第1109話 決勝戦の前に
準決勝は終わり、勝ち上がったのは富岳さんと風音さんになった。決勝が始まるまでまた待機なので、今は休憩中。この決勝戦の勝者がスキル強化の種を手に入れて、どちらか1人が魔法Lv10に至る訳か。……ん?
「ちょっと気になったんだけど、風音さんと紅焔さんはスキル強化の種はLv9までに出来る個数は持ってたんだな?」
「紅焔さんはもう残ってないって言ってきた気もするけど、そこら辺はどうなのかな?」
「風音さんの方も気になるのです! 共闘イベントに参加してないなら、報酬では持ってないはずなのさー!」
「言われてみれば、そうだよね?」
「あの2人がきっかけで始めたトーナメント戦だし、その辺は免除……じゃねぇな。確か紅焔さんはLv9の魔法を使ってたか」
みんなも気にしてなかったっぽけど、気にし始めたら気になるみたいだね。その辺、一体何があったんだろう? この場に2人がいれば聞きたいとこだけど、生憎の不在だもんな。って、あれ? 桜花さんのメジロが近くまで飛んできた。どうしたんだろ?
「ケイさん達、その辺が気になるのか? それならどっちも知ってるぜ」
「え、マジで!? それって教えてもらってもいい内容!?」
「紅焔さんも風音さんも、別に言ってもいいとは言ってたから問題ないぞ」
「それなら聞きたいのです!」
「おし、それじゃ時間潰しでちょっとその辺を説明していくか」
流石は桜花さん! 紅焔さん達、飛翔連隊のみんなは俺らと同様に桜花さんのとこの常連だし、風音さんは言うまでもない。桜花さんが事情を知ってるのは、特に不思議でもなんでもないか。
「まずは紅焔さんの方だな。まぁこっちは運良く、トーナメント戦の開始前にヤナギさんからトレードが出来たらしい。参加条件の未達成で悩んでて、一か八かで賭けてみたって内容だ」
「そりゃまた、すごい良いタイミングだな!?」
「運が良いな、紅焔さん」
まさかの土壇場で運任せのトレードに成功していたとはね。でも、それがなければ紅焔さん、トーナメント戦には参戦させてもらえなかったのか。まぁ特別扱いも出来ないもんな。
「風音さんの方はどうだったのかな?」
「あぁ、風音さんについては面白い情報が一緒に聞けたぞ。他に目撃情報を聞いた事がないんだが、どうやら各地を旅している無所属のNPCが何体か存在してるらしい。その1人とトレードしたのを持っていたそうだ」
「マジで!?」
「え、そんなのがいるの?」
「初耳なのさー!?」
うっわー、これはびっくりした。各地を旅している群集に所属してないNPCとかいたんだ。でも、そんな情報は聞いた事が……あー、これは秘匿してる人が多いな? 教えて得するどころか、損する類の情報だしね。
「でも、それってトレード用の情報ポイントって足りるのか?」
「そのNPCにマップ情報の提供をすれば情報ポイントが手に入るらしい。それを使って交換したんだと」
「あー、なるほど!」
そっか、各地を旅してるのならマップ情報を欲しがるのも分かる。群集所属のプレイヤーでもトレードはしてもらえそうだけど、これは無所属の人向けの要素っぽい気がするなー。
「ちなみに風音さんは、スキル強化の種をどの魔法に使うかを悩んでたな」
「まぁあれだけ色々と魔法を持ってたらなー」
俺でも水魔法と土魔法でかなり悩んだんだし、持ってる魔法がもっと多い風音さんは相当悩むだろうね。もし、どの魔法が良いかを相談される事があれば、しっかりと考えよ。
「あ、そういやアルは結局、スキル強化の種は何に使うんだ? Lv10、いけるよな?」
「ケイさん、私もいけるのを忘れてもらったら困るのです!」
「ん? あ、ハーレさんもか!」
「私もいけるかな?」
「サヤもか!?」
そういや個数的にはそうだった。今、誰が何個持ってるんだ? 俺は全て使い切って、0個だけど……。
「私は抗毒魔法に1個使って今あるのは2個だけど、みんなはいくつあるの?」
「俺はまだ使ってないから、5個あるな」
「地味にアルさんが持ちすぎなのさー! 私は爆連投擲に使うつもりでいたけど、まだ使ってないから4個あるのです!」
「私は3個かな。というか、使い切ったケイ以外はみんな結構持ってるね」
「ですよねー!?」
みんな、温存しまくってましたがな! 俺の周りでこれなんだから、他の人達も温存してる訳だよ! まぁ俺らはスクショのコンテストでの報酬分が大きいけどさ。
「それで、大真面目にどう使う? このまま温存でも良いとは思うけど、ちょっと勿体ないよな」
「まぁそれには同感だが、悩むところでもあるからな。むしろ、情報なしで全部突っ込んだケイがいい度胸をしてるもんだ」
「ケイは人柱には最適かな!」
「人柱にするなー!? いや、まぁやってる事はそうだけども!」
どういう効果が手に入るかが不明なのを承知の上で全部注ぎ込んだんだから、やってる事は確かに人柱だしね。だけど、その結果に後悔はない! まぁ有用なスキルだったって結果があるからそう思うだけだけどな!
「聞いてて思うが、ケイさん達は大量に持ってるもんだな。俺なんか、補填分しか持ってねぇぞ?」
「ふっふっふ、コンテストを頑張った結果なのです!」
「そうなんだろうな。ま、使い道は自由だろうけど、慎重にな!」
「おう、そのつもりだ」
まぁその辺の使い道を強要される理由もないもんね。今回のトーナメント戦は参加条件として使い道を指定してはいるけども、それが嫌ならば参戦しなければいいだけの事。
「それはそうと、そろそろ待機時間が終わりそうだから準備は頼むぜ」
「はーい!」
「さて、スキル強化の種の使い道については決勝戦の実況が終わってから改めて考えるとするか。俺としても、何かLv10のスキルを持っておきたい気分になってるしな」
「それは私も同感かな!」
「同じくなのさー!」
「……あはは、抗毒魔法に使っちゃったのは早まった?」
「いやいや、ヨッシさん! あれはあれで役立つから、そんな事はないぞ!?」
「フォローありがとね、ケイさん。こうなると私ももう1個、本格的にスキル強化の種が欲しくなってきたかも」
「それなら、後でミヤビやマサキの所に行ってみるのさー! もしかしたら、何かあるかもしれないのです!」
「おっ、それもいいな!」
まだ占有エリアになったジャングルの現状把握が全然出来てないもんな。スキル強化の種の使い道を考えながら、その辺の把握をしていくのもありかもね。
おっと、それはそれでいいんだけど、これ以上はもう時間切れっぽい。今は今やるべき事をやっていきますか!
「ハーレさん、実況を頼むぞー!」
「はーい! それじゃ休憩はここまでなのです!」
という事で、決勝トーナメントの決勝戦が間もなく開始。それに合わせて、俺らの休憩はお終いだね。さて、決勝戦はどんな風になるかな?
「さぁ、皆様お待たせしました! 間もなく、トーナメント戦『魔法Lv10を目指せ!』の決勝戦の開幕です! 決勝に進出したのは、草原ブロックを勝ち抜いた2体のカンガルーを同調している富岳選手と、森林深部ブロックを勝ち抜いた緑色の小さなトカゲと黒い龍が共生している風音選手の2人となります!」
富岳さんも風音さんも準決勝で種族の構成は判明しているから、今回は種族の紹介も含めて出来るか。まぁなんだかんだでそこは大事なとこだしね。
「どのような決勝戦になるのか、今から楽しみですね! さて、あと僅かばかり開始まで時間がありますので、解説のケイさんとゲストのアルマースさんに見所を聞いてみたいと思います!」
いきなり見所を聞いてくるんかい! いやまぁ急な振りではあったけど、これくらいならすぐに言えそうか。全然方向性が違う2人の対戦――
「見所といえば、完全に魔法に特化した風音さんと、物理も魔法も対応出来る富岳さんの戦闘スタイルの差がどう出るかだな」
って、アルに先に言われたー!? それ、俺が言うつもりの内容だったやつ! あー、アルと同じ意見でもいいんだけど、ここは別の事を言いたいよな。よし、これでいこう!
「戦闘スタイルの差もだけど、富岳さんの全体的に高い支配進化からの派生の同調の優位性をどう活かすかだな。逆に風音さんは、そこをどう崩すかが重要になってくるね。富岳さんは風音さんの弱い部分の物理攻撃をメインに攻めてくるだろうから、それをどう対処するかも見所だと思う」
地味に厄介なのは、富岳さんは魔法に対して弱くはないという部分だな。これは同じ同調の俺にも言えるけど、物理と魔法の両方に対して高水準なステータスを持っているのが強み。
逆に風音さんは魔法に特化している上に孤高強化Ⅰの補正があるから、シンプルに魔法の威力は上なはず。後は標準で飛べるかどうかの差も大きいか。
「はい、ありがとうございます! 富岳選手の全体的に高いステータスを、いかに風音選手が切り崩せるかが勝敗を分ける見所になりそうです!」
うん、思いっきりハーレさんが簡潔にまとめてくれたね。さて、本当にどう切り崩すのがいいんだろ? 地味に富岳さんの小さい方のカンガルーが袋の中に隠れているってのが厄介そうなんだよなー。
あれ、袋の上からの攻撃でダメージは入るのか? うーん、衝撃を与えれば何とかなる? 支配進化や同調は引き剥がされると一気に弱体化して終わりみたいなもんだから、狙うとしたらその部分だよな。声には出せないけど風音さん、頑張れよー!
「さぁ、両者の準備が完了し、対戦エリアへの転移が始まったー! 果たして決勝戦の舞台はどのような場所になるのかー!?」
「地形の影響も大きいからなー」
「さて、どういう条件のエリアになるか」
「どちらかの有利なエリアになるのか、はたまた影響の少ないエリアになるのか!? 今、転送が完了していくー!」
うげっ!? 今回のエリアはこうきたか! こりゃ決勝戦としては、かなり厳しい環境になりそうだな。どっちに有利って場所でもないぞ。
「まさか、まさかの雪山エリアだー!? 時間帯は昼ではありますが、曇天となっております! 雪が降っていないだけマシなのかー!?」
「富岳さんにとっては足場が悪いし、風音さんにとっては冷気が厳しいエリアだな」
「これはまた、随分と変なとこを引き当てたもんだな」
うーん、富岳さんの足場が悪いとは言ったけど、これは風音さんの方が厳しいか? 龍もトカゲも寒さには弱いから、動きが鈍る可能性が否定出来ない。そうなると、風音さんの方が相当不利なはず。
富岳さんにとっても決して良い場所でもないのは間違いないし、かなり嫌なエリアを引き当てた感じだな。
「おいおい、俺も決して有利とは言えないが、いくらなんでもここはパスじゃねぇか? 流石にこれはエリアの再選定を申請――」
「……必要ない」
「……なに? おい、ここまできて、まともに戦う気はないなんて事を言う気じゃないだろうな!?」
「……必要ないから……そう言っただけ」
「あぁ、そうかい! だったら、このままいかせてもらおうか!」
「……それでいい」
「いや、本当にそれでいいのか? 別に情けとかそういうのじゃないぞ?」
「……? ……エリア、変えたいの?」
「俺が変えたがってるみたいに不思議そうにするのかよ!? 分かった、それでいいなら俺もそれでいい!」
「……それで問題ない」
なんか富岳さんの方が振り回されてる感じがあるんだけど!? てか、再抽選の申請ってなんだ? なんか風音さんは断ってるけど、そんな機能は初めて知った。
うーん、再抽選が出来るなら風音さんとしてはやった方がいい状態なんじゃ? でも、その意思は欠片もないっぽいな。風音さん、この寒さに何か対策があったりする? アイテムの使用不可の状態で何かあったっけ、そういう対策。 あ、もしかしてあれなら……いや、試した事がないから自信はないけど。
「おーっと!? 風音選手、エリアの再選定を断ったー!? これは随分と強気なようだー!」
「あー、ごめん。普通に知らなかったんだけど、エリアって再選定出来たの?」
「知らなかったのかよ、ケイ。両者の合意があれば、1回だけエリアの再抽選は可能にアップデートで調整が入ったんだよ」
「……なるほど」
「有利不利が顕著に出た時に、お互いが納得出来ないという場合に使う機能となっております! それを風音選手が断った為、再選定は実行にならないー!」
風音さんにとっては相当不利な状況のはずだから、再選定って機能があるなら使えばいいのにね。あ、でも風音さんが単純にその機能をまともに把握してない可能性もある?
「あー、初期位置はどうする?」
「……見晴らしはいいから……どこからでも」
「だったら、このままやるか」
「……それでいい」
「どうやら初期位置から両者共に動く事はないようだー! 遮蔽物もない、雪に覆われた雪山でどのような戦いが繰り広げられていくのかー!?」
風音さんの強気な姿勢、何か対策があってこそものだと良いんだけどね。まぁそこは見守っていくだけか。再抽選の提案を断ったからには、それ相応の理由はありそう。少なくとも情けをかけられて嫌だったみたいな理由ではないはず。
「それでは決勝戦、カウントダウンをいきますよー! 5……4……3……2……1……試合開始!」
ハーレさんのカウントダウンが終わり、決勝戦が始まった。試合開始までの待機中は気候の影響は受けないけど、試合が始まってからは風音さんはどんどん冷えていくはず。さて、まずは風音さんが雪山の冷気の洗礼をどう切り抜けるのかが重要なとこだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます