第1110話 トーナメント戦、決勝 前編
2体のカンガルーを同調させている富岳さんと、緑色のトカゲと西洋系の黒いドラゴンの共生進化をしている風音さんでの決勝戦が始まった。
対戦エリアは雪山だから、トカゲと龍の風音さんが不利な気がする。でも富岳さんからのエリアの再選定を断ったくらいだし、何か手段があるのかも。
「さぁ、試合開始です! 果たしてどのような勝負が繰り広げられるのかー!?」
「……『自己強化』『ファイアクリエイト』『操作属性付与』『発火』『高速飛翔』」
「ちっ、キャラを切り替えで、そう来たか!」
「おーっと、風音選手の強気な発言の理由はこれかー!? 自己強化に火属性を付与して、更に全身から発火させて黒い龍が火を纏ったー! そして上空へと飛び上がっていくー!」
「あ、あれで冷気対策って出来るんだ? てか、今回は龍の方で操作してるんだな」
「氷属性に対して火属性は有利属性だしな。トカゲも龍も冷気には弱いが、相殺するだけならあれで充分か」
「どうやらそのようですね! ちなみにトーナメント戦では参戦している種族そのものを変える事は出来ませんが、共生進化の場合はログインするキャラを切り替える事は可能になっています!」
「あー、そういう仕様か」
「物理と魔法で切り替えるってのは割といるが、魔法の種類を変える為にってのは見るのは初めてだな」
ふむ、まぁそりゃそうだよな。共生進化でも簡略指示が使えるようになってたら特に意味がない行為だし、同調でもそれは同じ。共生進化にしたばっかの風音さんだからこそ、発生した事態って事か。
「ふん、上空へ逃げの一択か。『魔法砲撃』『ウィンドボム』『ウィンドボム』!」
「……逃げる? ……これは、逃がさない為だよ? ……『並列制御』『ブラックホール』『ブラックホール』」
「なっ!? くそっ、動けねぇ!?」
あー、これってジェイさん相手にやってたやつだ。だけど、今の富岳さん相手にこれを使っても、お腹の袋の中にいるカンガルーは引っ張り出せてないよな。どうする気なんだろ?
「ここで風音選手のブラックホールを並列制御で発動だー! 富岳選手の左右に展開された2つのブラックホールによって、富岳選手のカンガルーの腕がそれぞれ左右に引っ張られ身動きが取れなくなっていくー! ですが、これに何か意味があるのかー!? ケイさん、アルマースさん、これはどのように見ますか!?」
「パッと見では2つのブラックホールがお互いの邪魔をしてる感じに見えるけど、この手段って共生進化を無理矢理に引き剥がせるぞ。多分、富岳さんの同調も引き剥がせるはず」
「午前中に青の群集の人相手に使ってた手段だな。ただ、富岳さんの小さなカンガルーの方が引っ張り出せるかどうかは……まだ何とも言えんか。地味に厄介だな、この隠れ方」
「なるほど! 支配進化や同調の最大の弱点である、強制的な分離を狙っているという訳ですね!」
「そうなるなー。ブラックホール自体の吸い込んでからのダメージは、今のままじゃ発生しないし。かと言って、富岳さんは反撃の為に遠隔同調を使って小さなカンガルーを出すのは、それはそれでかなり危険なはず」
「小さなカンガルーの方を引っ張り出すのが目的だろうな。富岳さんがこれにどう対処するか、そこが重要だな」
多分ブラックホールの効果時間切れまで耐えれば、ダメージ自体は負わずに済むはず。だけど、風音さんがそんな状況にさせてくれるとも思えない。というか、する訳がないか。
「……何もしないの?」
「そりゃ挑発か? ここまであからさまに何か狙ってますって状況で下手に動けるかっての!」
「……そう。……だったら、無理矢理引っ張り出すまで」
「なっ!? ちっ、発火で火傷狙いか!」
「ここで風音選手が、富岳選手の懐に飛び込んでいくー! 富岳選手、大ピンチかー!?」
「あ、そうか。発火を使ってるから、単純に触られるだけで火傷の危険があるんだな。これ、本格的に風音さんを追い払う手を考えないと危険か」
「地味に継続ダメージだからな、火傷のダメージ」
富岳さんが何か仕掛けてきた状態に合わせてカウンターを狙ってるのかと思ってたけど、風音さんはそれ以外でも手段は考えてたっぽい。てか、風音さんも富岳さんも、お互いの準決勝は観てるな、これ。まぁ次の対戦相手になるんだから、観てない訳がないか。
「ちっ! 『魔法弾』」
「……魔法弾!?」
「『並列制御』『ウィンドインパクト』『連投擲』!」
「うぐっ!? ……騙し撃ち!」
「こ、これはー!? 富岳選手の小さなカンガルーが姿を表して、投げると見せかけてのただのウィンドインパクトが真上から風音選手に直撃だー!? 発動中のブラックホールがキャンセルされ、富岳選手は雪山へと飛び降りていくー!」
「今のは富岳さんのフェイントが上手いな。魔法弾で性質を変えた魔法を小さなカンガルーから発動するように見せかけて、思考操作でウィンドインパクトかー」
「風音さんは小さなカンガルーの方から何かを仕掛けてくると想定してたんだろうが、その裏をかかれた感じだな」
「確かにそのような感じですね! さぁ、落ちかけた風音選手は再び上空へと飛び上がり、富岳選手は雪山へと着地したー! 互いに出し抜き合うこの1戦、1度目の衝突は富岳選手が上回ったようですね! さぁ、距離が空いた事で睨み合いが始まりました!」
富岳さん、思った以上に思考操作の扱いが上手い。発声と思考操作でのスキル発動って、かなりタイミング勝負なとこがあるから難しいんだけどな。発声しない方が、まだよっぽど簡単だぞ。
「……中々、強い」
「さて、どう攻めるか……」
「どうやらお互いに攻めきれない様子! ちなみにですが、発声での発動を偽装して、思考操作で発動するのはどういう手順が必要なのでしょうか!?」
「えーと、簡単なのは……っていうほど簡単でもないけど、発声する前に思考操作で先に発動しておく事だな。照準指定の部分で止めておいて、そのタイミングで発声する」
「もしくは使わないと強く意識しながら不発にさせるスキルの発声をしてから、その直後に思考操作だな。どっちにしても言うのは簡単でも、実際に戦いながらじゃ難しいものだぞ。思った通りにならずに誤発動になりやすいからな」
「さっきのなら、多分だけど魔法弾の発動前に思考操作でウィンドインパクトを照準指定の段階で止めてたんだと思うぞ。そこから風音さんの動きに合わせて叩き込んだんだと思う」
「魔力視で発動位置が位置が分かるとしても、それは発動位置を指定してからだしな」
「はい、解説ありがとうございます! 誤発動を防ぐ為に発声での操作をする方が多い中、富岳選手は相当難易度の高い事を行っていたようですね!」
この辺、俺でもあんまりやらない事だしな。思考操作だけならやろうと思えば出来るけど、流石にさっきの富岳さんのは理屈は分かっても上手く出来る気がしない。でも、対人戦だとああいうフェイントが出来るのは相当な強みだな。
「とにかく、叩き落とさねぇと話にならないか。『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『土の操作』『土の操作』!」
「……これで。『共生指示:登録1』『共生指示:登録2』」
「ちっ、ハリケーンかよ!」
「ここで風音選手は共生指示からの昇華魔法、ハリケーンの発動だー! 富岳選手が駆け上がる為の6つの小石の足場を広範囲攻撃で盛大に妨害していくー! 流石に暴風雨の中では、富岳選手も思ったように石を足場にして駆け上がれないようだー!」
「ハリケーンは威力はそれほどでもないけど、妨害性能は高いもんな。無理に突っ切ろうとしても、土の操作の操作時間が削られまくるし、足場としては安定しないだろうしね」
「ケイ、この場合は岩の操作で固めて移動するのならどうなんだ?」
「ありっちゃありだろうけど、そうすると今度は上空まで行けても攻撃がなー。この状態だと、移動操作制御は即座に解除になるから論外だしさ」
「……言われてみれば、そうなるのか」
風音さんも昇華魔法の発動中だからまともに動けないとはいえ、富岳さんが上空へと上がってくるのは防いでいる。てか、暴風雨で雪山の雪が巻き上げられて視界が悪くなってきたな。
「だったら、これだ! 『エレクトロクリエイト』『雷の操作』!」
「っ!? ……やられた!」
「おぉーっと、視界が完全に悪くなり切る前に富岳選手が風音選手のトカゲに落雷を放つー! トカゲが直撃を受けた事でハリケーンが解除され……おぉっと!? 風音選手のトカゲがいつの間に瀕死だー!? これはどういう事でしょう!?」
「あ、もしかしてトカゲの方は冷気対策が完全じゃなかった? この手段だと、共生適応は働かないのか」
「おそらくそうだろうな。発火した龍に触れていた分だけマシだったっぽいが、完全な適応とは言えん。戦ってる間に寒さで弱っていた可能性はある。そこまではしっかりとは見れてなかったな」
「ここで雪山エリアでのデメリットが、風音選手のトカゲに降りかかって来たという訳ですね!」
適応の為のアイテムが使用出来ない状況なんだし、こういう状況もあり得るんだな。まぁこの辺はアイテムの使用を禁止してるトーナメント戦の設定の影響と、エリアの再選定を断った風音さんの判断ミスかもね。
「……死ぬ前に、これで。『共生指示:登録3』」
「やらせるかよ! 『遠隔同調』『大型砲撃』『アースクリエイト』『強投擲』!」
「っ!?」
「風音選手は風を凝縮し始めたという事は、これはゲイルスラッシュかー!? 富岳選手の小さなカンガルーが岩にしがみついて投げられて本格的に動いていくー! ここから畳みかけるようだー! そして風音選手はその猛攻を凌げるのかー!?」
「投擲は躱したけど、それだけじゃないもんな。カンガルー2体に挟撃されると厄介だ」
「ここを風音さんがどう凌ぐかが、勝負の分かれ目かもな。魔法特化の龍だから、下手すれば一気に勝負が決まるぞ」
「さぁ、どのような戦いになっていくのでしょうか!?」
現状では挟撃にはなっていないし、風音さんのゲイルスラッシュもキャンセルはされていない。まだ、ここからでもどう転ぶかは分からないな。
「おらよ! 『移動操作制御』『並列制御』『双打連破』『殴打重衝撃』!」
「……それなら! ……『ファイアボール』」
「なっ!?」
「ここで風音選手がまさかの自分から小石を足場にした小さなカンガルーへと突っ込んで、双打連破をあえて受ける事でゲイルスラッシュを解除させたー! 富岳選手、大きなカンガルーの尻尾でチャージを行っていたのは不発かー!? いや、腕で防いでいたー!」
「富岳さん、上手く庇ったなー。でも、小さなカンガルーの足場はしっかり破壊されたか」
「風音さんは、吹っ飛ばされてる状況は良くないな。富岳さんとしても咄嗟に防御は間に合っていたが、これじゃまだ決定打じゃねぇ」
「だなー」
富岳さんの大きな方のカンガルーに向けて吹っ飛んでいる風音さんが、ここからどういう対処をするかによって大きく変わってくるはず。
「……『ファイアクリエイト』『火の操作』『アースインパクト』」
「ちょ!? 狙いは雪崩か!?」
「吹っ飛ばされながら、風音選手が雪山を火の操作で炙っていくー! そして上空へと飛び上がって体勢を立て直すと同時にアースインパクトを雪山に叩き込んだー!」
「富岳さんも言ってるけど、これは雪崩狙いだな。ただ、衝撃がちょっと足りてないか」
「富岳さんとしては今使ってるスキルを空振りさせて対応策を取りたいとこだろうが……大技狙いが逆に仇となったか。空振りだろうが、地面に打ちつけようが、状況的に不利でしかない」
「地面に打ちつけたら富岳さん自身が雪崩の発生の決定打だし、空振りをしてたら隙が出来るから風音さんが追撃すれば良いだけだしな」
「富岳選手の猛攻の準備を逆に利用して、更に地形の利点を活かした形になりましたね! さぁ、富岳選手、ここから対処する術はあるのか!?」
雪崩の範囲から逃れるのが確実だろうけど、冗談抜きで並列制御での応用スキルの利用が完全に仇になってる。足場が作れればいいんだろうけど、それすらも厳しい状態だもんな。小さなカンガルーが落下中だけど、これは落ちる場所次第では危ないか。
「……落ちていって。『アースインパクト』『ブラックホール』」
「ちっ!」
「再び上空へと飛び上がった風音選手が、崩れ始めている雪山に向けて再びアースインパクトを打ちつけたー! 今度こそ凄い音を立てながら、富岳選手の大きなカンガルーが雪崩に飲み込まれていくー! そして、小さなカンガルーはブラックホールに捕まったー!?」
「カンガルー同士は完全に引き離されたなー。……そういや、アル。この状況で遠隔同調が切れたらどうなる?」
「……知らねぇのかよ。あー、コケの場合は特殊ではあるから、そこは仕方ねぇか。コケ……正しくはHPがない種族の場合なら核の部分が戻って生き長らえるが、そうでない場合はログインしてない側は死亡だ。当然、そこでログイン側の大幅な弱体化は発生するぞ」
「あー、やっぱりそんな感じか」
ふと思った疑問だったけど、俺のコケの方が特殊事例なんだなー。というか、俺のコケも遠隔同調を使ってない時にロブスターから完全に切り離されたらヤバいのでは? うん、普通にヤバそうだし、それこそ支配進化や同調の最大の弱点な気がする。
「さぁ、風音選手の作戦により、富岳選手の2体のカンガルーは完全に分断されたー! 遠隔同調の効果が切れるまで引き離す事に成功すれば風音選手の勝ちが見えてきましたね! ここから富岳選手の逆転劇はあるのかー!?」
状況的には圧倒的に富岳さんの方が不利になった。とはいえ、ブラックホールだけでは残ってる遠隔同調の効果の間で分断し切れる訳でもないはず。富岳さんが雪崩に埋もれた大きなカンガルーで脱出してくるか、小さなカンガルーで逃げ出して触れた状態に戻せれば、まだ勝負は分からないぞ。
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