第1130話 大型アップデートの内容 前編
なんだかんだで全員集合! まさか風音さんまでこのタイミングでログインしてくるとは思わなかったけど、丁度良いタイミングなのは間違いない!
「……みんな……何かあるの?」
「みんなで大型アップデートの内容を確認しようって集まってきてたとこなんだよ。どこか風音さんも一緒にどうだ?」
「……一緒に行く! ……強制ログアウトだったから……正常かどうかの確認をしにきたから……まだ見てない」
「おし、それは好都合! さて、そうなるとどこで寛ぐかだよなー?」
あんまり遠出をしても仕方ないし、21時まではまだ本格的に動き出す気もない。どこか静かな場所でゆったりと寛ぎながらにしたいけど、エリア的にどこが良いかが問題だ。
「無難なところだとミズキの森林かな?」
「んー、でもあそこはなんだかんだで人がいるしね。まったり寛ぐには微妙かも?」
「はい! ナギの海原で完成した海鮮バーベキュー会場に行くのは……あ、ダメなのです!? あそこは再戦エリアなのさー!?」
「あー、そういやそうなるのか」
確か成熟体のアンモナイトと取り逃したフィールドボスのイカを戦わせた一件で、祝勝会をやった場所ではある。あの時は建設途中だったけど、結構日数は経ってるし、既に完成してたんだな。
でも、今回の競争クエストでの再戦エリアに選ばれてるのは痛手だろうね。折角作り上げた場所が、下手すれば奪われる可能性があるんだから……。
「はっ! それなら、マークの海原はどうですか!?」
マークの海原は、海エリアで俺らが競争クエストに参加して勝ち取ったエリアだっけ。でも、今あそこに行っても大丈夫か? 海エリアは赤の群集と海エリア同士で対決をやるって話だし、作戦会議に使われてる可能性があるよな?
「今はあそこはやめといた方がいいと思うぜ? 多分、作戦会議の真っ最中だと思うからな」
「……え? アルさん、それってどういう事ですか!?」
「ハーレ、眠そうだったからしっかり見れてなかった感じかな?」
「海エリアは赤の群集と再戦エリアで21時から海の種族だけでの対戦って話を、ケイさんが報告してる合間に言ってたよ」
「……そうだった?」
「記憶が怪しいのです……」
「まぁ今にも寝そうだったもんなー」
もうあの時はハーレさんは気力のみでなんとか強制ログアウトに抗ってたって感じだったしね。風音さん実際に強制ログアウトになってたんだし、ハーレさんと似たような状況だったんだろう。
そういう状況でなければ、海面に漂うアルの上に乗って、海を眺めながらのんびりとするってのもありだったんだけどなー。陸がメインの俺らは、今は変に海エリアに近付かない方がいいだろ。
「風音さん、寛ぐのに良さそうな場所とか知らない?」
「……知ってるけど……ちょっと遠い。……今から行くのは……おススメしないよ?」
「そりゃ残念……」
どういう場所を知ってるのかが気になるけど、まぁ遠いなら今は却下だよな。近めの海岸沿い……は緊急クエストの真っ最中だろうからパス。ネス湖の湖畔はありだけど、流石に移動がちょっと面倒。
「無難にハイルング高原辺りでいいんじゃない? 近場だし、今の快晴なら気持ちは良いと思うよ」
「それもそだなー。おし、ヨッシさんの案を採用で! アル、移動は頼んだ!」
「ハイルング高原なら近いし、のんびり速度でいくぞ。『自己強化』『空中浮遊』『根の操作』!」
「ほいよっと。みんな、乗り込めー!」
「「「おー!」」」
「……うん! 『小型化』」
そうしてみんながアルのクジラの背の上に乗って、移動開始! マサキのいる場所から転移して、まずは森林深部まで移動だな。
◇ ◇ ◇
<『始まりの森林・灰の群集エリア1』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
手早くPTを組んでから、森林エリアを経由して森林深部まで戻ってきた。おー、エンの周辺はトーナメント戦の順番待ちで人が溢れかえってるっぽい。こりゃ混雑してますなー。
「……アルマースさん……桜花の所に寄ってもらっていい?」
「ん? まぁ途中だから別にいいが、何かあるのか?」
「……桜花に『瘴気珠』を……渡したい」
「あぁ、なるほどな。そういう事なら了解だ」
「……ありがと」
なるほど、風音さんらしいとこだね。不動種の人達は『瘴気珠』のサンプルを欲しがってたし、桜花さんも欲しがってても不思議じゃない。てか、俺も機会が在れば桜花さんに渡しておきたかったとこだし、丁度良いタイミングだな。
「ケイ、一応桜花さんにこれから行くって伝えといてくれ。『瘴気珠』を受け渡すだけなら問題ないとは思うが、トーナメント戦はまだしてるみたいだし、混雑してる可能性があるからな」
「あー、それもそうだな。それじゃフレンドコールをしとくわ!」
桜花さんには桜花さんの都合があるだろうし、その辺の話をしておくのは重要だよね。さてと、フレンドリストから桜花さんを選んでフレンドコールを……って、今はログインしてないじゃん!? え、なんで……って、時間帯的に晩飯かー!
「アル、連絡しようとして正解。今は桜花さん、ログインしてないぞ」
「……そういう可能性もあったか。風音さん、桜花さんのとこは後でいいか? というか、それしか出来んが」
「……流石に仕方ないから……問題ないよ」
「おし、それじゃサクッとハイルング高原まで移動するぞ!」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
なんだかんだでみんなの元気は結構戻ってるし、それなりに回復はしたっぽいなー。まぁ本調子とまではいかないから本格的な衝突は避けたいけど、その辺の最新情報は後でチェックしないとね。
◇ ◇ ◇
飛んでいる種族がどんどん増えている森林深部を通り抜け、ハイルング高原へとやってきて、そこから人がいなさそうな西の方へと移動をしてきた。
辿り着くと同時にアルは地面に降りて、みんなもクジラの背の上から飛び降りて自由に寝っ転がったり、座っていたりする。あー、快晴かつ爽やかな風が吹き抜けていって、気持ちがいいもんだね。
完全に五感の全てを再現し切ってる訳じゃないから気温的なのは分かりにくいけど、風が当たっている感覚や、揺れている草花とかを見る事は出来る。極端な暑さや寒さを再現してないだけで、体感気温は快適そのものだしねー。
「ここならゆったり出来るかな!」
「しばらくはここでのんびりしつつ、大型アップデートの内容を確認していくのさー!」
「そだね。あ、何か飲み物を用意しよっか?」
「私は発光草茶で!」
「ヨッシ、麻痺草茶をお願いかな」
「漆黒草茶で頼む」
「俺は癒水草茶で!」
「……どれが……どういう味?」
あ、風音さんはこの手のお茶の味を全然知らないのか。まぁ自分で作るか、作れる人と交流が無いと手に入れにくいのかもね。
「えっと、発火草茶はリンゴジュース、癒水草茶はサイダー、旋風草茶はメロンジュース、硬化草茶はカフェオレ、麻痺草茶はレモンジュース、発光草茶はフルーツオレ、漆黒草茶はコーヒー、氷結草茶はスポーツドリンクだね。あと、ハーブ系でハーブティーもあるよ? 風音さんはどれにする?」
「……それなら……発火草茶で」
「了解。みんな、少し待っててね」
「はーい!」
そうしてヨッシさんがそれぞれのお茶を用意してくれている。いやー、相変わらず切った竹がコップ代わりっていうのが、このゲームらしいとこだよね。なんだかんだで便利な竹な事で。
米でもあれば、竹でご飯を炊くとかも出来るんだろうか? 確か何かで竹を使って炊いているのを見た事はあるしさ。でも、それ以前に米があるかどうかが重要か。小麦はあったはずだから、米もある可能性は充分ある! まぁ水田はないだろうけど。
「はい、みんなどうぞ」
「ヨッシ、ありがとー!」
「サンキュー、ヨッシさん!」
「ヨッシ、ありがとかな!」
「……ありがと」
「『根の操作』! ありがとな、ヨッシさん」
「いえいえ、どういたしまして。回復量が少なくていまいち使い道がない食べ物も色々置いておくから、好きに摘んでね」
「はーい!」
これで、みんなに飲み物が行き渡った。既にハーレさんは果物を口の中の詰め込んでいるけど、まぁそこは今更な光景なのでスルーしておこう。この辺の飲み物や食べ物は完全に気分的なものだけど、寛ぎながらには丁度いいよね。
「それじゃ大型アップデートの内容を確認していきますか!」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
という事で公式サイトを表示して、最新のお知らせにある『夏の大型アップデートについて』を選択。さて、どんな内容になっているのか楽しみだ!
「ほう? 大型アップデートの実施は7月20日か。木曜日の定期メンテと同時に実装みたいだな」
「いきなり日時に方にいく!? いや、大々的に載ってるけどさ!?」
「地味に重要なとこだろ、それは。今日が8日だから、もう2週間もないんだな」
「21日が終業式だから、夏休みよりも少し早いのさー!」
「……そうなの? ……みんな、学生?」
「俺以外は全員高校生だな。俺は社会人だ」
「……そうなんだ」
俺らのこの辺の情報については全然伏せてないから、話しても問題は無し! 風音さんがどうなのかは……まぁ風音さんが話す気があるかどうか次第だね。この手の話は無理に聞き出すような内容じゃないし。
「……何をしてるか……聞かないの?」
「その辺は人それぞれだし、無理な詮索はしないぞー」
「……そっか。……うん、みんなになら……話してもいいかも」
ん? 何か風音さんが意を決したような感じがするけど……もしかして結構な訳ありだったりするのか?
「……実は……生まれつき……耳が聞こえない。……今は医療用のAR機器で……聞こえるけど。……そういうのがきっかけで……人付き合いが……苦手」
「え、マジか!? あー、まぁそうなるよなー」
風音さんが今何歳かは分からないけど、俺らと同年代だと仮定しても幼少期にはまだその辺のARでの五感の代替技術は確立してなかったはず。
風音さんが人付き合いが苦手な理由って、そういうのが原因か。……体感した事がないから偉そうな事は言えないけど、多分大変だったんだろうな。耳が聞こえないと、他の人との意思疎通が普通よりも難しいだろうし……。
「……VR機器……正確には……医療用のAR機器開発の……臨床試験に参加した。……普段は……医療用のVR機器……業務用にも使えるやつ。……あれで……色んなVRの……テストをしてる」
「おぉ!? 話には聞いた事があるやつなのさー!?」
「それって、ゲームを筆頭に色んなVRサービスのβテストや負荷テストをやるやつか?」
「……そう、それ。……守秘義務があるから……これ以上は言えないけど」
「まぁそれは流石に仕方ないかな?」
「無理に言わなくても良かったのに、言ってくれてありがとね、風音さん」
「……みんなには……なんとなく言いたくなった。……脱線したけど……本題に戻そ?」
「ほいよっと。それじゃ肝心のアップデートの内容の確認だ!」
「……うん!」
ほんと、人の事情って色々あるもんだよね。まぁこれ以上はその話題を続けたい様子ではないし、ここは風音さんの希望通りに本題に戻していこう。
「えーと、まずは模擬戦の大規模改修か!」
「あ、PT戦とバトルロイヤル戦が追加になってるかな」
「……バトルロイヤル、楽しそう」
「あぅ……PT戦はともかく、バトルロイヤル戦は実況が難しそうなのです……」
「あはは、ハーレとしてはそこが心配なんだ?」
「そこは大事なのさー!」
「まぁ気持ちは分からんでもないがな。ふむ、バトルロイヤルの参加人数は20人までか。詳細な仕様まではまだ公開されてないみたいだな」
「その辺は実際に実装されてからって事なんだろうなー」
実況はこれまでと比べると難易度は高くなりそうだけど、バトルロイヤルは楽しそうではある。……俺らが参加したら、即座に袋叩きに合いそうな気もするけど。
それよりも、どっちかというとこっちが気になるとこだよな。多分、俺らはこっちが向いてるだろうしさ。
「PT戦、実装されたらみんなでやってみるか?」
「そりゃいいな。盛大に暴れてみるか」
「それは賛成かな!」
「……都合が合えば……混ざっていい?」
「もちろんなのさー!」
「歓迎だよ、風音さん!」
「……ありがと!」
連結PTは対象外になってるし、PTメンバーの人数は対戦相手と合わせないといけないみたいだし、6人でのフルメンバーで戦いたいなら臨時メンバーは必須になる感じだしな。風音さん自身が一緒にやりたいと言ってくれるなら、断る理由はどこにもない!
「とりあえず模擬戦機能の大規模改修はこんなもんだな。えーと、次は……おっ、再現クエストが遂に実装か!」
「おぉ! 続報が無くて地味に気になってたやつなのさー!」
「……再現クエスト?」
「今までにあった群集クエストやワールドクエストを、またやれるって話だったはずかな?」
「……そうなんだ?」
「ん? へぇ、面白い実装方法にしてくるみたいだな?」
「あ、確かにそうだね。オリジナルのクエストよりも規模は小さくなるけど、参加者を募ってから、競争形式でやるんだ?」
「おー!? これは以前のアンケートにあったレース形式が組み込まれているような気がするのです!」
「そうっぽいなー」
この辺って割と掲示板で予想されてた内容の通りか。って、ちょい待った。再現クエストの説明の中に面白い内容も書いてるな。ふむふむ、これは色々と新要素を突っ込んできてるな。
「へぇ? 今使ってる自分のキャラとは別に、元々用意されてるキャラで競うってのもあるのか。ほほう、それをランダムでもいけるんだな」
「再現クエストの全部が対象じゃないみたいだが、一部はそうなってるみたいのか。こりゃマップ作成の群集クエスト辺りが対象かもな?」
「マップ作成は初期も初期だもんね。全員が初期種族はランダムだったんだし、それを再現してるんじゃない?」
「……多分?」
「運が勝敗を分けそうかな?」
「これは実況は出来ますか!?」
「それは……どうなんだ? 特に書いてないけど……」
というか、ハーレさんは実況にこだわるね!? まぁいつでも実況をしたがるハーレさんだし、そういう観点で判断したくなる気持ちも分からなくもない。
大型アップデートというだけあって、まだ他にも追加要素があるみたいだね。続けてその辺の確認もしていきますか!
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