第1127話 休憩の為にログアウト


 とりあえず情報収集と報告は終わったから、寝落ちして強制ログアウトになりそうなハーレさんを起こして……どう起こしたもんだ? リアルと違って、ハーレさんの大好物の匂いでって手段は使えるのか? うーん、こういう時は俺の経験よりもヨッシさんの方が頼りになるはず!


「ヨッシさん、ハーレさんを起こせるか?」

「え、あ、うん。ハーレ? ハーレ、もう報告は終わったから、ログアウトして仮眠にしよう?」

「……あぅ……なんか警告がうるさい……」

「うーん、これは厳しいね」

「ヨッシさんでも厳しいか? てか、食べ物で釣るのは無理?」

「疲れて今にも寝ちゃいそうな場合は駄目なんだよね。一旦寝て、そこから起こす時なら効果抜群なんだけど」


 起きる時なら好物の匂いがすれば勝手に起きるもんなー。でも、寝そうな場合は全然駄目なのか。その辺は全然知らなかった。

 強制ログアウトになるよりは、自発的にログアウトして仮眠を取ってくれた方がいいんだけど、どうしよう? 


「それならこういうのはどうかな? ハーレ、起きないとゲームのデータが全部吹っ飛ぶよ?」

「はっ! それは困るの……です……」

「お、地味に効果があったみたいだな。まぁダメそうだが」

「……食欲よりも、そっちが勝るんかーい」


 でも、今のじゃまだ足りてないっぽいな。強制ログアウトは冗談抜きでデータ破損の可能性があるとはいえ、基本的には何かあってもよっぽど変な運営でない限りは対処してくれる。その辺はハーレさんも把握してるはずだから、反応はしても完全ではないか。

 でも今ので反応するって事は、ゲームが出来る今の状況を相当大事に思ってるって感じだよな。だったら、これならどうだ? ちょっとしたショック療法で、少しの間でいいから目を覚ませ!


「ハーレさん、今すぐ起きないとVR機器の値段の件、10倍の額に変更な?」

「はっ!? ケイさん、それは横暴なのさー!? ……あれ?」

「あ、起きたか」

「……え? わー!? 強制ログアウトの警告が出まくってるのさー!?」

「今のは嘘だから、少し眠気が飛んでる間に強制ログアウトにならないようにログアウトしとけ。晩飯になったら起こしてやるから、それまで寝ててもいいぞ」

「あぅ……そうするのさー。……少しおやすみなさい」


 そう言いながら、眠そうにハーレさんはログアウトをしていった。あの様子だと、辛うじて強制ログアウトになってなかっただけだな。俺が報告をしてた内容を把握してたかどうかすら怪しい。


「とりあえずこれで一安心か」

「あはは、良かったかな」

「そだね。ところで、ケイさん? 今のVR機器の値段って何の話?」

「ん? その辺はハーレさんから聞いて……って、そんな時間も無かったっけ」


 今日の昼に話した内容だし、そのままずっとみんなで動いてたもんな。その間に話題に出てなかったんだから、他のみんなが知る訳もないか。まぁこの辺はみんな知ってる内容だから、教えてしまっても問題ないだろ。


「ほら、ハーレさんのVR機器って俺のを貸してるだろ? あれをハーレさんが買い取るって話」

「あ、そうなんだ? そっか、あれは大事にしてたもんね」

「それを急に10倍の額にするって言われたら慌てるかな!」

「ケイ、ハーレさんがいくらで買い取るのか知らないが、流石に10倍はふっかけ過ぎだろ?」

「本気で言ってる訳じゃないのを分かって言ってるよなー!?」


 アルはこういう時は絶対に分かっててからかってきている! 今までの経験上、それは間違いない!


「ははっ、そりゃ分かってるっての。だが、大真面目に金を無理に取らなくても良いんじゃねぇか? 別にケイが金に困ってるとも思えんのだが?」

「あー、それに関しては俺の父親がハーレさんだけに色々とゲームを買ってたのが発覚してさ……。それでちょっと喧嘩になりかけて、妥協案がハーレさんに貸してるVR機器の買い取りって事になってなー」

「なるほど、兄妹間での扱いの差か……。そりゃケイとしては面白くはないか」

「そういう事!」


 だから、これは俺の正当な権利! 自分でVR機器を買ったタイミングで偶然懸賞で当たったVR機器だけど、当時の最新機種だったんだからあのタイミングで売っぱらえばゲームが何本追加で買えた事か!

 いやまぁ今、冷静になって考えてみると、どちらかというと悪いのはハーレさんだけ贔屓してた父さんじゃね? この辺、母さんは知ってるんだろうか? 後でちょっとその辺の話をしてみるのもありかもしれないなー。


「ハーレが色々持ってるとは思ったけど……そんな風になってたんだ? え、でも買い取るってお金は?」

「夏休み中にバイトするって言ってたぞ」

「え、そうなの? うーん、それなら私も夏休みはアルバイトをしてみるのもありかも?」

「そういう事なら、私の親戚の人の手伝いとかはどうかな? ほら、前に海鮮バーベキューをした時に来てた漁師さん達がいたじゃない? 漁港で簡単な加工品の仕分けとかなら募集してるよ」

「あ、それ良いね! ちなみにサヤはした事はあるの?」

「……あはは、一応はね。ただ、お手伝いって形でアルバイトとして給料は無かったかな? まぁ代わりにVR機器とかゲームを買ってもらってたんだよね」

「なるほどねー。なら、今年からは普通にお金も貰える?」

「そうなるかな! それじゃその方向で聞いてみるね」

「うん、お願い」

「サヤとヨッシさんも、夏休みはアルバイトなんだな。てか、サヤの場合は親戚だから出来る手段か。普通なら中学生だと違法になるから雇用契約なんか結べんぞ」

「あ、そういやアルバイトは高校生からだっけ」


 ふむふむ、そういう年齢的な問題でお金は出せなかったけど、サヤの親が代わりにそれ相応の物は買ってくれたって事か。というか、漁港でのアルバイトってのは地味に気になるなー。


「こりゃ俺も、夏休みは本格的にアルバイトだな! フルダイブの制限時間があるから、ずっとは出来ないし」

「ま、その辺はケイ達で調整してくれ。俺の方は普段と変わらんからな」

「ほいよっと!」


 さて、夏休みに入る前に本格的にアルバイト先を探さねば。去年と同じで、いつものスーパーでアルバイトをしてみるか。長期の休みに子供向けのイベントをちょいちょいやってたりするから、地味に短期のバイトにはなるんだよな、あそこ。


 まぁその辺は後でじっくり考えるとして……流しちゃいけないこの話題! 何気にスルーしそうになったけど、ここは言わせてもらおうか!


「ところで話は変わるけど、アルも情報共有板で報告をするんじゃなかったのか? なんで俺だけなんだよ!?」

「あー、それか。正直に言おう。単純に面倒だった」

「正直過ぎるわー! いやまぁ、ログアウト後にアルに報告を任せる事も結構あるからそれ自体は良いけどさ。それならそれで、言ってくれ……」

「……そこは悪かった。てか、単純に疲労で微妙に上手く頭が働いてねぇな。海鮮とか聞いたら、すげぇ腹減ってきてるぞ……」

「あはは、私もお腹が空いたかな……」

「エネルギーが尽きちゃってる感じがあるよね……」

「あー、みんなもそういう感じか」


 俺も確かに腹は減ってるし、動きっぱなしでエネルギーを使い切った感じなのかも。こりゃ何かおやつでも食ってエネルギー補給でもしないと駄目っぽいな。晩飯までまだ1時間以上はあるしさ。

 何気にハーレさんだけは食欲ではなく、睡眠欲が勝ってるのが不思議なところ。あれか、俺よりも食べてる量が多いからエネルギー自体はまだ残ってるのか!? うん、ありそうな話。


「ふー、とりあえずどっちにしてもこのまま続けるのは無理っぽいし、一旦解散だな。なんだかんだでサヤとヨッシさんは晩飯も近いしさ」

「晩御飯までまだ少し待たないといけないのが、地味に辛いかな……」

「1時間以上空いてれば、少しなら何かを食べやすかったんだけどね。うーん、今から作るのを手伝いながら、つまみ食いでも……」

「あっ、ヨッシ、それはズルイ!?」

「あはは、それならサヤもお母さんに料理を習ってみたら? 堂々と味見として少しは食べられるよ?」

「……それもありかな?」


 思いっきり悩んでるね、サヤ。まぁ今の気持ちはなんとなく分かる。空腹の真っ只中で待機は地味に辛い! そして時間的に晩飯の直前になるから、他の何かも食べ辛いしなー。俺は……スーパーにでも行ってなんか菓子でも買ってくるか。


「料理を覚えておいても損はねぇし、良いんじゃねぇか?」

「そういうアルって料理は出来るのかな?」

「……全く出来ない訳じゃねぇが、ほぼ作らんな」

「そう言われたら、一気に説得力が無くなるよ……」

「いやいや、手料理を振る舞ってもらう機会ってのは嬉しいもんだぜ?」

「……? アルは何の話をしてるのかな?」

「あはは、私としては誰かに食べてもらって嬉しいって気持ちは分かるけどね。サヤもそういう機会がいつかくるかもよ?」

「え? えっ!? アルもヨッシも何の話なのかな!?」


 おー、サヤがアルとヨッシさんの言葉で困惑してますなー。アルの言いたい事はなんとなく分かるし、俺にもそういう機会がいずれあって欲しいもんだね。ヨッシさんの場合は少し意味合いがズレてる気はするけど、アルの言いたい事自体は伝わってるっぽい。

 肝心のサヤには伝わってないみたいだけどなー。チラッとだけ聞いたサヤの中学生の頃の悪目立ちの話から考えると、その辺を意識するような相手は今はいないっぽいね。


「おし、ヨッシさん! サヤに夏休みにでも料理を教えてやれ! アルバイトの合間でも、休みの日でも、時間はあるだろ」

「あはは、それも良いかもね。うん、そうしよう!」

「えっ!? なんでそうなるのかな!?」

「ついでだ、ケイにメニューを決めてもらうのも良いんじゃねぇか?」

「あ、それは良いかも? ケイさん、何が食べたい?」

「え、俺? 俺は食えないけど、聞いて意味あるのか?」

「あ、そこは気にしなくて大丈夫。VR空間の方で作れば私の権限で試食データは発行出来ると思うし、食べようと思えばケイさんも食べられるからね」

「あー、そういう事も出来るのか」


 ヨッシさんのVR空間は料理用の拡張機能が使えるようになったって話だし、ヨッシさん名義であればサヤが作っても試食データは発行出来るようになるのか。その辺は詳しく知らない部分なんだけど、そういう事ならリクエストさせてもらおうっと。


「俺の好物なら、トンカツとか唐揚げとか揚げ物系ってとこか? あー、海鮮があるなら魚のフライ系も捨てがたい」

「あ、その辺はハーレと好みは似てるんだね。ふむふむ」

「ねぇ、ヨッシ!? 私はまだ了承してないんだけど、どんどん話が進んでないかな!?」

「でも、前に機会があったら料理は覚えたいって言ってなかった?」

「言ったけど、今の流れは強引過ぎないかな!?」


 あー、なるほど。サヤは料理を覚えようという気持ち自体はあったんだ。それなら尚更、良い機会じゃん。ここは後押しをしておこう!


「サヤ、頑張れ!」

「ケイまで!? はぁ、分かったかな……」

「それじゃ夏休みは料理の特訓ね! 出来ればハーレにも振る舞いたいけど……」

「流石にスケジュール的にそれは無理かな!?」


 そういやハーレさんがサヤやヨッシさんの所に遊びに行くのは、夏休みに入って割とすぐだっけ。夏休みから料理を覚えようとするのなら、流石にタイミング的に厳しいよな。


「さて、話はまとまったな。休憩時間を長めに取って、少し前に言ってた通り21時に集合でいいか?」

「俺はそれでいいぞー。あ、ハーレさんには俺が伝えとけばいい?」

「そこはどう考えても、ケイが適任だろ」

「そりゃそうだ」


 さて、確実に起こす為の手段を……いや、その前に晩飯で目が覚めるだろうから、そこの心配はいらないか。


「えっと、集合場所はどうするのかな?」

「とりあえずマサキの近くで集合で良いんじゃない? 混雑してそうなら、共同体のチャットで調整って感じでさ」

「俺もそれでいいぞー」

「ま、それが無難だろうな。それじゃ一旦解散だ!」

「「「おー!」」」


 ハーレさんが眠気になんとか抗いながらログアウトしてから少し時間は経ったけども、俺らの方もこれでログアウト! さてと、俺は仮眠を取るほどではないから、ログアウトしたらスーパーに行って何か食べれるものを買ってこようっと。



 ◇ ◇ ◇



 そして、いつものようにいったんのいるログイン場面へとやってきた。でも、この時間帯にログアウトする事は何気に殆どないんだよなー。

 えーと、とりあえずいったんの胴体は『夏の大型アップデート、本日19時に詳細を発表!』となっている。って、夏の大型アップデート!? マジで!?


「いったん、大型アップデートがあるのか!?」

「うん、あるよ〜! あるけど、詳細は19時まで待ってね〜!」

「あ、まぁそりゃそうか」


 19時に詳細を発表って書いてるのに、その前に内容を教えてくれる訳もないよな。事前の告知の意味がないし。でも、大型アップデートかー! どういうアップデートが来るのかが楽しみだ!


「ところで今日はいつもとは全然違う時間帯だけど、どうかした〜?」

「あー、色々やり過ぎて疲れたから休憩するだけ。てか、そういうのも分かるんだ?」

「各プレイヤーのログイン状況は記録されているからね〜。疲れて寝落ちで強制ログアウトになってる件が地味に多発してるから、休憩はしっかりと取るようにお願いします〜」

「ほいよっと」


 うん、その強制ログアウトの1人は風音さんだな。ハーレさんもその1人になるところだったし、多発してるって事は他にも結構そういう人はいそうな感じか。

 こりゃ灰の群集を含めて、他の群集も大真面目に今日の夜は動きは控えめかもしれないね。まぁ俺達としてもその方がありがたいけど。


「そういえばスクショの承諾はきてる?」

「今は特にないよ〜」

「あ、そうなのか」


 ルストさん辺りから来てそうな気はしたけど、この辺はタイミングの問題か? まぁ普段はログアウトしてないタイミングだし、そういう事もあるよな。


「それじゃちょっと休憩してくる」

「はいはい〜。しっかり休んでね〜!」


 そうしていったんに見送られながら、現実へと戻っていく。さてと、本格的にガッツリ食べる気はないけど、少し何か軽く食べておきたい。家にあるもので済ますか、アルバイトの情報収集も含めてスーパーに行くか、どっちにしようか?

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