第1137話 偵察の準備
完全に全部を把握出来た訳じゃないだろうけど、情報収集はとりあえず終わり。今は羅刹がPT入りしたし、不明な部分があれば羅刹に聞けばいい。
改めて周囲を見てみれば、ここのサボテンの群集支援種であるヒビキから他のエリアへと転移していくベスタやレナさんの姿が見えた。あ、風雷コンビもだな。
ふむ、どうやら気付いてなかっただけで、結構近くにはいたっぽいね。でも、全体的にこの安全圏は人が少なめだなー。それだけ他の事をしてる人が多いって事か。
さて、その辺は今は考えてもどうしようもない事だから置いておこう。今回の臨時メンバーは羅刹という事で、これから峡谷エリアへ……行く前にこれは確認しとかないといけないな。あと、色々と下準備もしないとね。
「羅刹、一緒に来るのはいいけど、青の群集には見つかったりしてる? 隠れた方がいいなら、アルの樹洞にでも入っとく?」
「まだ見つかってねぇはずだ。だから隠れる手段を提案するつもりだったんだが……先に言われるとはな」
「あー、やっぱりその手段が良いのか」
「まぁそうなる。アルマースさん、構わないか?」
「そりゃ良いが……これは聞いとくぞ。敵が同じ事をしてくる可能性は?」
「可能性じゃねぇな。もう既に赤の群集はその手の事はやってきているぜ。おそらく、まともに確認出来てないだけで青の群集も同じような事は考えてんじゃねぇか?」
「そうなの!?」
「……それは厄介そうかな」
「樹洞の中に居られると、人数が分からないもんね……」
うーむ、さっきの状況確認の中では出てこなかった話題だけど、そういう作戦も使ってくるのか。まぁ俺だってそういう使い方で羅刹を隠そうとしたんだし、他にそれを考える人がいない訳が……って、ちょっと待った!?
「羅刹! もしかしてだけど、それをやってる1人はウィルさんだったりする!?」
「ちっ、折角これからネタばらしして驚かせようと思ってたのに、もうバレたか。あぁ、異様に木のキャラ操作が上達したウィルを筆頭に待ち伏せ作戦として動いているのは見かけた。……待ち伏せにも色々パターンがあるからさっきは説明を省いたとこだが、そこら辺に遭遇した際の敗北率は高いぞ」
「マジか……」
うわー、赤の群集は弥生さんとシュウさんの夫婦コンビが猛威を奮ってるだけでなく、そんな待ち伏せパターンもあるのか。くっ、そうなってくると赤の群集はこの峡谷エリアを狙ってきてる?
いや、そう見せかけて本命は他のエリアという可能性も否定出来ない。そもそもまだ灰の群集みたいに、明確な狙いが確定してない可能性もあるのか……。
「あー、もう! 攻略していく作戦も考えないといけないけど、相手の目的エリアを特定しないと話にならないな、これ!」
「それが確定するのは、本格的に取りに動きを出したのを確認してからだしな。だから今は下手に動けん」
「そりゃそうなるわ……」
あのドライアがごちゃごちゃ言ってた際に説明してた動けない理由は、俺ら灰の群集が大々的に動けない理由がメインだった。でも、それ以外にも敵の動向が掴めなさ過ぎるという点でも動けそうにない。
さっき、ベスタが残ってるエリアの経路を確立させて、それぞれのエリアの調査に人を分散させたのは当然の判断だな。そうしないと、先んじて動く事も、他の群集の動きに対応する事も出来ないか。
その辺の事情を考慮した上で、俺らは峡谷エリアのマップ情報の収集と、場合によってはジャングルでのマサキみたいに逸れているという群集支援種の…… えっと、なんだっけ? あぁ、サソリのカナデか。それを探す事もしていくのがよさそうだな。
「とりあえず実際に行ってみて、色々見てみるしかないなー。問題はどうやって移動するかだけど……」
「羅刹を隠す必要があるんなら、いっそみんな樹洞に入ってたら良いんじゃねぇか?」
「あー、そうするかー。ハーレさんは巣の方から出入りも出来るし、そっちで周囲の観察を任せていい?」
「おぉ、確かにそれはありなのです! それでいくのさー!」
「それじゃ任せる!」
ハーレさんも乗り気だし、サヤだと樹洞の上部から顔を出して確認するのは難しいはず。アルの樹洞投影で外の様子を見てもらいながら、即座に動けるように待機してもらっておく方がよさそう。
「私は今回は待機かな?」
「サヤはそうなるなー。まぁずっとハーレさんに任せっぱなしって訳にもいかないから、時々サヤにも代わってもらいたいけど……ヨッシさん、その時は氷で足場を作ってもらえるか?」
「えっと、サヤをハーレの巣まで届くようにすればいいの?」
「そう、そんな感じ! サヤ、竜の方の視点で巣から見ていくのは可能?」
「やってみた事はないけど、多分出来ると思うかな!」
「それなら周囲の索敵はそういう感じでいこう!」
これなら樹洞の中にいても周囲の様子を確認しながら、みんなを隠しつつ移動が出来る。問題があるとすれば……巨大なアルのクジラだな。
ここにくる前に青の群集をムキにさせて囮として動いてみようという話はしたけど、あれは却下。俺らだからって理由ではなく、ただ単純に空中にいるって理由で一斉攻撃を受けるだけの可能性が高いしね。
「アル、ちょっと確認。木を小型化した状態で、樹洞展開って使える?」
「……試した事がないから分からねぇな? ちょっとまとめを確認してくるから、待っててくれ」
「ほいよっと。あ、ついでに樹洞の中に誰かがいる場合に死んだ場合はどうなる?」
「それも分からんから、まとめて調べてくるわ」
「そっちも頼んだ!」
もし木を小型化した状態でみんなが樹洞に入れるなら、相当な小回りが利く。もしダメなら、クジラだけ小型化で考えよう。
今は偵察だけで本格的に戦うつもりはないんだし、遭遇してもすぐに離れる事が多いなら普段のアルの見た目から大きく変えた方がいいだろうしね。
「ケイさん、何をする気だ?」
「ちょっとした偽装? 木の方のサイズ次第で偽装の手段が変わってくるから、とりあえずアルの確認待ちだけど」
「……どういう風に、何に偽装する気だよ」
「あー、言葉じゃ説明しにくいし、実際にやってみるからそこは待ってくれ」
「まぁそれなら待つけどよ……」
クジラだけを隠すか、木自体も隠すかという2択になるからなー。どっちになるかは、小型化と樹洞展開の仕様次第になって……いや、そうでもないか?
よく考えたら、クジラはともかく木まで隠すのは難しくね? ここにくる前にアルが全部を岩で覆ってしまえとか言ってたけど、あれは並列制御を使えば多分出来なくはない。
でも、逆に言えばそれしか出来なくなる。ハーレさんの視界……だけじゃないな。俺以外のみんなの視界も遮断する事になるから、偽装としてはやり過ごす為の緊急避難的な使い方しか出来ないかも。
「ケイ、小型化した状態で樹洞展開は出来ないみたいだ。あと、樹洞の中に誰かがいた場合に仕留められると、中にいたプレイヤーは放り出されるそうだぞ」
「あ、流石に全滅とかはないのか」
「……まぁ大きな隙が出来やすいから、攻撃するチャンスではあるみたいだがな」
「……そりゃそうだ」
放り出された直後にすぐさま反撃態勢に移れる人も少ないだろうしね。いや、でもそれを罠にするという手もあるのか?
あえて移動種の木の人が倒されるのを前提として、チャージの準備をしておくとか? ありと言えばありな作戦だな、これ。でも、自分達で実行する気は起きないね。
「羅刹、ちょっと確認。あえて移動種の木の人が倒されて、そこから放り出された人が強襲してくる罠とかってある? ほら、中にいる人全員のチャージが終わるタイミングでわざと殺されて解放する感じで」
「……サラッととんでもない罠を言ってんじゃねぇよ!? 今のところ、そういう罠の報告は見てねぇけどな。というか、それは即座に報告に上げといた方が良いんじゃねぇか?」
「あー、確かにそれはそうだけど……」
警戒するためでも、灰の群集が使う為でも、両方の意味で報告は必要な気がする。でもまだ色々と考えてる途中だしなー。どうせなら、まとめて報告にしたいところ……。
「ケイさんは色々と立案中だし、それは私の方で情報を上げておくよ。えっと、この場合は情報共有板と競争クエストのどっちがいいの?」
「おっ、ヨッシさん、それは助かる!」
「はい! 他のエリアに分散していった人もいるし、ここでしか見れない傭兵の人もいるから、両方で報告すればいいと思います! あ、この周辺にいる人にも伝えた方がいいかも!?」
「あ、そっか。片方に限定する必要もないもんね。サヤ、ハーレ、3人で手分けをしよっか」
「分かったかな!」
「はーい! それじゃ私はその辺にいる人達に、情報収集を兼ねながら話してくるのです!」
「よろしくね、ハーレ。サヤは情報共有板を任せていい? 出来るだけ名前が出ない方が、サヤは良いよね?」
「……あはは、気遣いありがとうかな。うん、そうさせてもらうよ」
「それじゃ情報共有板の方はお願いね。私は競争クエスト情報板で伝えてくるから」
そんな感じでサヤとヨッシさんとハーレさんが手分けをして報告をしに行った。地味にハーレさんの世間話をしながら、さっきの話を伝えていってるのが凄いな。あっという間に人集りが出来て、情報交換会みたいな状況になってるよ。
「サヤ達に報告は任せて、俺らは準備をしていくか!」
「結局、ケイはどういう偽装をする気なんだ?」
「それは今からやるから、とりあえずアルはクジラだけ小型化してくれ」
「……それだと牽引していく事になりそうだが、まぁやるだけやるか。『小型化』『根脚移動』!」
「あ、『根脚移動』はいらないぞ?」
「はぁ!? いや、イルカサイズまで小さくなってるクジラじゃ、この木は支えられんぞ!?」
「そこは問題なし! こうするからな!」
「何を――」
ふっふっふ、だから偽装をすると言ってるじゃないか。飛行鎧は基本的には俺に飛行用だけど、俺以外を飛ばす為に使ったらいけないという道理はない!
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 121/121 → 115/115(上限値使用:6)
これでアルの小さくなったクジラを覆い切る! 元のサイズだと岩の生成量が足りないけど、今のイルカサイズなら完全に覆えるね。
ついでにアルの木のマングローブ的な木の根の部分も隠してしまえ。お、アルも俺の意図に気付いたみたいで、イルカを木の根の下に移動させてくれてるな。
「いきなりクジラの視点が真っ暗になって何事かと思ったわ! あー、偽装って俺のクジラを岩に偽装って事か。なんというか、ライルさんの松の木みたいになってんな」
「ライルといえば、飛翔連隊の移動種の木の奴か。確かにこれはアルマースの印象は一気に無くなるな」
「まぁライルさんをイメージしてやったからなー。これなら俺の方で浮かせられるから、アルは攻撃や防御に専念出来るだろ?」
「……確かにな。だが、ケイ? これは移動操作制御だし、被弾は大丈夫か?」
「あー、それは状況次第? すぐに通常の岩の操作を展開出来ればそれでやるし、無理そうならアルが小型化を解除する形で……」
「ケースバイケースになる訳か」
「そうなるなー!」
本当にその時の状況によって判断するしかないから、今ここではっきりとしら手段が提示出来ないのが痛いんだけどね。
「アルマースさん、これは強制解除になるのはありかもしれんぞ? 移動用の岩を破壊したと思ったら、中からクジラが出てきたら慌てるだろう?」
「……言われてみればそうだな。その隙にサイズを戻したクジラで突撃や、魔法で遠距離から攻撃を仕掛けるのもありか」
「あー、そっちまでは考えてなかったけど、確かにありだな!」
サヤかハーレさんは視認での索敵の為に外を見ている状態にはなるし、俺もスキルの使用の制限がかかっている状態ではない。もし他の群集と遭遇して戦闘になっても、かなりの隙を狙えそう。
「……えっと、ちょっと良いかな?」
「ん? どうした、サヤ?」
「今って出来るだけ戦闘を避けながら、探索する手段を考えてたんだよね? 何か段々と攻撃的な罠の発案に変わってるのは気のせいかな?」
「「「……あっ」」」
「まぁ作戦としてはありだとは思うけど、今日は戦闘は控えめにね?」
「……ほいよっと」
つい、思いつくままに攻撃への転換方法に思考が移っていってたよ。うーん、でも偽装を含めた移動手段はこれでありなはず。
「ケイ、今日の探索に限ってで良いから、岩の操作は通常発動でいけねぇか?」
「それはいいけど、それだと獲物察知が使えなく……あー、岩の操作が切れるまで再発動は出来なくなるけど、並列制御で使えなくはないな。でも、なんで通常発動?」
「移動操作制御の強制解除からクジラの奇襲を隠す為だな。俺自身が岩の操作で移動していると誤認させるってのでどうだ? 俺が水魔法で攻撃すれば、ケイが水魔法を使ってると勘違いもさせられるだろ」
「あー、確かに!」
なんか今のも攻撃的な罠の一種になった気はするけど、これは今からやる事に意味があるからね。それこそ明日からの動きに対する誤認情報を流すんだから、今日じゃないと意味がない。
まぁそういう戦闘の機会があるかも分からないけどさ。でも、やらないよりはやっておく方が良いはず! ただ、岩の操作の再発動の時だけは気を付けないとなー。
「おぉ!? 聞こえてはいたけど、アルさんが全然違った様子になっているのです!? あ、特に目新しい情報はありませんでした!」
「あはは、これは確かに名前をしっかり確認しないと、アルさんだとは思えないかも? ケイさん、良いアイデアだね」
「だろ!? あ、アル、一旦解除するぞー!」
「おうよ!」
通常発動の岩の操作に切り替えるのなら、まずは解除してからだよな。それに今回は俺がどこにいるかを決めてなかったしね。俺が丸見えの位置にいるには良くないし。
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 115/115 → 115/121
さて、これで解除完了。岩の操作で展開し直すのは、安全圏を出て峡谷エリアに突入してからで良いだろ。
「おっと! 小型化解除!」
俺の飛行鎧の形を変えて浮かせていたアルの木も、クジラを元の大きさに戻す事でバランスは元に戻った。……この急激な変化からのクジラからの奇襲の突撃、受けるのは嫌だろうなー。まぁそれは今はいいや。
「おし、それじゃ偵察しに出発するぞ!」
「「「「おー!」」」」
「暴れる前に、やるべき事はやらねぇとな」
疲れ果てるほど無茶な動きはしない予定だけど、とりあえず峡谷エリアの偵察を始めよう! エリアの特徴を直接触れて確認したいし、羅刹に色々と話を聞きたいとこだしね。
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