第1141話 地形を利用する作戦
謎だった黒の統率種のタコの正体が、羅刹の知り合いかつ、灰の群集の傭兵だという事が判明。その時雨さんは喋れない状態だから完全な意志疎通ではなかったけど、ある程度の情報は把握出来た。
その辺のやり取りが終わったから、再度出発というところで問題発生! 俺の残り行動値はもう1回分の岩の操作の発動分くらいしか残ってない!
「サヤ、ハーレさん! 近くに敵っていないか!? 養分吸収で回復を――」
「あぅ……すぐ近くにはいないのです……」
「正確には、さっき時雨さんが呼び寄せた敵ばっかりかな……。立ち去っていってる最中だよ」
「マジか……」
うわー、味方と分かった以上、その戦力を削るって真似はしたくない! くっ、こうなったら果物とかを養分吸収して、そっちで回復させるのみ!
「あ、ケイさん。それならちょっと試してもらいたいのがあるんだけど、いい?」
「ん? それはいいけど、何を試せばいいんだ?」
「えっと、この辺りの試食データの味になるタイプの料理を養分吸収するとどうなるかだね」
「おぉ、ハンバーグなのです! じゅるり……」
「あー、その手のアイテムか! でも、勿体無くね?」
まだまだ決して量が多いとは言えない、回復量の多いレアアイテムだしなー。ハンバーグは確か、魔力値を固定値100回復じゃなかったっけ?
俺の魔力値は相当増えてきてるけど、それでも1つのアイテムで約3分の1も回復するんだから破格なアイテムだよな。それをどの程度の行動値の回復速度の上昇になるか分からない養分吸収に使うのは……。
植物系の種族の全部に共通するならともかく、影響範囲って知ってる範囲じゃコケだけだしなー。それに、地味にハーレさんの視線が痛い。
「正直に言えば、そんなに効果はない気はしてるんだけどね。その辺を確認する為に、お願い出来ない?」
「……まぁそういう事なら。あ、アル。しばらく回復の為に移動操作制御の方で偽装するけど、いいか?」
「回復が必要な時はそうするしかねぇか。それは了解だ」
「おしっと! それじゃみんなはまた樹洞に戻ってくれー!」
「はーい! ハンバーグ、ハンバーグ、ハンバーグ……」
「ヨッシ、ハーレにもハンバーグが必要そうかな!?」
「……あはは、そうみたいだね」
「まったく、賑やかなもんだな」
そう言いながら、ヨッシさんは俺にハンバーグを渡して樹洞の中に戻っていった。地味に平たい土器の上に乗ってるんだな、このハンバーグ。てか、ハーレさんのハンバーグの呟きは何と言ったらいいのやら……。
「とりあえず牽引状態にしとくぞ。『小型化』『根脚移動』!」
「ほいよっと」
アルが水の操作……いや、水量的にこれは海水の操作っぽい? 解除した今になって気付いたけど、結構な厚みを用意してたっぽいな。
ふむふむ、これで遮音が出来るのは良いかもね。どうしても全員で話したい時は、今みたいな形にすればいい。
まぁそれはいいとして、サクッとやる事をやっていきますか。とりあえずアルの小さくなったクジラの背の上まで移動して、元いた位置に戻る。そこから、岩壁に偽装している岩の操作を解除して、大急ぎの思考操作でこれだ!
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 29/121 → 29/115(上限値使用:6)
再び小さくなったアルのクジラと木の根と俺を隠すように飛行鎧を展開! 少しコケが多めに増殖になって岩の表面にくっついていったけど、まぁいいや。特に目立つって事もないだろ。
これで、偽装状態のアルのクジラは完成! 俺の行動値を回復させたいから、しばらくはこれで移動だな。強制解除になったら困るから、岩壁に当てないように注意しないと……。
「ふぅ、とりあえずはこれで移動は再開出来るな。正直、他の連中が来た時はどうなるかと思ったが……この辺の地形は直接見た事が無かったようで本当に助かったぞ」
「え、そうなの?」
「結構危なかったからな、あの状況。見た目は偽装出来ても、体積までは偽装出来ねぇから、見るやつが見れば幅が変わってる事に気付かれたはずだ。サヤさんやハーレさんなら、一度見てたら気付くだろ?」
「それは間違いなく気付くかな!」
「同じくなのさー! もぐもぐ!」
さっきの状況が結構危険だったのは分かるけど、ハーレさんが何か食べてない!? 間違いなくハンバーグを食ってるよな、これ! というか、PT会話で声が聞こえるなら普通に樹洞の中か!
「うーん、美味しいは美味しいけど、ヨッシの手作りの方が好きなのです……」
「あはは、それは嬉しい事を言ってくれるね。えっと、今のはどこの試食データ……あ、有名店監修のコラボ冷凍食品なんだね」
という事は、俺に渡されたこのハンバーグも同じ感じのものか? 有名店の監修のハンバーグは興味あるね。
まぁその辺を試してもらって実際に購入してもらおうって宣伝用の試食データだけど……そもそも養分吸収で味って分かるのか? その辺はやってみれば分かる話だな。
<行動値を消費して『養分吸収Lv3』を発動します> 行動値 26/115(上限値使用:6)
ロブスターのハサミの表面にあるコケの方に核を移動させて、ハンバーグを触れさせてから吸収! 正直、普通に食べる方がいい気がするけど……って、ハンバーグの味はするけど、食感はないという変な感じ!? ……うん、これは別の意味で微妙過ぎる。なんか吸い取るようにハンバーグが消えたのも変な気分。
うっわ、それにそんなに行動値の回復速度は上がってないじゃん。回復量が多いアイテムでも、この辺はそんなに良くならないのか。そもそも行動値の回復を早めるスキル自体が希少だし、そこは仕方ない……。
ケイ : ハンバーグに養分吸収を使ってみたけど、これはアイテムが勿体無いだけだなー。敵から吸収する方が確実だ。
ヨッシ : あ、やっぱりそうなんだね。
アルマース : それなら、俺の蜜柑を使うのが手っ取り早そうだな。
ケイ : だなー。あと試食データの感想としては、食感がなくてハンバーグの味だけがするのは違和感が凄い……。そういう意味でも、アイテムでやるなら果物の方がいいな。
サヤ : コケで吸収したら、そうなるのかな?
アルマース : まぁそりゃそうなるか。
ハーレ : ケイさん、味はどうでしたか!?
ケイ : 味かー。すまん、普通に食ってないからコメントし辛い! 美味い気はするんだけど、違和感の方が勝ってる!
ハーレ : あぅ……それは残念なのです……。
食べ物って、食感とか舌触りとかそういうのを含めてのものだしな。一応、ロブスターで何かを食べた時の感じはリアルと同じ感覚にはなってるから、そっちで食べてたならコメントは出来たかもしれない。コケでの養分吸収だと無理だけどな!
今までこの辺が気にならなかったのは、果物はジュース感覚でいけたからかも? うーん、こんなところで向き不向きがあるとは……。
アルマース : ケイ、行動値の回復自体は早まってるんだよな?
ケイ : 多分そのはず? 通常時の自然回復よりは目に見えて早くはなってる。ただ、敵から吸収した時ほどの急激は変化はない感じ。
スキルLvが上がればまた違いそうな気がするけど、この様子なら敵を捕まえて吸収した方が手っ取り早い気もする。でも、敵だと変に暴れられて音を立てられるのも嫌だしな。
というか、ここの敵ってまだ全然発見報酬が出てない気がするけど、その辺はどうなってるんだ?
ケイ : ちょっと羅刹に確認を頼みたい事があるんだけど、ここに出てくる雑魚敵のLvってどんなもん? 奇襲は受けにくいとは聞いたけど、具体的な数値が知りたい。あと敵の撃破状況も。
ヨッシ : あ、そういえば具体的なLvまでは聞いてなかったね。聞いてみるよ。
今の羅刹はLv6だから、結構高めなはず。俺らはジャングルの競争クエストと、成熟体のフィールドボス戦で一気に上がってるってのはあるしね。あれ? そういや羅刹ってジャングルには参戦してたんだし、経験値は貰えてるのか?
「羅刹さん、ここの雑魚敵のLvってどのくらいなの? ケイさんが具体的な数値で知りたいって言ってるけど。あ、それと残滓が多かったりするの?」
「黒の暴走種は結構倒されてるから残滓か瘴気強化種の方が多いと思うぜ。Lvは1〜4ってとこだな。あぁ、俺のLvならここでは大して上がってねぇぞ。ジャングルの方に少なからず参戦してたから、その分のボーナス経験値でLvは上がっている」
「おぉ、そうなんだー!」
あ、やっぱり参戦してた分だけ経験値はちゃんと貰えてたんだな。あれは別にその時にその場にいなければ貰えないものじゃなかったはずだから、当然と言えば当然の話!
オリジナルの黒の暴走種が少なくて、Lvがその程度なら、ジャングルの時よりは雑魚敵はあまり脅威じゃない。どちらかというと、Lvを上げてきたプレイヤーを重点的に警戒すべきか。
「Lvはその程度だが、時雨がやってたみたいに数が集まれば確実に邪魔にはなる。そもそもここは擬態持ちが多くて、不意打ちも受けやすいからな」
「そこら辺を見越して、時雨さんは黒の統率種になってるの?」
「それは本人に聞かないと分からんが、現状じゃ元に戻す訳にもいかんだろ」
「……あはは、確かにそうだね」
「元に戻す為には、みんなで時雨さんをぶっ倒すしかないですか!?」
「現状ではそれ以外の手段は思い当たらんが……まぁその程度は承知の上だろうよ」
ふむふむ、競争クエストの全てが終わったら、灰の群集のみんなで時雨さんをリンチにして元に戻す必要があるのかー。なんか味方として色々してくれてる人に向かってそれをするのは嫌だな。
うーん、何か他に元に戻す方法があればいいけど、それは現時点ではなんとも言えないか。それに、他の群集の人や無所属の人に倒されまくって元に戻る可能性も否定出来ないしね。
「そろそろ脱線は終わりかな! ハーレ、周囲の確認は交代する?」
「ううん、今はまだ大丈夫なのさー!」
「そう? でも、疲れたらちゃんと言ってかな!」
「はーい! それじゃ巣の方に戻るねー!」
さてと、ハンバーグを食べ終えて残った土器はインベントリの中に仕舞っておいて、俺も移動を始めていきますか。出発準備完了の合図は、クジラの背を1回叩く事。
そして、飛行鎧のクジラ偽装バージョンで改めて出発だ。さっきは時雨さんが出現した時の瘴気の渦は消え去ってるし、予定してた通りに北上していけば良いはず。速度はゆっくりめにして、先へと進んでいこう!
「ケイさん、もう少し先の部分に十字路になってる場所があるが、そういう地形は気をつけてくれ。ここは灰の群集の安全圏に近いから危険性は低いが、奇襲狙いが待機してるような場所だからな。まぁ昼間の話だから、今はどうかは分からんが……」
「奇襲って、どういう感じでかな?」
ちゃんと整備されてるような道路じゃないから歪な形ではあるけど、それっぽい十字路が見えてきた。でも、奇襲があるという話を聞くと下手な事も出来ないな。一旦止まって、その辺の情報を聞いてから進んでいきますか。
「獲物察知封じをした上で、魔法砲撃や投擲での連射が多いな。大体は左右から挟撃して、逃げた方向へ追撃してくる。そういう時に流れ弾で雑魚敵は大体倒されててな」
「……それは厄介かな」
「対応策は……防御に徹して、振り切る感じ?」
「返り討ちに出来ればその方がいいが、逃げて撒く方が安全ではあるな。これで実際に何人も仕留められている」
うわー、エゲツない奇襲! 群集を指定してないから、赤の群集も青の群集もどっちもやってくると考えた方が良さそうだな。まぁ灰の群集でもやってそうな気もするけど。
ケイ : アル、そうなった場合は防御を任せていいか?
アルマース : ま、即座に対応出来るのは俺だろうし、そこは問題ないぜ。ケイは獲物察知を頼むぞ?
ケイ : ほいよっと。妨害されても変な空白地帯は出来るから、それで見極めればいいしなー。その間に、ヨッシさんは氷塊の操作でアルの防御の補助ってとこか。
ヨッシ : 挟撃される可能性があるなら、その方が良いよね。
防御に関してはそれでいいとして……ただ逃げるってのもなー。アルに挟撃してきてるどっち側かに突撃してもらって、そのまま乱戦に持ち込んで返り討ちもありなはず。
あ、でも今日は別に逃げるのでもいいのかも? そこそこ行動値も回復してきたし、今の偽装の上から普通の岩の操作で覆ってしまえば強制解除も防げるはず。変に手の内はまだ見せない方がいいか。
「あー、まぁあくまで昼間の話だし、ここじゃなくてもっと進んだ似たような場所での話だからな。警戒し過ぎて、気疲れすんなよ?」
「……あはは、確かにそれはそうかな」
「そだね。もう奇襲を受けたら受けたで、体験しておくのもありかも?」
ふむ、あえて何も対策せずに敵の動き方を見るのもありか。実際に大々的に衝突する時に、そこまで事前に対策に動く余裕があるとも限らないしなー。
ケイ : とりあえず獲物察知だけは使ってみるけど、ヨッシさんの意見を採用でいこう! 想定としては、後ろから何かに追われてて余裕がないまま突っ込まないといけない場合で!
アルマース : あー、確かにそういう可能性も否定は出来んしな。いいんじゃねぇか?
ハーレ : 私も賛成なのさー!
「羅刹さん、ケイが追われた状態で突っ込むしかないのを想定して進んでみるって言ってるけど、どうかな?」
「それはありだと思うぜ。競争クエストじゃ何が起こるか分からないしな」
「あはは、確かにそうだよね。うん、ケイさん、それでいこう!」
よし、みんなの賛同は得られたし、その方向でやってみよう! まぁ今は何もない可能性の方が高い気もするけどね。それじゃまずは獲物察知を発動だ!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 50/115(上限値使用:6)
さて、反応は……特に変な空白地帯は無しで黒い矢印があちこちに向かってる感じか。あー、遠くに灰の群集の反応自体はあるけど、これは気にする必要は無さそう。
でもまぁ、本当に奇襲を受けるような状況を想定して動いていこう! 擬態した集団が隠れ潜んでいる可能性だって否定は出来ないんだから、油断は禁物だ!
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