第1133話 次の1戦に向けて


 桜花さんから、フィールドボスや『瘴気珠』の検証がどうなったかは聞けた。さーて、それじゃ競争クエストの最新情報を――


「……みんな……ちょっといい?」

「ん? どうした、風音さん?」

「どうしたのー!?」

「……今日は……これ以上は……やめとく。……疲れたし……桜花とも色々話したい」

「あー、まぁ流石に今日は疲れたよなー! それは了解っと」

「……自分の都合で……ごめんね」

「風音さん、そこは気にする必要はないのです!」

「都合が合えばでいいんだぞ、風音さん」

「……うん!」


 疲れてるのは本当なんだろうけど、風音さんと桜花さんはゆっくり話す時間は取れてないだろうしね。風音さんは桜花さんをずっと探してたみたいだし、ここらで休憩を交えて一緒に雑談をするのもありな気はするよ。


「……桜花……今日はここにいて良い?」

「おう、構わねぇぜ。そうだな、折角だし風音さんが無所属でやってた事を色々聞かせてくれ」

「……うん!」


 さて、そうなると俺らはお邪魔だな。予定時刻の21時は過ぎたし、簡単な偵察だけのつもりだけど、競争クエストの方を進めていきますか。


「……あ、PTは……抜けておくね。……みんな……今日はありがと。……楽しかった!」

「私達こそ楽しかったかな!」

「また機会があれば一緒にやろうね、風音さん」

「その時は大歓迎なのさー!」

「意外と機会は早そうな気もするけどな?」

「あー、まぁ競争クエストの真っ最中なら、そうなる可能性は高いよな!」

「……その時は……よろしく!」

「俺からもよろしく頼むぜ。可能な限りバックアップはするからよ」

「ほいよっと!」


<風音様がPTから脱退しました>


 これで今日は風音さんは臨時メンバーからは離脱だね。まぁ基本的に風音さんはソロで動きそうな感じだし、今後は結構一緒に動く事もありそうな予感。桜花さんの場所にいそうだし、常連の俺らとしても接点は増えそうだ。


「風音さん、ケイさん達の共同体に入れてもらうってのはどうだ? 俺から見た感じ、相性は良さそうに思うんだが」

「……桜花も一緒なら……それもいいかも?」

「ふむ、俺も一緒にと来たか……」

「……ダメなの?」

「いや、共同体の加入はなぁ……」

「……?」


 あー、俺としては別に2人セットでもグリーズ・リベルテへの加入はありな気はするけど、そういや追加のメンバー加入についてはろくに話し合った事がない気がする?

 おっと、共同体のチャット項目が光ってるね。まぁ状況的に内容は予想が出来るけど確認しとこ。言い出しっぺは誰だろね?


 サヤ    : 全然考えて無かったんだけど、共同体の新規メンバーの加入ってどういう風にするのかな?

 ヨッシ   : 一切受け付けないか、気が合った人が入りたいなら加入を認めるか、そういう2択だよね。流石に誰でもOKにはしたくないしさ。

 ハーレ   : 誰でもOKはお断りなのさー! でも、桜花さんと風音さんなら良い気もするのです!

 アルマース : 俺も完全に受け付けないって気はないぜ? それこそ、ケイの弟子のフーリエさん辺りも希望するなら別にいいんじゃねぇか?

 ケイ    : あー、みんなはそんな感じか。てか、フーリエさんが同じ共同体か……。


 よく考えてみたら、そういう選択肢も地味にあるんだよな。ただ、フーリエさんはシリウスさんとコンビで動いているみたいだし、その辺がちょっと微妙かも?


 ヨッシ   : サヤはその辺はどうなの? あ、私は気に入った人なら加入には賛成だよ。

 サヤ    : それならヨッシと同じ意見になるかな? 桜花さんと風音さんなら、大歓迎かな!

 ケイ    : 俺もだなー。

 アルマース : 同じくだ。

 ヨッシ   : みんな、意見は同じみたいだね。


 どうやらこの感じだとそうなるね。でも、肝心の桜花さんが乗り気じゃない様子なんだよなー。正直、桜花さんくらいに活動しているのであれば、どこかの共同体……場合によっては複数の共同体からお誘いがあってもおかしくはないはず。

 それでも今はどこにも所属してないし、あえてどこにも所属しないようにしてる? ベスタやレナさんみたいに実力者であっても共同体に所属してない人はそれなりにいるし、桜花さんもそのタイプかも?


「悪い、風音さん! 俺はどっかの専属で動くような形になるのは避けたいから、あえて共同体には所属はしてねぇんだ。共同体に所属してない人も多いし、その手の人が積極的に来やすいようにと思ってな……?」

「……そうなんだ?」


 へぇ、桜花さんってそういう理由で共同体には所属してないのか。まぁ桜花さんのとこで見かける人って、何気にソロだったり、俺らみたいな小規模な共同体の人が多かったりするもんな。

 俺らは大規模な共同体との接点は持ってるけど、そうでない人も多いから、そういう人達が取引をしやすいようにって事か。その辺は桜花さんなりのこだわりなのかもね。


「……それなら……共同体には入らない」

「あー、なんか変な事を言っちまったか? そういやケイさん達が受け入れるかどうかってのも聞いてなかったし、勝手な事を言ってすまんな」

「気にしなくていいぞ、桜花さん! 追加の加入メンバーについては全然考えてなかったけど、その辺を少し話すきっかけにもなったしな」

「そう言ってもらえると助かる」


 さっき俺らが無言で共同体のチャットで会話してた点については触れてこないんだな。まぁ多分、その辺の会話をしてたのを察したんだろうね。


「もし2人の気が変わる事があれば、加入は大歓迎なのです!」

「こら、ハーレ! 調子に乗らない!」

「桜花さんは桜花さんなりの目的があって選んでるんだから、そこに口を出すのは無しかな!」

「あぅ……怒られた……」


 今のハーレさんの発言は怒られても仕方ないな。共同体に入らない理由を明確に示してくれたのに、今の発言は良いとは言えないしね。

 それにしても、風音さんは本気で桜花さんに懐いてますなー。……少し形は違うけど、俺にもそういう相手はいるからあんまり人の事は言えないか。弟子のフーリエさんと、懐いているアーサーがいるしね。


「ははっ! まぁ共同体には加入はしないが、これまで通りよろしく頼むぜ。俺だけじゃなく、風音さんもな」

「もちろんだぞ!」


 色んな縁が繋がって、今この瞬間がある。所詮ゲームの中だと言われたらそうだけど、それでも人と人の繋がりであるのは間違いない。リアルで会う事がなくても、蔑ろにして良いもんじゃないよな。


 なんか感傷に浸ってたけど、今はそういう場合でもないか! さーて、明日の競争クエストに備えて、大々的には動かないけど、出来る範囲の事をやっていこう!


「さて、それじゃこれからの動き方を決めていくぞー! みんな少なからず疲れてる状態だから、そこまで劇的な動きはしないとして……予定通り、峡谷エリアの軽く偵察くらいか」

「ケイ、その件なんだがちょっといいか?」

「ん? アル、何か気になる事でもあるのか?」

「まぁな。俺らがログアウトしてる間に、他の経路が確立されているかどうかを確認しておいた方が良いんじゃねぇか?」

「はっ!? それは確かにそうなのさー!?」

「場合によっては……もう峡谷エリアだけじゃない可能性もありそうかな」

「そっか、そうだよね。うん、アルさんの意見に賛成」

「だなー。とりあえず群集クエストの進捗から確認していくか! あ、桜花さん、少しの間でいいから、ここで作戦会議してもいい?」

「おう、それは問題ないぞ」

「サンキュー!」


 桜花さんの許可は取れたし、アルの懸念はもっともなので、まずは群集クエストの進捗具合を確認していこう。もしこれで草原エリアと森林深部エリアからの経路が確立されていれば、どこを重点的に偵察するかも考えないといけない。

 それに戦場の分散もあり得るから、戦力の割り振りもだな。あー、この辺はベスタに任せたいところ。まぁとにかく現状を確認しておきますか!



群集クエスト《群集拠点種の更なる強化・灰の群集》


【群集拠点種:エニシ(始まりの森林・灰の群集エリア1)】


 転移地点の確立 達成

 経験値強化  100%


【群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  97%


【群集拠点種:ユカリ(始まりの草原・灰の群集エリア3)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  98%


【群集拠点種:キズナ(始まりの荒野・灰の群集エリア4)】


 転移地点の確立 達成

 経験値強化  100%


【群集拠点種:ヨシミ(始まりの海原・灰の群集エリア5)】


 転移地点の確立 達成

 経験値強化  100%



 ふむふむ、まだ草原エリアと森林深部エリアからの経路確立にはなってないな。でもこの状態は100%になって経路が確立しないように調整してるような気もするし、下手に手を出さない方が良さそうだな。


「今行けるのは峡谷エリアだけか。意図的に他のエリアは経路を確立してないみたいだし、行くなら峡谷エリアしかないなー」

「はい! それなら羅刹さんへ1度連絡を取るのはどうですか!? まだいるかは分かんないけど!」

「あー、それもそうだな。向こうの状況次第ではあるけど、とりあえずダメ元でフレンドコールをかけてみるか」


 下手にフレンドコールをしたら邪魔になる可能性もあるけど……って、フレンドリストを見てみたらそもそもログイン状態じゃなかったー!?

 そういう事もあって当然ではあるか。俺らだって休憩の為にログアウトして休んでたんだし、羅刹だって休憩は必要だよな。まぁこればっかりは仕方ない。


 うーん、既に他の群集が峡谷エリアに進出してる可能性もあるし、少なくとも他の群集の傭兵が飛ばされているのはほぼ確定と考えていいはず。

 最新情報が欲しいけど、情報共有板で聞くか? いや、それよりはさっさと参戦の登録を済ませて、現地にいる人の情報が聞く方がいいかも? 


「ケイ? 考え込んでどうしたのかな?」

「羅刹さんとのフレンドコールは繋がらなかったのー!?」

「今はログアウト中っぽい。もう現地に行って参戦してから『競争クエスト情報板』で現地入りしてる人に情報を聞こうかと考えてたんだけど、どうする?」

「俺はそれで賛成だぜ。まぁ羅刹の案内が欲しかったとこではあるが、その辺は仕方ないしな」

「うん、私も同感だね」

「私もそれで賛成かな!」

「おし、それじゃその方向でいきますか!」


 具体的にどう動いていくかは、現地に行って情報を聞いてからで良いだろう。多分、羅刹以外にも傭兵の人はいると思うから、その辺からも情報が聞けたら良いんだけどね。


「……羅刹って……無所属のティラノの人?」

「そうだけど、風音さんは羅刹の事を何か知ってたりする?」

「……名前くらいだけ? ……あ、変にうるさい……龍の人を……蹴ってるのは……よく見た」

「あー、それは確実にイブキだろうなー」


 てか、イブキを筆頭に無所属の乱入勢の動向も気になるんだよな。あと羅刹の見解では俺ら灰の群集の味方かもしれない、黒の統率種のタコの人もか。

 まだまだ競争クエストの対象エリアはあるけども、不確定要素が多いんだよな。俺らみたいに合間で育成や強化をしてる人もいるだろうし、下手な油断は出来ないか。


「ケイ、少し気を抜けよ。最悪、これからの偵察は死んでも良いつもりでいくぞ」

「え、なんでまた?」

「実際に疲弊はしてるが、あえて手を抜いて想定以上に疲弊してるように思わせておくのもありだろ。ただし、その分だけ今日は早めに切り上げて、本格的に休んだ方がいいだろうがな」

「本当に疲弊してたら、意味がないのさー!?」

「あー、そういうのもありか」


 確かに疲弊してる中でも無茶をして動いているように見せかけるのはありといえばありか。少なくとも明日の昼の12時を過ぎればミヤ・マサの森林での再戦の競争クエストが始まるしね。

 こそこそ隠れながらの偵察にするか、あえて姿を見せて思っている以上に疲弊してるように見せかけるか、それ自体を罠だと思わせるのもありか。そういう心理戦を仕掛けるのも作戦の内だよな。


「でも、それって逆に同じ事を狙われる可能性もあるんじゃないかな?」

「まぁその可能性はあるだろうな。だが、俺らを倒せそうと思わせる事に意味はあるぞ? 青の群集は俺らを倒したがってるだろうし、その様子を前にして疲弊したフリをして冷静でいられるか……」

「……青の群集をムキにさせて、本当に疲弊させる気かな?」

「ま、簡単に言えばそういう事だ」

「あはは、それはジェイさんには効果がありそうだね」

「悪知恵が働くなー、アル」

「作戦と言え、作戦と!」


 あえて今の疲れが抜け切ってない段階を利用して、本当に青の群集の一部を疲れさせる作戦か。ジェイさんは俺らが河口域でフィールドボスと戦っていた状況は知ってるだろうし、あそこの敵のLv帯が高い事は把握してるはず。それを考えたら、分の悪い賭けではないか。


「その辺は現地入りしてから最新情報を聞いてからだなー。青の群集が全然進出してきてなければ意味がないしさ」

「ま、そりゃそうか」

「もしかすると他のエリアへの経路を確立して、そっちの調査をしてる可能性もあるのです!」

「そだね。調査してるエリアが同じエリアとは限らないし……」

「それならともかく、現地まで移動かな!」

「だなー」


 アルの言った作戦を実行するにしろ、他の作戦を考えるにしろ、判断材料が足りない。羅刹へ連絡が取れれば良かったけど、駄目だったものは仕方ないしね。


「って事で、俺らは峡谷エリアに行ってくる!」

「おう。頑張ってこいよ、グリーズ・リベルテ!」

「……みんな、頑張って!」

「ほいよっと! それじゃまずは峡谷エリアの安全圏に行くぞ!」

「「「「おー!」」」」


 さーて、今日はそこまでガッツリと戦闘はしないつもりだけど、果たしてどうなるかな? 出来れば他の群集の動きも控えめであってほしいところだけど、その辺の情報を仕入れないとね。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る