第1134話 峡谷エリアの安全圏へ


 風音さんは俺らのPTから離脱して、桜花さんの所に残っていった。峡谷エリアの安全圏に向かう事は決まったし、とりあえずエンの所までやってきたけど……。


「灰のサファリ同盟主催のトーナメント戦『魔法Lv10を目指せ!』の次の開催を、そろそろ募集しまーす! 今行っている決勝戦が終わり次第、先着順になりますので参加ご希望の方は用意をお願いしますねー!」

「おっしゃ、次こそは勝つ!」

「いいや、今度こそは俺が!」

「わっ!? え、そんなのやってたんだ? なんで魔法Lv10?」

「なんだ、知らないのか? 通常スキルの魔法がLv10になった時のボーナススキルが強力だって判明して、競争クエスト用にスキル強化の種の確保狙いみたいだぜ」

「おー、そうなんだ! 負けてもいいから、参戦してこよっかな?」

「トーナメント戦『魔法Lv10を目指せ!』の受付、開始します!」

「次こそ、次こそは勝つ!」

「お祭り騒ぎの参加するぞー!」

「オオカミ組主催のトーナメント戦も決勝が終わり次第、次を開催していくぞ! 競争クエストに向けて強化したい奴の参加を求む! こっちは特に制限なしだ!」

「あ、魔法だけじゃないのか」

「……流石に戦い過ぎて疲れてきた」

「俺も……。ちょっと休憩……」


 なんだかそんな感じで、エンの周囲は相当賑わってるね。何度も参戦して勝つのを狙ってる人もいれば、疲れている休憩してる人もいるのか。どっちの気持ちも、分からなくはない!


「わー! すごい混んでるのです!」

「これ、何度も挑戦してる人がいそうだね」

「そうみたいかな? 機会があったら、制限なしのにみんなで参戦してみる?」

「面白そうだが……その余裕があるか?」

「……ぶっちゃけ、微妙なとこな気がする」


 新たにスキル強化の種は欲しいけど、競争クエストがどう転ぶか分からない状況では中々難しいよね。でも、これだけトーナメント戦が活発に行われてるって事は、他の群集の動きはあまり無いのかも?

 うーん、余力があればサヤの提案に賛成なんだけど、少なくとも今日は無理だな。明日の午前中なら……そこは明日になってみんなの疲労がどれだけ抜けてるか次第か。


「とりあえずトーナメント戦については今は考えない方向で! 予定通り、峡谷エリアに向かおう!」

「それもそうだな。どっちにしても最新情報は必要だし、すぐに動けるように参戦登録だけは確実に終わらせておく方がいいだろう」

「急に動きがあった時に、スムーズに動けるもんね!」

「それじゃ出発かな!」

「えっと、とりあえず荒野エリア?」

「帰還の実を使ってもいいが、ここからならエンから転移を使う方が早いしな」

「だなー! それじゃ出発!」

「「「「おー!」」」」


 という事で、意識を切り替えて移動開始! さて、サクッと峡谷エリアの競争クエストに参戦して、あそこの『競争クエスト情報板』を解放してしまおう!



 ◇ ◇ ◇



<『始まりの荒野・灰の群集エリア4』から『未開の峡谷・灰の群集の安全圏』に移動しました>

<規定条件を満たしましたので、競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開の峡谷』を開始します>


 森林深部のエンの様子と似たような状態になっていた荒野エリアを経由して、峡谷エリアの安全圏へと転移してきた。まぁ即座に演出が始まるのは分かってたから、ここはサクッと見て済ませよう。演出を飛ばしても良いんだけど、今は別に急いではないしね。

 おっと、グレイが出てきたから静かにしとこ。さて、極端に内容が変わる事はないと思うけど、どんな感じかな? 勝敗が決した場所が出た分だけ変化があるかも?


『この地へ足を運んでくれた同胞達には、まず感謝の意を伝えよう。ここより先は、強大な進化を遂げた黒の暴走種の存在と、それに従う多くの黒の暴走種、瘴気強化種の存在を確認している』


 ……ん? なんか思いっきり既視感があるんだけど……これって、ジャングルの時とほぼ同じじゃないか? いや、一言一句を正確に覚えてる訳じゃないし、自信はないけどさ。


『またこの地にはこれまでの場所と違い、溢れ出た瘴気が漂っている。それらの浄化も進めてはいく予定だ。そして原因はまだ不明だが、異常な姿へと進化を遂げている瘴気強化種の存在も少数だが確認している』


 いや、待って! それはジャングルで確認して、報告は上げたはず! 確かに数は多くはない気がするし、言ってる事には間違いないんだけど! あー、これは進行具合に関係なく、全部の新エリアで共通の内容になってる?

 プレイヤーの参戦エリアの数に合わせて変動とか、競争クエストの対象エリアの対戦の順番がどうなるかも分からないんだし、変に変えた方が混乱もするのかも。


『今回のこの地での戦いは、どのような敵とどのような戦いになるかは一切分からない。故に、今までと同様に同胞達のそれぞれの意思に任せる。無理強いはしないし、引き返してこれまでの地で支援や力を蓄える事もいいだろう。では、同胞達の健闘を祈る』


 うん、最後まで既視感のある内容だった。これはほぼ確実にグレイの言葉はそのままだね。まぁこの辺の内容って後で『追憶の実』で見れるはずだし、変に混乱しないようにしてそう。参戦タイミングは人によってバラバラだろうしさー。


<競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開の峡谷』を受注しますか?>


 参戦するつもりでここまで来たんだから、ここは受注で決定。


<受注を確認しました。競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開の峡谷』を開始します>

<競争クエストの受注中には該当エリアにいる間、識別カーソルの上部に受注マークが表示されます>

<受注マークのあるプレイヤー同士の戦闘では経験値の増減はありません>

<受注マークがないプレイヤーの立ち入りは禁止となります>

<現在地のエリア内限定で『競争クエスト情報板』が開放されました。ぜひご活用ください>


 よし、みんなに受注マークが出たし、受注は完了だね。これでここの『競争クエスト情報板』が使えるようになったから、まずは情報収集からしていこう。すぐに峡谷エリアに行きたい気分ではあるけど、最新情報は必須!


「全員、参戦は完了したな? とりあえず転移してきたすぐ側に居続けると邪魔になるから、少し移動するぞ」

「ほいよっと」


 という事で、少し移動してからアルのクジラの背の上からみんな地面に移動! そういえばここに転移してきた先の群集支援種って……あぁ、サボテンか!

 まぁ荒野からやってきてる群集支援種になるんだろうから、種族的には納得。名前は『ヒビキ』かー。


「それにしても、すげぇな、この景色」

「確かになー!」


 羅刹からは峡谷エリアはグランドキャニオンみたいな場所だって聞いてたけど、安全圏から見えてる範囲でも切り立った峡谷が凄い威圧感。でも、見えてるのはその程度。……全体像、どうなってるんだろ?

 どうやら今いる安全圏は、谷の底で広くなっている部分っぽい。あ、そうだ。今回の競争クエストはマップの情報提供で情報ポイントはもらえないし、自分で踏破せずにみんなの踏破情報の提供が反映されてるマップを全員が貰っておいた方が良かったんだ。


「みんな、とりあえずここのマップを確保! グレイの演出が使い回しだったのは置いとこう!」

「はーい! 演出はスルーなのさー!」

「そこは掘り下げても意味はなさそうだしな。マップについてはその方がいいか」

「あはは、まぁ同じ演出だったもんね。ここはどんな地形になってるのかな?」

「あれは気にしても意味はなさそうだし、まずは地形の確認からだね」


 参戦の演出については、みんな同じ意見みたいだね。まぁどうコメントすればいいのか悩むしなー。

 それはそうとして、マップ情報をヒビキから貰ったから少し内容を確認していこう。あー、なるほど。踏破はそこそこ進んでいるけど、全体から見るとまだまだか。マップを見た限りでの特徴は……。


「かなり高低差があって、地形が入り組んでるっぽいなー。こりゃ、上側を通るか、下側を通るかを決めていった方がいいかも?」

「見通しも悪そうだし、地形としてはかなり厄介か。羅刹からの情報だと下に瘴気が溜まってるって話だったし、その辺も考えて動かないと駄目そうだな」

「下を進むと、敵が多そうな予感なのです! あと、無所属の人が飛び出してきそうなのさー!」

「あー、その可能性もあるんだよなー」


 下に瘴気が溜まっているのなら、無所属や傭兵が転移してくる瘴気の渦が発生しやすい可能性はある。それにアンデッド系の敵の出現頻度も高そうだ。この辺、羅刹に直接確認を取りたかったな……。今ログインしたりは……してないか。


「これ、かなり上空まで飛べる種族が有利じゃない? 上から索敵して、奇襲部隊を誘導するのがいいかも?」

「それならケイが適任じゃないかな? 飛行鎧で上空まで飛んで、上から獲物察知かな!」

「それって思いっきり俺が狙われそうな気がするんだけど!?」


 でも、作戦としてはありなのか? 確かに地形的には、上から見下ろすのが分かりやすいはず。うーん、俺が狙われるリスクを下げる方向で考えた方がいいのかも……。


「あ、そうか! 別にロブスターで飛ばなくても、遠隔同調でコケを切り離して飛ばせばいいのか! あー、でも目立つのは変わらないよなー」

「おぉ! それはありなのです!」

「それならケイさん、高めのLvで発光を使うのはどう? 天気は快晴だし、太陽光に紛れるってのもいけるかもよ?」

「ヨッシさん、良いアイデア! 実際にやってみないとはっきりとは言えないけど、やってみる価値はある!」


 そのまま飛行鎧でコケだけを飛ばしたら、確実に影が落ちて不自然さは確実に出てくるはず。でも、飛行鎧を完全にコケで覆って、コケ自体を眩しいくらいに光らせてしまえば、太陽光への偽装は出来るかも。

 夜の日であれば、一時的に水のカーペットの登録を闇の操作に変えて、闇に紛れるという手もある。おそらく獲物察知封じはこの峡谷エリアでも使ってくるだろうから、逆にそれを利用するのもありか。


「まぁその辺を実行に移すのは、本格的に衝突になった時だな。今の偵察段階で使って、警戒される要素は作っておくべきじゃないしさ」

「確かにそうだな。それと相手に使われる可能性も考慮に入れておくべき内容でもありそうだぞ」

「あ、そっか」

「……そりゃそうだ」


 俺が出来そうなこの手段、おそらく思い付きさえすればジェイさんも実行出来る。いや、そもそも青の群集だけを警戒するのはダメだ。俺らが思いついたものは、赤の群集も青の群集も使ってくると想定しておいた方がいい。それこそ、擬態持ちのライさんとかが厄介な場所にもなりそうだし。

 その辺の可能性から逆算して、潰す手段としては何がある? 適当に上空へ攻撃するのは、自分達の居場所を教えるようなもんだから却下。……索敵だけに特化されると、意外と防ぐ手段がない?


「今の索敵手段、みんなならどう防ぐ? 獲物察知を封じられたら、結構ヤバい気がするんだけど」

「敵よりも上を取る……のは、流石に目立ち過ぎて悪手だよね……?」

「それは間違いなくそうだろうな。まぁあえて引き付ける役目をどこかのPTが担って、牽制するって手段もあるが……」

「それ、提案したら俺らの役目になりそうな気がするんだけど!?」

「また囮役なのさー!?」

「……あはは、確かにそれはありそうかな?」

「まぁ高確率でそうなるだろうな」


 うーむ、アルのクジラの巨体で上からこの峡谷を見張ったら、他の群集からしたらどう考えても目障りだもんな。

 排除に動いてくる可能性は高いから囮として成立する可能性はあるけど……そんなに何度も俺らが囮として機能するのか? 俺なら何度も挑発だと明確に分かる囮には飛び付かないけど……。

 

「だー! まだ現地を直接見てない状況で判断しても仕方ないな。とりあえずこの件は保留で、他に何か気になる事ってある?」

「気になる事って程でもないんだけど、荒野の競争クエストの所から群集支援種……えっと、ヒビキがやってきてるんだよね? 知ってる範囲の競争クエストでは群集支援種は2人いたけど、ここももう1人いるのかな?」

「確かにその可能性は高そうなのです!」

「前回の荒野での競争クエストには参戦してないから、その辺はよく分からないね?」


 えーと、覚えてる情報の自信はないけど、前回の競争クエストは何種類かの傾向に分かれてたはず。確か、ミズキみたいに半覚醒になってる奴を解放して誘導していくパターンと、擬態で隠れまくってるのを探し出すパターンと、半覚醒を正常化したら逃げ出すパターンだっけ?

 確か荒野は……擬態で隠れてたのを探すタイプだって聞いた覚えがあるような……? うーん、よく分からん!


「とりあえず、現状でどの程度の事が分かってるかが重要かー」

「確かにな。ジャングルと海溝の2ヶ所は終わってるんだし、何か共通項もあるかもしれん」

「『未開の地を占拠せよ:未開の峡谷』だから、勝利条件は群集支援種を誘導する可能性は非常に高そうなのさー!」

「もう1人の群集支援種がいるにしても、それが見つかってるかどうかも重要だよね」

「今回は灰の群集の安全圏は東側みたいだし、他の群集の動きも気になるかな!」

「だなー」


 マップが入り組んでいるのも厄介そうだけど、他の群集の安全圏がどの方向にあるのかもマップを見ただけでは分からない。

 勝利条件の占拠すべき場所があるのは、おそらくどの群集の安全圏も存在していない方角のはず。そしてそこに繋がる為の情報は、今の俺らは持っていない。あれこれと作戦を考える前にやるべき事はこれだな。


「とりあえず予定通り、最新情報を仕入れにいくか!」

「「「「おー!」」」」


 という事で、ここの競争クエスト情報板へレッツゴー! そこで得た情報を元にして、無茶はしない程度に偵察を……って、そういやアルが青の群集を疲弊さえる作戦を言ってたっけ。やっぱり囮作戦をやってみるのが良いのかも? そしてあえて失敗するように仕留められて、次への油断を誘うのもあり?

 いやいや、先に情報収集って決めたんだから、その辺を考えるのは後! 他の群集の動きが鈍ければ、囮作戦の効果は薄いしね。スルーされる囮とか意味ないし!

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