第1111話 トーナメント戦、決勝 後編


 色々な駆け引きがありつつ、富岳さんの2体のカンガルーが風音さんによって完全に引き離された。ここから富岳さんがピンチを覆すのか、風音さんが優位をリードしたまま逃げ切るのか、見所だね。


「ちっ、やってくれたな、風音さん」

「……普通に削っても、ステータスが高いから手間がかかる。……弱点を狙うのは当然」

「そりゃそうだ。それで、このブラックホールってのは破壊出来るもんなのか? おらよ!」

「……実体がある訳じゃないから……破壊は無理」


「富岳選手、小さなカンガルーの拳で引き寄せているブラックホールを殴りつけていくが、まるで触れられている気配はないー!? まさかのブラックホールは、光魔法以外での相殺は不可能なのかー!?」

「破壊出来ないのはびっくりだな!? あー、でも効果は薄い感じだけど、全く無意味って訳ではないっぽい? 連撃のカウントにはなってないけど消費自体はしてるし、吸い込む力自体は弱まっているみたいだな」

「なるほど、完全に無駄撃ちでもないのか。まぁこの状態では早く他のスキルを使えるようにするのが先決だな」

「そのようですね! さぁ、富岳選手は素早く双打連破の発動を終えて、次の手を打てるのかー!?」


 ブラックホールの効果が薄まっているなら完全な無駄打ちでもないけど、可能な限り無駄撃ちでも使い切ってしまうのが現時点では最善のはず。雪崩に呑まれた大きなカンガルーの方がどうなってるのかが気になるし、そもそも小さい方と大きい方がどっちが本体なのかが分からないんだよなー。

 どっちが本体か、ログインしてる側って分かるようになってなかったっけ? それって気のせい? どっちが本体かがすぐに分かるとログイン側を狙いやすいから、狙いにくいように調整が入った? うーん、分からん!


「ぐっ、この!」

「……何か変……っ!?」

「ちっ、勘が鋭いな! 『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『連強打・風』!」

「……っ!?」


「おぉーっと! まさか、まさかの、雪崩に埋もれた中から、雪を吹っ飛ばして出てきたー!? 慌てて風音選手は、飛んできた雪やカンガルーからの風の追撃を躱す、躱す、躱すー! 富岳選手の大きなカンガルーの尻尾から眩い銀光が見えた気がしますが、これはどういう事だー!?」

「もしかして、あの雪崩の中でも殴打重衝撃をキャンセルされないようにしてたのか!?」

「……チャージしてる部位に攻撃を当てないとキャンセルは出来ないが、あの状況で咄嗟に防ぐのをやってのけるか。だが、決してダメージがない訳じゃないな。むしろ、尻尾を庇った分だけダメージも多いか」

「雪に埋もれたままチャージを続けていたという事ですね! だが、決してその影響は少ないものではないようだー! おぉーっと、風音選手、ここで逃げに徹していくー!」


 この感じ、風音さんは無理に戦う気は無さそうだな? そういえば、風音さんってブラックホールは途中で自分からキャンセルをしてたりするけど、他の応用魔法スキルもキャンセル出来るのか? 

 うーん、出来た覚えがないし、ブラックホール自体が溜めじゃないから仕様が特殊だったりする? その可能性はありそうだし、後で聞いてみるか。


「おいおい、逃げるだけか!? 『並列制御』『ウィンドボール』『ウィンドボール』!」

「……時間を稼げば勝ち。……無理に焦る必要もない」

「ちっ、冷静な判断を……! だったら、その余裕は無くしてやる! 『魔力集中』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『並列制御』『強連打・風』『強連打・風』!」

「……っ!」


「風音選手はどうやらこのまま時間稼ぎのつもりのようですが、地上の雪の上のカンガルーとブラックホールに呑まれかけているー!? だが、その状態で風音選手への猛攻を仕掛けていったー! これはどういう意図なのでしょうか!?」

「被弾でのブラックホールの解除狙いだろうなー。あと、風音さんを回避に集中させて地味にカンガルー同士の距離を近付けてるから、ブラックホールの時間切れの方も狙ってるかも?」

「ブラックホールそのものを打ち消せないなら、その辺を狙うしかないだろう」

「なるほど、そういう事ですか! さぁ、風音選手と富岳選手、どちらの狙いが成功となるのかー!?」


 そろそろ2人とも、結構な行動値や魔力値を使ってるはず。風音さんが決着を決められなければ、一旦回復を挟む事になるか? でも、お互いに隠れられる場所なんてろくに無い雪山でそれは厳しそう。


「……仕方ない。……解除で『ファイアボム』」

「ちっ! 『アースウォール』!」


「ここで風音選手が自らブラックホールを解いて、小さなカンガルーを吹き飛ばそうと動くー! しかし、富岳選手も即座に魔法砲撃で土の防壁を撃ち出して、それを防いだー! そして、アースウォールの上に小さなカンガルーが着地していくー! これは、カンガルーの合流が成功するかー!?」

「ブラックホールだけじゃ時間稼ぎが無理って判断だろうな。富岳さんは逆に今がチャンスか」

「そうなるな。咄嗟に対応する富岳さんの判断も早いもんだ」

「互いに譲らない攻防戦、果たしてどうなるのかー!? おっと!? ここで風音選手が急降下して、地面の降り立ったー!?」


「近付いてくるとは、良い度胸じゃ――」

「……『並列制御』『ファイアウィークン』『ファイアディヒュース』」

「なっ!? ぐっ!?」


 おぉ!? 風音さん、もう火魔法Lv9まで上げてたのか! あ、でも吹き飛ばすような効果はないんだな。まぁ火ならそうなるか。でも、これじゃ雪は解けないのは不思議な感じ。


「ここで風音選手が、富岳選手のカンガルーをどちらに対しても弱体化を入れた上で、火を放ったー! 風音選手を中心に広がっていく火の直撃を受けた富岳選手は怯んでいくー!? 小さなカンガルーはアースウォールで無事のようですが、これはどうなる!?」


「だが、この程度で――」

「……『魔法砲撃』『並列制御』『ファイアボム』『ファイアボム』」

「なっ!? 『並列制御』『アースウォール』『アースウォール』!」


「カンガルー同士の間に強引に割り込んだ風音選手、黒い龍の両手からそれぞれのカンガルーに向かって魔法砲撃にしたファイアボムを撃ち放つー! 咄嗟の富岳選手は、それぞれのカンガルーの前に土の防壁を生成して防いでいくー!」

「あ、これは富岳さんの判断ミスだな」

「いや、ここは風音さんが上手く誘導したってとこじゃないか?」

「あー、そうとも言えるか」

「それはどういう――おーっと、ここで風音選手が再び飛び上がっていくー! いや、これは飛び上がるのが目的ではないようだー! これは、狙いは小さなカンガルーかー!?」


 あ、やっぱりそういう狙いか。風音さん、なんだかんだで対人戦も普通に強いもんだね。


「なっ!? 離せ!」

「……もうそんなに長くはないはず。……逃げたければ、逃げればいい。『高速飛翔』」

「くそっ、ここで負けてたまるか! 『双打・重撃衝』!」

「……ぐっ! ……絶対に落とさない!」


「飛び上がったと思った風音選手がすぐに急降下して、小さなカンガルーを鷲掴みにして掻っ攫ったー! どうやらこれを狙っていたようだー! それに対する富岳選手は小さなカンガルーの銀光を放つ吹き飛ばし効果を持つ拳を叩き込み、風音選手のHPがどんどん削れていくー! 風音選手、吹き飛ばし効果に耐え切れるのかー!」

「富岳さんが風音さんを倒し切れるか、風音さんが富岳さんの遠隔同調の時間切れまで耐え切るか、そういう勝負だなー。……てか、吹き飛ばし効果もあるのに、風音さんもよく耐えるもんだ。吹き飛ばされる方向に瞬間的に加速して衝撃を逃してるっぽい?」

「それでもかなりバランスは崩してるから、余裕もなさそうだがな。この一連の攻撃が終われば、決着かもしれん」

「この決勝戦も大詰めという事ですね! さぁ、勝利の女神はどちらに微笑むのか!?」


 ここまでくれば、もうお互いに一手の成功の有無が勝敗に繋がる。お互いのもうほぼ余力はない頃合い。まだ富岳さんの連撃の威力が控えめだから、風音さんはバランスを崩しつつも耐えれてる感じだけど……連撃の威力が上がってくれば無理な気がする。それは風音さんも分かってそうだし、なにかまだ仕掛けるはず。


「さっさと落ち――」

「……させない」

「ちっ! ここでトカゲを盾に使うか!?」


「ここで風音選手のトカゲを盾にして、富岳選手の攻撃を凌いだー! だが、トカゲのHPはこれで尽きてポリゴンとなって砕け散っていくー!」


「……でも、もう充分な距離は取った」

「……は? って、ここで落とすのかよ!?」

「……当たり前。……そうじゃないと死ぬ」


「風音選手、耐え切ると見せかけて適度に距離を取ったところで小さなカンガルー放り投げたー!」

「まぁ合流出来なくすればいいんだし、全部耐える必要もないよなー」

「慌てて少し冷静さを欠いた富岳さんの判断ミスか」


 この辺は落ち着いて考えたら予想出来たはず。とはいえ、あの状態になって冷静にって方が厳しいか。その辺は風音さんが上手く掻き乱すように動いていたって事だし、富岳さんの落ち度という訳でもないな。


「富岳選手の小さなカンガルーは、雪山の傾斜に沿ってどんどんと転がり落ちていくー! 風音選手に捕まっていた事で火傷にもなっていたのと、落下ダメージでどんどんHPが削れているー! これは厳しいかー!?」

「こりゃ、結構なダメージになってるなー。そういや富岳さんの大きなカンガルーの方はどこ行った?」

「雪山を岩の上に乗って滑り降りてるぞ。岩をスノーボード代わりにしてるな」

「あ、マジだ」

「おぉーっと! まだ富岳選手にはそれだけの行動値の余力があったのかー!?」

「あー、多分そうじゃないな。同調だと移動操作制御がどっちの枠のも使えるから、それじゃない?」

「そういえばそうだったな。1つは強制解除になってたが、もう1つあるならそれの登録内容次第ではどうとでもなるか。というか、共生進化や支配進化でも2つ使えるだろ」

「呼び出せれば問題はないはずなので、登録枠さえあれば大丈夫という事になりますね! さぁ、勝負は大詰めも大詰め! ここから決着まで、見逃せません!」


 さて、ここから富岳さんが立て直す事が……って、もうそんな時間もなさそうだ。こりゃもう決着だな。


「おぉーっと、ここで富岳選手の小さなカンガルーのHPが急激に減って消し飛んでポリゴンとなって砕け散っていったー!」

「ケイ、これが普通にHPがある種族同士での支配進化や同調で切り離された結果の死亡だ」

「あー、こういう風になるんだな」


 初めて実際に死ぬ光景を見たけども、こりゃ支配進化や同調での最大級の弱点だな。俺自身も遠隔同調以外で切り離されたら、ロブスターがこういう風に死ぬ訳か。いやはや、ステータスが高くなる分だけ強烈な死亡条件が設定されてるもんだな。

 HPの無い種族も瞬殺する手段はあるけど、強力なメリットがある状態にはそれ相応のデメリットは用意されてるかー。まぁバランス的には当然な調整だけど。


「ちっ! ここまでか……」

「……覚悟はいい?」

「ここまでやられて、みっともない悪足掻きはしねぇよ。風音さん、あんたの勝ちだ」

「……ありがと。……それじゃこれでトドメ。『並列制御』『ファイアクリエイト』『ファイアクリエイト』」

「ははっ! 強いな、おい!」


「魔力値をかなり消費していたようで控えめなエクスプロードの発動にはなりましたが、風音選手が控えめな轟音と共にトドメの一撃を放っていくー! そして、負けを受け入れた富岳選手のHPが全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていったー! トーナメント戦『魔法Lv10を目指せ!』の優勝者は風音選手ー!」

「いやー、風音さんも富岳さんもナイスファイトだったな」

「支配進化や同調を相手にする場合の対処方法としては、良い例になったんじゃねぇか?」

「そりゃそうだけど、富岳さんはかなり特殊例だろ? 同じ種族での同調はそういないと思うけど」

「だからこそだよ。支配進化や同調を相手にする場合は、いかに同調相手を表に引っ張り出すかが重要って事だ。俺やケイみたいに、見たままで分かる場合ばっかじゃねぇしな」

「あー、それは確かに」

「支配進化や同調になっている方はいかに引き剥がされないようにするか、そしてそういう人を相手にする場合はどうやって引き剥がしていくかという事が重要になってきそうですね! ケイさん、アルマースさん、他に何かありますでしょうか?」


 他にかー。うーん、大体は実況の最中に解説した気がするから、特にない気もする。


「俺は特に無いけど、アルはなんかある?」

「あえて言うならこれだな。『遠隔同調』は色々と諸刃の剣だから、扱いには気を付けろ。HPがない種族以外は特にな」

「……確かにそれは重要な事か」


 俺は全然意識してなかった部分だけど、魔法の効きが悪い風音さんに対して物理攻撃で攻めようとした結果、富岳さんは遠隔同調のデメリット部分を思いっきり狙われた。

 上手くハマれば紅焔さんをハメ殺しにしたような事も出来るけど、失敗すれば敗北の要因にもなるって事だもんな。どんな進化をしていても、どこかしらに弱点はあるって訳だ。


「はい、ありがとうございます! 戦い方は人によって千差万別、それぞれ強みもあれば弱みもあり、それらを見極めて戦うのが大事という事でしょう! それでは今回の実況はここまでとさせていただきます! 実況はリスとクラゲのハーレと!」

「解説はコケとロブスターのケイと!」

「ゲストは木とクジラのアルマースでお送りした!」


 これにて今回の実況は終了! 風音さんが優勝になったのはよかったけど、紅焔さんと風音さんの対決が実現しなかったのは少し残念だったな。まぁ必ずしも勝ち残れる保証があるものじゃないんだから、そこは仕方ないか。

 さてと、少ししたら多分風音さんがここまで戻ってくるだろうから、その後どうしていくかはそれから決めるか。流石に今日これからもずっとトーナメント戦の実況をし続ける訳にはいかないし、その辺もなんとか考えないとなー。

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