第1139話 厄介な地形


 羅刹が行き先を指示してくれるという事になったので、それに合わせて移動開始!

 今回は俺がアルを運ぶ感じだけど……岩の操作の負担はそこそこある。うーん、それでもアルが思いっきり速度を出す時にみんなを固定する時よりはマシだけど、これだけで踏破していくのは結構厳しいかも?

 何か改良を考えるとして……まぁみんなと話せるような状態になってからか。えーと、周囲の岩壁の高さはそこそこあるし、この状態でもアルの木の葉が岩壁を越える事はなさそう。地面ギリギリで浮かすのも危険そうだから、適度に高度を上げた位置で飛ばすか。


「ねぇ、羅刹さん。音の響き具合ってどんなものかな?」

「……地味に説明がしにくい内容だな。位置によっては違ってくるし、一概には言い辛いとこなんだが……」

「なんとなくそんな気はしてたけど、やっぱりそうかな……」

「風の操作で、音をかき消す事は出来ないの?」

「それは出来なくはねぇが、難易度は高いみたいだぞ。適当に風を強くすりゃ、その風の音が響くって感じでな。強風の操作だと、よっぽど上手くやらないと逆に位置を教えるようなもんだ」

「あ、そうなんだ? うーん、それだとハーレのクラゲの風の操作でかき消すのも難しいね……」


 俺やアルが普通に喋れるようにする為の案なんだろうけど、高精度の風の操作が必須か。まぁ下手すれば風に乗せて遠くまで音を届かせる事にもなるし、そう簡単な話ではないっぽい。


「ケイさん、その先は少しここより狭くなるから要注意だからな」


 返事をしようにも喋れないから、今は仕方ない。とにかく最初の分岐へと到着! ここは右と言ってたから、進むべき方角は北へと変更だな。今通ってるとこは問題じゃないけど、狭くなってるのなら気を付けないと。

 今アルの小型化したクジラを覆ってるのは移動操作制御じゃなく普通の岩の操作だから、多少はぶつかっても大丈夫だけど……操作時間は削れるし、音もするだろうからね。


 よし、曲がる先に獲物察知の反応はなし。……とは言っても、切り立った岩壁に埋まってる矢印が多いからどこまで当てにしていいのか分からないけど。てか、返事が出来ないのが地味に辛いな、これ!

 えぇい、ともかく今は先に進む事を考えよう。まだ出発して間もないのに、いきなり根を上げてたまるか!


 って、あれ? 共同体のチャットの項目が光ってるね? 何か、すぐに伝えないとマズい内容でもあった? うーん、曲がる前にそこは確認しとくか。どっちかに集中しないと、岩壁に衝突しそうだし。


 ハーレ   : 少し報告です! ここ、擬態をしてる敵が多そうなのさー!

 アルマース : ほう? 今の時点でそう思うって事は、既に何体か見つけたのか?

 ハーレ   : とりあえずトカゲを3体くらいは発見したよー! 

 サヤ    : え、そうなのかな!? 私は見つけられなかったけど……。

 ハーレ   : 地面の方だったから、アルさんの視点から見えない位置だと思うのです!

 アルマース : あー、俺の視点がサヤが見つける邪魔になってんのか。

 ケイ    : なるほど、そういう状況なんだな。

 

 アルの死角になる部分に俺の獲物察知に引っかからない擬態したトカゲかー。具体的な位置までは分からないけど、アルが見えない位置だと今の状況なら俺も見えないな。……まぁ見えたとしても見付けられたかどうかは怪しいけど。


「ケイさん、急に止まってどうした?」


 あ、しまった。今の状況だと、羅刹が蚊帳の外な状況か! 思った以上に、この峡谷エリアは意思疎通に難ありだな。

 大規模な衝突になって位置がバレバレになるまで……いや、そうなった場合は擬態を使えるライさんみたいな人が脅威になってきそう。


「羅刹さんにも説明しないとだね。えっと、ハーレが擬態してるトカゲを3体ほど見つけたって、共同体のチャットで報告があったんだ。ケイさんは、その辺を確認する為に止まってる感じ」

「あぁ、なるほどな。そういやまだここのエリアで出てくる種族の傾向は話してなかったか。ケイさん、完全に止まってるのもどうかと思うから、進みながら聞いてくれ」


 ほいよって返事をしたいけど、声は出せないので行動で把握したと示しておこうか。という事で、今は右折して……って、思ったほどは狭くなってないな。ちょっと警戒し過ぎたか?

 いや、でも全体がそうとも限らないか。相当入り組んだ地形だし、真っ直ぐ一直線って訳でもないし、場合によっては今のサイズのままでは通れない狭さの場所もあると考えた方がいい。


「今通ってるとこは時々分かれ道があるが、それらは広さ的に通れるかが怪しい。しばらくはそのまま北上してくれ」


 ここからしばらくは北上って事で了解。俺は俺なりに獲物察知で敵の様子は伺ってるけど……おっ! なんか黒い矢印の先に、翼竜が何体か飛んでいるな。


「丁度いい、代表的な敵の1種類も出てきたな。ここは擬態の敵と、翼竜系の種族がメインになっていて、奇襲を受けやすいから注意しろ。まぁこのメンバーのLvなら奇襲は受けにくいだろうがな」

「……昼間に無茶してフィールドボスを倒した成果はあったかな?」

「そうみたいかも?」


 ふむふむ、この感じだと新しい競争クエストエリアの敵のLv帯は大体同じなのかも? 後半戦になっていけばいくほどプレイヤーのLvが上がっていって、雑魚敵の脅威は薄れていきそうな感じもする。

 そうなると、エリアボスの討伐もどんどん楽になっていく? うーん、なんというかエリアボスの討伐をいかに他の群集に押しつけて消耗させるかって戦いになってきそう。


「あの翼竜たち、攻撃したらどうなるのかな?」

「あー、やめとけ、やめとけ。変に目立って、他の群集の連中の誘き寄せるだけだ。まぁそれが目的なら別に良いが……」

「大々的に戦う気はない今は、やめておいた方がよさそうだね」

「そういう事だ。ハーレさんみたいな小型の種族が捕まって、他の群集からの集中砲火を受けて死んだって話は何件もあるしな」


 うわー、そういう危険性もあるのか! まぁ横取りも乱入も奇襲も強襲もなんでもありな競争クエストなんだし、そういう状況が発生してもおかしくはないよな。

 ぶっちゃけ、俺だってそんな絶好の攻撃チャンスを逃す理由は無いから絶対に攻撃するし。他の群集の人も狙ってくるなら、即座に倒せる可能性が高いんだから尚更に。あ、そうだ、これを聞いてもらおう!


 ケイ    : ちょっと羅刹に聞いて欲しいことがある! 今はここへ来てる人は少ないっぽいけど、それでも岩壁よりも上で飛ぶのは危険?

 アルマース : 襲われる可能性は下がりそうではあるが、そもそもそれで安全なら探す意味がないんじゃねぇか?

 ケイ    : そんな気はするけど、念の為!

 ヨッシ   : その辺、ちょっと聞いてみるね。

 ケイ    : ヨッシさん、任せた!


 正直、直接聞けないこの状況はもどかしい! でも、立ち回りを誤って戦闘になるのは避けたいんだよなー。あくまで、今回はこの峡谷エリアを実際に動いてみて、どういう特徴があるのかを自分達で把握をしたいだけ!


「ケイさんからの質問なんだけど、今の人が少ない状況でも空中は危険なの?」

「……そこは俺もログインし直してそんなに経ってないから、はっきりとした事は言えんな。危険性は下がってる可能性はあるがあくまで推測に過ぎんし……気になるなら試してみるか?」

「……あはは、そういう形になるんだね」


 羅刹でも、今の危険性の正確なところは分からないんだなー。うーん、本当に実際に試してみる? それが状況を把握するには手っ取り早い気がする。


 ケイ    : 他の群集の動向を探る為に、試してみるのはどう思う?

 アルマース : 俺としては無しだな。大々的に動く訳でもないのに、わざわざ今は囮になる必要もないだろ。

 ケイ    : 『今は』って事は、状況次第ではやるって言ってるのは気のせい!?

 アルマース : ……他の群集の動き次第だが、状況次第では俺らが弥生さんやシュウさんを抑えに動いた方がいいかもしれんぞ?

 サヤ    : あ、確かにベスタさんは自由に動けてた方が良いかも?

 ケイ    : 確かにそれはそうだけどさー!?


 俺よりもベスタが総指揮をした方が良いのは間違いない。もし赤の群集と狙うエリアが被った場合は、弥生さんとシュウさんのコンビを抑える方法は必須になる。

 元々、囮で動くというのは考えてた話だし、状況次第では本当にそうなるのかも。……まぁ少なくとも今すぐではないか。


「相談中のところを悪いが、異変が出てきたぞ」

「あ、本当かな!」

「瘴気が集まってくるね」


 これはジャングルでも見た、瘴気の渦が誕生しているところか。そうなると、乱入の無所属が出てくるか、傭兵が出てくるか、異形のアンデッドが誕生してくるか……。

 瘴気の渦の近くには獲物察知の反応は特に無し。サヤやハーレさんも特に何も言ってないから、異形のアンデッドへと進化するパターンでは無さそう?


「みんな、警戒していくよ!」

「必要そうなら、すぐ飛び出すかな!」

「青の群集の傭兵でなければ、俺も出るぞ!」


 羅刹がまだ灰の群集の傭兵である事を知られたくないのは、あくまでも青の群集の人に対してのみ。可能であれば他の群集の人にも伏せておきたいとこだけど、出てくる相手次第ではそうも言ってられない。


 出来るだけ戦闘は避けたいけど……それはタイミング的に厳し過ぎる。てか、瘴気が溜まってる場所があるって言ってたけど、今のは急に出てきたよな? まぁその辺は後で羅刹から聞こう。


「……黒いカーソルの禍々しいタコだと? こいつが例の奴か?」

「特徴は前に見た時と同じだし、多分そうかな!」

「……ほう? なるほどな」


 ちょ、ここでまさかのタコの黒の統率種!? この人、灰の群集の味方の可能性があるって話だけど、そう判断すればいい? 


「あっ、姿が消えるよ!?」

「タコの擬態かな!?」

「へぇ、俺らと戦闘をする気は無いってか。ケイさん、どうする? 今見逃せば、そいつと次にいつ遭遇出来るか分からんぞ?」


 羅刹が判断を求めてきてるけど、これはどうする!? あの黒の統率種のタコの人は今は完全に戦う意志は見せていないし、即座に離れていこうとしてる。 てか、毒持ちの上に擬態も出来るのかよ!

 今ここで見失うと、羅刹の言う通り次に接触出来る機会があるかが分からない。それならちょっとリスクを承知で、引き留めてみるか。よし、そうしよう!


「待ってくれ! 少し話がしたい!」

「おい!? ……いや、この場合は仕方ないか」


 思いっきり声が響いたし、アルにも驚かれたけど、もうここは負うべきリスク。もしこれで獲物察知に引っかかってない擬態持ちの他の群集の人が来ても……それはもう仕方ない。てか、獲物察知の効果自体が切れたよ!?

 あぁ、もう! 今はそれよりも黒の統率種のタコの人は……おぉ、擬態を解いて、俺らの方へと歩み寄ってきてる。ただ……タコの足を振り回して、どことなく怒ってるような……? あー、口をタコの足で押さえるようにもしてるから大声を出し過ぎだと怒られてる? あ、また偽装して消えた……?


「ちっ、流石に声が大き過ぎだ! ケイさん、アルマースさん! 一旦移動の偽装は解除して、岩壁に寄せて俺ら全員を隠せ! ケイさんが言ってた内容だし、並列制御で岩壁の一部に偽装出来るだろ! 今のが聞こえてたら、誰かが来るぞ!」


 慌てた様子の羅刹だけど、そりゃそうだ! てか、手段自体も俺が競争クエスト情報板に書いたやつ! あれは複数人で大規模な人数の偽装手段だけど、俺らを隠し切る分にはそれでも充分なはず!

 即座に今の岩の操作は解除! それに合わせてアルが『根脚移動』を発動して岩壁ギリギリまで移動してるし、俺が偽装すればいいだけ! 急げ、急げ、急げー!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と3魔力値消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 88/121 : 魔力値 296/302

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と3魔力値消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 86/121 : 魔力値 293/302

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 ちょ、何か微妙な足音らしきものが聞こえてき始めた!? 急げ、急げ、急げー! 明らかに何か……おそらく他のプレイヤーが近付いてきてる!

 リスクは取るとは考えたけど、やり過ごせるのならその方がいい! てか、思った以上に声が響き過ぎたし、なんかすみませんでした!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 67/121

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を38消費して『岩の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 29/121

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 大急ぎで岩壁に偽装するような形で、岩を生成! 上空からの確認がし辛い状態なら、横の部分を重視していく方がいいな。この際、横から見えさえしなければ上が空いてても問題無しのはず!


「……さっきの声はこの辺か?」

「話がしたいとか聞こえたが、姿は見えねぇな?」

「聞こえたのは1人分の声だけだったし、命乞いしたけど容赦なく殺されたか?」

「あー、そうかもな。競争クエストに参加してる割に、倒されたくないってわがままな奴も少数だけどいるしな」

「それかもな。まぁ今は動きも少ないし、とりあえず戻るかー」

「だなー」


 なんか上を空洞にした事で、様子を見に来た人達の声が聞こえてきたよ。何気に命乞いをする人がいて、そういう人と間違えられて助かったー!

 そういえば慌てて隠れたけど、今の人達ってどこの群集の人なんだろ? 実は灰の群集の人で、大急ぎで隠れる必要はなかったとかそういう事は……無いとは言えない可能性ー! って、それはいいや!

 肝心なのはあのタコの人との接触だけど……どこ行った? リスクを取って話しかけたのに、それが無意味だったとかは勘弁して!? 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る