第1108話 準決勝、第2回戦 後編


 白の刻印:守護でキャンセル不可にした暴風魔法のゲイルスラッシュを今にも撃とうという状況の風音さん。それを上手く回避して、風音さんよりも更に上を取って砂岩魔法のサンドショットを溜めている最中のボーリングさん。

 発動は風音さんの方が先になるだろうけど、まさか早々に応用魔法スキルの応酬になるとはね。さて、ここからどういう風に状況が変わるのか。


「……これでいく」


「風音選手、地面に降り立って森に向かってゲイルスラッシュを放ったー! 鋭利な数多の風の刃で、森の木々が斬り割かれていくー! 雨の夜の森が大惨事だー!?」

「さて、ここからどうなるか……」

「ボーリングさんのサンドショットが待ち受けてるしな」

「そうなりますね! さぁ、ここからどういう動きを見せてくれるのかー!?」


 雨が降ってなければ上手く闇の操作を利用して……って、風音さんは今は龍じゃなくてトカゲでログインしてるんだった。共生指示で何を呼び出せるように登録してるかにもよるけど、龍のスキルはあんまり使えないと考えた方がいいか。

 成熟体での簡略指示の取得条件って本当にどうなってるんだろうね? 未成体ならLv15分を共生進化の状態で育てれば良いって条件だけど……って、あれ? よく考えたら、風音さんは共生進化をしてなかったんだから、持ってるのは孤高強化Ⅰの方か!


「……降りてこないの?」

「いやいや、絶対何か狙ってるよな!? 下手に降りれないんだけど、サンドショットどうしよう!?」


「ボーリング選手、上空から下手に動けないでいるー!? 風音選手が地上で待ち構えている為、サンドショットの射程範囲内まで降りるのが難しそうだー!」

「あえて空中の優位性を捨てて地面に降りた事で、ボーリングさんの動きを制限してるなー。完全に種族的な優位点が逆転してる」

「ボーリングさんからすれば、意表を付いたつもりが逆にその状況を利用された形になるな。ここから取れる手段は、サンドショットを使うまでは相当限られてくるぞ」

「状況を覆す為の一手が、仇となってしまっているようですね! さぁ、ボーリング選手はここからどう動くー!?」


 サンドショットを無駄撃ちにして上空に留まるか、それとも迎撃されるのを覚悟の上で突っ込んでいくか、それ以外の何かを用意してくるか……。ここまで勝ち残ってきてる人だし、何か予想外の手段を取ってくる可能性はある。


「……降りてこないなら……こうする。……『ウィンドクリエイト』『強風の操作』」

「ちょ、待っ!? おわっ!? うわっ!?」


「風音選手が斬り刻んだ木を、強風の操作で強引に上空へと吹き飛ばしていくー! しかし、ボーリング選手もそれらをひたすら躱す、躱す、躱すー! 移動操作制御で使っている岩の操作で、高機動の回避だー!」

「風音さんの攻撃の仕方も上手いけど、ボーリングさんもよく避けるなー。まぁ攻撃方向が真下だけなら、比較的避けやすいか」

「そうだろうが、まぁ上に打ち上げたら、落ちてくるよな」


 まぁそりゃ当然の話。上に吹っ飛ばされたものは、当然ながら下に落ちてくる。この辺も考えた上での木を吹っ飛ばす作戦っぽいな。ゲイルスラッシュで結構バラバラに斬り刻まれて、薪に割る前くらいの大きさの丸太くらいのものが沢山あるしね。


「こりゃ、ゲイルスラッシュで斬り刻んだ時から狙ってたな」

「ザッと見感じでは、意図的に比較的小さな木片を狙って吹っ飛ばしてるっぽいしな。1撃でも当たれば、移動操作制御の解除か、サンドショットの解除は狙えるから良い手だ」

「風音選手、ナイス機転のようです! さぁ、これをどう凌ぐ、ボーリング選手ー!」


「だー!? 無駄撃ちに近いけど、落ちてくる木まで避け切れるかー!」


 おっ、そういう手段に出たか。まぁ完全に無駄撃ちするよりは、そっちの方が遥かにいいよな。


「おーっと、ボーリング選手は吹っ飛ばされてきている下から木片をサンドショットで撃ち抜いたー! だが、距離があり過ぎて風音選手には届かないー!」


「……狙い通り。『ウィンドインパクト』『共生指示:登録3』」

「おわっ!? ちょ、そんなのあり!? 『並列制御』『アースウォール』『アースウォール』!」


 おー、ここでブラックホールをそういう風に使うか! それに咄嗟に防御を選択するボーリングさんも凄い。いやー、ほんと人によって全然戦い方が違うもんだね。


「待っていたと言わんばかりに、風音選手は大きな丸太の上に乗って丸太を吹き飛ばし、加速した上で上空へと飛び上がるー! そしてそれと同時に敵を吸い寄せるブラックホールを展開していくー! だが、ボーリング選手も負けず劣らず、即座にアースプロテクションで吸い寄せられるのを防いだー!」

「途中に防壁魔法を挟んで、本体が吸い寄せられるのを防いでるんだな。これなら本体が吸い寄せられる心配はないみたいか」

「ブラックホール対策としては、見た感じかなり有用なようだ」

「だなー。だけど、これだけじゃただの防戦一方か」

「どうやらそのようですねー! 防御に専念したボーリング選手ですが、その間に風音選手が背後に回り込んでいくー!」


 ブラックホールは囮か、これ! ははっ、応用魔法スキルを平然と使い捨てにして発動してくるもんだね! だけど、強力だからこそ警戒しなきゃいけないし、囮として優秀ではありそうだよな。吸い込まれて押し潰されるのも厄介だしさ。


「……これで、破壊!」

「くっ!?」


「ボーリング選手の移動操作制御の岩を、風音選手のスキルでもなんでもない龍の尻尾の叩きつけによって破壊されたー! 空中を飛ぶ術を失い、一気に落下し始めていくー! なぜ、アースプロテクションを破棄して足場を作らないのかー!?」

「それをしたら、まだ発動中のブラックホールに吸い寄せられるからだな」

「土の防壁魔法で視界を悪くさせ、ブラックホールは維持したまま移動操作制御の破壊が狙いか。下手に防壁魔法を解除すれば、折角防いだブラックホールの餌食にもなる。かといって、防ぐ以外に手段が無かった状況だろうし、どう動いても抜け出す術を封じていたか」

「何重にも張り巡らされた風音選手の罠に、ボーリング選手は見事に捕らえられてしまったという事ですね! さぁ、ここからどうなるのか!」


 このまま何もせずにいけば、ボーリングさんが地面に落下してダメージを受けるってとこか? うーん、この状態から脱するならこのまま自然に落下して、ブラックホールの影響が少ない地点まで落ちた時点で何らかの移動手段を確立するくらい?

 ただ地面に叩きつけられるよりは、その方がいいはず。でも、それは風音さんが見過ごしてくれればの話だけど。


「……解除。……そのまま、何もさせない! 『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『アクアインパクト』!」

「ちょ――」


「ブラックホールが消えたかと思えば、岩で形成された剣が上から水で叩きつけられ、もの凄い勢いで地面へと突き立てられ、すぐに消滅していったー!? その攻撃を避ける余裕もなく、ボーリング選手に直撃だー! だけども、ボーリング選手はまだ死んではいないー!」

「ボーリングさんは自己強化や硬化を発動中だから、その分だけ耐久性が上がって耐えれたみたいだな。属性的にも不利属性って訳じゃなかったのも大きいかも? ただ、岩の操作の加速が凄まじい威力になってるな」

「だな。今のは手痛いダメージなのは間違いない。今のでHPの4割を切ったぞ」

「まだ有効なダメージをほぼ負っていない風音選手と、HPの半分以上を失ったボーリング選手! かなりの差が生まれましたが、ここからの逆転劇はあり得るのかー!?」


 これは言ったら悪い気がするから言葉にはしないけど、正直風音さんが相当有利だな。羅刹が無所属に強い黒い龍がいるって言ってた理由、こうして実際に戦っているのを見てみるとよく分かる。

 魔法が大好きな風音さんは、魔法の組み合わせ運用が相当上手い。その上、操作系スキルの精度も相当高いぞ。


「ははっ! 強いな、風音さん!」

「……どうも?」

「これだけ強い人が味方になってくれてるのは嬉しいもんだよ! だが、俺も負けてられねぇな! 魔法じゃ無理そうだし、こうさせてもらう! 『並列制御』『氷の操作』『氷の操作』!」

「……負けられないのは同じ。『並列制御』『共生指示:登録1』『共生指示:登録2』」

「なっ!? ラヴァフロウ!?」


「ここに来て、ボーリング選手が氷柱を8本取り出して操作をしていくー! しかし、容赦なく風音選手はラヴァフロウで溶岩を生成したー!」


「ちっ、こんな隠し球もあったのかよ! だけど、ガラ空きだぜ! 『並列制御』『アースクリエイト』『アイスクリエイト』『並列制御』『氷塊の操作』『土の操作』!」


「氷柱こそあっさりと溶かされて、少しダメージを負って残りHPは1割を切ったボーリング選手ですが、小石を足場にして氷の槍を生成して風音選手に突っ込んでいくー! そして、風音選手のトカゲにクリーンヒットー!」

「ボーリングさんは属性こそ持ってないけど、氷魔法をサブで持ってたのか。風属性に対して有利な属性だし、上手く昇華魔法も無効化したもんだ!」

「トカゲとドラゴンだから、種族的な弱点でもあるしな。これはいい狙いだ」


 こうしてみるとあえて属性としては持ってないけど、魔法自体は持っているって人は結構いるっぽいね。俺も、ちょっと他の属性の魔法も育てようかな? 既に持ってる属性と相関関係にならず、影響が出にくい属性だと氷属性? うーん、ヨッシさんと被るからなんとも……ってその辺を考えるのは今じゃない!


「倒し切れるか分からんが、最後に――」

「……キャンセルありがと。……『魔法砲撃』『並列制御』『アクアクリエイト』『ウィンドクリエイト』」

「……は? ぎゃー!?」


「ここで、まさかの昇華魔法2連発ー! トカゲの尻尾から至近距離で放たれた、水を含んだ真横に進む竜巻がボーリング選手を吹っ飛ばしていくー! 無事だった木々を薙ぎ倒し、ボーリング選手のHPが尽きたー! トーナメント戦『魔法Lv10を目指せ!』の準決勝2戦目の勝者、風音選手ー!」


 風音さん、お見事! ラヴァフロウだけで仕留めきれるとは思ってなくて、キャンセルを狙ってくるのを待ってたっぽいね。てか、ハリケーンって魔法砲撃にしたら水を含んだ竜巻が狙った方向に進んで行くんだな。


「さて、今回の1戦の総評をいただいてもよろしいでしょうか?」

「そだなー。ボーリングさんは、作戦が仇になった部分が多かった気がするね。ただ、これは風音さんの対応力が高かったからこそだとは思うぞ」

「そこは俺の同感だな。咄嗟の判断力と、使える手札の組み合わせ方に差が出たって感じさな。あとボーリングさんは氷魔法を出し惜しんでた感じがあるのは、少し気になったところか」

「手の内を隠して温存するのは悪い事じゃないけど、風音さんはトカゲとドラゴンだったんだから、動きを鈍らせる方向で使ってもよかったと思う。折角雨が降ってたのに、そこは活用出来てなかったしなー。雨を冷やして、動きを鈍らせる事は出来たはず」

「おそらく、それを危惧した風音さんが初手から大技で撹乱したのもあるだろう。それに惑わされず動きを鈍らせながら物理攻撃をメインにして戦えば……と言いたいところだが、まぁ物理攻撃はそれほど威力が無かったんだろう。この辺りは一長一短で悪い事でもないからなんとも言えないか」

「1対1だからこそ、どうにもならなかった部分ですね! 優位な環境にあっても、それを活かさせないように動くというのも大事だという事でしょう! さて、他に何かありますでしょうか?」


 他の事かー。あ、これは言っといた方が良いかも? 1回戦の紅焔さんや富岳さんにも関わってくる内容だしさ。


「後は、共生進化と単独進化の違いが大きく出たのかもね。単独進化なら得意なステータスの伸びは良くなるから最大威力は上になるけど、共生進化での手札の多さに負けたってとこではあるね。まぁこれも一長一短はあるから、どっちが良いとは言えないけどさ」

「共生進化や支配進化だと、2キャラを同時育成する分だけ時間もかかるからな。その辺は、個々人の都合や目的に合わせて選んでいくのが良いだろうな」

「どうしても2キャラ同時育成は、スキルの育成度合いに影響が出ますからねー! 徹底的に突き詰めたい事があれば、単独進化の方が良いのかもしれません!」


 そうそう、そういう事。今は単独進化なら『孤高強化Ⅰ』で1割の強化だけど、そのうちここの部分は更に強化されるはず。そうじゃなければ、支配進化やその派生の同調のステータスが高くなり過ぎるからね。いつまでもその優位性を保てるとも思えない。


「さてと、俺からはこんなもんだけどアルは?」

「俺もこんなとこだな」

「はい、総評をありがとうございました! これにて準決勝の2回戦の実況と解説は終了です! 次は決勝戦となりますが、少し待機時間となります。待機時間が終了し次第、決勝戦の実況と解説を行いますので、しばらくお待ちください!」


 ふー、これにてとりあえず準決勝の2回戦は終了! いやー、風音さんは強かったなー。さてと、少しの間だけど休憩だし、みんなと雑談でもしておきますか。


「風音さん、勝ったかな!」

「凄かったね、風音さん」

「ドラゴンの方じゃなくても、相当強かったな。昇華魔法も凄い使い方してたし」

「まさか威力が高い方のラヴァフロウを、キャンセルされる前提で使うとは思わなかったぞ」

「あれはびっくりしたのです!」

「その割には、普通に実況してたよな?」

「実況の私が、本気で戸惑いを見せたら駄目なのさー!」

「そういうものなのかな?」

「そういうものなのです!」


 どうやらハーレさんはハーレさんなりに、実況をやる上でのこだわりみたいなのがあるっぽいね。分かってる事をあえて分かってないふりをしてたりもするし、その辺は真似出来る気がしないな。まぁ真似する気もないんだけど。

 さて、決勝は風音さんと富岳さんになったけど、どういう戦いになるのやら。てか、残念ながら紅焔さんと風音さんのドラゴン対決は実現ならずかー。今頃、紅焔さんは悔しがってそうな予感。

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