこしい状態にしちゃった感じだもんな……」


 みんなの言う通り、事実を確定する手段がないからどうしようもないんだよな。羅刹やレナさんや、多分ツキノワさんの判断が完全に間違ってるとは思わないけどさ。

 でも、その3人と同等か、それ以上に時雨さんのログイン状況を知っている人……それこそリアルで接点がある人であれば、成りすます事は可能でもある。


 リス    : んー、すぐに返事があるかは分からないけど、時雨さんの連絡先は知ってるから、ちょっとリアル側で確認を取ってみるよー! それでハッキリするはず!

 タヌキ   : まさかのリアル側からの伝手があった!?

 クマ    : 伝手があったのかよ。相変わらず、すげぇ情報網だな。

 キツネ   : それが出来るなら、はっきりとはするね。

 オオカミ  : 流石にリアルの方で伝手があるとは思わなかったがな。リスの人、確認は任せるぞ。

 リス    : 任せてー! とりあえずメッセージを送るから、すぐに戻ってくるけどちょっとログアウトするねー!

 コケ    : ほいよっと! 手間をかけさせてすまん!

 リス    : このくらいならいいよー! それに相当重要な情報でもあるからね。それじゃ少し席を外します! あ、すぐに返事があるとは限らないから、無理して待ってなくても大丈夫だからねー!


 さて、これでレナさんに任せておけば事実関係は判明するはず。それにしても、まさかリアルで連絡手段があったとは……。流石はレナさんと言うべきか。


「さてと、とりあえず報告としてはこんなもん?」

「報告待ちではあるが……レナさんも言ってる通り、すぐに返事がくるとも限らんしな」

「無所属の動きについては聞かなくて良いのですか!?」

「あ、そういやそうだった。それを確認したら終わりにするかー」

「段々と眠くなってきたし、賛成かな」

「私もそれに賛成」

「おし、それじゃそういう感じで!」


 時雨さんの件については、必ずしも今すぐ分からないといけない内容ではないもんな。明日、ログインしてすぐに確認すれば問題ないはず。


 コケ    : 流石に今日は早めに寝たいから、最後にこれだけ確認。無所属の動きってどうなってる?

 オオカミ  : 無所属か。正直、よく分からんとしか言いようがないな。他にも黒の統率種が誕生してるという話は出てきているが……。

 コケ    : あー、そうなんだ。って、あー!?

 クマ    : どうした、コケの人?

 コケ    : すまん、地味に重要な案件を忘れてた! 時雨さんが黒の統率種の固有のクエストがあるっぽいって反応をしてた。多分、異形に進化した個体から『我らの存在を示せ』ってメッセージを受け取ってるっぽい! それ以上は詳細不明!

 カンガルー : 黒の統率種に固有のクエストか。あっても不思議じゃないが……それに異形の進化が関わっている?

 リス    : ただいまー! およ? なんか気になる話をしてるけど、それは返事が来たら確認しとこうか?

 オオカミ  : あぁ、その方が良いだろうな。成りすましではなく、本人なのであれば詳細が聞けるだろう。

 コケ    : 筆談で簡単にしか聞けてないから、詳細の確認はリスの人に頼んだ!

 リス    : そこは任せて! 本人かどうかに確認が出来てからじゃないと、その情報の信憑性が大きく変わってくるからね。

 コケ    : それじゃ今日は俺らはこの辺で休む! 

 カンガルー : しっかり休んどいてくれよ、コケの人達!

 オオカミ  : 場合によっては、また盛大に暴れてもらうからな。

 コケ    : それ、暴れるという名の囮だよなー!? まぁそれでもいいけど、その辺はまた明日って事で! さらば!


 情報共有板はこれにて切り上げ! 詳細は明日になってから確認すればいいだろ。この情報と関わってきそうだし、黒の統率種の動きもその時に一緒でいいや。という事で、後はこれを決めたら今日は終わり!

 

「さてと、明日の集合は何時にする?」

「各自、起きたタイミングで良いんじゃねぇか? 無理に起きて疲れが残ってたら意味がないだろ」

「確かにそれはそうなのさー! でも、早くにログインした人で、何か動きがあれば連絡するって感じでどうですか!? アルさんだけは無理だけど……」

「あー、出来るだけ早めに起きるようにはしとくわ。それで勘弁してくれ」

「まぁそこは仕方ないかな?」

「夏の大型アップデートの、ログアウト中でも使える連絡機能が早く欲しいね」

「だなー。ま、とりあえずその辺は臨機応変にいきますか! それじゃ今日は解散!」


 という事で、今日はいつもよりも早めに終了。明日の具体的な集合時間は決めないって事になったけど、具体的にどうなるかは明日次第だな。疲れを取るのは重要だけど、盛大に寝過ごさないように気を付けないとね。



 ◇ ◇ ◇



 そうしていつものように、いったんのいるログイン場面へとやってきた。正直すぐに寝たいから、最小限でログアウトをしよう。

 でも、一応胴体部分は確認しておくとして……『新規出現の種族に対する苦手生物フィルターの使用について』ってなってるね。これはあれか、アンデッド系の種族に対する苦手生物フィルターの件の話か。


「いったん、ログアウトでよろしく。お知らせは明日、時間に余裕がある時に聞く」

「なんだかお疲れだね〜? そういう事なら、次にログインした時に聞くかどうか尋ねるのでいいかな〜?」

「それでよろしく。もう今日は普通に寝たい……」

「はいはい〜。それじゃそうするね〜。お疲れ様〜」

「ほいよー」


 本当なら今聞いておく方が良いんだろうけど、もう明日でいいや。とりあえずいったんに見送られながら今日は終了。

 あー、寝落ちしそうな雰囲気だけど、どんなに遅くても10時にはログインしたいから9時半くらいに目覚ましをかけるだけはやっておこうっと。寝過ごして気付いたら昼だったとかは勘弁願いたいしね。

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